ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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ガラスの動物園

ガラスの動物園

劇団銅鑼

銅鑼アトリエ(東京都)

2023/12/15 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

今年3月、山中透(ダムタイプ)+壁なき演劇センターの『ライト・オン・テネシー・ウィリアムズ』を観た。『ガラスの動物園』の再構築と作家の人生の紹介みたいな構成で非常に面白かった。それで気になった『ガラスの動物園』を到頭観ることに。
ステージは椅子とドア枠以外、全ての舞台美術、小道具がピアノ線で天井から吊るされている。小さな動物のガラス細工がゆらゆら揺らめき光に反射して美しい。電話やレコードプレイヤー、箪笥、花瓶など全て段ボールと木片の手作り、DIY精神溢れる。吊るす為に軽量化も考えたのだろう。パイプ椅子で四方を囲む形の客席。

会場でかかっているSEが気になった。レナード・コーエン、ニール・ヤング、エディ・ヴェダー系のアイルランド風味の楽曲、雰囲気がある。(ザ・ポーグスか)。

主人公のトムは中山裕斗氏。金城武とショーケンを足したような感じ。
母親のアマンダは大橋由華さん、顔立ちがのんに似ていて華がある。凄い量の台詞の大洪水。母親にしては若過ぎるが。
姉のローラは井上公美子さん、片ちんば(脚長差)で跛を引いている。学生時代は金属の器具で脚を固定していた。負のオーラ。
トムの仕事仲間、ジムは伊藤大輝氏。川地民夫っぽい。

この戯曲が何度も舞台化される理由が分かった。いろんな遣り口があり、いろんな伝え方が出来る。
今回観れたことは有り難い。また別の方法論の作品も観てみたい。役者は金の取れる面子、次作にも興味。

ネタバレBOX

今作はテネシー・ウィリアムズの自伝的作品で、語り手であるトムは本名のトーマスから来ている。5歳の頃、ジフテリアに罹り脚の神経が痺れる障害を患う。彼は同性愛者であり、夜中に映画を観に行くことにもそんな隠語を連想させられる。
双子のように仲の良かった2歳上の姉ローズは統合失調症と診断され、テネシーがアイオワ大学にいる時期にロボトミー(視床と前頭葉との間の神経線維の繋がりを切断する)手術を受けさせられ廃人に。テネシーは両親を生涯許さなかった。劇作家として成功した後、ローズを最高級のサナトリウムに入れ、面倒を見た。
父親の不在はフィクション。

そのローズをモデルにしたローラにこんな台詞を言わせる。「“手術”を受けたと思うことにするわ。角を取ってもらって、この子もやっと普通の馬になれたと思っているでしょう。」

多分、演出が物足りない。ローラとジムの魔法にかかったようなひとときと一転して全てが霧散する残酷な現実。ここが弱い。そして母親に罵倒されて家を出て行くトム。トムの心の奥にずっと傷付いたローラが棲みついている。何をしても何処へ行っても彼女の苦痛は晴れることがない。彼女の痛みと共に暮らしていかないといけない。もう少し互いの関係性にとって象徴的なものを差し込むべきだった。
萎れた花の弁明

萎れた花の弁明

城山羊の会

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『劇団普通』を主催する石黒麻衣さんが女優として出演されるとのことで気になり観に行った。イメージ通りの配役、文句無し。
超満員熱気ムンムン。途中で帰る女性がいたが、それが正常な程下ネタ満載。たけし軍団の臭いがプンプンする。新人マッサージ嬢に金の力で抜きをひたすら要求するような笑い。常連であろう女性客も多かったのが流石。

舞台はそのまま三鷹市芸術文化センター。前説は本物のセンターの副主幹、森元隆樹氏。そこにやって来る岩谷(いわや)健司氏。どうも政府のお偉いさんらしい。森元氏が施設の案内をしようとするも中国人の団体客が押し掛けて来て席を外す。代わりに新卒の岡部ひろき氏が相手をするのだが···。

性欲の化け物、岩谷健司氏が好き放題。ノリがガダルカナル・タカ。全裸になり、巨根を見せ付けながらも立ち居振る舞いが紳士。
岡部ひろき氏はしずるのKAƵMA似。
村上穂乃佳さんが綺麗だった。
岡部たかし氏の中国語が立派だった。

驚く程独特の笑いが炸裂。脳がバグるようなセンス。業の深い因縁が絡み合ったある家族の揉め事に何となく巻き込まれる岩谷氏の物語。誰も予想のつけようがないラスト。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

異様に面白いシーンの空気感はあるのだが話があんまりスウィングしない。淡々と進む。

三鷹市芸術文化センターの壁が左右に開くとホテルの一室。岩谷健司氏は常連の店からマッサージ嬢を呼ぶ。入って二日目の石黒麻衣さん。「健全店に変わったので性的サービスは一切出来ない」と断りを入れる。了承した岩谷氏、マッサージが始まるとギンギンに勃起したペニスを見せ付け、鼠径部のマッサージを要求。断る石黒さん。果てしない押し問答。泣き出した石黒さんは主に祈りを捧げる。現れたイエス(朝比奈竜生氏)は声が小さくぼそぼそ喋る為、殆ど聴き取れない。
まあそんな話。
ジャズ大名【愛知公演中止】

ジャズ大名【愛知公演中止】

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2023/12/09 (土) ~ 2023/12/24 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

岡本喜八の大ファンだった筒井康隆、自作の小説『ジャズ大名』を監督が映画化することが決まった時は喜んだもの。二人共ジャズとスラップスティックをこよなく愛した。昔、原作の短編を読んで、「これをどう映画化するのか?」不思議に思った。観てみると成程、フリー・ジャズのジャム・セッションが延々と続き、ジャズの狂騒的なリフ、リズム、ビートの熱に浮かされた人々の精神の高揚が描かれる。ずっと繰り返されるリフの作曲も筒井康隆。盟友山下洋輔が協力した筈。話なんかあってないようなもの、ジャズの狂熱で憂鬱なもの全て吹っ飛ばしちまえ。取り憑かれた様にリフが身体中を這いずり回り訴えかける。何だか判らないけれど、どうもこいつに夢中だ。

舞台化にあたり、主演の千葉雄大氏がまさに適役。すっとぼけた可愛らしさ、ずっと見ていられる。
藤井隆氏なんかキャスティングしとけば何とかしてくれる。
ある意味主役の富田望生(みう)さんはとんでもないパワー。ここまでの存在に成り上がった。
ふざけた家臣は大鶴佐助氏。ニヤニヤニヤニヤ好き放題。
トランペッターの辰巳光英氏は若き筒井康隆に見えた。
「ええじゃないか」の練習にムエタイの首相撲を入れたり細かなギャグが散りばめられている。
入手杏奈さんは何役も兼ねて踊り明かした。へとへとになるまで。

アクターも芸人もダンサーもジャズマンも「ええじゃないか」軍団も訳の分からないフェスにて踊り明かす。演劇を観に来た筈の観客はいつしか何を観せられているのか解らなくなる。しかし終わってみれば全員総立ちのスタンディング・オベーション。訳が分からないが参った!てな感じ。『ジャズ大名』の面白さを作り手が理解している。これはフェスだ。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

凄くノリノリで観ていたが、黒人達の過去話からテンポが落ちる。更に長州藩の陰謀あたりは挿入が下手。こんなもの背景でしかないのだから、巧く差し込むべきだった。何かだらだらだらだら停滞感。ギャグの一つとしてリズミカルにやらないと。

クライマックス、日本人側からの新しいリフでジャズが劇的に進化して時代をぐんぐん先行してしまうギャグなんか欲しかった。ずっと同じリフだと飽きる。最後に戻るとして、途中どんどんどんどん進化してこそのジャズ。
夜の初めの数分間

夜の初めの数分間

劇団牧羊犬

王子小劇場(東京都)

2023/12/13 (水) ~ 2023/12/19 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

フェルナンド・メイレレス監督の『ブラインドネス』を彷彿とさせる設定。
ある時突然、世界中のガラスやレンズや鏡に人間が映らなくなった。鏡の原理とは反射した光を網膜が電気信号に変えて脳が認識する訳だが、人間の姿だけを脳が認識しなくなったのか?とにかく認識出来ないので自分の姿を自分で見ることは不可能。鏡も水面もショーウィンドウも写真も映画も人間だけは写らなくなる。テレビ番組もセットに声だけになり、アニメや人形劇がメイン、エンターテインメントの主流はラジオに戻ることに。
いわゆる「現象」が始まって24年経った。
人々は自分の姿を確認する為に、似顔絵を描く絵描きを「カガミ」と呼び重宝することに。言葉の表現で姿を実況解説する者を「声カガミ」と呼ぶ。

美貌の大人気女優、神戸(ごうど)ひまわりは極秘出産の為、長期休養に入る。ちょうどそのタイミングで「現象」が始まった。産まれた娘、画子を自分専属の「カガミ」として育てるひまわり。毎日毎日母の顔を写生させられる画子。天才的な画力とセンスを兼ね備えた画子は少女にして「ミラー・グランプリ」で優勝。出自を隠して人気「カガミ」となる。

神戸ひまわりに井上薫さん。最早、今作は井上薫オン・ステージ。プライドの高いナルシシスト、嫌味な大女優を素のように演じてみせる。彼女の出ているシーンは全て面白い。ファンは必見。元は間違いなく取れる。

娘の画子に平体まひろさん。全く彼女のイメージとかけ離れたひねくれてすさんだ毒舌家。ボサボサの髪は「た組。」の加藤拓也に寄せているように見えた。

凄い発想をする作家、ワンポイントSFとして面白い。井上薫さんは恐ろしい。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

大友達人氏はひまわりの元マネージャー、後にプロデューサーとして大成。口癖通り、「OK」と名乗る。
渡部瑞貴さんは女優業に挫折したが「現象」を逆手に取って声優として大ブレイク。Gu-Guガンモみたいな声が必殺。

熊野仁氏は東山紀之っぽい美形、「声カガミ」としてひまわりに仕える。
山田梨佳さんは彼の妹、事故で盲目に。触診師として働く。

川口茂人氏は交通誘導員だったが、大ファンだったひまわりに「いつも皆の安全を守ってくれて有難うございます」と声を掛けられて人生が変わる。
小駒ゆかさんは彼の娘。人の遺影を描く「カガミ」になりたいと画子に教えを請う。人の心の中の風景を読み取る才能に長けている。

田名瀬偉年(たつとし)氏はカメラマン。この時代に道行く気になる人に声をかけ被写体になって貰っている。そして誰も写っていない背景だけの個展を開く。目には見えないがその空間に人の存在をきっと感じられる筈だと。

徳岡温朗(あつろう)氏とセキュリティ木村氏は公園の公衆トイレの前で「カガミ」をやっている売れない絵描き。

復帰を画策する神戸ひまわり、だがもう時代が違う。今じゃ誰も知らない老いさらばえた老女。その現実を受け入れざるを得なくなるクライマックス。画子とひまわりが見つめ合い、泣きながら嫌な真実を伝える。夢に逃避して生きていたひまわりは受け入れ難い現実に狂いそうになる。だが必死の画子の瞳の中に自分が見える。互いの瞳の中に自分が映っている。その時、世界中で「現象」が変化したのだ。日が暮れて『夜の初めの数分間』だけ、人間の瞳の中に姿が映るように。

透明人間の原理と同じで服だけは見える筈だが、どうも脳の問題なので人間の存在全体を認識出来ない設定。広瀬正なら何とかそれっぽい理屈を付けそうだが。ミラーやモニターに人が映らない為、交通事故が多発。赤外線センサーと警報を組み合わせた商品の発明で大金持ちになった男が描かれるが、赤外線なら脳は認識するのか?設定を突き詰めると粗が出る。

昔、BOØWY時代の布袋寅泰が語っていた言葉。「ギター・ソロになると、皆速弾きで音数を一つでも増やそうとするが、自分は逆に音数を減らすようにしている。それがセンス。」
全くその通りでどれだけ要らないものを削除するかがセンス。今作は作家の優しさが全面に出てしまい、出演者全員それなりに見せ場が与えられる。ただ全体を通して観ると主旋律を邪魔するノイズになってしまっている。善人ばかりの織り成す人間ドラマが互いの色を打ち消し合って、作品の印象を茫洋としてしまう。寓話としての力が弱い。
ラストに辿り着くエピソードが詩的で美しいだけに勿体無い。

『ブラインドネス』では原因不明の失明病が流行り出す。未知の伝染病だと怖れた政府は患者を病院に隔離する。主人公のジュリアン・ムーアだけは何故かその病に罹らない。失明した夫を補佐する為、目の見えない振りをして病院に入る。患者に溢れていく病院は無法地帯の収容所と化し、元々盲人だった連中が支配者となって仕切り出す。地獄のような殺し合いの中、やっと逃げ出した主人公達は外界で絶望的な現実を知る。世界中の人が失明して、何処もかしこも獣のように争う人間の群れ。そしてその中でも優しさと美しさが人間の中に確かに在ること。盲目の世界でこそ、人間の真の姿がはっきりと見えることを知る。
ただ、映画の出来はイマイチなのでお薦めはしない。
#34「闇の将軍」四部作

#34「闇の将軍」四部作

JACROW

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第0話『やみのおふくろ』
初演2018年、第4回えんとつ王決定戦(新潟で行われた短編演劇フェスティバル)。半年後に東京で再演。正味20分程の短編。

昭和21年(1946年)から昭和22年(1947年)まで。
初の選挙で敗北、信じて金を渡した有力者に裏切られたと喚く角栄(27歳)を母は諭す。田中フメ役、宮越麻里杏さんが「あんにゃ(長男へ呼び掛ける新潟弁)」と。田中角栄役狩野和馬氏との二人芝居。子供の頃、どもりを克服する為に母に渡された漢詩。何てことはない話なのだがこの二人の織り成す世界が美しい。何というか、そこに嘘がない。

アフタートークの狩野和馬氏の佇まいが西尾友樹氏に似ていた。一流の俳優の醸し出す雰囲気。デ・ニーロとかパチーノとかジョー・ペシとかそんな奴等に酔わされて映画館に通い詰めたもの。マーティン・スコセッシの『アイリッシュマン』に酔い痴れた連中はこういう作品を一度は観てみるべき。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

田中角栄初当選時の演説がメイン。第一話の冒頭、第三話のラスト(田中眞紀子)と聴かされてきたが寅さんの口上ぐらい切れ味抜群。「待ってました!」てな感じで『田中角栄ビギンズ』の閉幕。

「人を喜ばせることが俺の目的ならば、俺を騙して巻き上げた金で奴が芸者遊びを愉しめたのならそれはそれでいいじゃないか!」
元気な角栄の生命力は腐ることを知らない。周りの全てを元気にして楽しませてやる!
#34「闇の将軍」四部作

#34「闇の将軍」四部作

JACROW

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第3話『常闇、世を照らす』
2020年初演。
政界叙事詩として完成されたジャンル。こんなやり方があったとは。脚本に唸らされる。
昭和49年(1974年)から平成5年(1993年)まで。
ロッキード事件には余り触れない。失脚した田中角栄が何とか時期を待って返り咲く雌伏の時代。観客は彼が返り咲くことはないことを知っている。しかし舞台上の角栄はずっとそれを信じて待ち続ける。決してこんな所で終わってなるものか!「天命」という言葉を何度も何度も繰り返す角栄。彼はそれだけを頼りにしぶとく生き延びる。
内閣総辞職、逮捕、自民党離党、それでも自民党最大派閥「田中派」の支配者として君臨。「影の総理」、「闇将軍」と呼ばれ党内人事を掌握。

盟友・大平正芳役、内田健介氏が素晴らしい。「なあ昔、俺達が夢見た日本になったのかなあ。」
山東昭子に福田真夕さん、菅野貴夫氏と踊る健康体操。
秘書を3役演じ分ける青木友哉氏。
辻眞佐に江口逢さん。
田中眞紀子に川田希さん。声を似せる。
小沢一郎に菊池豪氏。なんか意外な配役。
金丸信に岡本篤氏!役者が揃った!
竹下登(今里真氏)がキーマン。

竹下登の十八番、『ズンドコ節』。
講和の条約 吉田で暮れて
日ソ協定 鳩山さんで
今じゃ角さんで列島改造
10年たったら竹下さん

角栄側からの視点で政界を見るとこんなふうに見えていたんだなあ。いろんな出来事に合点がいった。
竹下登、金丸信、小沢一郎による「創政会」旗揚げによるクーデター。(後の「経世会」)。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

辻眞佐の登場。辻和子の娘は早逝しているので、「この娘は誰か?」と思って観ていた。二人の息子を置き換えたのか?と。時代とズレたファッションといい、角栄と決して同席しない事で辻和子の妄想の娘だったことに気付く。こういうアイディアが効いている。

一番の作品の肝になるのは竹下登の内面に渦巻く業。若き日、実父に肉体関係を迫られて懊悩する新婚の妻を酷くなじった竹下。「お前がつけこまれる隙を見せているからだ!」と。妻は帰宅してすぐ首を吊って自殺。それから竹下は全ての負の感情に蓋をして生きることとなる。内面に溜まった鬱屈したタールが吐き出す場所を求めて煮えたぎっている。
金丸信から「何故、総理を目指すのか?」と訊かれて竹下登はこう答える。「俺の内面の業を昇華し表現する為だ」と。一気に竹下登が魅力的な男に見える名シーン。

今ではロッキード事件とは、キッシンジャー大統領補佐官の陰謀だったと言われている。日中国交正常化、第四次中東戦争における親イスラエルから親アラブへの転換(キッシンジャーはユダヤ系)、日ソ首脳会談における北方領土返還交渉。田中角栄のやる事なす事が気に食わなかったのだ。
クリスマス・キャロル 

クリスマス・キャロル 

劇団昴

座・高円寺1(東京都)

2023/12/02 (土) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

去年観て随分考えさせられたので今年も観た。
主演の宮本充氏は三國連太郎、夏八木勲、堀田眞三ライク。
死を前にした現実主義者の『パウロの回心』が描かれる。
①何故、自分はこんな人間になったのか?
②今、まだ自分にやれることはあるのだろうか?
③もう時間はない。

使いっ走りの少年や妹役等の上林未菜美さんが良かった。何か中野亜美っぽさがある。
市川奈央子さんは善良なモブをこなしつつ、スラム街の魔窟での盗品売買では邪悪な掃除婦を怪演。人間の邪悪さ醜悪さをこれでもかと見せ付ける。更にカーテン・コールでの『きよしこの夜』の合唱では美声が唸った。
小道具の七面鳥が良い出来。

第二の聖霊が自分の上着の下に隠れている二人の汚れた子供を紹介する。「男の子が“無知”で、女の子は“貧困”。男の子の額には“破滅”と記されてある。さあこれを否定してみろ!」

スクルージの悲痛な叫び。
「未来は変えられないのか?せめてティムだけでも!」
来年もきっと観に行くだろう。

ネタバレBOX

勘違いかも知れないが何か描き込みが薄くなって第一幕が軽くなった気がした。スクルージの少年時代、父親から寄宿舎に捨てられた孤独な生活。読書好きでイマジナリーフレンド達と一人遊びに耽る少年。優しい妹、ファンだけがいつでも唯一の味方だった。だが病弱な妹は若くして死んでしまう。彼女の残した息子がフレッド、その甥っ子にさえ冷たくあたることに。丁稚奉公先の優しい経営者、フェジウィッグ。優しさ故か経営に失敗して店は潰れてしまった。金を稼ぐことに冷徹になっていくスクルージ、恋人のベルは幻滅して別れを告げる。ただ与えられた人生に懸命に立ち向かっただけなのに、誰からも忌み嫌われる守銭奴爺扱い。別にそれでも良かった。だが逆に言うとそうでなくても良かった。

第一幕での描き込みが重要。ここを流すとよくある安っぽいドラマにされてしまう。
#34「闇の将軍」四部作

#34「闇の将軍」四部作

JACROW

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第2話『宵闇、街に登る』
2018年初演、2020年再演。
これは傑作。笠原和夫の実録ヤクザ映画と『ゴッドファーザー』を融合したような。Netflixでドラマ化した方がいい。『ゴッドファーザー PART II』のように過去と現在を同時進行でずらして作品化すべき。そんな妄想するぐらい面白い。
説明の為、入る字幕スーパーがツッコミと化してドッカンドッカン沸く。

「角福戦争」と呼ばれる佐藤栄作の後継者争い、田中角栄対福田赳夫が主軸。昭和46年(1971年)から昭和47年(1972年)まで。

田中角栄の後援会、越山会(えつざんかい)。「越山会の女王」と称され、角栄の秘書を33年務めた佐藤昭(あき)。認知されていないが角栄の娘を産んでいる。

人気ワイドショー番組、「3時のあなた」を上手に活用。山口淑子(李香蘭)!
日米繊維交渉の名台詞「2000億円よろしく頼む」。

中曽根康弘に谷中恵輔氏。ペナルティのわっきーに見えた。
「元帥」木村武雄に菅野貴夫氏。塩見三省っぽい。
「俺の趣味は田中角栄」、二階堂進に山森信太郎氏。
キーマンとなる竹下登に今里真氏。本当にそう見えてくる。
山口淑子に木下祐子さん。客席を回って歌うシーンは盛り上がった。
佐藤昭に小林あやさん。凄く角栄の人格に厚みが出る助演。
秘書の早坂茂三に青木友哉氏。

これは一つの到達点。
是非観に行って頂きたい。

#34「闇の将軍」四部作

#34「闇の将軍」四部作

JACROW

東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)

2023/12/08 (金) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第1話『夕闇、山を越える』
2016年初演、2018年再演、2020年再々演。
昭和22年(1947年)から昭和32年(1957年)まで。
冒頭、田中角栄の選挙演説から始まる。とにかく新潟県民の暮らしを良くすること、その熱意。現世利益の追求、あやふやな言葉は決して使わない。具体的に何を為すべきか。『全身小説家』のように『田中角栄』という一つのジャンルの体現。誰にも真似などできない。一人の“天才”が『太閤記』宜しく『国盗り物語』を現代でやってのける痛快さ。敗戦後のどん底の日本をどうしたら繁栄に導くことができるのか?

東京、神楽坂の芸妓置屋「金満津」で出会った円弥(辻和子)が重要な位置を占める。昭和21年(1946年)に初対面、翌年二十歳にして角栄が旦那(パトロン)になる。認知された息子2名(娘は早世)、47年間妾として尽くした。

憲法改正をして、アメリカの属国から早く逃れたい岸信介。
対する池田勇人は国の威信よりまず国民の生活、軍事費のかからない分、経済成長に力を入れて通商国家として身を立てるべきとの主張。
どちら側からも陣営に誘われる角栄。

田中角栄は狩野和馬氏。代えは効かない。有田哲平っぽくもある。
盟友、大平正芳に内田健介氏。二瓶正也っぽい。池田勇人派。
池田勇人に佐藤貴也氏。
岸信介(のぶすけ)に林竜三氏。
岸信介の実弟、佐藤栄作に土橋建太氏。「“エイちゃん”と呼べ」。宮台真司っぽい。
福田赳夫(たけお)に小平伸一郎氏。パンクブーブーの佐藤哲夫っぽい。
円弥に井口睦惠(むつえ)さん。
腹心の秘書、本間幸一に青木友哉氏。
存在だけでかなり重要な母親、田中フメに宮越麻里杏さん。今作も完全に成り切ってみせる。完全憑依女優。この方はもっと評価されて然るべき。

そろそろ中盤かと思ったら終わってたぐらい時間の経つのが早い。田中角栄はキツイ発言をした後、必ずハーッハッハッと豪快に笑う。これのあるなしで随分イメージが変わったろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

凄く面白いけれど作品としては物足りない。料亭政治で政界の権力闘争が描かれるが構成が淡々とし過ぎ。観客に提示した情報を次のシーンで繰り返す場面も多く、脚本の切れ味が悪い。今作は秘書を主人公にして彼の目線で語った方が良かったかも。田中角栄はアドルフ・ヒトラーに似ていて、魅力的だけれど危なっかしい。金の遣り取りで悪党にされたが、大金を動かせてこその政治だったりもする。清廉潔白の貧乏書生では論文執筆が関の山で、海千山千のヤクザの親分に太刀打ち出来ないだろう。清濁併せ呑む器量があってこその権力者たる所以。文春の記者に政治をやらせても何もできない筈。
政治は力だ。敵をねじ伏せ黙らせる力。「力なき正義は無力である!」。角栄は金権政治家のイメージで金をばら撒くことの不快感を観客は感じるだろう。ただ、金は誠意だったりもする。真心だったりもする。信用だったりもする。田中角栄は“何か”を間違えた人間だったが、圧倒的な“何か”があった。
モニュメント

モニュメント

マチルダアパルトマン

イズモギャラリー(東京都)

2023/12/06 (水) ~ 2023/12/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【赤】
メチャクチャ面白かった。
マチルダアパルトマンと言えば永遠の彼女、ハルカ。女子は彼氏を「キミ」と呼ぶ。部屋に散りばめられた映画『レオン』のコラージュアート。やたら並べられたカラフルなTシャツ。アウターを着たり脱いだり。看板女優、松本みゆきさんは劇団そのもののよう。

小学生の時、茂みの中で死にかけた野良猫に魚肉ソーセージとバスタオルを持って行った思い出。次の朝、様子を見に行くと冷たくカチカチになっていた。

部屋の主、藤木陽一氏は13年程この部屋に暮らしているカラオケ店のバイト、32歳。半年前から歯科衛生士の松本みゆきさんと同棲している。松本みゆきさんは結婚を考えたい歳頃なのだが藤木陽一氏は話をいつも聞き流す。近所の人の飼っていたエミュー(オーストラリアの一回り小さいダチョウ)が逃げ出したそうだ。松本みゆきさんはそこらを探しに行こうと言う。

昔の彼女に古着大好きな樋口双葉さん。
カラオケ店の店長にてっぺい右利き氏。彼の登場で客席がざわつく。取扱注意の不穏な劇薬。下手に扱うと作品が乗っ取られてしまう。彼のファンは今作も必見。

部屋の時系列が混線していて過去と現在がシャッフルされて提示。シーンの繋ぎ方が秀逸。
藤木陽一氏の何事も決めかねる浮遊したアイデンティティは何か確かなものに辿り着くことが出来るのだろうか?
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

てっぺい右利き氏と松本みゆきさんの居心地の悪い気まずい会話は名シーン。観客も気まずかった。

ラストの唐揚げが美味そう。野良猫のエピソードが強すぎて、松本みゆきさんにもそんな原風景が欲しいところ。結婚願望が強いだけの女に見えてしまう。藤木氏が「どんな選択を選ぶにしても傍に君がいて欲しい」と元カノの前で言うだけの強い関係性が欲しかった。
仮面劇・預言者

仮面劇・預言者

フライングシアター自由劇場

高田馬場ラビネスト(東京都)

2023/12/05 (火) ~ 2023/12/12 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

『フライングシアター自由劇場』27年振りの再始動作品。
ポーランドの劇作家で風刺作家として高名なスワヴォーミル・ムロージェクの『予言者』が原作。
ある国が荒れて群衆が首相官邸に押し掛けている。首相はもうすぐ“預言者”が現れて神託を述べると宥める。預言者を磔刑に掛け、生贄に捧げるのが古来よりの人間の慣わしのようだ。東方の三賢者もおこぼれを預かりにやって来る。だがやっと到着した“預言者”は何故か二人いた。

一億年前のドラゴンの卵が孵る話が挿話される。存在しない架空の生き物が孵るなんて。

開場時から出演者全員舞台をうろついている。楽屋がない設定で、出番のない時も上手か下手で待機している。

東方の三賢者トリオ、串田十二夜(じゅにや)氏はジャズ調で歌が上手い。太っちょキャラでコミカルな近藤隼氏。柳本璃音さんは華がある。
二人同じ動きになってしまう真那胡敬二氏と大森博史氏、凄く豪勢なキャスティング。いぶし銀。
首相に井内ミワクさん、妙な味。小間使いに串田和美氏。

コント崩れみたいなふざけたノリが続き、「ちょっと失敗したかな」と思う。だが脇に腰掛けていた串田和美氏が仮面を着け役に入った途端、世界は一変する。北野武だったり、川谷拓三だったり、三國連太郎だったり、砂塚秀夫だったり。声に秘密があるのかも知れないが、ぐっと惹き込まれ集中して観てしまう凄味。独りで映画を演っているようだ。いつの間にかに観入ってる。噺家の声色にも通ずるのかも知れない。金の取れる俳優。

劇中歌『草原のライオン』が凄く良かった。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ステージ奥はバルコニーの設定で群衆のモノクロ写真が壁に投映される。暴動寸前に興奮した彼等の気を逸らす為、小間使いが綱渡りを用意する。今では老婆となったかつての綱渡りの少女は花柄の傘を差し群衆のはるか頭上を歩く。月の王子様に逢いに行くように。その時、突風が吹いて哀れ老婆は墜落死。このエピソードが本編よりも良かった。

多分、“預言者”が告げようとした神託は世界の破滅。“預言者”が二人共死んでしまった為、暴徒が国中を破壊して回るカタストロフィー。
存在しない架空の生き物とは“神”なのか、“宗教”なのか?

次回作は大空ゆうひさんがキャスティング!これは観たい。
外地の三人姉妹

外地の三人姉妹

KAAT神奈川芸術劇場

KAAT神奈川芸術劇場・大スタジオ(神奈川県)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

舞台上には赤茶けたいろんな小道具が雑然と転がっている。年月を経て赤錆が浮いているようにも見える。開演前、女中のサヨ役の佐山和泉さんが鏡台に座りメイクを始める。ガチで老婆になるまでをやってのける。

1910年日韓併合、日本の植民地とされた朝鮮。舞台は咸鏡北道(かんきょうほくどう=ハムギョンブクト)の都市、羅南(らなん=ナナム)。すぐ北東にソ連のウラジオストクがある緊迫した土地。現在は北朝鮮の領土になっている。

①1935年、父の一周忌であり三女の誕生日でもある一日から幕を開ける。普通学校(朝鮮人学校)の教師をしている長女(伊藤沙保さん)、中学校教師(夏目慎也氏)に嫁ぎ近所に住んでいる次女(李そじんさん)、高等遊民を気取る長男(亀島一徳氏)、女学校を卒業した三女(原田つむぎさん)。この家に長く仕える女中(佐山和泉さん)、離れに下宿している軍医(佐藤誓氏)と“男爵”と呼ばれる中尉(田中佑弥氏)。
赴任して来た中佐(大竹直氏)がこの屋敷に挨拶に来る。

やたら下手糞な俳句を詠む中尉、波佐谷聡氏。板尾創路似。
下手糞な太鼓を叩く伍長、松﨑義邦氏。
長男・亀島一徳氏は大学教授を目指していたが挫折。朝鮮の有力者の娘、ソノク(アン・タジョンさん)と交際している。
ソノクの下女、鄭亜美(チョン・アミ)さん。
近所に住む日本語が下手糞な下男、イ・ソンウォン氏。ピエール瀧似。

第二幕は1936年、第三幕は1939年、第四幕は1942年。

休憩後の第三幕が面白かった。
MVPは屋敷に嫁いで来る長男の嫁ソノク役のアン・タジョンさん。日本人のイメージする韓国人女性を見事に表現。これが火病なのか?
鄭亜美さんも名助演。ラストの舞も美しい。
次女の駄目亭主、夏目慎也氏はトレンディエンジェルのたかしっぽい。
博打に溺れる長男・亀島一徳氏の屑っぷりも痛快。
三女・原田つむぎさんさんは『生きる』の小田切みきの雰囲気。
“男爵”、田中佑弥氏はカンパニーデラシネラの『気配』で印象深い。長身なので絵になる。

『東京節』のメロディー(「ジョージア行進曲」)で韓国独立を煽る当時の朝鮮の歌が流れる(「独立軍軍歌」)。興味深い。

ネタバレBOX

②1936年、長男に嫁いで子供をもうけたソノク、徐々に家を仕切り始める。男が女装し女が男装する仮装の祭が行われている。中佐と次女は不倫関係に。
③1939年、町で大きな火事が起こり、被災者への救援活動を行う三人姉妹。中佐への愛を次女が姉妹に告白する。
④1942年、“男爵”と結婚することを決めた三女。だが“男爵”は決闘で殺されてしまう。中佐は南方戦線へと派遣、次女との別れ。

全てを失い「死にたい」と叫ぶ妹達に長女は言う。「生きるのよ!先に進むの!」「先って何処?」「きっと皆が見ている方よ。」
皆同じ方向を見て去って行く日本人。
残った朝鮮人達が何も失くなった大地でゆっくりと踊り出す。

『三人姉妹』としても植民地時代の朝鮮モノとしても中途半端。ガッチリ『三人姉妹』を描くか、全くの別物として振り切った方が良かった。英国傑作ミステリー『荊の城』をパク・チャヌク監督が日本統治時代の朝鮮に翻案した韓国映画『お嬢さん』なんか素晴らしかった。三人姉妹を朝鮮人にした方が良かったのでは。朝鮮人の名家の三人姉妹が日本の侵略と崩壊を身を以て味わいその実像を顕現させる話の方が観たかった。

『三人姉妹』の魅力は三人が確かに生きていたことだろう。抗えない時代の波に呑まれながらも必死に自分の人生を生きようとした。今作では次女の不倫と別れ、三女の“男爵”との結婚もエピソードの踏襲にしか見えない。そうでなくてはならない必然性が伝わらない。舞台を朝鮮に変えたアレンジに意味がない。唯一、ソノク(アン・タジョンさん)の言い分だけが筋が通る。日本人の『三人姉妹』公演が終わった頃、朝鮮人達が「やれやれ」と顔を出すような感じ。そうではなく、本当に共感できる『三人姉妹』が観たかったのだ。

チェーホフ作品は皆似通っているので、『天保十二年のシェイクスピア』みたいに一緒くたにしてみてはどうだろう?もうあるのかも知れないが。
お局ちゃん御用心!!!

お局ちゃん御用心!!!

片岡自動車工業

駅前劇場(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

余りの絶賛の嵐に逆に「何かつまらなそうだな」と斜に構えていた。キツキツの座席配置にげんなりして「失敗した」と。そんな気分で開幕して観終わってみると···。
いやこれ観に行って正解。笑いに対してかなり真剣、レベルが高い。ガウディの建築物のように緻密で偏執狂的、完成図が100%頭に見えている作家(片岡百萬両氏)の作り方。笑いを超えて感心した。
クライマックスの殺陣をつけるシーンは延々と狂った笑いが炸裂。ゴッドタンの「ザ・大声クイズ」や『キス我慢選手権 THE MOVIE2』を観ている感覚。X-GUNの説教ネタや『珍遊記』のようにメタな作品世界をはみ出した笑い。
さんまやいかりや長介のように狂気の座長ツッコミを繰り返す春日局、袋小路林檎さんがMVP。最早何を観せられているのかすら分からない。チャウ・シンチーの『西遊記〜はじまりのはじまり〜』に笑いのテイストが似ているかも。圧倒された。
バズ・ラーマン映画のような色鮮やかな色彩の衣装(植田昇明氏)がきゃりーぱみゅぱみゅ系で振付(Hee-sunさん)がももクロっぽい。皆箱推しになるような結束力。細かい表情やアドリブのような動作も完璧に仕込まれた演出。開演から終演まで計算され尽くしたレヴュー。

大奥に奉公に上がった二人の女中、ヤンキーキャラの川嶋芙優(ふゆ)さんと中国語堪能な木原実優さん。
殿方が戦場に出払った江戸城では女達の権謀術数渦巻く権力争いの日々。
リーダー格の春日局(袋小路林檎さん)と正妻のお江の方(真壁愛さん)が睨み合う。182cmの自称絶世の美女、杉田のぞみさん。幽霊のような存在感、延命聡子さん。酒びたりの寺詣好きは廣瀬響乃さん。くノ一(川上藍香さん)は危急の事態を防ぐ為、常に闇に潜んでいる。
お江の方の娘、千姫(堀内玲さん)と弟の竹千代(椎木ちなつさん)は遊びたい盛り。

真壁愛さんはどことなく菜々緒っぽかった。
川嶋芙優(ふゆ)さんはたかみなと川栄を足したような生意気な可愛らしさ。
堀内玲さんは「チキチキバンバン」(QUEENDOMの曲)で華麗に踊る。やたらT-ARAっぽい曲。
椎木ちなつさんはO次郎キャラ。
伊藤アルフ氏は女性だと思っていた。

終演後に撮影OKのダンスタイムもある。グッズのセンスも抜群。猛スピードで人気劇団になるだろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

春日局(斎藤福) 第三代将軍徳川家光の乳母。将軍家の血筋を守る為に男子禁制の大奥を作った。そこでは奥方や側室とそれを世話する女中達が暮らす。
お江の方(おごうのかた) 第二代将軍徳川秀忠の正妻。
千姫 お江の娘。後に7歳にして豊臣秀頼の正妻となる。秀頼の代で豊臣家は滅ぶ。
竹千代 お江の息子。後の第三代将軍徳川家光。

史実では秀忠とお江が竹千代の弟、国松を溺愛した為、春日局は駿府に隠居した徳川家康に直訴。家康の取計らいによって竹千代が第三代将軍になることを確約させた。

ラスボス美津乃あわさんが繰り出すのは『ジョジョ第3部』のDIOのスタンド「世界(ザ・ワールド)」。知らない人間置いてきぼりの素晴らしい世界観。

ちなみに自分は杉田のぞみさんしか知らなかった。
俺(たち)が居ないと世界は平和

俺(たち)が居ないと世界は平和

南京豆NAMENAME

OFF OFFシアター(東京都)

2023/11/29 (水) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

チーム星

岡本セキユ氏、マシンガンズの滝沢秀一っぽい。
梢栄(こずえ)さん、何か妙に色気がある。
佐藤友美(トム)さん、狂気の暴力女囚。
環幸乃さん、背中丸出しで背骨のラインがエロかった。腕が異常に細い。
日替わり:河村慎也氏、定位置。

多分『涼宮ハルヒの憂鬱』の大学生現実バージョン。(『ハルヒ』は全く観ていないので予想)。何処にも属せないはぐれ者達が集まる奇妙なサークルでのカッコ悪い青春。宇宙に逃避し、現実を諦め、何とか自分を変えようと努力したものの、気が付くとまたいつもの場所、一歩も何処へも踏み出せないままだった。カルマにプログラミングされた行動をただひたすら繰り返すのみ。「駄目な奴は何をやっても駄目」という真理。

環幸乃さんがとても良かった。「ぶーん」。
Beatlesの「In My Life」が効果的に流れる。

ネタバレBOX

北野武の傑作、『3-4X10月』。先輩に煽られたさえない主人公、小野昌彦(柳ユーレイ)がオープンテラスカフェの可愛いウェイトレス(石田ゆり子さん)に声を掛ける。先輩は振られる主人公を見て笑うつもりだったが、バイクにタンデムして二人は走り去る。呆気に取られる皆。風の中に消えてゆくバイク。実はこの映画全てが草野球の試合中、主人公がトイレの中で妄想していたことだと最後に分かる。あのシーンの美しさのようなものが今作に欲しい。妄想でもそれで良かった。

以前、この劇団の『朝焼けの向こうのトランジスタ』を観た時、「自殺と犯罪と発狂以外に道は無いのか?諦めるという答は駄目か?」と考えた。
やはりパターンとしては、駄目な現実の自分を肯定的に受け入れて「それなりに続いていく(生きていく)」折り合いを付けるのがセオリー。今作もその形。
だが何か全く別の答が見つかるような気がする。

環幸乃さんはオタサーの姫のイコン。
空ヲ喰ラウ

空ヲ喰ラウ

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2023/11/28 (火) ~ 2023/12/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

新境地開拓的な斬新さもあり、配役にも捻りを感じた。お馴染みの役柄ではなく、ちょっと意外な設定に。勿論いつもながらの重厚な世界観はどっしり地に根を下ろしたまま。リアルに地の着いた現実を歩き通した果てからかすかに垣間見える奇跡。

『ラ・カンパネラ』〈鐘〉はニコロ・パガニーニ作曲の協奏曲をフランツ・リストが編曲したピアノ曲。耳に入れたAirPodsでそれを聴きながら陶酔するシーンが印象的に繰り返される。空に一番近い場所で神のメロディーに打たれながら溶けていく。

空に一番近い所でする仕事である為、空師(そらし)と呼ばれている伝統的な職人達の住む村。高所や重機の入れられない狭所で高木を伐採する。剪定、枝打ち、下刈り、玉切り。今作では山の森林保全整備を国から受注している。

由緒正しき空師の名門「中村組」は土砂崩れの事故に巻き込まれてからというもの傾きっ放し。先代の息子の嫁である板垣桃子さんが棟梁として一人気を吐く。怪我で空師をやれなくなった息子はびっこを引き、杖代わりの金属バットを振り回しては日がな一日酒を喰らう。村の鼻つまみ者を稲葉能敬(よしたか)氏が森下創氏っぽく怪演。
かつて自分達のもとで修業し独立していった「梁瀬組」、今では比べ物にならない会社に成長。大きな仕事を受注したことから「中村組」に声を掛けてくる。

もりちえさんが渋く寡黙な中村組の女空師役。いぶし銀でカッコイイ。
出戻りの井上カオリさんはムードメーカー、喋りで沸かす。
空師を目指している大手忍さんは茶髪の都会っ子で活躍。
梁瀬組の棟梁は原口健太郎氏、奥さんの藤吉久美子さんが美しい。娘の井上莉沙さんはセーラー服で和ませる。

山に侵入して来たよそ者役はある意味主演の吉田知生(ともき)氏。一見、今野浩喜(元キングオブコメディ)っぽいユーモラスな雰囲気で観客に好感を持たれ易い。傑作、『飛ぶ太陽』の主演も素晴らしかった。今作では金髪が「やる気、元気、モリシ!DON'T STOPだ、この野郎!」で一世を風靡した森嶋猛を思わせる。

かなり身体を酷使する動きが多く、怪我には気を付けて貰いたいもの。板垣桃子さんはかなり鍛えているのだろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

滅びていく空師の会社が劇団をイメージさせるダブル・ミーニング。若手を育てて作っていかないことには未来はない。この劇団はそれを見事にやってのけている。吉田知生氏のような有望な若手をどんどん抜擢して主要な役に配置、観客は役者の成長を毎回目の当たりにすることに。これからが楽しみ。

後半の展開がまどろっこしい。吉田知生氏の人に言えぬ過去を暴露する稲葉能敬氏の流れがスムーズじゃない。

かつて永遠の名作、『獣唄』のラストにBUCK-TICKの名曲、『FLAME』を重ねて涙した。今作では「僕は両手を広げ···」、やはりBUCK-TICKの『die』の詩が重ねられラストの板垣桃子さんの笑顔が恐ろしい程美しい。死ぬことは哀しくて惨めで不幸なものだけではない。空と同化してやっと到頭救われた“病んだ魂”。もうこれ以上苦しむ必要はない。山の醜い女神は強く抱きしめた。

※間違い訂正しました。有難うございます。

※許されない罪を犯して死のうと思っていた男が、山奥の集落で必要とされたことでもう一度生き直そうとする話。だが罪はそんなことを許さない。過去に追い詰められた男は山の女神にその身を委ねる。足りないのは男の犯した罪。絶対に許されない反吐が出るような犯罪であって欲しかった。そこをぬるくぼかしたせいで男の境地がぼやけた。
連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

連鎖街のひとびと【11月29日~11月30日公演中止】

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2023/11/09 (木) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

2回目。
堀部安兵衛の「高田馬場の決闘」の芝居で使われた、主人公は足踏みしたまま背景の人物達が動くことで移動を表現する演出効果。「自分達はこの場から動けないけれど想像力だけで何処までも行けるんだ」的な気持ちなんだろうな。
霧矢大夢(ひろむ)さんが最高に輝いている。こまつ座と元宝塚女優の相性はすこぶる良い。彼女を観ているだけで気分がいい。

モモンバのくくり罠

モモンバのくくり罠

iaku

シアタートラム(東京都)

2023/11/24 (金) ~ 2023/12/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

笑いのセンスがずば抜けている。主要キャラが皆ほぼ毒舌で言わなくてもいいことを一々説明して回る。唯一人口下手なお父さんだけがうじうじ暗鬱たるタールを抱えて黙り込む。最後まで観るとやっぱり松竹映画、品がある。山田洋次が元気だったら是非観て貰いたい。人をきっちり笑わせてこその人間論でないとその説得力は出ない。この作家はまだまだ先に行ける。

山奥で自給自足の生活を続ける枝元萌さん。くくり罠の名人で鹿や猪を捕らえては捌き、畑では野菜を栽培。麓の町で会社員をしている旦那(永滝元太郎氏)と別れて暮らす。高校を卒業した娘(祷キララさん)は家を出て父のもとへ。そんなある日、狩猟仲間の緒方晋氏が知り合いの息子を連れて来る。22歳の動物園の飼育員、八頭司悠友氏は屠体給餌に興味が湧き、現場を見学に来たのだった。

祷(いのり)キララさんは初めて知ったが良い女優。このルックスなら映像向きだろう。田中麗奈系の中性的な魅力。
枝元萌さんのはっと衝撃を受け愕然とする表情が炸裂。仲代達矢の呆けた表情など、大物役者には十八番が付き物。
緒方晋氏はいつもの通り、そこら辺にいる口うるさいおっさんのまんま。
橋爪未萠里さんは強い。出しときゃどうにかなる。この人の喋りで皆薙ぎ倒されていく。
ある意味主役の八頭司悠友(やとうじゆうすけ)氏もツッコミまくった。誰からも好かれない天然キャラを好演。
個人的MVPはやはり永滝元太郎(げんたろう)氏。中川剛とロッチ中岡と水道橋博士を足したような雰囲気。とにかく味があって面白い。何かをしなくても受け身で勝手に笑いが降ってくる。

テーマは『普通』。何だかよく分からない概念だが、皆と自分を隔てるもの。喉から手が出る程欲しくもあり、吐き気がする程要らなくもある。

かなり笑える会話劇。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

娘の叫びは発達障害の人が苦しんでいる感じ。もっと図太いと本人ではなく周りが苦しめられるのだが。
作家は二世信者など、自分の意思では選択出来ない立場に生まれた人達の事を念頭に置いたのだろう。

村上龍は「金持ちの家に生まれるのも立派な才能だ」と言った。先天的なものを幾ら嘆いたところでもうどうしようも出来ない。手持ちの札を何とか遣り繰りして乗り切って行くしかない。大槻ケンヂは「これでいいのだ」と歌った。浄土真宗の教義、「他力本願」。人間は全く何も出来ない無力である事実を認めるしかない。

ハイロウズ『不死身の花』

戦場に咲いてしまった
銃声を聞いてしまった
何一つ選べなかった
戦場に咲いてしまった

不死身の不死身の不死身の花

※この作品の面白さは本来あるべき作品のパロディーである所。町で暮らす旦那が若い女に入れ上げ、店をやらせる。会社も辞め、女と一緒になる為に山奥に住む本妻に離婚を告げに来る。配置だけ見れば立派にドラマとして成立するもの。ところが旦那が妄想多めのダメ人間だった為、女とは全く何の関係性もない。ただのオーナーと従業員でしかなく、女は仕事を辞める胸算用。とにかく配置したようには事は進まない。皆それっぽい妄想を幼稚に振りかざしているだけ。きっと店は娘のジビエ料理店になるのだろう。もてない冴えないその辺の連中のグダグダした一夜。せめて美味いもんでも喰おう。
飛龍伝

飛龍伝

KURAGE PROJECT

駅前劇場(東京都)

2023/11/22 (水) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

そういえば『飛龍伝』は観たことがなかったので一応押さえておこうと思った。アイドル女優がよくやる演目のイメージ。内容はもろ、つかこうへい節。ブス馬鹿貧乏の浪花節。昔、志穂美悦子主演の『二代目はクリスチャン』を観た時、途中から凄く苦痛を感じた。つかこうへいの過剰なマゾヒスティック・ナルシシズムが不愉快で、わざと観客を馬鹿にしているようにも。凄く低レベルな新興宗教の信徒が受難の殉教者に酔っている様を延々見せつけられるような。
今作もいつものそんな話なのだが、警視庁第四機動隊隊長山崎一平役の岩田和浩氏にやられた。ルックスは宮迫博之似、迸るエネルギーが尋常じゃない。ちょっと驚いた。好きな種類の脚本ではないのに打ちのめされた。人間の二律背反する愛憎の顕現。必見。

『飛龍伝’90 殺戮の秋』は1990年初演、富田靖子、筧利夫、春田純一の布陣。
今作は月海舞由さん、岩田和浩氏、堀之内良太氏で臨む。

1968年春。香川県高松市から上京した田舎者の東大生、神林美智子、全共闘闘士の作戦参謀、桂木純一郎に恋をする。時代は安保反対闘争。更に組織のごたごたに巻き込まれた彼女は全共闘40万人を束ねる委員長に祭り上げられることに。度重なるデモ隊と機動隊の衝突は激化の一途を辿る。そんな中、警視庁第四機動隊、「鬼の四機」の指揮をとる隊長・山崎一平は美智子に惚れてしまう。それを知った桂木は機動隊の内部情報をスパイさせる為、美智子を山崎の自宅に送り込む。全ては11・26国会前での最終決戦の為に。

女一人でこの場を回した月海舞由さん、凄い人間力。
敗北後、銀行員に身を翻した村手龍太氏は作品の文鎮のように要所を締める。
副隊長・南野(なんの)真一郎氏は力皇と三中元克を足したようなインパクト。
ネズミ役の川合耀祐氏も良かった。

安保闘争を背景にした『ロミオとジュリエット』。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

今作はいずれロック・ミュージカルにするべきだと思う。デカダンスで耽美的な作品に。

全共闘側に全く魅力を感じられないことが残念。つかこうへいは体制側の悪党とされる機動隊をわざと人間味溢れる連中に描いた。それは全共闘側を英雄視する世情への皮肉としてだろう。だが時代は変わり、今、全共闘をカッコイイと思う若い奴なんてどこにもいない。それではこの作品の設定の面白さが半減してしまう。この世を正そう、この世を変えようと本気で考えた連中の格好良さを存分に伝えないといけない。その上での機動隊との殺し合い。
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人間嫌い

イズモギャラリー(東京都)

2023/11/22 (水) ~ 2023/11/26 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ビジネスホテルに泊まる4組の女子、彼女達の生態を『フォー・ルームス』のように描写。4つのストーリーが繋がるような繋がらないような。

A かつて文藝賞を取ったが単行本化もされず、SNSのインフルエンサー的立ち位置でエッセイストとして雑誌の仕事をこなす今井未定さん。締切が迫る中、担当(桜田実和さん)が発破を掛けに来る。
B バカ彼氏の発言に怒った武田紗保さん、ビジネスホテルに家出して来た。友人の村上桜佳(おうか)さんが励ましてくれる。
C 東京店の応援勤務で出張に来た二人。女子力高いあべまなさん、大学生バイトの井澤佳奈さん。
D ハードな仕事で会社とビジホを往復する川勾(かわわ)みちさん。過労死寸前の社畜はXで呟く。

井澤佳奈さんが強キャラ。この人、男だったらかなり売れてる筈。同性から絶大なる支持を受けるポテンシャルを備えている。売れて欲しい。田舎者の強味。

川匂みちさんも強い。出てくるだけで笑いが起きる。

MVPは武田紗保さん。凄い攻撃力。ボイスロイド風読み上げも馬鹿受け。本当はどういう人なのか気になる。男のイメージする馬鹿女のカリカチュアライズ。

あべまなさんの訛りもいい味。

ネタバレBOX

話はあってないようなもので女子の生態を味わう感じ。同世代の女性が観るべき作品なんだろうが、客席はおっさんと同業者が占める。伝えたい相手が観に来ないという小劇場の永遠のテーマ。
ジャイアンツ

ジャイアンツ

阿佐ヶ谷スパイダース

新宿シアタートップス(東京都)

2023/11/16 (木) ~ 2023/11/30 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

始まりはつげ義春の『ねじ式』を思わせる。水木しげるのアシスタントをしていた頃、下宿先の屋上で見た夢を描いたもの。
ぼんやりと夢なのか記憶の中なのか妄想なのかふわふわした場面を彷徨い歩く。目玉探偵が現れ、回想捜索をアシストしてくれる。記憶のパラレル・ワールド。記憶の世界線。無数の有り得たかも知れない可能性が枝分かれしていく。
唐十郎作品のような設定だが、筒井康隆作品みたいなムードが自分好み。
どうもここは誰かが覗き込んでいる世界らしい。その証拠に空に巨大な目玉が浮かんでいる。
ああケイトウが始まった。夕闇の赤に塗り潰されていく。これに呑まれると自分を失くし誰かの設定に引き摺り込まれてしまう。

彷徨い歩く“私”は中山祐一朗氏。『オールド・ボーイ』のチェ・ミンシクを思わせる。別れた前妻との、全く交流がないままになってしまった息子を追憶する。
“あいつ”こと息子は大久保祥太郎氏。弟の坂本慶介氏と日替わりで入れ替わるWキャスト。
息子の嫁役は智順(ちすん)さん。篠田麻里子っぽい美人。彼女が一日の行動を述懐するシーンが今作の一つの肝。
息子のマンションの住人達、村岡希美さんと富岡晃一郎氏。村岡希美さんは作品内に収まらないスケールで最早一つのジャンルそのもの。お釈迦様の手の上で作品が踊らされているみたいだった。
富岡晃一郎氏は今作では「とろサーモン」の久保田みたいなスプラトゥーン中毒。
目玉探偵に長塚圭史氏、妖怪人間ベムに見えた。
秘書の緑は李千鶴さん。流されていく女。
もう一人の目玉探偵に伊達暁氏。今作ではリリー・フランキーっぽい。
喫茶店のウエイトレスに内藤ゆきさん。この人の伊達暁氏との遣り取りがかなり面白かった。

目玉探偵は「時空のおっさん」の回想世界線バージョン。
タイトルはジェームス・ディーンの遺作『ジャイアンツ』からだろう。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ケイトウ=鶏頭だと思った。ニワトリの鶏冠みたいに真っ赤っ赤。(ケイトウという花があり、燃え盛る炎をイメージさせる。学名は「燃焼」を意味するギリシャ語に由来)。

話の構造は前作『老いと建築』と同じ。旦那の浮気のエピソードが娘をつけ回す前妻の息子になった。今回の終わり方にはちょっと無理がある。

息子とばったり会って家に誘われ、初対面の奥さんと3人で缶ビールを開ける。お隣から頂いた美味しいわさび漬けと手料理の餃子をつまみに。自分の孫になる桃子という娘もじきに帰って来るようだ。こんなふうに自然に親子の関係性が修復されていき当たり前のように付き合える選択肢もあったのかも知れない。無数の世界線の何処かで。

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