ヴォンフルーの観てきた!クチコミ一覧

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正義の人びと

正義の人びと

オフィス再生

六本木ストライプスペース(東京都)

2023/07/13 (木) ~ 2023/07/17 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

1905年2月17日、セルゲイ・アレクサンドロヴィチ、モスクワ総督暗殺事件。エス=エル(社会革命党)のテロリスト、イヴァン・カリャーエフが馬車に向かって爆弾を投擲。セルゲイ大公は当時のロシア皇帝ニコライ2世の叔父にあたる。
1917年のロシア革命に至る布石となったテロ事件。
日露戦争の最中であり、エス=エルへの資金援助は明石元二郎大佐による諜報活動の一つでもあった。
1881年父親であるロシア皇帝アレクサンドル2世も馬車による移動中、爆弾テロによって暗殺されている。

ボリス・サヴィンコフの回想録『或るテロリストの回想』を下敷きにしたほぼ実話。
舞台は帝政ロシアの反体制地下組織のアジト。セルゲイ大公暗殺計画の実行前夜。

詩人でもある優しいカリャーエフ(岩澤繭さん)
複雑な内面を吐露する恋人ドーラ(あべあゆみさん)
組織のリーダーであるアネンコフ〈モデルはボリス・サヴィンコフ〉(磯崎いなほさん)
投獄されて酷い拷問を受け、復讐に燃えているステパン(加藤翠さん)
パーマ的に髪を盛り上げているヴォワノフ(嶋木美羽さん)

後方にタイプライターを叩くカミュ的存在の長堀博士氏。メタフィクション的に現在行なわれている芝居の戯曲を書いている。

アネンコフとステパンは編み込んだ髪の毛を妙に一房だけ立たせている。

実行犯に選ばれたカリャーエフは決行の日、爆弾を投げられず帰って来る。理由は馬車に大公だけでなく甥や姪の子供達もいたから。自分の中の「正義」との葛藤。

議論議論議論、思考の闇にひたすら畝り嵌まり込む。とにかく考えざるを得ない。「革命」とは一体何なのか?人を殺す者の自己正当化に至る免罪符。他人を糾弾する者の自己に対する不安。死ぬに至る意味と価値。他人を納得させる「言葉」を見付けられなければ、自分達の軽蔑する「奴等」と同じになってしまう。

ステージ中央の折り返し階段を効果的に使用。スリムミラーを複数配置する工夫。(見えない表情が映る)。
加藤翠さんのシャープな表情が良かった。
館内に響き渡る、合図である独特なリズムのノック。

開演前、シオンのメジャーデビューシングル『俺の声』がフルで掛かる。滅茶苦茶昂揚した。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

最前列でずっとスマホを弄っている観客もいた。関係者多めの客層はきつい。(皆なめている)。

社会主義者達は分別のあるテロリズムを標榜する為に、関係のない者を殺すことを極端に恐れた。その思想は人民を敵に回すことに滑稽なまで神経質であった連合赤軍までも続いていく。(実際やったことは滅茶苦茶なのだが)。頭でっかちの正当化ごっこ。逆に大義名分さえ手に入ればどんな残酷なことも平気で出来てしまう。結局手を汚す奴は身を捨てて捨て石になるしかない。綺麗事は事が済んだ後で無垢ないい子ちゃん達にやって貰うべき。聖人君子のテロリストなんて童話だ。泥を引っ被る殺戮者がいないと時代は何も動かない。(戦国時代、天下統一を成し遂げる前段階として大量虐殺が必須だった)。

大公妃がカリャーエフに面会に来る。「一人の人間を殺した事実を認めてくれれば、あなたの罪を許したい」と。カリャーエフは拒む。「自分が犯したのは殺人ではなく、革命である」と。
そこを手放すと自分にはもう何も残らないことを知っている。

テロといって今日本人が一番連想するのは、安倍晋三元首相を暗殺した山上徹也。統一教会の洗脳で家庭をボロボロにされた逆恨み、広告塔的役回りを担っていた安倍晋三を狙った。悪徳商法企業のCMに出ていたタレントを殺すような発想。しかしそれが大当たり、自民党と統一教会のズブズブの関係に光を当てた。今や山上徹也は国士の英雄。ジョーカー(世間への恨みから無理心中的な無差別大量殺人を実行する犯罪者)や闇バイト強盗が蔓延する社会ではましな部類だろう。悪い奴を殺せば世の中は良くなるのか?社会の構造が変わらないのであれば空席に誰かが転がり込むだけ。では何をしたって意味がないのか?いや、確実に何かをする行動には意味が生まれる。妄想上のシミュレーションではなく行動には。だがそれは一体どんな意味なんだ?

死んでもなりたくなかった奴に生きたまま近付いちまってる
怠けてる優しさをそこら中にばら撒いて
シオン『お前だけ見られたら』
或る女

或る女

演劇企画集団THE・ガジラ

シアター風姿花伝(東京都)

2023/06/30 (金) ~ 2023/07/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

チラシになっている海を沖に向かって歩く女の後ろ姿の写真(?)が美しい。空は朝焼けにも夕焼けにも見える。宣伝美術の岩野未知さんの作品だろうか。強い生命力に満ち溢れているようにももう何処にも辿り着きたくないようにも受け取れる。宗教画みたい。

『太陽があなたを見放さないうちは、私もあなたを見放し  にはしない、水があなたのために輝くのを拒み、そうして木の葉があなたのためにひらめくのを拒まない間は、私の言葉もあなたのために輝きひらめくことを拒みはしない。』
冒頭に飾られるホイットマンの詩。

キリスト教を熱烈に信仰した末、棄教に至った有島武郎の実体験を元にした原作。日本のキリスト教思想の第一人者である内村鑑三。有島武郎のことを自らの後継者だと期待してさえもいた。
今作のテーマは『神の道』と『人の道』。登場人物の誰もが心の中の神と常に向き合っている。神に己を見せつけているかの如く。
重い鉄の扉の床ハッチ。この下は地獄に続いているのか。扉を閉めるごとに轟音が鳴り響く。ヒロイン早月葉子は吐瀉物を吐き、煙草を捨て、酒を捨て、自らもそこに堕ちてゆく。

主演の守屋百子さんは中江有里の奥山佳恵風味の美人。多彩な表情が目まぐるしく変わり、観客の視線を捉えて離さない。少し細過ぎるか。
MVPは勿論千葉哲也氏、それはもう仕方がない。三國連太郎緒形拳ラインのカルマを背負った邪悪な雄。こういう男の存在が日本人の原風景にどっかと在るのだろう。常にこんな男に女は抱かれていく。それが日本人の歴史。
女中役の大嶽典子さんも存在のバランスが絶妙に良かった。

極厚3時間、大正日本文学とがっちり組み合ってみせた。その心意気にRespect。こういう作品と真剣に向き合ったことは必ず役者達の財産になる。勿論観客にとっても。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

明治11年に生まれた佐々城信子は十代の頃、作家の国木田独歩と駆け落ち同然に結婚するも5か月で別れる。離婚後に出産した浦子は里子に。父がキリスト教系の日本の女性団体の幹事だった為、内村鑑三夫妻とも交流があった。
明治34年米国留学中の森広と結婚が決まり、鎌倉丸に乗り込むも、船の事務長・武井勘三郎と不倫関係に。シアトルに到着するも、下船せずそのまま帰国。報知新聞が「鎌倉丸の艶聞」とした記事を連載。日本中に知られることとなる。長崎県佐世保で武井と旅館を経営する。
明治44年、森広の友人だった有島武郎が佐々城信子をモデルにした小説を「或る女のグリンプス」という題名で連載開始。グリンプスとは一瞥した印象のこと。
大正8年、後半を書き下ろし『或る女』と改題して刊行。鎌倉丸下船以降はほぼ創作。ヒロインの惨めな死に佐々城信子は抗議に行こうと考えたが、大正12年に有島武郎は愛人と縊死してしまった。

有島武郎役の勝沼優氏と、その友人でありヒロインを熱烈に崇拝する婚約者役の岡田隆成氏。ここの描き込みが足りず第一幕の思惑が分かり辛かったのが残念。

神への信仰のようにヒロインを信じ、なけなしの金を毟られていく男。彼の存在が無意味な書き割りの為、ヒロインをなじる有島武郎にも全く感情移入出来ず、同様にヒロインの良心の呵責も伝わらない。

更に言うと演出と脚本とキャスティングと演技がどうにもちぐはぐ。所々見せ場はあるが全体を通底する音がない。原作をどう味わって戯曲化しようとしたのかもよく解らない。狙いはスカーレット・オハラか?第二幕の話自体は犯罪者の再現ドラマに過ぎず、淡々と破滅する様を見せるだけ。
赤ん坊の泣き声やずっと隅に立ち続ける、産んですぐ里子に出した娘(桃可さん)の姿。主人公の心象風景なのだろうが効果を上げていない。思わせ振りなだけで何もないのならば逆効果。

チョビ

チョビ

ここ風

シアター711(東京都)

2023/07/05 (水) ~ 2023/07/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

超満員の上、通路や先頭のスペースにまで増席。会場を間違えているとしか思えない。サンモールスタジオがいいのでは。そこを本拠地にしている東京AZARASHI団と今作のテイストは重なる。

主演は天野弘愛さん、通称チョビ。
児童養護施設出身者の同窓会。会場の浅草近辺の民家はやたら駅から遠く、蛙の鳴き声がうるさく感じる程田舎。久し振りに顔を合わせる面々。天野さんは例年の隅田川のとうろう流しに参加するも勢い余って川に落下。はぎこさんの竹竿に救われる。服はビショビショで仕方なくジャージ姿。

虐待で右胸の二つのホクロの下に煙草を押し当てられた火傷の跡。それをずっと隠していた天野さんだったが火傷の跡がチョビ髭に見えると、施設の悪ガキのノブ(吉岡大輔氏)にチョビという仇名をつけられる。自分の心の傷を鼻で笑って生きていく生物の強さ。国からの措置費と寄付で運営されている養護施設だったが、資金難で先行き不安。8歳のチョビは自ら金持ちの養子に入ることで金を引っ張って来ようと企んだ。

当時13歳だった里沙(藤木蜜さん)は滅茶苦茶頭が良く将来は弁護士になると決めていた。
当時7歳だった亜矢(はぎこさん)はノブを密かに恋してた。
当時10歳だった弘信(香月健志氏)は弱いくせに将棋に命を懸けていた。
同い年のノブは喧嘩相手のチョビのことを・・・。

冒頭からちょこちょことした伏線、一体何の話なのか不審に思わせる。そこを綺麗に回収してみせるラスト、成程!

ネタバレBOX

天野弘愛さんの足の指が一本一本細く長い。
はぎこさんは山本彩を思わせる強キャラ。
藤木蜜さんはミッツ・マングローブのようなキャラの奥深さ。

チョビを里親として迎えた夫婦。元スリの高橋亮次氏と大企業のお嬢様、星出紗希奈さん。
貧乏夫婦を同居させてやるのは陰を背負った植木屋、牧野耕治氏。もう井川比佐志だ。
顔を出す幼馴染のヤクザ、斉藤太一氏。

『サザエさん』に心の何処かで憧れる、『サザエさん』とは似ても似つかぬ家族達の物語。

里親の家が貧乏なのを知ったチョビは帰ろうとする。だが養護施設は火事で焼け落ち、皆亡くなっていた。帰る場所なんかもう何処にもありはしない。チョビは彼等がもし生きていたならどう成長していったかをずっと妄想しながら暮らしていく。そして今年のとうろう流し、岸に引っ掛かった灯籠を取ろうと手を伸ばして川に落ちてしまう。実はここは死後の世界であり、皆はチョビを励まして生者の世界に送り返す。

物足りないのは笑い。キャラ設定が弱い。いつもの狂ったセンスが足りない。ヤクザ・ギャグだけでは普通のコメディ。『異人たちとの夏』に至るまでに激しい笑いの空間が欲しい。施設の連中とのエピソードと養父母のエピソードが交差するのだが上手く行っていない。施設の連中のことを一生忘れず想い続けるだけの強烈な出来事が欲しい。(その前の虐待の日々の描写か?)

ワンシチュエーションに拘らない方がいいと思う。作品の表現出来る幅が狭まる。背景は観客の想像力に委ねてもっと自由に作った方が面白くなる。

三谷健秀氏は一体どうしてしまったのか?彼が必要だ。
ジーザス・クライスト=スーパースター

ジーザス・クライスト=スーパースター

劇団四季

自由劇場(東京都)

2023/06/22 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

[ジャポネスク・バージョン]

1970年、コンセプト・アルバム『ジーザス・クライスト・スーパースター 』が発売される。若きアンドリュー・ロイド・ウェバーが作曲、ティム・ライスが作詞したロック・オペラ。ジーザス役を歌うのはイアン・ギラン(当時ディープ・パープル)。1971年にブロードウェイで舞台化。1973年に映画化。ノーマン・ジュイソン監督は舞台版は観ずに、アルバムから触発されたイメージだけでイスラエル・ロケを敢行して撮影。アンドリュー・ロイド・ウェバーの意図とは違った作品になり、彼は酷く嫌った。実は自分は映画しか観ていないので、舞台版の方に逆に違和感。
劇団四季の日本版は1973年初演。白塗りに歌舞伎の隈取り、白い大八車、楽曲の和楽器アレンジ、竹の矢来垣。のちにジャポネスク・バージョンと名付けられた。
1976年、よりオリジナルに近いエルサレム・バージョンも上演。

イスカリオテのユダ役、佐久間仁氏は堀内孝雄と谷村新司を思わせる声色。全体的に今作の曲調はどこかアリスを思わせる。
ジーザス・クライスト役、神永東吾氏は突然「キャー」と奇声を上げる様がどおくまんのキャラっぽい。
ヘロデ王役、大森瑞樹氏の格好はアメコミ・キャラのカブキマンか、採用されなかったデヴィッド・ボウイのコスチュームか。ジャンプのギャグ漫画に出て来そうなルックスが大インパクト。

結局のところ、何故ユダはジーザスを裏切ったのか?がテーマ。同じテーマである太宰治の『駈込み訴え』も必読。そして『神の計画』というものも関係してくる。聖書を全て事実だと受け止めて読むと、謎だらけ。未だにずっと考え続けている。

ネタバレBOX

〈背景〉
当時エルサレムはローマ帝国の属国として「ユダヤ人の王」を任命されたヘロデ大王が治めていた。
それとは別に属州総督としてポンテオ・ピラトが赴任。二人は互いの立場、権力を巡って緊張関係にあった。
ユダヤ教は三派に分かれて対立していた。パリサイ派(現ユダヤ教の基となる)、サドカイ派(富裕な貴族祭司階級、今は消滅)、エッセネ派(俗世間から離れて共同生活を送った厳格な集団)。エッセネ派のクムラン教団にジーザス・クライストは属していたとする学説が現在は有力。アンナス、カヤパはサドカイ派。

①カヤパの義父・元大祭司アンナス(日浦眞矩〈まく〉氏)による予備審問。
②大祭司カヤパ(高井治氏)による裁判。
③ローマの総督ピラト(山田充人〈あつと〉氏)の尋問。無罪。
④ヘロデ王(大森瑞樹氏)の尋問。無罪。
⑤ピラトのもとに送り返される。無罪。
⑥暴動寸前の群衆がジーザスの死刑を要求した為、ピラトの手に負えなくなり引き渡す。

〈神〉
天地創造し人間を作り出した造物主。古代ヘブライ文字4文字でYHWH(或いはYHVH)と記されており、ヤハウェ、エホバと呼ばれる。

①預言者モーセ(紀元前16世紀または紀元前13世紀と意見が分かれる)。
ヤハウェの声に導かれ、エジプトの奴隷階級だったヘブライ人(イスラエル人)を率いて約束の地カナン(地中海とヨルダン川、死海に挟まれた地域一帯=現イスラエル)へと旅立つ。
モーセはシナイ山(エジプト)でヤハウェと契約をする。それが『十戒』。それを基にしたものがユダヤ教。

②預言者ジーザス・クライスト
そもそも西暦のBC(紀元前)の意味は〈Before Christ=クライスト以前〉、AD(紀元後)の意味は〈Anno Domini(ラテン語)=私達の主の年に〉。人類の歴史上、最大のスーパースターであることは間違いない。彼が磔刑に処せられ死んだ後に、弟子達はずっと彼の素晴らしさを説いて回った。迫害と虐殺が300年近く続いたが、313年ローマ皇帝コンスタンティヌス1世が神による夢のお告げ(諸説ある)で戦いに勝利。ミラノ勅令を発布してキリスト教を公認し、自らもキリスト教に改宗。392年ローマ皇帝テオドシウス1世が国教に定めた。ジーザスと結んだ新しい契約から、新約聖書と呼ばれる。タルソスのパウロが父なる神(ヤハウェ)、神の子(ジーザス)、聖霊(マリアを処女懐胎させた力)は三位一体だと唱え、アウレリウス・アウグスティヌスが理論的に完成させた。

③預言者ムハンマド・イブン=アブドゥッラーフ
610年頃、アラビア(現サウジアラビア)のマッカ(メッカ)の郊外にあるヒラー山の洞窟に大天使聖ガブリエル(ジブリール)が現れ、ムハンマドにクルアーン(コーラン)を啓示。当時のアラビアは部族社会で国家は形成されていなかった。マッカで布教活動を開始するも迫害を受ける。
622年7月15日、迫害から逃れる為、ムハンマドは70人余りの信徒と共にヤスリブ(後にメディナと呼ばれる、マッカの北方約350kmの農村)へと移住〈『ヒジュラ』(聖遷)〉。イスラム暦(ヒジュラ暦)元年とする。
630年マッカに攻め入り征服。アラビアの諸部族を帰順させ、アラビア半島を統一する。
ガブリエル(ジブリール)を派遣した神アッラーはヤハウェと同じ存在。

〈『神の計画』〉

聖書にはジーザスの逡巡が詳細に描写されている。驢馬に乗ってエルサレムにやって来たジーザスは最後の七日間をここで過ごす。父の計画に気付きゾッとする。「我が父よ、もし出来ることでしたらどうか、この杯を私から過ぎ去らせて下さい。しかし私の思いのままにではなく、御心のままになさって下さい。」全人類の背負った原罪を贖罪する為に、最も残酷で最も惨めな、苦痛に充ちた拷問死を受けなければならない己の宿命に気が付いてしまう。永遠に人類の代表として苦しみ続けなければいけない。「父よ、彼等をお赦しください。自分が何をしているのか分からないのです。」
刑場で天を見上げ「エリ、エリ、レマ、サバクタニ(我が神、我が神、どうして私をお見捨てになったのですか?)」と旧約聖書の詩篇22篇に記されているダビデの賛歌を唱える。
「成し遂げられた」

ユダも自身の存在意義が、『神の計画』によって書かれた安っぽい学芸会の役でしかないことを知って首を縊る。

〈個人的意見〉

麻原彰晃をモチーフに『ジーザス・クライスト・スーパースター』と筒井康隆の『ジーザス・クライスト・トリックスター』を叩き台にして作品化して欲しい。いつの日が観れると思っている。

現代のパレスチナ自治区にジーザス・クライストが誕生してしまった、なんてのはどうだろう?
おわたり

おわたり

タカハ劇団

新宿シアタートップス(東京都)

2023/07/01 (土) ~ 2023/07/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

滅茶苦茶蒸し暑くて地獄。シアタートップスは空調がしょぼい。
西尾友樹氏の名前で何も情報を入れずにチケットを買ったのだが・・・。
鵺的の『バロック』にかなり影響を受けている。

1995年、静岡県の伊豆半島にある海沿いの古い屋敷が舞台。(方言は富山弁っぽかった)。

主演の早織さんは池上季実子、香坂みゆき系の美人。
田中亨氏が若き神木隆之介っぽくてカッコ良かった。
かんのひとみさんは流石。出しておけば何とかしてくれる。

ネタバレBOX

大変申し訳ないが脚本も演出も酷かった。これだったらコメディに振った方が客も気が楽。悲惨な連中の不幸を笑って観る系にした方が良い。アメリカの馬鹿ホラーテイストで。

大学時代に自殺した親友。彼を愛していた主人公(早織さん)は彼の遺した原稿を使って文壇デビュー、芥川賞受賞。彼ならどう書くかずっとそればかり考えて作家活動を続けてきた。一度彼の霊とコンタクトしたくて本物の霊能力者に会いに行く。その婆さん(かんのひとみさん)の孫(田中亨氏)は彼にそっくり。

田中亨氏がかんのひとみさんを絞め殺すシーン、僧帽筋の窪みが驚く程発達していてそっちにばかり気を取られた。

登場人物全員、頭が悪すぎ。
アダムとイヴ、私の犯罪学

アダムとイヴ、私の犯罪学

演劇実験室◎万有引力

ザ・スズナリ(東京都)

2023/06/30 (金) ~ 2023/07/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

何か軽く鬱気味で観ていたのだが、観劇の途中で急に気が晴れた。理由をあれこれと考えてみたが、多分時間の経過の作用だろう。時間がこの世の全てを解決する。時間というものの持つ面白さ。
凄く楽しかった。終演後の物販に長蛇の列。詰め掛けるマニア。客層は若い女性が多い。何周も回って寺山アングラは今オシャレなのか。1966年上演の天井桟敷設立前の戯曲。

林檎が5つ置かれてある。『トルコ風呂エデン』の看板。ここはトルコ風呂(=現ソープランド)の上のスペースを間借りした一家が住む部屋。父・髙田恵篤氏、母・森ようこさん、長男・髙橋優太氏、次男・三俣遥河氏。背中に愛すものの絵が貼り付けられている。それぞれ、宝くじ、林檎の木、汽車、切手。

DIY感溢れる木材剝き出しの建方美術。中央にほっぽらかされた金槌を、暗転時踏まないか心配になる。梯子も手作り。大量に制作された林檎の小物が良い出来。

内山日奈加さんがエロエロ。フルート。シーツ越しの舞い。
森ようこさんは女・麿赤兒。コミカルでエロい。

主人公は髙橋優太氏演ずる寺山修司。家出を試みるも一家全員付いてきてしまい、ただの引っ越しに。30過ぎても家を出て他者と出逢うことに憧れている。彼は汽車の汽笛を「ポーッ!」と叫び続ける。その線路は体内の血管だ。血液が汽車となって全身を隈なく駆け巡る。それが心臓を通過するごとに覚醒剤のような快感がどっと押し寄せる。亡国の徒、亡人。

下の階のトルコ嬢見習い(山田桜子さん)は『ロビンソン・クルーソー漂流記』を愛読する。いつか無人島で一人生活することを夢想して。そこにやって来る自称ロビンソン・クルーソー(小林桂太氏)、風呂を借りる。

ラストの曲はリフがもろ『移民の歌』。カッコイイ。
この劇団はまだまだ先に行ける。

ネタバレBOX

狂ったように林檎好きな森ようこさん。後払いで数百個の林檎を購入しては部屋に隠す。それがバレそうになると慌てて、床板を剝がしてトルコ風呂に捨てる。

髙橋優太氏は到頭“あの方”と一体化することが出来る。これでもうずっと独りではない。天国より高い地獄に似た場所で。
ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)

劇団チョコレートケーキ

シアタートラム(東京都)

2023/06/29 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

アンジーの『天井裏から愛を込めて』を彷彿とさせるタイトル。アンジーはメルダックでデビューしたのだが、先に同事務所でデビューし大ブレイクしていたブルーハーツを踏襲させられた。本来は「頑張れロック」路線ではなかっただけに非常に不運。実際は『たま』系の独自世界のアーティストだった筈。

小学生の頃、再放送の『帰ってきたウルトラマン』で観た『怪獣使いと少年』。滅茶苦茶衝撃を受けた。灰色の工業地帯で繰り広げられる全く救いのない物語。プロレタリア文学のような目線。『帰ってきたウルトラマン』はスモッグのどんよりとしたイメージで、ディストピアの日本の姿を突き付ける(ただそれ以後観ていないので記憶による美化はあると思う)。後年、切通理作氏のデビュー作『怪獣使いと少年』を読んだ時、凄く腑に落ちた。

巨大変身ヒーローモノが1990年に作られている世界線。(実際は『ウルトラマン80』放送終了の1981年から1996年の『ウルトラマンティガ』までは空白)。
テーマは『差別』。誰にも正解の見えない永遠の難問。TV番組『ワンダーマン』にて、伝説の『怪獣使いと少年』に挑もうという若き脚本家の心意気。子供向けTVドラマで一体何処まで本質を描けるのだろうか?

主人公の脚本家は伊藤白馬氏。特撮モノに初挑戦。
大学時代の先輩で『ワンダーマン』のメイン監督は岡本篤氏。木下惠介っぽい清潔感。
特撮監督は青木柳葉魚氏。
助監督は清水緑さん。
主演のワンダーマン役は浅井伸治氏。ペナルティのワッキーを思わせる役作り。
大物ゲスト枠は橋本マナミさん。気負い過ぎて少し固かった。
宇宙人(コクト星人?)役の足立英(すぐる)氏の振り幅が素晴らしい。
MVPは東特プロのプロデューサーの林竜三氏とTV局から出向しているプロデューサーの緒方晋(すすむ)氏。ここのリアリティがドラマの厚み。社会で生活している人間の重みがあってこそ、ただの絵空事のファンタジーにはしない。
是非、観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

ネタ元
①ウルトラマン『故郷は地球』
事故により遠い惑星で見捨てられた宇宙飛行士ジャミラは棲星怪獣ジャミラと变化、復讐の一念で地球に舞い戻る。
②ウルトラセブン『超兵器R1号』
惑星攻撃用超兵器R1号を無生物のギエロン星にて実験。成功に終わり惑星は粉々に。しかし実はそこに居住していたギエロン星獣は復讐の為、地球を襲う。
③ウルトラセブン『ノンマルトの使者』
古代、人類より先に地球で繁栄していた先住民ノンマルトは人類の侵略に地上を追われ、海底都市を築いて静かに暮らしてきた。海底開発が進む中、抵抗してきた海底都市を地球人は全滅させる。
④帰ってきたウルトラマン『怪獣使いと少年』
川崎の工業地帯、河川敷の廃工場で暮らす老人(メイツ星人)とアイヌの少年。かつて地球の気象調査にやって来たメイツ星人だったが、汚染された地球の環境に耐え切れず重病を患っている。強大な念動力を持ち、公害で畸形化した怪物ムルチを地底に封印している。気味の悪い余所者がのさばっていることに不快感を感じた地元民は暴力で排除に出る。群衆にリンチされる少年を庇ったメイツ星人は惨殺される。それと共に封印の解けた怪物ムルチが暴れ出す。人々は泣き喚いてウルトラマンに助けを求めた。
モデルになった史実は関東大震災後に起きた朝鮮人大虐殺。判明しているだけで、2613名の朝鮮人が虐殺されている。

〈今作の展開〉
暴徒と化した群衆は宇宙人(足立英氏)を襲撃する。心優しいパン屋の店員、橋本マナミさんは誤解を解こうと必死に止めに入る。だがどうにもならない。橋本マナミさんは惨殺されるも、死の間際に想いを伝える。「(他者を)怖がらないで。私も怖がらないから。」
差別の本質は恐怖であることを告げる。恐怖を乗り越えた先に解り合える未来が生まれることを。
(舞台上をセピア色一色に染めた照明が効果的)。

この後の展開をどうするかで二転三転する。

〈最終的に作品化されたもの〉
一人自らの寿命が尽きるまでただただ生き続けた宇宙人は死の訪れと共に彼女との再会を果たす。

もし自分が小学生でこのTV放送を観ていたとしたら腑に落ちない気がする。人間が衝撃を受けるのは顔を背けたくなる程のリアル。綺麗な作り話ではない。『デビルマン』の牧村美樹邸の魔女狩り、『カムイ伝』の正助への残酷なる私刑、『ブッダ』のタッタの蜂起。理屈や綺麗事では納得出来ない人間の動物としての本能。『デビルマン』では怒りに狂った不動明が人間達を皆殺しにした。「俺は悪魔の体を手に入れたが人間の心を失わなかった。お前達は人間の体を持ちながら悪魔になったんだぞ!これが俺が命懸けで守ろうとした人間の正体か!?」
実はここが重要な点。人間の“何”を守ろうとしているのか?

監督が同性愛者であることはすぐに気が付いた。差別を受けることに敏感な弱者である少数派がこの手の話題に大声を出せない事。

何が正解なのか、未だに解らない。多分、正解は時間の経過。時間が経って何もかもが消えて無くなるだろう。どんな結末を自分は求めていたのか?
ヴィクトリア

ヴィクトリア

シス・カンパニー

スパイラルホール(東京都)

2023/06/24 (土) ~ 2023/06/30 (金)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

今更褒めるも何もないのだが、大竹しのぶさんは凄い女優だ。もう一度観たい演目。北島マヤ(『ガラスの仮面』)だよなあ。『ガラスの仮面』の最終回は大竹しのぶさんの独り芝居でどうだろう?何か皆を納得させるものになりそう。ヴィヴィアン・リーのような、精神を患った美しい女の独白は古今東西の女優魂を刺激し興奮させる永遠の題材なのだろう。

イングマール・ベルイマンの幻の映画企画『ある魂の物語』。脚本は1972年に書かれた。女優のクローズ・アップのみ全編ワンカットを狙った実験的な意欲作。どの映画会社にも受け入れられず、主演予定だった女優の降板で企画は流れた。1990年スウェーデンでラジオドラマとして日の目を見る。
フランスで2011年、ソフィー・マルソーの一人芝居として舞台化。その舞台をそのまま2015年TVドラマ化(『A Spiritual Matter』)。
成瀬巳喜男も高峰秀子に背景なしで撮影する映画の構想を語っていた。役者以外何も存在せず、逃げ道のない世界。

ステージングは小野寺修二氏。空間設計なのか、シーンとシーンの繋ぎのアイディアなのか。照明の日下靖順(やすゆき)氏と共に幻想的な世界を味あわせてくれる。揺れるカーテン、漏れる光、何処からか聴こえる音、一人芝居を名アシスト。ヴィクトリアの脳の中、心の中、記憶の中を『ミクロの決死圏』のように彷徨い歩く観客達。巨大な薄手の白いカーテン、柔らかなたゆたいに目眩を覚える。

ベルイマンの女性論のようにも感じた。普遍的な脚本。必見。

ネタバレBOX

43歳のヴィクトリアは大学教授の夫に問い詰める。「何故、私とSEXしないのか?」「手でだってしてくれない。」「何故あの女のもとに通うのか?」

パーティー会場での尊敬するリヒャルト・シュトラウス。

いじめられっ子だった少女は突然周囲にちやほやされるようになり、世界に違和感を覚える。画家に憧れて芸術に全てを捧げ。

チャリティー・イベントでのレセプション。グランド・ピアノ。

追い詰められた夫は拳銃自殺を遂げる。

葬式では死体の腐敗臭に吐き気をもよおす。

侍女と列車で旅行。隣の個室の紳士二人組に興味。

公園で声を掛けられた見知らぬ男とモーテルへ。実は私は下層階級の男の観察に来た女優、いや金さえ出せば何でもしてあげるすれっからしの売女。

やっと見付けたこの世の真理。『現実なんてものは存在しない』。

精神病院の閉鎖病棟に監禁された老女。久方振りに鏡を見せられて声を上げる。そこには人間ではない別のナニカが映っていた。

食中毒が蔓延して吐瀉物にまみれた院内。運良く無事だった私は別の部屋に案内される。そこに現れた8歳位の少女。血の色をした涙のような赤いメノウ。
ある馬の物語

ある馬の物語

世田谷パブリックシアター

世田谷パブリックシアター(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/07/09 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

第一幕75分休憩20分第二幕50分。

最前列はF列。
ステージを大きく使っていて俳優は通路にもどんどん現れる。建築現場の作業員達がおもむろにトルストイの古典を始めるのは『ジーザス・クライスト・スーパースター』、その後の展開は馬版『キャッツ』を思わせる。
サックス4人組が奥でジャズり続ける。ソプラノ小森慶子さん、アルト、ハラナツコさん、テナー村上大輔氏、バリトン上原弘子さん。

小宮孝泰氏がこんなに歌が上手いとは。
小西遼生氏はリアル「紫のバラの人」、若き川崎麻世の風格。黒がよく似合う。
元宝塚雪組トップスター、音月桂さんは流石のヒロイン。細かいフランス語の演技で会場を笑わせる。
『さらば箱舟』で主演だった小林風花さんはターン連発、ぱるるっぽかった。

長く伸ばした髪を盛り上げて馬のたてがみを表現。顔のペイントで模様を表現。ハーネスとワイヤーを素早く装着してのフライング・ワイヤー・アクションを多用。あっと驚く程のスピード。

主演の成河(ソンハ)氏の凄まじさ。高額チケットを購入する価値がある役者。観れば観る程に評価が上がる。プロレスラーのような運動量。野生動物か。余りに凄すぎて言葉が出て来ない。彼の代役をやれと言われたら、殆どの俳優は震え上がると思う。化け物。

老いた馬から若い馬へと時は遡る。囲んだ演者達が髪型を整え、服を脱がすと成河氏は精悍な若馬に。纏っている空気がガラリと変わる。

ある老いぼれた馬、ホルストメール(成河氏)が子供時代に仲が良かった牝馬(音月桂さん)と再会して、半生を語り出す。血統書付きの名馬として生まれたが、まだら模様(ブチ)だった為に嫌われた。ある時、公爵(別所哲也氏)が馬を買いに来て、一目で彼の素質を見抜く。

岡田真澄ばりの貴族、別所哲也氏の登場からどーんと面白くなる。それまではちょっと停滞気味。そこからラストまでは一直線。第一部のラストなんて鮮烈。
成河氏の馬を見逃してはならない。

ネタバレBOX

クレーンの重心を真ん中にしてシーソー状に設置。両端に成河氏と御者(小柳友〈ゆう〉氏)が乗る。疾走する橇をダイナミックに上下するクレーンで表現。相当危険なんだろう、本物の特機のスタッフが押さえている。何処までも何処までも走り続けるホルストメール。御者は興奮し、伯爵は上機嫌。町の人達も上下回転し続ける重機を慌ててすり抜ける。素晴らしい演出、第一部の終わり。

始めの方は作品の意図が掴めずに、余り面白くなかった。もっと時代背景など無視してニューオーリンズ・ジャズを陽気にかき鳴らして欲しい気分。(暗い曲調が多かった)。ホルストメールが人間を風刺的に観察し、その異常なる所有欲を分析する。「馬から見た人間社会」がテーマかと思ったらそれも違った。伯爵に所有されていることに誇りと生きる喜びを感じていく。だが伯爵もホルストメールも等しく老いさらばえていく。全ての生物に共通する「生老病死」、その無常感。それだからこそ、ホルストメールが人生最高の日々だったと述懐する伯爵との二年間が眩しく煌めき胸に焼き付く。誰の心の中にも封印されている“あの頃”を。

スキャンダルの飛び火でとばっちりを受ける不運もあったが日本演劇界を代表する俳優。
瀬戸内の小さな蟲使い

瀬戸内の小さな蟲使い

桃尻犬

OFF OFFシアター(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/28 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

開演前SEはホールの『ノーバディーズ・ドーター』(多分)、コートニー・ラヴのソロ、『アメリカズ・スウィートハート』。1995年、ホールの新宿リキッドルーム公演を観に行った記憶が甦った。ぎゅうぎゅう詰め酸欠の会場、ドラッグをヤりまくっていた外人女が何人もぶっ倒れていった。暴れる外人男をコートニーがステージに上げてヒールで蹴りを入れていた。

中崎タツヤ作品に通ずる笑いのセンス。これは面白い。「キング・オブ・コント」クラスの出来。笑いにうるさい方は是非一度チェックしておくべき。関西弁のテンポのよさ。

主演の鈴鹿通儀(みちよし)氏、かなりの厚底メガネは役作りか。ゆうめいの『ハートランド』でも強烈なキャラだった。
MVPはその彼女、片桐美穂さん。ドランクドラゴンの塚地を彷彿とさせるデフォルメの効いた顔芸。表情だけで会場がどっかんどっかん沸く。
橋爪未萠里 (いゆり)さんは尼神インターの渚っぽい痛快な喋り。iakuの『あつい胸さわぎ』も見事だった。
中尾ちひろさんは実弾生活アナザーの『クレープ・オリベ』の妹役だった。内面が全く読めない。

何かがズレている伊与勢我無(いよせがむ)氏と主催・野田慈伸(しげのぶ)氏の掛け合いもスウィング。

そして皆が待ちに待ったてっぺい右利き氏が満を持して登場。期待で客席の空気がどよめいた。

キャラ設定、配役、演出が完璧。
是非観に行って頂きたい。

ネタバレBOX

兵庫県の寂れた遊園地のアトラクション、フリーフォールが頂上で停止。海辺の寒風吹きすさぶ中、取り残された乗客達それぞれの会話。東京での同棲生活から実家に帰り、家業の『蟲使い』を継ぐ鈴鹿通儀氏。恋人の片桐美穂さんを帰郷に誘うも「結婚する気はまだない」と告げる。混乱する片桐さん。

第2部は『ガロ』系のテイストで、根本敬や蛭子能収っぽい。海辺の再会が蛇足に感じた。何の説明もなく、絵だけで終わった方が好き。
舞台「下町のショーガール」

舞台「下町のショーガール」

URAZARU

萬劇場(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

〈空チーム〉

長谷川伸の股旅モノのようにこの手の昭和スター誕生モノも古典として残っていくと思う。松竹の木下惠介、山田洋次ラインの懐かしき喜劇映画の残像。併映向きの見事な小品。戦後の貧乏長屋からSKD(松竹歌劇団)に憧れる鳩の街(赤線地帯=売春区域)の少女達。若き倍賞千恵子の姿がうっすら見えた。
かつて木の実ナナの運転手を務めた手島昭一氏がプロデューサー。木の実ナナのエッセイから創作しているが、かなり脚本家のオリジナルらしい。

木の実ナナ、本名・池田鞠子。作中ではマリーなんて呼ばれている。演ずるは空みれいさん。観月ありさに百田夏菜子を掛け合わせたような圧倒的なスター性。素材はパーフェクト、あとは周囲の才覚と運。小劇場からスーパースターを送り出して欲しい。

心を打たれたのは親友役の大淵心実(おおぶちここみ)さん、13歳!流石の劇団ひまわり、作品の血肉と化す。助演女優賞モノ。

父親役の小磯勝弥氏は長塚圭史っぽい。
母親役の富山智帆さんの痛い台詞。
遊び人の叔父役は小笠原游大(ゆうだい)氏。阿部サダヲっぽい憎めないキャラでこの作品世界の手触りを肉付ける。彼の存在感のリアルさが今作の一つのくさび。
遊女達の艶やかな美しさ。でく田ともみさん、大和田紗希さん、橘芳奈(かんな)さん。
学習院ひろせ氏は独り飛龍革命を披露。ユリオカ超特Qか?
高橋ひろし氏のエスパニョール・キャラも重要。
いじめっ子、相星功生(あいぼしこうき)氏のエピソードも胸を打つ。

退屈させないようにシーン繋ぎを工夫したリズミカルな演出が心地良い。複雑に交差した時間軸も悪くない。
ダンス・シーンがかなりハッピーなので、これぞ木の実ナナっぽい。全ての痛みと苦しみを抱えて笑顔で踊る。
テーマはエンターテインメントの孤独と見えない絆。
現実逃避の夢で現実から逃げられた者と逃げられなかった者。

大屋海さんヴァージョンも気になる。

ネタバレBOX

トランペット奏者のジャズマンだった父親、ダンサーだった母親、共に子供の為に自らの夢を諦めた。
母親の台詞、「輝くんなら私達から遠い所で輝いて!」

ラストの無理矢理ハッピーエンドに違和感。事実に即した方が味わい深いもの。父親とは互いに解り合えない関係だった方が余韻が残る。しっかりしたパッケージ作品だったので、繰り返しに耐えうる古典にするべき。雑な落とし込みが残念。
テラヤマ音楽劇★くるみ割り人形

テラヤマ音楽劇★くるみ割り人形

シアターRAKU

駅前劇場(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

いや、結構面白かった。平均年齢69歳の劇団というふざけた座組。それを観に来る客も年齢層高め。オーバー80割なんてチケットまである。ゴッホゴホ咳込み続ける老人に序盤から熟睡の老人達。気の滅入る客席にうんざりしながらも脚本はよく出来ている。

1816年に発表されたE.T.A.ホフマンの『くるみ割り人形とねずみの王様』を大デュマが『はしばみ割り物語』に翻案。それをマリウス・プティパがバレエ作品として台本化し、1892年チャイコフスキーが曲をつけた。
1978年、実写人形アニメーション映画『くるみ割り人形』をサンリオが製作。寺山修司が書いた脚本を子供向けに直したものが使われた。今作は寺山修司のオリジナルを流山児祥氏が脚色。

元大分放送の女子アナ、原きよさんが主演。美少女のまま老いたような楳図かずお調の可愛らしさ。岡部まりと黒木瞳を足したような美貌。とにかく自然に物語を流れて行く。

高橋牧氏(『時々自動』)の作曲した名曲揃い。
戦争や虐殺死体の古いニュース・フィルムが投影される。坂本龍一の遺した言葉。
今作のテーマは現実に起きている戦争を演劇で止める方法の模索。
先日のキャンドル・ジュン氏の会見で「(キャンドルを灯したからといって、世界の戦争が終わるとは思っていませんが)いつか世界から核兵器をなくして、戦争という争いごとがなくなる日を作る。自分が戦争を終わらせるんだと。」との発言があった。
誇大妄想狂の台詞のようだが、このぐらいの大風呂敷を広げられないと“アート”なんか意味がないのだろう。

「目をつぶると見えて、目を開けると消えてしまうものはなあに?」

ネタバレBOX

物語はクララ(原きよさん)が誕生会前夜、夢を見る。

お菓子の国では15年前、皇帝(二階堂まりさん)が城中の鼠を大量虐殺。生き延びた未亡人鼠マウゼリンクス夫人(村田泉さん)は皇女(永田たみ子さん)に呪いをかける。皇女の口元は醜い鼠の姿に。その後、鼠達が皇女の誕生会用の生クリームを食べてしまったことで、更に激しい弾圧が。その復讐に強力な呪いをかけるマウゼリンクス夫人。醜い鼠の姿で昏睡状態のまま意識が戻らない皇女。医師ドロッセルマイヤー(桐原三枝さん)は親戚の息子・コッペリウス(川本かず子さん)を使ってその呪いを解く。マウゼリンクス夫人は死の間際、コッペリウスに呪いをかけてくるみ割り人形にしてしまう。目を醒ました皇女は醜いくるみ割り人形を嫌い追放。
独りクララは彼の呪いを解く為、旅に出る。あやつり人形にチェスをさせている人形遣い。誰もが思い出を持たない町。誰もが争い憎しみ合っているが、「お菓子屋さん」と三回呼ぶと闘いをやめ、人間の実存に向き合う町。

寺山修司はホフマンの代表作でもある『砂男』を合体させている。
白眉濛濛

白眉濛濛

海ねこ症候群

王子小劇場(東京都)

2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

絵を描くことが大好きな主人公・坪田実澪(みれい) さん。売れることや評価されることは余り気にしていない。ある日、街なかで画商の河合陽花(はるか)さんに声を掛けられる。彼女の主催する絵画のオークションを見学することに。そこでは物凄い額で絵が取引されていた。発奮した主人公、画商の所有するシェアハウスに住み込んで絵の制作に打ち込むことに。

画商の河合陽花さんを『坊っちゃん嬢ちゃん』のマタハルさんだと誤解していた。どちらもイケメン女子。
主人公の坪田実澪さんはマリアのイーちゃんが物真似する小雪風味の愛嬌でチャーミング。

オークションのシーンがダンスでテンポよく面白い。シェアハウスの世話係・新里乃愛さんがまだ二十歳!「忙しい忙しい」とそこら中をはたきながら、雀を何羽も乗せる。かなり巧い役者だった。オレンジの家政婦・神尾りひとさんがキュート。劇団の主催であり、司会者役の作井茉紘さんも目立つ。
熊本や石川から大きな花束を持って駆け付けるファン達にRespect。

ネタバレBOX

物語のテイストが『 U-33project』っぽい。だが作品に哲学が足りない。高額で絵画が取引される様は価値観の本質の風刺だと思うのだが、もう一歩突き詰めたい。

好きなことを好きでいられる才能というものがあると思う。やっぱり人間、飽きてくる。昔、夢中だったものをふっと思い出した時に、ずっと好きのままだった奴等にRespect。人間の嗜好性なんて変わっていって当然。それでも螺旋のようにまた巡り逢うことも事実。

シリアスなシーンが退屈。観せ方が下手。画商と主人公の出会いも適当。シェアハウスのくだりも意味がない。悪人を描けないのだろう。エピソードはぬるい友人関係ばかり。あやふやな言葉とあやふやな感情、全てすり抜けてしまうだろう。

画商の本当の目的は才能がないのにやめられない人間を見付けて諦めさせること。オークションで全く相手にされなかった主人公は踏ん切りが付いてやめる。だがしばらくするとまた描き出す。何故か?人は意味や理由があって生きている訳ではないからだ。ただ生きる。ただ描く。

※3日目に扁桃炎で信國ひろみさんが降板、作井茉紘さんがその日の二公演の急遽代役に。
4日目に他の出演者のコロナ陽性が判明し、以降公演中止。
独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜

ことのはbox

シアター風姿花伝(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/19 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【Team葉】

篠田美沙子さん目当てでこちらにしたのだが、ちょっと違った。主演の花房里枝さんが美人過ぎて、元乃木坂か何かだと思って観ていた。(実際は声優ユニット、elfin'〈エルフィン〉のメンバー)。物語は孤独な35歳の中年女性が「何故こうなったのか?」を過去と未来を行き来しながら妄想するもの。今作は美人が性格の悪さで孤立する話になってしまった。とは言え彼女の魅力で舞台は華やかに。老婆まで熱演してRespect。やたらワイン風ドリンクをガブ飲み。
天竺鼠の瀬下を思わせる堀田怜央氏とカラテカ入江を思わせる親泊義朗(おやどまりよしあき)氏のコンビが大活躍。
救いの手となる紳士のバーテン、小久保隼(じゅん)氏は朝倉未来の上地雄輔風味。
上之薗(かみのその)理奈さんもモテモテ女子を好演。

滅茶苦茶、鬱な『ブリジット・ジョーンズの日記』。『不思議の国のアリス』とだぶらせない方が良かった。

ネタバレBOX

10歳の誕生日、母が失踪。12歳の誕生日、祖父が逝去。13歳の誕生日、父が去る。その後も好きになった人は皆いなくなる呪い。そんな心を閉ざした自分と関わった男性は、悪戯電話ハフハフ男(HIDE-ChangeTheWorld-氏)と満員のエレベーターで髪に背広のボタンが絡まった松崎貴浩氏のみ。他には誰一人いないという苛酷な現実。
友達がいない、恋愛相手がいない、家族がいない。孤独で外堀を埋められていく女性の断末魔。

だが自分的には面白くなかった。演出だけでなく、オリジナルの戯曲も好きじゃないと思う。キャラが大声で馬鹿笑いのシーンばかり。効果的でなくただただ不快。必要なのはレクター博士、狂った精神分析医だ。
舞踊詩劇「田園に死す」・幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」

舞踊詩劇「田園に死す」・幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」

吉野翼企画

パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/21 (水)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

滅茶苦茶面白かった。前から一度はこの劇団を観ようと思っていた。勝手な先入観として閉鎖的な内輪受けのつまらなそうなイメージ。だがそれは全くの偏見、もっと早くに観るべきだった。疾走感、リズム感、サービス精神が段違い。思い入れたっぷりにたらたら演るのは寺山修司っぽくない。訳も分からぬまま、捲し立てるひとときの騒乱。一瞬の積み重ねだけがこの世の全て。やはり演出(音楽性)のセンスなんだろう。寺山修司の書いた詩をノイズで掻き鳴らせ。
構成・脚色・演出の吉野翼(たすく)氏は会場の絵空箱の店主でもある。好き放題、会場も使って楽しませてくれる。正しい寺山修司の面白さの伝え方。筋肉少女帯、石井輝男、澁澤龍彦・・・。サブカル連想ゲームの脇にはいつも寺山修司が突っ立っていた。(『田園に死す』はジョージ秋山の『告白』が元ネタなのでは?)

ラストのまさにクライマックスで地震、凄いタイミング。虚構と現実の壁が崩壊するのかと思った。
全員(ほぼ)すっぴんで現実サイドから虚構サイドを眺めるラストの演出が効果的。女優のすっぴんはどんな化粧よりも美しい。
ギターのなすひろし氏とキーボードの秋桜子(あさこ)さんのユニット『みづうみ』が生演奏。LIVEに行きたい位良かった。

開場時から、からくり人形のように寺山スローモーションを奏でる5人の女優。芹澤あいさん、井口香さん、内海詩野さん、福田晴香さん、村田詩織さん。

①幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」
原作はポーリーヌ・レアージュ(ドミニク・オーリーではないらしい)の『ロワッシイへの帰還』。1981年、寺山修司の監督した映画『上海異人娼館 チャイナ・ドール』を岸田理生がのぐち和美さんの為に1990年に戯曲化したものだそうだ。

ヒロインの小寺絢(こてらあや)さんが娼館に自ら入る。自分の純愛を無数の見知らぬ男に抱かれることで証明しようと。そこで彼女が目撃し体験したものとは!?

②舞踊詩劇「田園に死す」
寺山修司が自身の少年時代を舞台化。母親の呪縛に嫌気が差し、隣家の若妻と東京へ駆け落ちする約束。だがそんなものは嘘っぱちでしかない。何一つ上手く行かない現実、惨めな自身を背負ってよろよろと歩くのみ。

寺門祐介氏(現在の寺山修司)
多賀名啓太氏(少年時代の寺山修司)
キンカナさん(富田靖子の「さびしんぼう」風味の空気女)
中島猛氏(ブロッケンJr風味の逆関節男)
篠原志奈さん(母親)
制作&場内誘導の神崎ゆいさんも出演シーンあり!

こういう作劇を全面的に支持。面白かった。

ネタバレBOX

②恐山のイタコの舞踏シーンが最高。亡者達が変顔をしながら刻むド迫力の舞踏。

ステージ背面のシャッターが上がり、街角からガラスのドア越しに舞台を覗き見る出演者達。現実世界からするとこれは異質なお芝居でしかない。演っている役者達もこんな虚構にいつまでも付き合っちゃいられない。「ビール持ってきて!」
M.O.S.ヤングタウン

M.O.S.ヤングタウン

かるがも団地

SPACE EDGE(東京都)

2023/06/15 (木) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

M.O.S.とは南大沢の略なのだろう。地元の馬鹿中学に入った主人公。馴染めなかった親友は不登校に。財力のある家に生まれた生徒会長が好き放題で学校を牛耳る。それに楯突いた兄は生徒会長に立候補する。そんな日々の中、学校では夜の放火騒ぎが起きていく。

主演の瀧口さくらさんが上戸彩に見えた。
その親友、樋口双葉さんは有村架純に見えた。
トンパチの主人公の兄、奥山樹生(いつき)氏は菊野克紀を思わせる。
主人公の母親、ラーメン屋店主、無線部などのキツいキャラばかり兼任するのは長井健一氏。流石に上手い。
中嶋千歩さんはバドミントン部の女なのだが妙に印象に残る。キャラの書き込みが多いだけに勿体無くもある。
ヒールの生徒会長・浦田かもめさんは奥菜恵に見えた。
大学生の北川雅さんは蒼井優に見えた。
大学生や校長の小日向春平氏は宮台真司っぽい。

Oasisの『Half The World Away』が似合うと思う。

ネタバレBOX

コメディとしては面白くなかった。ネタは『東京にこにこちゃん』っぽいのだが笑わせるまで詰められず。一人、軸になるキャラが必要。そいつに観客を背負わせて笑わせるべき。主人公はシリアス路線で。キャストはルックスの良い娘が多くて豪華。一つ一つのエピソードは住民達の疎外感と孤独感が溢れて悲しい。生徒会がどうのこうのは削って主人公の心象風景に焦点を当てた方がいい。中島らもの『僕が踏まれた町と僕に踏まれた町』のような。『いなくなれ、群青』みたいな話に出来ると思う。
R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム

R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム

ワンツーワークス

赤坂RED/THEATER(東京都)

2023/06/09 (金) ~ 2023/06/18 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

ワンツーワークスを観るのは今回で9本目。印象に残るのは『グロリア』、『鯨を捕る』、『私は世界』。
宮部みゆきは初期は読んでいたが、何かぬるくてハマれなかった。大林宣彦が映画化したのを観た『理由』だけが好印象。

今回も掴みは面白い。二つの家庭で二重生活を送る男(長田典之氏)。妻(みょんふぁさん)と娘(東史子さん)と息子(安森尚氏)、もう一つの妻(小林桃子さん)と娘(川畑光瑠さん)。彼がある日惨殺される。警察は娘(川畑光瑠さん)を取調室の隣の小部屋に呼び、マジックミラー越しにもう一つの家族と面通しさせる。

自分はみょんふぁさんのファンであることに気が付いた。
綾城愛里奈(えりな)さんが不快な馬鹿女を好演。

ネタバレBOX

人が殺されるシーンの演出が見事。血痕をイメージした小さく千切った赤い花弁のようなものが天井からパラリと降り掛かる。

宮部みゆきとこの作家(古城十忍)の相性はよくない。もっと高村薫とか重苦しい話が適している。人間のダークサイドこそを抉るべき。
彼女は赤川次郎みたいな読み飛ばせる軽さが人気なのだが、それを敢えてやるなら主眼を別にずらさないといけない。役割分担ゲームをカリカチュアライズして、この世の全ては“ごっこ遊び”ぐらいに引いて見せないと。父親の“ごっこ遊び”が許せずに二人ぶち殺し、疑似家族の三人も狙うなんて最早サイコパス。娘の異常性しか感じ取れない。警察の計画も、娘を自供自首させる為に大芝居を打つなんて漫画。もっとどうしても解明したい謎がないと成立しない話。

もっと言うと、殺される男(長田典之氏)の設定が意味不明。(原作もそういう批判が多いらしい)。女にだらしなく、手当り次第に浮気を重ねる。それとは別に見知らぬ誰かとネットで擬似家族ごっこをして楽しんでいる。実生活での心の渇きをネットで癒していたのか?父親の行動を監視し続けていた娘(川畑光瑠さん)はその疑似家族に嫉妬し殺意を募らせる。男が何を求めていたのかが判明しなければただの動機当てゲーム。凄く面白いネタなのだが見せ方を間違えている気がした。(事件発生までの見せ方が絶妙なだけに)。

余談だが、ジョン・レノンとオノ・ヨーコが提唱したバギズム(Bagism) 。バッグ(袋)の中に入れば人間を外見や性別、人種や年齢などで差別することが出来なくなる。この状態での遣り取りこそが真の人間同士のコミュニケーションであると。
それを現実化したのがインターネット、例えば匿名掲示板であろう。理想の人間の交流の場に成り得ているか?現実は見ての通り。結局性善説で物事を考えるからおかしくなる。性悪説で考えないと世の中は悪くなる一方。LGBT法案の混乱もそこにあるのでは。逆に同性愛者への偏見を強くしてどうするのか?
ホテル・ミラクルThe Final

ホテル・ミラクルThe Final

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

【STAY Ver.】
どすけべ前説 「ホンバンの前に」 寺園七海さん 今井未定さん
①「THE WORLD IS YONCHAN's」 河西凜氏 森下凜央(りお)さん
②「噛痕と飛べ」 今井未定さん 秋山拓海氏 寺園七海さん
③「愛(がない)と平和 -Bagism by Love&Peace.-」 岡村梨加さん 藤本康平氏
〈5分休憩〉
④「スーパーアニマル」 金田一央紀氏 小練(こねり)ネコさん
⑤「最後の奇蹟 最終形」 環幸乃さん 坂本七秋氏

①チェリ男こと河西凜氏は全世界のもてない童貞男の象徴とも言うべきピープルズ・チャンピオン。この役をやる為にこの世に生を受けたのでは。ヨンちゃんこと森下凜央さんは凄かった。こりゃ人気ある訳だ。童貞男のパンパンに膨れ上がったエロ妄想が具現化したようなルックス。今作を世界中の(精神的)童貞男に捧ぐ。面白かった。
④最高傑作。金田一央紀氏が全作品の中の間違いなくMVP。この作家は天才だ。現代の“あしながおじさん”の織り成す街角のささやかなメルヘン。都会でささくれだった心を潤してくれるようなひとときの安らぎ。小練ネコさんがまた素晴らしい。客席がドッカンドッカン沸いてうねった。凄く文学性も高い。これが観れただけで何の文句もない。
⑤「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」ならぬ「さようなら、全てのシアター(ホテル)・ミラクル」。『シン・シアター(ホテル)・ミラクル』のようなラスト。環幸乃さん&坂本七秋氏のキャスティングこそ最期にふさわしい。

帰りには隣の「レイスケバブ」でケバブラップ中辛(500円)を噛じれば満腹。なかなかこれからは行くこともなくなる。

ネタバレBOX

前説の今井未定さんがエロエロ。

①高校時代の憧れの女の子(森下凜央さん)と飲みに行った冴えない童貞男(河西凜氏)、目覚めるとそこはラブホで二人共半裸。酔っ払って何の記憶もないまま、興奮してパニクる。
森下凜央さんの佇まいや受け答えの感じが巧い。後半、無理筋の展開が残念。

②女漫才師(今井未定さん)がネタを書く為にラブホに籠もり、後輩のピン芸人(秋山拓海氏)に自分が怠けないよう監視させる。
無理筋の設定を成立させる為の論法が強引、イマイチのれない。

③金が媒介する男女の純愛。リアルを追求してボソボソ喋る二人。殆ど聞こえない、何とも言えない空間。地獄の底の御通夜みたいなムード。この退屈さの正体はナルシシズム。作家と役者が自分に酔っている。他人のナルシシズムを本能的に人間は嫌う。『出会って4秒で合体』ネタも空振り。
だが、この沈滞が次の作品の大爆発に繋がるという面白さ。

④援交に手を出して十年のベテランエロ紳士(金田一央紀氏)が一番のお気に入りのJK(小練ネコさん)に贈る人生応援歌。
言語への過剰な拘り、myルールに対する信仰にも似た敬虔な姿勢。快楽主義者だからこその理路整然と生きる男の哲学の揺れ。田山花袋の『蒲団』さえ思わせるラスト。昔、風俗に通いまくっていた知り合いのことを思い出した。自己分析的で理知的な駄目人間の詩。金田一央紀氏の乱雑に脱ぎ捨てられたセーラー服や靴下に対する愛情のこもった畳み方が美しい。フェティシズムへの畏敬。それに対する小練ネコさんの在り方が美しい。

⑤地球最期の日をラブホで過ごす見知らぬ二人。
ブルーハーツの『月の爆撃機』が主旋律。もっとレイ・ブラッドベリの『刺青の男』みたいにやらなきゃ駄目なネタ。設定がブレブレ。とは言え、「僕達を縛り付けて一人ぼっちにさせようとした、この世の全てに感謝します。2023年小劇場代表シアター・ミラクル!」みたいな気持ちにさせてくれた。
どうも有難うございました。
ホテル・ミラクルThe Final

ホテル・ミラクルThe Final

feblaboプロデュース

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★

【REST ver.】
どすけべ前説 「おし問答」 陽向さと子さん 渡邉晃氏
①シェヘラザード 環幸乃さん 今井未定さん 坂本七秋氏
②よるをこめて 陽向さと子さん 新井裕士氏 サラリーマン村松氏
〈5分休憩〉
③きゅうじっぷんさんまんえん 佐神寿歩(ひさほ)さん 木山りおさん
④クリーブランド 寺園七海さん 渡邉晃氏
⑤獣、あるいは、近付くのが早過ぎる 冨岡英香さん 後関貴大氏

シチュエーションがラブホ縛りの短編集。
③佐神寿歩さんと木山りおさんに尽きる。これだけで観る価値は充分ある。若き松坂慶子を思わせる佐神寿歩さんと自己肯定感ゼロのコミュ障・木山りおさんの対決は名勝負。どちらも光り輝きつつ、相手の存在を更に魅力的に高める理想的なプロレス。

寺園七海さんと岡村梨加さんの写真集2000円、ルームキーホルダー1200円、絶賛発売中。

寺園七海さんのTwitterからチケットを予約すると直筆のお手紙が頂けるのでお薦め。

ネタバレBOX

設定がラブホだからといって無理に下ネタを入れている感じ、イマイチ笑えないのが残念。逆に下ネタをタブーにする方がセンス。

摺りガラス状のバスルームから透けて見えるシルエット。

①代議士一族のお嬢様(環幸乃さん)が心を許せる女友達(今井未定さん)に昨夜の出来事を語る。
環幸乃さんのベッドシーンは衝撃的。見所は今井未定さんの様々な表情。座っているだけで存在感が凄い。

②インポの主任(サラリーマン村松氏)と女係長(陽向さと子さん)はラブホに部下(新井裕士氏)を呼びつけて相談する。
かなり下ネタで攻めた内容。新井裕士氏はラバーガールの大水洋介っぽいキャラ。陽向さと子さんは振り切っている。胸のしこりのくだりがよく聴き取れなかった。

③レズビアンの派遣型風俗嬢と客の遣り取り。
これは面白い。

④寺園七海さんが昔から好きだった男(渡邉晃氏)とラブホで過ごす最後の思い出。
映画『メジャーリーグ』の舞台でもあるクリーブランド。吉本ばななっぽい。

⑤巨大怪獣が東京を踏み荒らす夜、ずっと好きだった先輩(冨岡英香さん)を何とかラブホに連れ込んだ男(後関貴大氏)。
これは全く楽しめなかった。

男女の好きだとか好きじゃないとかだけでなく、ラブホで天下国家を論じるような狂った作家はいないのか?
風景

風景

劇団普通

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2023/06/02 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

なんだろ?そうでしょうよ。いいでしょうよ。

悔しくなる程の才能。演劇好きは早目にチェックしておいた方がいい。(まあ皆観てるだろう)。小説を書いても映画を撮っても賞は貰える筈。系譜としては小津安二郎なんだろうけれど、描き方が韓国映画っぽい。『ペパーミント・キャンディー』をホン・サンスが撮ったような。抑制の美学。暗転ごとに時間がかなり飛ぶ。これをやり切る力。

主演の安川まりさんが圧倒的。こんな女優がいたんだ!と驚いたが、結構『た組。』とかで観ていたようだ。彼女と母親(坂倉奈津子さん)、父親(用松〈もちまつ〉亮氏)のシーンが絶品。この遣り取りは永遠に観ていられる。
一歩間違えれば只々退屈の境界線上、断崖絶壁のギリギリの攻防を乗り切るのは役者陣の才覚のみ。
モルタル塗りされた灰色の壁が背後に無言で突っ立っている。

ある家族達が老いていく。子供を作るように親は諭す。

ネタバレBOX

祖父 亡くなる

長男 引きこもり
長女 離婚して不在
長女の元旦那 浅井浩介氏
次男 用松亮氏
次男の妻 坂倉奈津子さん
次女 不在

長女の息子 岡部ひろき氏
次男の息子 岩瀬亮氏
次男の息子の妻 鄭亜美(チョン・アミ)さん
次男の娘 安川まりさん
次女の娘・姉 鄭亜美(チョン・アミ)さん 二役
その旦那 早坂柊人氏
次女の娘・妹 青柳美希さん
その旦那 泉拓磨氏

多分こうじゃないか?との推測なので間違っているかも。

岡部ひろき氏の父親に対する丁寧な相槌が良かった。
鄭亜美さんは二役を区別させる為、次女の娘の時には胸元を開いた大胆な衣装のアイディア。

冒頭、兄のハンカチを意味有りげに見つめている安川まりさん。義兄への恋心なのか?と思ったがそういうわけでもなく、しかも実の兄。何だか気になる描写。

子供の頃、祖父に車に乗せられ祖父の兄の家へ一人連れて行かれたことを思い出す安川まりさん。養女にしたかったのか?とも思った。

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