ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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獣唄2021-改訂版

獣唄2021-改訂版

劇団桟敷童子

すみだパークシアター倉(東京都)

2021/05/25 (火) ~ 2021/06/07 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

前回、五日目の公演後主演の村井國夫氏が軽度の心筋梗塞で降板。三日休演の後、原口健太郎氏を代役として公演再開。自分は初日に観ていたので、これらのニュースに心底驚いた。自分の観たその年ベストの舞台であったこともある。
村井國夫氏主演での改訂再演の知らせに「もう一度観れるのか?」とそれにも驚いた。
こんな作品を現在進行系で生み出せることに、コロナにも何某かの意味はあったとすら思える傑作。

ハナトと呼ばれる珍しい蘭を採集するプロ(プラントハンター)と不要不急の現実社会では必要なしとされる演劇(役者)とを掛け合わせている。時代の要請で花の売買を禁じられ、生活に困窮する関係者達、「一体どうしたらいいのか?」とハナトの村井國夫氏に尋ねる。「ワシは花のことは何でも知っておるがそれ以外のことは何も判らんのじゃ」と頭を抱える村井氏。
茸採りの名人役の鈴木めぐみさんが脇をきっちり固めて印象的。もう一人の主人公と言ってもいい原口健太郎氏の存在感と巧さ。原口バージョンの『獣唄』も観れば良かったと今更ながら後悔。

コロナ禍に対する演劇界からの一つの回答がこの作品である。

ネタバレBOX

素晴らしい作品だった。
それでも自分にとっては初演の前回の方が更に素晴らしく思えたのも事実。色々と理由を考えたのだが、はっきりとはしない。ラストシーンの花吹雪や舞台全体が嵐の大海原のように畝る光景も前回の方が衝撃的だった。座っている位置の違い(前回は最前列)や全体像を把握して観ている前知識の有無、妙にテンポが良く整理され過ぎている違和感、ハナト一家が急に仲睦まじ過ぎる、コロナを意識し過ぎた台詞・・・?『獣唄』の説明も丁寧に遣り過ぎでしっくり来ない。何か『獣唄』はもっと人知を超えた理解不能なものを垣間見せないと成立しないのだ。
もう一回観ようかと思ったら当然だが全日程全席完売、そりゃそうだ。
ビニールの城【5月8日~5月9日花園神社公演中止】

ビニールの城【5月8日~5月9日花園神社公演中止】

劇団唐組

花園神社(東京都)

2021/05/08 (土) ~ 2021/06/03 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

神谷バーでトリス(国産安ウイスキー)を飲んでベロベロになっている男、隣の止まり木に腹話術の人形を置き独り言を呟いている。カウンターの上には封の切られていない昔懐かしのビニ本(無修正のエロ本)が酒の肴なのか鎮座して、何処かで見たことのあるような気がする表紙の女が黙ってこちらを見詰めている。男の呟きは酔いと共に勢いを増し、何だか文学めいた詩人めいた文言を発するのだがいよいよ意味は掴めない。
そんな舞台。

ネタバレBOX

どんどんどんどん藤井由紀さんが美しくなっていく。
魔界転生【5月4日~5月11日東京公演中止、6月5日~6月6日大阪公演中止】

魔界転生【5月4日~5月11日東京公演中止、6月5日~6月6日大阪公演中止】

日本テレビ

明治座(東京都)

2021/05/04 (火) ~ 2021/05/28 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

第一幕70分休憩25分第二幕105分。
マキノノゾミ氏の脚本に期待し、堤幸彦氏の演出に不安を覚え・・・、演劇と云うより舞台ショー的な感じ。背景のプロジェクションマッピングが凄まじいのだが、慣れてくると安っぽく感じる人間の不思議。全ては使い方とセンス、効果と言い訳の違い。
上川隆也氏の柳生十兵衛は意外にも千葉ちゃん調。勿論松平健氏の但馬守は素晴らしかった。荒木又十郎役の木村達成氏はヴィジュアル系バンドマン的に病んでいてカッコ良い。
石川賢版の漫画っぽい設定に『帝都物語』のエッセンスを加えた風味。
宮本武蔵の独り歌舞伎から十兵衛のキャラまでかなりコメディ調な展開が続く。核になるこの世への無念、未練が表現出来ていない勿体無さ。
『魔界転生』にはかなり思い入れがあるので、ついつい観てはガッカリする。深作欣二の映画と石川賢の漫画以外は何か根本的に違う気がする。永井豪の『デビルマン』関連と同じで、見ない方が良いと判っているのに見てしまう。そんな人間はきっと日本にいっぱいいるのではないか?
ラストの全員でのダンスは最高だった。

ネタバレBOX

マキノノゾミ節は第二幕から。怨念の化け物と化した淀君(浅野ゆう子)を義理の娘となるお品(藤原紀香)が諭す。憎悪と復讐の塊であった淀君が自ら成仏するのが見せ場。怨霊の鎮め方が今作品のテーマに。
山田風太郎による柳生十兵衛三部作、『柳生忍法帖』『おぼろ忍法帖』(『魔界転生』)『柳生十兵衛死す』。『柳生十兵衛死す』は江戸時代の柳生十兵衛と室町時代の柳生十兵衛が夢幻能に因って入れ替わり、別の時代で己の義を貫く。到頭最後には互いに相手を斬らなければならなくなってしまう傑作。石川賢の漫画もあるが酷い出来で、いつかちゃんとした作品を誰か作ってみて欲しい。能舞台としても観てみたい。
ラビビト

ラビビト

イベント企画OZ

萬劇場(東京都)

2021/05/19 (水) ~ 2021/05/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

往年の『少年サンデー』系のドタバタコメディ(但しラブコメ要素無し)。シェアハウス「うさぎ荘」に集うキャラの立った男女の群像劇。
石川県から一人上京してきた主人公(加藤圭貴〈けいき〉)が部屋を借りた処、前に住んでいた住民(小林亜実)が突如出戻りを希望した為、何故か一緒に住む羽目に。
ラビビトとは、寂しいと死んでしまうとされる兎(ラビット)と人とを準えている。
売れない俳優の彼女役船越真美子さんが相変わらず可愛らしかった。
小林亜実さんはほぼ素なのでは?

ネタバレBOX

小林亜実さんが自らの半生を赤裸々に曝すクライマックス。苦難と不遇に塗れてそれでも「生きて幸せになってやる!」と言い聞かせる様に何度も何度も繰り返す。この口上だけでも作品の価値はあった。
こあみの声は声優向き(少年っぽい)なので、きちんとトレーニングを積んだ方が良い。
父と暮せば

父と暮せば

こまつ座

紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA(東京都)

2021/05/21 (金) ~ 2021/05/30 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

山崎一(はじめ)氏、伊勢佳世さんの『父と暮せば』は二回目の観劇。前回は三年前の俳優座劇場。同じ配役とは思えない程違って見えた。
伊勢さん演じる美津江が『この世界の片隅に』のすずさんとだぶる。どちらかをまだ観ていない人がいるならば、どちらも必ず観て欲しい。『父と暮せば』は黒木和雄の映画も良いのだが、今上演中のこのキャスト版の観劇を強く勧める。伊勢さんはここからとんでもない女優になるのでは。

戦後の広島、生き残った被爆者は死んでいった者達に申し訳なく思って暮らしている。そんな娘の下に死んだ父親がひょっこり現れる。

ネタバレBOX

勿論、皆啜り泣きの館内。
この作品、原爆や戦争を抜きにして、幸せに生きることに申し訳なさを感じている人への死者からのエールとして受け取っても意味深い。
引き結び

引き結び

ViStar PRODUCE

テアトルBONBON(東京都)

2021/05/19 (水) ~ 2021/05/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

事故で恋人を失った天才発明家の主人公、27年経っても彼女を忘れられず時間移動の研究を続けている。神の悪戯なのか、到頭成功してしまうのだが・・・。恋人を救う為に失わなくてはならないものがあった。
主人公、湯口智行氏(FUJIWARAフジモン似)が出突っ張りの印象。キャラクター設定がイマイチ判り辛く天才なのか神の傀儡なのかハッキリしないのが残念。因果律の迷路、無数の世界線の境目を手探りしながら恋人の面影を求め彷徨い歩く。
音楽の使い方が上手い。単調な展開に退屈感を覚えた頃、ドーンと旋律が奏でられ一気に感情の流れが変わる。ぐっと登場人物の心情に引き込まれ舞台上の風景は先程迄とは様相を異にする。
因果の糸を手繰り寄せた先のその先に、そこから解き放たれた光景が待っている。
ハインライン好きな人に悪い人はいない。

ネタバレBOX

神の気まぐれ、実験であるならば、装置としてのタイムマシンは必要ないのでは。曖昧な記憶の底を旅する詩的な物語で良かった。
うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた

うちのばあちゃん、アクセルとブレーキ踏み間違えた

劇団チャリT企画

座・高円寺1(東京都)

2021/05/16 (日) ~ 2021/05/23 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

客入れのSEに何故か『あばれはっちゃく』、それだけで心を掴まれた。
良く出来たホーム・コメディを観ていたつもりが、いつしか滅茶苦茶シリアスな社会学・文化人類学を突き付けられていく。
凄く奥行きと世界観のある脚本で「SNSなんか皆さっさと手放してしまった方が良い」、帰り道そんな気分になること請け合い。
とにかく面白いし、いろんなことを考えさせられる作品。

高齢者暴走事故、SNSデマ拡散、ネットリンチ、You Tuber、Uber Eats···、全てが絶妙に絡み合ってしかも喜劇であり続ける90分。
父親役梶野稔氏と母親役の石本径代(いしもとみちよ)さんの醸し出す安心感が観客を自然と作品世界にいざなう。石本さんの存在感は作品の軸となっているようだ。埴生雅人(はぶまさと)氏演じる娘の婚約者のキャラがまた面白い。微妙にズレた笑いをちょこちょこ巻き起こしていく。

ネタバレBOX

数年前、松澤くれは氏の『りさ子のガチ恋・ 俳優沼』を観た時にTwitterの舞台表現法に驚いた記憶がある。今回はイタズラ電話やスマホの通知音ばかりで新味がなく表現が古い気がした。不特定多数の悪意に全面的包囲されている焦燥感、個人情報から過去の経験からありとあらゆる自分自身の全てを公表され、身動きが取れなくなるまで追い詰められていく窒息感。尾崎豊の「核〈CORE〉」みたいな感覚が欲しい。

最近では伊是名夏子(いぜななつこ)さんが車椅子障碍者の無人駅利用について問題提起をした処、“親の敵”ぐらいに叩かれ続けている。論点の善し悪しではなく、ネットリンチの目的化の加速。女子プロレスラー木村花さんなども傍から見れば大したことでもないような理由で自殺に追い込まれて行った。
現代病などではなく、これはそもそもが人間の習性であり、DNAにプログラミングされた本能なのだろう。気晴らし、憂さ晴らし、歪んだ正義感の発露、僻み妬み嫉み、偉そうな他人を引き摺り下ろす快感、自身が社会に参画している充足感、匿名の加害者の圧倒的なる自由。そもそも人間は太古の昔からそんなものなのだから、どこかで諦め受け入れるしかない。
超ではない能力

超ではない能力

24/7lavo

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2021/05/13 (木) ~ 2021/05/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

まあ超能力っぽいものを持っている人達が集まるOFF会。まあそれなりにそれなりなのだが、発起人の男には世界に打って出る野望があった。

ステージを囲んで三方向で二列。一列目はフェイスシールド必須。
開幕からかなり面白い。センスのあるシナリオで話にぐぐっと惹き込まれてゆく。ネタ自体は結構あるモノなので、これをどう落とし込むかに興味がいく。
超能力(?)の発現を補佐する黒子がまたいい味を出す。
ニートと恋愛無縁が一つのステータスを象徴するかのようで興味深い。
地底アイドル役の環幸乃(たまきゆきの)さんが余りに本物だったので、そういう方面の人だと勝手に思い込んで観ていた。彼女の役回りはかなり重要でここを温くすると一気にぐだぐだになってしまう。作者の提示する世界観を観客が共有出来るかどうかの分水嶺。
コミュ障役の安藤悠馬氏も実に魅力的だった。

ネタバレBOX

youtubeでメンバーを人気者にしようとする発起人。けれども上手くいかず空中分解の憂き目。
クライマックスは飛び降り自殺を試みる女子高生を止めようとするメンバー達。勿論それぞれの超能力は全く何の役にも立ちはしない。「何の役にも立たないことにも何某かの意味がある!」との暴論が勇ましい。いつの時代も意味や価値は行動の後の報酬でしかない。それ自体に意味や価値の無いものを情熱で無理矢理中身をパンパンに膨らませてこそが宗教や革命の源泉であったのだ。

『七瀬ふたたび』のように超能力者狩りの秘密結社に追われても面白かった。
「母 MATKA」【5/17公演中止】

「母 MATKA」【5/17公演中止】

オフィスコットーネ

吉祥寺シアター(東京都)

2021/05/13 (木) ~ 2021/05/20 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

“ロボット”の言葉の産みの親であり、手塚治虫に多大な影響を与えたチェコのSF作家の遺作とされる戯曲。ナチス批判を繰り返し、命を狙われ続けていた。
夫と長男を失うも、女手一つで息子四人を育て上げている母親が主人公。夫が戦死したことから戦争と関わることのないよう息子達を教育した筈が、内戦と他国の侵略の危機の中、子供達は自ら戦場に志願していく。
母役の増子倭文江(ますこしずえ)さん始め役者陣の品の高さとぷんぷんする色気が舞台を充満。亡き夫役の大谷亮介氏が三船敏郎っぽくダンディーで格好良い。キーマンでもある末っ子役の田中亨氏がジャニーズ系の美少年。
シリアスな固い話と身構えさせて、実は良質な喜劇でもある。悲劇と喜劇のギリギリの立ち位置で行われる家族対話が痛快。
クライマックスの母と末っ子の遣り取りは『身毒丸』や『毛皮のマリー』を想起させる寺山修司調に。かなりの作家達に影響を与えたであろう古典だ。
非常に味わい深く面白いのでお勧め。

ネタバレBOX

死者と生者が共存する世界観。母親の下に死んだ夫や長男が普通にやって来る。今しがた死んだばかりの次男も、死の報告に訪れる。最終的に末っ子以外みんな死んでしまうのだが、父親含め六人の死者が末っ子の出征を認めるよう説得しに来る。ブラック・ユーモアたっぷりの死者と生者の討論が秀逸。ただその展開がかなり長過ぎてだれてしまいもするが。

前作の戯曲『白い病』では徹底した戦争反対を訴える主人公が群衆に私刑されて無惨に殺されるラスト。今作では小学校への爆撃で沢山の子供が殺されたニュースがラジオから流れ、それを黙って聴いていた母親が末っ子に銃を渡し戦場へと促すラスト。作家の心境の変化なのか、他に何か秘められた意図があるのか?
ボイルド・シュリンプ&クラブ

ボイルド・シュリンプ&クラブ

劇団6番シード

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2021/04/29 (木) ~ 2021/05/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

椎名亜音さんはひたすら元気。開幕からカーテンコールまで凄まじいエネルギーを発散しまくっていた。③での宇田川美樹さんの悪徳刑事はハマり役。今月閉館の決まったアップリンク渋谷で去年『ディープロジック』を観たことを思い出す。映画でも女ジョーカーのようなヴィランをふてぶてしく演じていた。こういう役が好きなんだろうなあ。
花奈澪さんはまさに峰不二子。
高宗歩未さんはどんな役でも様になるので、制作側としては最高の素材であろう。
④の土屋兼久氏の佇まいが最強の敵の雰囲気で盛り上がる。
①②③と観て来た積み上げもあり、④がかなり面白い。勿論全部観た方が良い。

③デリヘル店のサンドイッチマンが口論中の揉み合いで店長を殺害してしまう。恋人のデリヘル嬢と当てのない逃避行へ。下の階に事務所を構える探偵二人がその様子を不審に思い尾行を開始。店の利権に絡んでいた悪徳刑事も執拗に追跡。
④妻からの依頼で潔癖症のエリート警視の浮気調査を。振り込み詐欺グループとの奇妙な癒着関係に勘付く探偵。

ネタバレBOX

③がもう『シティーハンター』調のアニメ的展開でどうも話に乗れなかった。デリヘル店の店長が従業員の親を脅して二千万円恐喝とかリアリティーがまるでない。
④がきっちりした話で秀逸な出来。多面的に話が語られていく構成が成功。
ただ土屋兼久氏が高校時代の暴行事件から潔癖症になった設定がイマイチ。もっと彼のキャラクターを掘り下げれば凄い物語になった気がする。高宗歩未さんが卒業アルバムから証拠を突き付けるのも切れ味が悪い。ラストの変化球を予告して投げ、バットを持つ探偵が迎え撃つ絵は素晴らしかった。
ボイルド・シュリンプ&クラブ

ボイルド・シュリンプ&クラブ

劇団6番シード

シアターKASSAI【閉館】(東京都)

2021/04/29 (木) ~ 2021/05/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

演るも地獄、やめるも地獄。外は酷い雨。この状況で初日を迎え満員の観客が馳せ参じた。
漫画調のノリと展開は好き嫌いが分かれるであろうこの劇団。弘兼憲史の『ハロー張りネズミ』を思わせる人情系探偵劇。秀逸なのは『ルパン三世』大野雄二調のカッコいいブリッジでスタイリッシュな場面転換があっという間に行われる。役者総出で見事なる動線を描きセットや小道具が忽ち出現、相当練習したのだろうなと感心する。とにかくスタイリッシュに拘った演出。
久し振りに舞川みやこさん(コスプレ三昧)を観たが更に美しさを増していた。
①地下鉄水天宮前駅で半蔵門線をジャックするとの脅迫電話。痴漢冤罪事件を追っていた探偵二人が巻き込まれ、その裏に隠された意図を暴く。
②高級イタリア料理店のワインセラー内で店のスポンサーの男が死体となって発見される。怪しいオーナーには完璧なアリバイがあった。

ネタバレBOX

①製薬会社の薬害事件で濡れ衣を着せられた男が三年前水天宮前駅で失踪。恋人の行方を探し続ける女がメッセージとして地下鉄ジャックを企てた。
②店のオーナーである料理長が味覚障害になったが本人は気付かず、店の売上は落ちていく。それを見兼ね、彼を敬愛する副料理長が味の手直しを隠れて行っていた。スポンサーが副料理長をメインに店の建て直しを提言するも怒った料理長に殺される。隣のビルの改築の足場を利用すれば移動時間が短縮されアリバイも崩れる。

料理長の味に惚れた福嶋仁美さんが毎日のように通い詰めるも彼女も味覚障害であったと云うオチがあるのだが、どうして副料理長は味の手直しをしなかったのかが一番の謎である。
痴漢を訴えた女子高生役の花実優さんが②で中国人ホステス、風風(ファンファン)を怪演、素晴らしい。
カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】

カメレオンズ・リップ【5月2日~4日大阪公演中止】

KERA CROSS

シアタークリエ(東京都)

2021/04/14 (水) ~ 2021/04/26 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

緊急事態宣言直前に何とか観れて嬉しい。これからまた中止ラッシュが始まるのだろうか。
生駒里奈さんが何時の間にかこんな女優になっていたことに驚き、ファーストサマーウイカさん(元BiS)のベテラン然とした演技にも同様に驚いた。役者の才能と云うのは本人にも誰にも本当に判らないもので、だからこそ面白いところなのであろう。
KERA版『MONSTER』的な感じで、古き欧州ホラー映画を思わせる美学。
松下洸平氏を初めて観たが異常に人気がある訳が分かった。演技の運動神経とスタイルが抜群。
岡本健一氏はすでに喜劇の名バイプレイヤーで、森田剛氏もいつかこうなりそう。
自分的にMVPはシルビア・グラブさん。歌わない彼女を初めて観た。
嘘つきの姉が失踪して八年、山奥の屋敷で姉そっくりの使用人と暮らす弟。そこに訪ねて来る姉の旦那にはある企みがあって・・・。
宮藤官九郎を筆頭にこれぞ今一番客が入る演劇のスタイル。観客が求めているものはこれと云う感じがした。

ネタバレBOX

『我が家』の坪倉由幸氏は勿論好演したのだが、この微妙な空気感の中に本物のお笑い芸人が入ると、いきなりコント化してしまう。配役の難しさ。岡本健一氏の役を芸人が演っても違うだろう。
ビルマの竪琴

ビルマの竪琴

劇団文化座

俳優座劇場(東京都)

2021/04/15 (木) ~ 2021/04/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

ミャンマーで軍事政権による虐殺がリアルタイムで行われており、その背後には中国の影が見え隠れする今現在。
『ビルマの竪琴』は市川崑の新旧映画ニ本しか知らず、今回改めて舞台版を観ると良く出来た仏教説話のよう。戦場を体験していない著者(竹山道雄)が書いた児童文学なのだが、それ故に童話のような美しさがある。
原作は水島が人食い土人に捕らえられたりもっと荒唐無稽な様子で、文化座版は隊員達の合唱による“歌”の連なりをメインに据えている。
吃りの優しい男、音痴の軍曹、頑なに合唱を拒否するがいざ歌ったら素晴らしいバリトンボイスを響かせる隊員など一人ひとりのキャラが立っている。
歌による人間性の確保、軍隊と僧侶の文化の対峙、自力と他力の哲学、英国人の讃美歌に対し顔を背け目を逸らす日本人の宗教観の脆弱さ。
このネタを岡本喜八が調理すると『血と砂』になるのだろう。
この作品をずっと後世に残す為ならば、もっと構成に手を加えても良かったのではとも思う。

ネタバレBOX

当時の日本人であっても、内地では情報統制により戦場の現実を知ることはなかった。終戦ニ年後に連載開始のこの作品にしても凡そ想像で書いたと云う。多分著者がインパール作戦に参加していたならこんな物語にはならなかったであろう。日本軍の死者の殆どが餓死とも言われている地獄の戦場だ。

食料補給の交渉に現地の村に出向いた水島が帰って来ない。あと一時間待っても連絡がなかったら、村に侵攻すると隊長が決断。敵兵ではない村民を虐殺することにも成りかねない緊迫した事態。無言の重圧の中、暗闇で一人の隊員が歌い出す。「やめろ」と止める隊長。だが他の隊員も続々と加わり歌い出し、いつしか合唱に。後に一人の隊員が述懐する。「あの時、みんな歌うことで人間性を保とうとしていたのでしょう」
名曲『埴生の宿』を合唱していると、周囲を英国兵に囲まれていることに気付く小隊。「最早これまで」と玉砕覚悟で歌いながら戦闘準備。すると英国兵も『埴生の宿』の原曲を英語で合唱し始める。それに竪琴で伴奏を合わせる水島。英国兵がやって来て、すでに終戦したことを告げる。
放浪する水島、白骨街道や山や川に溢れた日本兵の無惨な死体の山から目を背けて逃げてくる。辿り着いた英国軍の病院から聴こえる看護婦達の美しい讃美歌。敵兵であった日本兵の遺体を弔っている。神に祈りを捧げる英国人に衝撃を受ける水島。日本人である自分は何故何もしてやれないのか?
“歌”による名シーンが美しい。
帰国する小隊に水島の連れていたインコが届けられ、『ああ、やっぱり自分は帰る訳にはいかない』と伝えるエピソードはカットされていた。
軍隊に入って力を得、自ら世界を変えていく方法論と仏門に入って自分の無力さを受け入れあるがままの世界を受け止めていく方法論。自力と他力の哲学の物語でもある。
ドップラー

ドップラー

KOKOO

シアター風姿花伝(東京都)

2021/04/20 (火) ~ 2021/04/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ドラム式洗濯機が舞台に一台、いつしか月着陸船にも見えてくる。ドップラー効果とは、動く音源が近付くにつれ音の高低が変わっていくこと。今回はタイムラグ的な意味に使っているのかも知れない。80年代を熱狂させた小劇場ブームの方法論を敢えて今演る感じなのか?とにかく懐かしい感じと既視感。昔、知り合いに頼まれて付き合いで観た学生演劇は大体こんなだったような。連想ゲームのように思いつきだけを武器に想像力の限界まで跳び跳ねようとする衝動。
脚の速い太郎といつも周回遅れの亀田の出遭い、宇宙飛行士になって月面着陸を目指す二人の話がクロスオーヴァー。
キャストが皆絶妙に良かった。汗だくで極真の選手みたいなガタイの國松卓氏。表情が飛び抜けて素晴らしい吉井翔子さんが矢鱈印象に残った。役者一人一人に興味が湧く舞台。

ネタバレBOX

休憩なしでもっと凝縮して観たかった。二幕の太郎の不在とそれをどうしても思い出せない亀田の懊悩。一幕目にもう少し伏線を張った方が盛り上がった。
パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

エイベックス・エンタテインメント

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/04/07 (水) ~ 2021/04/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

2回目。終わってみれば「風間俊介万歳!」な気分にみんながなるようなハッピーな舞台。
細かい演出や台詞が良く出来ている。流石、プロの仕事と云う感じ。
相談スクラムや『あるよね』ネタなど、小さな仕掛けが伏線となってじわじわ効いてくる。

ネタバレBOX

『めだかの兄妹』を大ヒットさせた、懐かしのグループ『わらべ』。その三人から名前を取ったノゾミ・カナエ・タマエにヨウを合流させて、“望み給え、叶えよう!”と準える。
ゲイではないことをカミングアウトし、男一人女三人の共同生活にも暗雲が立ち込める中、ヨウの必死のお願いがクライマックス。「俺は君達を幸せに出来ると思う。どうか一緒にいて下さい!」「そのプロポーズお受け致します」との三人の返しの妙。矢張り「風間俊介万歳!」な気分が客席に立ち込めるのであった。
パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

パークビューライフ【4月25日大阪公演中止】

エイベックス・エンタテインメント

世田谷パブリックシアター(東京都)

2021/04/07 (水) ~ 2021/04/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

チケットを持っていたのに去年公演自体がギリギリで中止となった倉科カナ主演『お勢、断行』。こうなると俄然観たくなるのが人の性。今回は30代のお洒落な4人が織り成すトーク・コメディ、三茶の雰囲気にピッタリ。
話自体は大したネタではないのだが、ジャニーズの若手俳優風間俊介氏(もう37歳!?)の怪演に圧倒される。『オードリー』の若林氏を彷彿とさせるコミュ障を拗らせた引き篭もりニート役。ぬるいアイドル演劇の空気感を力ずくで捻じ伏せてみせる。
もう漫画のキャラのような倉科カナさんの非現実的なルックスのオーラと風間氏の役者バカのエネルギーが舞台中に充満していて面白い。1時間45分と気楽に観れるのでお勧め。
東京で夢破れ、田舎の島に帰郷する負け組幼馴染の女三人。最後の夜に新宿御苑を見下ろせる高層マンションの屋上へと侵入するも、そこは訳有り男性の住居であった。

ネタバレBOX

かなり無理矢理な出会いと突然の破綻しか描かれないのが残念。4人が幸せである日々を風間氏の絵の変化で表現すべき。前田亜季さんのインテリアへのこだわりも視覚的に必要。何か核となるエピソードが足りない印象。
倉科カナさんはアイドル顔過ぎて、役が限定されるのかも。
「蜜蜂と遠雷」 ~ ひかりを聴け~

「蜜蜂と遠雷」 ~ ひかりを聴け~

シンフォニー音楽劇「蜜蜂と遠雷」製作実行委員会

KAAT神奈川芸術劇場・ホール(神奈川県)

2021/03/27 (土) ~ 2021/04/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

リーディング+オーケストラ・コンサートと映画は観た。今回はシンフォニー音楽劇とのこと。クラシックのコンサートには腰が引ける人達にも気楽に観れる試みとして秀逸なコンテンツ。バルトークやプロコフィエフには興味が湧かなくても音楽の天才達が織り成すバトルものとしては充分堪能出来る。それらを実際に弾くのが天才ピアニスト川田健太郎氏。『海の上のピアニスト』の“1900”を彷彿とさせるクールな演奏請負人。指揮者役で千住明氏が本当にオーケストラを指揮、かなりお得なステージ。
元NYCの中山優馬氏がピアノを弾き、踊り歌う。シンガーソングライター、ヒグチアイさんの歌も印象的。美少年、ジャニーズJr.の大東立樹(おおひがしりつき)君はスター性抜群。“奇跡の歌声”木村雄一氏はもとよりパーマ大佐の歌う『幸福な王子』が秀逸。
3年に1度のピアノ・コンクール。音楽に魂を捧げた天才達が集う宴。音楽とは果たして何か?との問い掛けもある。

ネタバレBOX

前半のテンポが悪く、構成も演出もホンも噛み合っていない。凄くつまらない話をだらだら聞かされている感じ。一幕目後半、中山氏が踊り始めてからステージにパッと華が咲く。その流れに乗って第二幕は集中して楽しめた。曲は素晴らしいのだから、あとは聴かせ方。ほんの一工夫で無限の可能性が見えるのに。
聖なる日

聖なる日

劇団俳小

d-倉庫(東京都)

2021/03/19 (金) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

二回目。台詞や演出を変えているのか、自分の記憶違いなのか、色々と変わって見えた。
いろんな登場人物が顔に唐突に塗りたくられる白のペイントが効果的。『地獄の黙示録』を彷彿とさせる、『覚悟』の演出。しかも、その『覚悟』は結局何にもなりはしないのだ。
映画化するならガウンドリーはホアキン・フェニックス、コーネリアスはティモシー・シャラメかな。

ネタバレBOX

ラスト・シーン、ノーラが自身の髪留めを外しオビーディエンスに結わえてやる。血塗れのオビーディエンスが灯の点らないランプを下げて終幕。
今回一番考えさせられたのがキリスト教について。宗教を馬鹿げた迷信だと気にも留めない人であればどうでもいいことであろう。ただ宇宙空間や戦場など、生死の極限の環境において人間は『神』を欲し感ずるのも事実。狂ったイカれた人間程、座標軸としての『神』を必要とする。キリスト教の下らなさを登場人物が罵れば罵る程、その実異常に欲している心理を感じさせる。
荒井晃恵さん演じる宣教師の貞淑な妻、エリザベス。彼女の行動がこの物語そのもの。自分の赤ん坊を殺し、建設途中の教会に火を点け、原住民に見棄てられた無力なる宣教師の夫に銃を渡し自殺を促す。それでいて『神』への信仰は微塵も揺るがない。
自害した原住民リンダの死骸に『神』への祈りを捧げる。それを欺瞞だと拒絶するオビーディエンス。「これはやらなくてはならないのよ!」と叫ぶ名シーンが凄く深く、未だ咀嚼出来ていない。
知性で造り上げてきた立派な『神』の物語が、自然からは何も関心を持たれず無視される屈辱。
『神』がいるとして、『神』に向けて書かれた作品なのかも知れない。
聖なる日

聖なる日

劇団俳小

d-倉庫(東京都)

2021/03/19 (金) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

前知識として。元々オーストラリアはイギリスの流刑植民地であった。囚人達が次々と送り込まれてくる流刑地。原住民であるアボリジニは類人猿と見做されていて、1967年まで人権は与えられなかった。
休憩10分含む二幕2時間40分。舞台美術、小道具、衣装、メイクと全て本気度を感じさせる。不穏なBGMも良かった。蝋人形のように袖で突っ立っている役者が出番と共に動き出す張り詰めた緊張感。
19世紀、オーストラリアの荒野にぽつんと佇む安宿。その地では開拓民と原住民アボリジニとの間に頻繁に事件が多発。そこに流れ着く三人の訳有な放浪者。安宿には女主人とアボリジニの義理の娘とが暮らしている。
何かセルジオ・レオーネの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』を観ているような感覚になった。マカロニ・ウエスタンのあの肌触り。この空気感だけでずっと観ていられる。
勝手な偏見だが、女主人ノーラ役月船さららさんはこれが一番本人に近い役なのではと思ってしまった。悪魔みたいに美しい。
余りにも邪悪な男、いわいのふ健氏扮するガウンドリーのその果てしのない醜悪さが不快感を超越して、文学の域にまで達している。そこには直視するべき人間がいる。いわいのふ健氏の狂気の当たり役、必見。
アボリジニと白人の混血の少女、オビーディエンス役の小池のぞみさんも秀逸。メイクなしの別の役柄も観てみたい。
西本さおりさん演じるリンダの獣のような咆哮のインパクトが耳奥に木霊する。
出演する全ての役者が素晴らしい。
名台詞が多く、決まりに決まる。
「涙を見せない女は危険だよ!それは私だからさ!」
「ランプを点けとくれ、夜が近寄らないように。世界にあたし等がここにいるってことを伝えなければ。世界の方は誰も見てやしないけれども。」
エンニオ・モリコーネに曲を書いて貰いたかった。
まさにこれぞ観たかった作品。

ネタバレBOX

アボリジニ(原住民)のことを黒人と訳しているのが気になった。差別的な表現だが、土人の方が良かったのでは。アボリジニ以外に奴隷として連れて行かれた黒人が別にいるのか混同してしまう。
繰り返される台詞、「貸しと借り」、「どれだけの地獄を見て来たか」、心の傷を癒やす為に他の誰かを滅茶苦茶に傷付けなくてはいけない人間の性。梶原一騎の名言、「人間の性、その実悪なり!」みたいな気分。
「あいつは俺の毛布だ。俺にはあいつがいなくちゃ。」舌を切り落とされ顔を潰され両親を殺した男に尚性的玩具として帯同させられる少年。
『ラストムービー』のように酩酊し、『地獄の黙示録』のように混沌とする寓話。
残虐な昔の事件のあらましではなく、オーストラリアと云う国の成り立ちをその末裔として語っている作品である。邪悪な心を病んだ父親と歪んだ愛に飢えた母親との間に、血の繋がらない舌を切られた子供達がいるラストの構図が神話的。
BJCの『悪いひとたち』が流れてくるようだ。『悪いひとたちがやって来てみんなを殺した 理由なんか簡単さ そこに弱いひとたちがいたから』。
「シャケと軍手」〜秋田児童連続殺害事件〜

「シャケと軍手」〜秋田児童連続殺害事件〜

椿組

ザ・スズナリ(東京都)

2021/03/17 (水) ~ 2021/03/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

余りこの事件に文学性は感じなかったのだが、山崎哲がどう解釈したのか気になって観劇。やはり、何かパーツが足りない印象。加害者も被害者も実名で登場。当の畠山鈴香がハルシオンの常用で日常的に酩酊しているので語り手として物足りず。殺された彩花ちゃんの視点が一番詩情豊か。鈴香の弟との絵本のエピソードが作品の軸に。
鈴香の父親役の木下藤次郎氏が中風で凄いインパクト。
謎の男、佐久間淳也氏のエピソードもこの地の業を背負った様子で素晴らしかった。
作品の良心的存在、鈴香の弟役の趙徳安氏の視点から語っても良かったのでは。
田渕正博氏演ずる鈴香の恋人的な存在、トンボ。ダンボールに囲まれたような暮らしの中、仄かに肩を寄せ合う。もしかして、どこからかそこを抜け出す方法はあったのではないかと錯覚させるひととき。

ネタバレBOX

これは架空の絵本なのか判らないが、フナになった少女の話を鈴香の弟から読み聞かされる彩花。その話に夢中になって自分も魚になりたいと願う。弟は彩花の死に、魚になる為に自ら川に飛び込んだのではと思う。大蛇になった八郎太郎伝説も絡めて秋田のその風土を読み込んでいく。

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