正義の人びと
オフィス再生
六本木ストライプスペース(東京都)
2023/07/13 (木) ~ 2023/07/17 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
1905年2月17日、セルゲイ・アレクサンドロヴィチ、モスクワ総督暗殺事件。エス=エル(社会革命党)のテロリスト、イヴァン・カリャーエフが馬車に向かって爆弾を投擲。セルゲイ大公は当時のロシア皇帝ニコライ2世の叔父にあたる。
1917年のロシア革命に至る布石となったテロ事件。
日露戦争の最中であり、エス=エルへの資金援助は明石元二郎大佐による諜報活動の一つでもあった。
1881年父親であるロシア皇帝アレクサンドル2世も馬車による移動中、爆弾テロによって暗殺されている。
ボリス・サヴィンコフの回想録『或るテロリストの回想』を下敷きにしたほぼ実話。
舞台は帝政ロシアの反体制地下組織のアジト。セルゲイ大公暗殺計画の実行前夜。
詩人でもある優しいカリャーエフ(岩澤繭さん)
複雑な内面を吐露する恋人ドーラ(あべあゆみさん)
組織のリーダーであるアネンコフ〈モデルはボリス・サヴィンコフ〉(磯崎いなほさん)
投獄されて酷い拷問を受け、復讐に燃えているステパン(加藤翠さん)
パーマ的に髪を盛り上げているヴォワノフ(嶋木美羽さん)
後方にタイプライターを叩くカミュ的存在の長堀博士氏。メタフィクション的に現在行なわれている芝居の戯曲を書いている。
アネンコフとステパンは編み込んだ髪の毛を妙に一房だけ立たせている。
実行犯に選ばれたカリャーエフは決行の日、爆弾を投げられず帰って来る。理由は馬車に大公だけでなく甥や姪の子供達もいたから。自分の中の「正義」との葛藤。
議論議論議論、思考の闇にひたすら畝り嵌まり込む。とにかく考えざるを得ない。「革命」とは一体何なのか?人を殺す者の自己正当化に至る免罪符。他人を糾弾する者の自己に対する不安。死ぬに至る意味と価値。他人を納得させる「言葉」を見付けられなければ、自分達の軽蔑する「奴等」と同じになってしまう。
ステージ中央の折り返し階段を効果的に使用。スリムミラーを複数配置する工夫。(見えない表情が映る)。
加藤翠さんのシャープな表情が良かった。
館内に響き渡る、合図である独特なリズムのノック。
開演前、シオンのメジャーデビューシングル『俺の声』がフルで掛かる。滅茶苦茶昂揚した。
是非観に行って頂きたい。
或る女
演劇企画集団THE・ガジラ
シアター風姿花伝(東京都)
2023/06/30 (金) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
チラシになっている海を沖に向かって歩く女の後ろ姿の写真(?)が美しい。空は朝焼けにも夕焼けにも見える。宣伝美術の岩野未知さんの作品だろうか。強い生命力に満ち溢れているようにももう何処にも辿り着きたくないようにも受け取れる。宗教画みたい。
『太陽があなたを見放さないうちは、私もあなたを見放し にはしない、水があなたのために輝くのを拒み、そうして木の葉があなたのためにひらめくのを拒まない間は、私の言葉もあなたのために輝きひらめくことを拒みはしない。』
冒頭に飾られるホイットマンの詩。
キリスト教を熱烈に信仰した末、棄教に至った有島武郎の実体験を元にした原作。日本のキリスト教思想の第一人者である内村鑑三。有島武郎のことを自らの後継者だと期待してさえもいた。
今作のテーマは『神の道』と『人の道』。登場人物の誰もが心の中の神と常に向き合っている。神に己を見せつけているかの如く。
重い鉄の扉の床ハッチ。この下は地獄に続いているのか。扉を閉めるごとに轟音が鳴り響く。ヒロイン早月葉子は吐瀉物を吐き、煙草を捨て、酒を捨て、自らもそこに堕ちてゆく。
主演の守屋百子さんは中江有里の奥山佳恵風味の美人。多彩な表情が目まぐるしく変わり、観客の視線を捉えて離さない。少し細過ぎるか。
MVPは勿論千葉哲也氏、それはもう仕方がない。三國連太郎緒形拳ラインのカルマを背負った邪悪な雄。こういう男の存在が日本人の原風景にどっかと在るのだろう。常にこんな男に女は抱かれていく。それが日本人の歴史。
女中役の大嶽典子さんも存在のバランスが絶妙に良かった。
極厚3時間、大正日本文学とがっちり組み合ってみせた。その心意気にRespect。こういう作品と真剣に向き合ったことは必ず役者達の財産になる。勿論観客にとっても。
是非観に行って頂きたい。
チョビ
ここ風
シアター711(東京都)
2023/07/05 (水) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
超満員の上、通路や先頭のスペースにまで増席。会場を間違えているとしか思えない。サンモールスタジオがいいのでは。そこを本拠地にしている東京AZARASHI団と今作のテイストは重なる。
主演は天野弘愛さん、通称チョビ。
児童養護施設出身者の同窓会。会場の浅草近辺の民家はやたら駅から遠く、蛙の鳴き声がうるさく感じる程田舎。久し振りに顔を合わせる面々。天野さんは例年の隅田川のとうろう流しに参加するも勢い余って川に落下。はぎこさんの竹竿に救われる。服はビショビショで仕方なくジャージ姿。
虐待で右胸の二つのホクロの下に煙草を押し当てられた火傷の跡。それをずっと隠していた天野さんだったが火傷の跡がチョビ髭に見えると、施設の悪ガキのノブ(吉岡大輔氏)にチョビという仇名をつけられる。自分の心の傷を鼻で笑って生きていく生物の強さ。国からの措置費と寄付で運営されている養護施設だったが、資金難で先行き不安。8歳のチョビは自ら金持ちの養子に入ることで金を引っ張って来ようと企んだ。
当時13歳だった里沙(藤木蜜さん)は滅茶苦茶頭が良く将来は弁護士になると決めていた。
当時7歳だった亜矢(はぎこさん)はノブを密かに恋してた。
当時10歳だった弘信(香月健志氏)は弱いくせに将棋に命を懸けていた。
同い年のノブは喧嘩相手のチョビのことを・・・。
冒頭からちょこちょことした伏線、一体何の話なのか不審に思わせる。そこを綺麗に回収してみせるラスト、成程!
ジーザス・クライスト=スーパースター
劇団四季
自由劇場(東京都)
2023/06/22 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
[ジャポネスク・バージョン]
1970年、コンセプト・アルバム『ジーザス・クライスト・スーパースター 』が発売される。若きアンドリュー・ロイド・ウェバーが作曲、ティム・ライスが作詞したロック・オペラ。ジーザス役を歌うのはイアン・ギラン(当時ディープ・パープル)。1971年にブロードウェイで舞台化。1973年に映画化。ノーマン・ジュイソン監督は舞台版は観ずに、アルバムから触発されたイメージだけでイスラエル・ロケを敢行して撮影。アンドリュー・ロイド・ウェバーの意図とは違った作品になり、彼は酷く嫌った。実は自分は映画しか観ていないので、舞台版の方に逆に違和感。
劇団四季の日本版は1973年初演。白塗りに歌舞伎の隈取り、白い大八車、楽曲の和楽器アレンジ、竹の矢来垣。のちにジャポネスク・バージョンと名付けられた。
1976年、よりオリジナルに近いエルサレム・バージョンも上演。
イスカリオテのユダ役、佐久間仁氏は堀内孝雄と谷村新司を思わせる声色。全体的に今作の曲調はどこかアリスを思わせる。
ジーザス・クライスト役、神永東吾氏は突然「キャー」と奇声を上げる様がどおくまんのキャラっぽい。
ヘロデ王役、大森瑞樹氏の格好はアメコミ・キャラのカブキマンか、採用されなかったデヴィッド・ボウイのコスチュームか。ジャンプのギャグ漫画に出て来そうなルックスが大インパクト。
結局のところ、何故ユダはジーザスを裏切ったのか?がテーマ。同じテーマである太宰治の『駈込み訴え』も必読。そして『神の計画』というものも関係してくる。聖書を全て事実だと受け止めて読むと、謎だらけ。未だにずっと考え続けている。
おわたり
タカハ劇団
新宿シアタートップス(東京都)
2023/07/01 (土) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
滅茶苦茶蒸し暑くて地獄。シアタートップスは空調がしょぼい。
西尾友樹氏の名前で何も情報を入れずにチケットを買ったのだが・・・。
鵺的の『バロック』にかなり影響を受けている。
1995年、静岡県の伊豆半島にある海沿いの古い屋敷が舞台。(方言は富山弁っぽかった)。
主演の早織さんは池上季実子、香坂みゆき系の美人。
田中亨氏が若き神木隆之介っぽくてカッコ良かった。
かんのひとみさんは流石。出しておけば何とかしてくれる。
アダムとイヴ、私の犯罪学
演劇実験室◎万有引力
ザ・スズナリ(東京都)
2023/06/30 (金) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
何か軽く鬱気味で観ていたのだが、観劇の途中で急に気が晴れた。理由をあれこれと考えてみたが、多分時間の経過の作用だろう。時間がこの世の全てを解決する。時間というものの持つ面白さ。
凄く楽しかった。終演後の物販に長蛇の列。詰め掛けるマニア。客層は若い女性が多い。何周も回って寺山アングラは今オシャレなのか。1966年上演の天井桟敷設立前の戯曲。
林檎が5つ置かれてある。『トルコ風呂エデン』の看板。ここはトルコ風呂(=現ソープランド)の上のスペースを間借りした一家が住む部屋。父・髙田恵篤氏、母・森ようこさん、長男・髙橋優太氏、次男・三俣遥河氏。背中に愛すものの絵が貼り付けられている。それぞれ、宝くじ、林檎の木、汽車、切手。
DIY感溢れる木材剝き出しの建方美術。中央にほっぽらかされた金槌を、暗転時踏まないか心配になる。梯子も手作り。大量に制作された林檎の小物が良い出来。
内山日奈加さんがエロエロ。フルート。シーツ越しの舞い。
森ようこさんは女・麿赤兒。コミカルでエロい。
主人公は髙橋優太氏演ずる寺山修司。家出を試みるも一家全員付いてきてしまい、ただの引っ越しに。30過ぎても家を出て他者と出逢うことに憧れている。彼は汽車の汽笛を「ポーッ!」と叫び続ける。その線路は体内の血管だ。血液が汽車となって全身を隈なく駆け巡る。それが心臓を通過するごとに覚醒剤のような快感がどっと押し寄せる。亡国の徒、亡人。
下の階のトルコ嬢見習い(山田桜子さん)は『ロビンソン・クルーソー漂流記』を愛読する。いつか無人島で一人生活することを夢想して。そこにやって来る自称ロビンソン・クルーソー(小林桂太氏)、風呂を借りる。
ラストの曲はリフがもろ『移民の歌』。カッコイイ。
この劇団はまだまだ先に行ける。
ブラウン管より愛をこめて-宇宙人と異邦人-(7/29、30 愛知公演)
劇団チョコレートケーキ
シアタートラム(東京都)
2023/06/29 (木) ~ 2023/07/16 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
アンジーの『天井裏から愛を込めて』を彷彿とさせるタイトル。アンジーはメルダックでデビューしたのだが、先に同事務所でデビューし大ブレイクしていたブルーハーツを踏襲させられた。本来は「頑張れロック」路線ではなかっただけに非常に不運。実際は『たま』系の独自世界のアーティストだった筈。
小学生の頃、再放送の『帰ってきたウルトラマン』で観た『怪獣使いと少年』。滅茶苦茶衝撃を受けた。灰色の工業地帯で繰り広げられる全く救いのない物語。プロレタリア文学のような目線。『帰ってきたウルトラマン』はスモッグのどんよりとしたイメージで、ディストピアの日本の姿を突き付ける(ただそれ以後観ていないので記憶による美化はあると思う)。後年、切通理作氏のデビュー作『怪獣使いと少年』を読んだ時、凄く腑に落ちた。
巨大変身ヒーローモノが1990年に作られている世界線。(実際は『ウルトラマン80』放送終了の1981年から1996年の『ウルトラマンティガ』までは空白)。
テーマは『差別』。誰にも正解の見えない永遠の難問。TV番組『ワンダーマン』にて、伝説の『怪獣使いと少年』に挑もうという若き脚本家の心意気。子供向けTVドラマで一体何処まで本質を描けるのだろうか?
主人公の脚本家は伊藤白馬氏。特撮モノに初挑戦。
大学時代の先輩で『ワンダーマン』のメイン監督は岡本篤氏。木下惠介っぽい清潔感。
特撮監督は青木柳葉魚氏。
助監督は清水緑さん。
主演のワンダーマン役は浅井伸治氏。ペナルティのワッキーを思わせる役作り。
大物ゲスト枠は橋本マナミさん。気負い過ぎて少し固かった。
宇宙人(コクト星人?)役の足立英(すぐる)氏の振り幅が素晴らしい。
MVPは東特プロのプロデューサーの林竜三氏とTV局から出向しているプロデューサーの緒方晋(すすむ)氏。ここのリアリティがドラマの厚み。社会で生活している人間の重みがあってこそ、ただの絵空事のファンタジーにはしない。
是非、観に行って頂きたい。
ヴィクトリア
シス・カンパニー
スパイラルホール(東京都)
2023/06/24 (土) ~ 2023/06/30 (金)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
今更褒めるも何もないのだが、大竹しのぶさんは凄い女優だ。もう一度観たい演目。北島マヤ(『ガラスの仮面』)だよなあ。『ガラスの仮面』の最終回は大竹しのぶさんの独り芝居でどうだろう?何か皆を納得させるものになりそう。ヴィヴィアン・リーのような、精神を患った美しい女の独白は古今東西の女優魂を刺激し興奮させる永遠の題材なのだろう。
イングマール・ベルイマンの幻の映画企画『ある魂の物語』。脚本は1972年に書かれた。女優のクローズ・アップのみ全編ワンカットを狙った実験的な意欲作。どの映画会社にも受け入れられず、主演予定だった女優の降板で企画は流れた。1990年スウェーデンでラジオドラマとして日の目を見る。
フランスで2011年、ソフィー・マルソーの一人芝居として舞台化。その舞台をそのまま2015年TVドラマ化(『A Spiritual Matter』)。
成瀬巳喜男も高峰秀子に背景なしで撮影する映画の構想を語っていた。役者以外何も存在せず、逃げ道のない世界。
ステージングは小野寺修二氏。空間設計なのか、シーンとシーンの繋ぎのアイディアなのか。照明の日下靖順(やすゆき)氏と共に幻想的な世界を味あわせてくれる。揺れるカーテン、漏れる光、何処からか聴こえる音、一人芝居を名アシスト。ヴィクトリアの脳の中、心の中、記憶の中を『ミクロの決死圏』のように彷徨い歩く観客達。巨大な薄手の白いカーテン、柔らかなたゆたいに目眩を覚える。
ベルイマンの女性論のようにも感じた。普遍的な脚本。必見。
ある馬の物語
世田谷パブリックシアター
世田谷パブリックシアター(東京都)
2023/06/21 (水) ~ 2023/07/09 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
第一幕75分休憩20分第二幕50分。
最前列はF列。
ステージを大きく使っていて俳優は通路にもどんどん現れる。建築現場の作業員達がおもむろにトルストイの古典を始めるのは『ジーザス・クライスト・スーパースター』、その後の展開は馬版『キャッツ』を思わせる。
サックス4人組が奥でジャズり続ける。ソプラノ小森慶子さん、アルト、ハラナツコさん、テナー村上大輔氏、バリトン上原弘子さん。
小宮孝泰氏がこんなに歌が上手いとは。
小西遼生氏はリアル「紫のバラの人」、若き川崎麻世の風格。黒がよく似合う。
元宝塚雪組トップスター、音月桂さんは流石のヒロイン。細かいフランス語の演技で会場を笑わせる。
『さらば箱舟』で主演だった小林風花さんはターン連発、ぱるるっぽかった。
長く伸ばした髪を盛り上げて馬のたてがみを表現。顔のペイントで模様を表現。ハーネスとワイヤーを素早く装着してのフライング・ワイヤー・アクションを多用。あっと驚く程のスピード。
主演の成河(ソンハ)氏の凄まじさ。高額チケットを購入する価値がある役者。観れば観る程に評価が上がる。プロレスラーのような運動量。野生動物か。余りに凄すぎて言葉が出て来ない。彼の代役をやれと言われたら、殆どの俳優は震え上がると思う。化け物。
老いた馬から若い馬へと時は遡る。囲んだ演者達が髪型を整え、服を脱がすと成河氏は精悍な若馬に。纏っている空気がガラリと変わる。
ある老いぼれた馬、ホルストメール(成河氏)が子供時代に仲が良かった牝馬(音月桂さん)と再会して、半生を語り出す。血統書付きの名馬として生まれたが、まだら模様(ブチ)だった為に嫌われた。ある時、公爵(別所哲也氏)が馬を買いに来て、一目で彼の素質を見抜く。
岡田真澄ばりの貴族、別所哲也氏の登場からどーんと面白くなる。それまではちょっと停滞気味。そこからラストまでは一直線。第一部のラストなんて鮮烈。
成河氏の馬を見逃してはならない。
瀬戸内の小さな蟲使い
桃尻犬
OFF OFFシアター(東京都)
2023/06/21 (水) ~ 2023/06/28 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
開演前SEはホールの『ノーバディーズ・ドーター』(多分)、コートニー・ラヴのソロ、『アメリカズ・スウィートハート』。1995年、ホールの新宿リキッドルーム公演を観に行った記憶が甦った。ぎゅうぎゅう詰め酸欠の会場、ドラッグをヤりまくっていた外人女が何人もぶっ倒れていった。暴れる外人男をコートニーがステージに上げてヒールで蹴りを入れていた。
中崎タツヤ作品に通ずる笑いのセンス。これは面白い。「キング・オブ・コント」クラスの出来。笑いにうるさい方は是非一度チェックしておくべき。関西弁のテンポのよさ。
主演の鈴鹿通儀(みちよし)氏、かなりの厚底メガネは役作りか。ゆうめいの『ハートランド』でも強烈なキャラだった。
MVPはその彼女、片桐美穂さん。ドランクドラゴンの塚地を彷彿とさせるデフォルメの効いた顔芸。表情だけで会場がどっかんどっかん沸く。
橋爪未萠里 (いゆり)さんは尼神インターの渚っぽい痛快な喋り。iakuの『あつい胸さわぎ』も見事だった。
中尾ちひろさんは実弾生活アナザーの『クレープ・オリベ』の妹役だった。内面が全く読めない。
何かがズレている伊与勢我無(いよせがむ)氏と主催・野田慈伸(しげのぶ)氏の掛け合いもスウィング。
そして皆が待ちに待ったてっぺい右利き氏が満を持して登場。期待で客席の空気がどよめいた。
キャラ設定、配役、演出が完璧。
是非観に行って頂きたい。
舞台「下町のショーガール」
URAZARU
萬劇場(東京都)
2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
〈空チーム〉
長谷川伸の股旅モノのようにこの手の昭和スター誕生モノも古典として残っていくと思う。松竹の木下惠介、山田洋次ラインの懐かしき喜劇映画の残像。併映向きの見事な小品。戦後の貧乏長屋からSKD(松竹歌劇団)に憧れる鳩の街(赤線地帯=売春区域)の少女達。若き倍賞千恵子の姿がうっすら見えた。
かつて木の実ナナの運転手を務めた手島昭一氏がプロデューサー。木の実ナナのエッセイから創作しているが、かなり脚本家のオリジナルらしい。
木の実ナナ、本名・池田鞠子。作中ではマリーなんて呼ばれている。演ずるは空みれいさん。観月ありさに百田夏菜子を掛け合わせたような圧倒的なスター性。素材はパーフェクト、あとは周囲の才覚と運。小劇場からスーパースターを送り出して欲しい。
心を打たれたのは親友役の大淵心実(おおぶちここみ)さん、13歳!流石の劇団ひまわり、作品の血肉と化す。助演女優賞モノ。
父親役の小磯勝弥氏は長塚圭史っぽい。
母親役の富山智帆さんの痛い台詞。
遊び人の叔父役は小笠原游大(ゆうだい)氏。阿部サダヲっぽい憎めないキャラでこの作品世界の手触りを肉付ける。彼の存在感のリアルさが今作の一つのくさび。
遊女達の艶やかな美しさ。でく田ともみさん、大和田紗希さん、橘芳奈(かんな)さん。
学習院ひろせ氏は独り飛龍革命を披露。ユリオカ超特Qか?
高橋ひろし氏のエスパニョール・キャラも重要。
いじめっ子、相星功生(あいぼしこうき)氏のエピソードも胸を打つ。
退屈させないようにシーン繋ぎを工夫したリズミカルな演出が心地良い。複雑に交差した時間軸も悪くない。
ダンス・シーンがかなりハッピーなので、これぞ木の実ナナっぽい。全ての痛みと苦しみを抱えて笑顔で踊る。
テーマはエンターテインメントの孤独と見えない絆。
現実逃避の夢で現実から逃げられた者と逃げられなかった者。
大屋海さんヴァージョンも気になる。
テラヤマ音楽劇★くるみ割り人形
シアターRAKU
駅前劇場(東京都)
2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
いや、結構面白かった。平均年齢69歳の劇団というふざけた座組。それを観に来る客も年齢層高め。オーバー80割なんてチケットまである。ゴッホゴホ咳込み続ける老人に序盤から熟睡の老人達。気の滅入る客席にうんざりしながらも脚本はよく出来ている。
1816年に発表されたE.T.A.ホフマンの『くるみ割り人形とねずみの王様』を大デュマが『はしばみ割り物語』に翻案。それをマリウス・プティパがバレエ作品として台本化し、1892年チャイコフスキーが曲をつけた。
1978年、実写人形アニメーション映画『くるみ割り人形』をサンリオが製作。寺山修司が書いた脚本を子供向けに直したものが使われた。今作は寺山修司のオリジナルを流山児祥氏が脚色。
元大分放送の女子アナ、原きよさんが主演。美少女のまま老いたような楳図かずお調の可愛らしさ。岡部まりと黒木瞳を足したような美貌。とにかく自然に物語を流れて行く。
高橋牧氏(『時々自動』)の作曲した名曲揃い。
戦争や虐殺死体の古いニュース・フィルムが投影される。坂本龍一の遺した言葉。
今作のテーマは現実に起きている戦争を演劇で止める方法の模索。
先日のキャンドル・ジュン氏の会見で「(キャンドルを灯したからといって、世界の戦争が終わるとは思っていませんが)いつか世界から核兵器をなくして、戦争という争いごとがなくなる日を作る。自分が戦争を終わらせるんだと。」との発言があった。
誇大妄想狂の台詞のようだが、このぐらいの大風呂敷を広げられないと“アート”なんか意味がないのだろう。
「目をつぶると見えて、目を開けると消えてしまうものはなあに?」
白眉濛濛
海ねこ症候群
王子小劇場(東京都)
2023/06/21 (水) ~ 2023/06/25 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
絵を描くことが大好きな主人公・坪田実澪(みれい) さん。売れることや評価されることは余り気にしていない。ある日、街なかで画商の河合陽花(はるか)さんに声を掛けられる。彼女の主催する絵画のオークションを見学することに。そこでは物凄い額で絵が取引されていた。発奮した主人公、画商の所有するシェアハウスに住み込んで絵の制作に打ち込むことに。
画商の河合陽花さんを『坊っちゃん嬢ちゃん』のマタハルさんだと誤解していた。どちらもイケメン女子。
主人公の坪田実澪さんはマリアのイーちゃんが物真似する小雪風味の愛嬌でチャーミング。
オークションのシーンがダンスでテンポよく面白い。シェアハウスの世話係・新里乃愛さんがまだ二十歳!「忙しい忙しい」とそこら中をはたきながら、雀を何羽も乗せる。かなり巧い役者だった。オレンジの家政婦・神尾りひとさんがキュート。劇団の主催であり、司会者役の作井茉紘さんも目立つ。
熊本や石川から大きな花束を持って駆け付けるファン達にRespect。
独りの国のアリス〜むかし、むかし、私はアリスだった……〜
ことのはbox
シアター風姿花伝(東京都)
2023/06/15 (木) ~ 2023/06/19 (月)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
【Team葉】
篠田美沙子さん目当てでこちらにしたのだが、ちょっと違った。主演の花房里枝さんが美人過ぎて、元乃木坂か何かだと思って観ていた。(実際は声優ユニット、elfin'〈エルフィン〉のメンバー)。物語は孤独な35歳の中年女性が「何故こうなったのか?」を過去と未来を行き来しながら妄想するもの。今作は美人が性格の悪さで孤立する話になってしまった。とは言え彼女の魅力で舞台は華やかに。老婆まで熱演してRespect。やたらワイン風ドリンクをガブ飲み。
天竺鼠の瀬下を思わせる堀田怜央氏とカラテカ入江を思わせる親泊義朗(おやどまりよしあき)氏のコンビが大活躍。
救いの手となる紳士のバーテン、小久保隼(じゅん)氏は朝倉未来の上地雄輔風味。
上之薗(かみのその)理奈さんもモテモテ女子を好演。
滅茶苦茶、鬱な『ブリジット・ジョーンズの日記』。『不思議の国のアリス』とだぶらせない方が良かった。
舞踊詩劇「田園に死す」・幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」
吉野翼企画
パフォーミングギャラリー&カフェ『絵空箱』(東京都)
2023/06/15 (木) ~ 2023/06/21 (水)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
滅茶苦茶面白かった。前から一度はこの劇団を観ようと思っていた。勝手な先入観として閉鎖的な内輪受けのつまらなそうなイメージ。だがそれは全くの偏見、もっと早くに観るべきだった。疾走感、リズム感、サービス精神が段違い。思い入れたっぷりにたらたら演るのは寺山修司っぽくない。訳も分からぬまま、捲し立てるひとときの騒乱。一瞬の積み重ねだけがこの世の全て。やはり演出(音楽性)のセンスなんだろう。寺山修司の書いた詩をノイズで掻き鳴らせ。
構成・脚色・演出の吉野翼(たすく)氏は会場の絵空箱の店主でもある。好き放題、会場も使って楽しませてくれる。正しい寺山修司の面白さの伝え方。筋肉少女帯、石井輝男、澁澤龍彦・・・。サブカル連想ゲームの脇にはいつも寺山修司が突っ立っていた。(『田園に死す』はジョージ秋山の『告白』が元ネタなのでは?)
ラストのまさにクライマックスで地震、凄いタイミング。虚構と現実の壁が崩壊するのかと思った。
全員(ほぼ)すっぴんで現実サイドから虚構サイドを眺めるラストの演出が効果的。女優のすっぴんはどんな化粧よりも美しい。
ギターのなすひろし氏とキーボードの秋桜子(あさこ)さんのユニット『みづうみ』が生演奏。LIVEに行きたい位良かった。
開場時から、からくり人形のように寺山スローモーションを奏でる5人の女優。芹澤あいさん、井口香さん、内海詩野さん、福田晴香さん、村田詩織さん。
①幻夢活劇「チャイナ・ドール 上海異人娼館」
原作はポーリーヌ・レアージュ(ドミニク・オーリーではないらしい)の『ロワッシイへの帰還』。1981年、寺山修司の監督した映画『上海異人娼館 チャイナ・ドール』を岸田理生がのぐち和美さんの為に1990年に戯曲化したものだそうだ。
ヒロインの小寺絢(こてらあや)さんが娼館に自ら入る。自分の純愛を無数の見知らぬ男に抱かれることで証明しようと。そこで彼女が目撃し体験したものとは!?
②舞踊詩劇「田園に死す」
寺山修司が自身の少年時代を舞台化。母親の呪縛に嫌気が差し、隣家の若妻と東京へ駆け落ちする約束。だがそんなものは嘘っぱちでしかない。何一つ上手く行かない現実、惨めな自身を背負ってよろよろと歩くのみ。
寺門祐介氏(現在の寺山修司)
多賀名啓太氏(少年時代の寺山修司)
キンカナさん(富田靖子の「さびしんぼう」風味の空気女)
中島猛氏(ブロッケンJr風味の逆関節男)
篠原志奈さん(母親)
制作&場内誘導の神崎ゆいさんも出演シーンあり!
こういう作劇を全面的に支持。面白かった。
M.O.S.ヤングタウン
かるがも団地
SPACE EDGE(東京都)
2023/06/15 (木) ~ 2023/06/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
M.O.S.とは南大沢の略なのだろう。地元の馬鹿中学に入った主人公。馴染めなかった親友は不登校に。財力のある家に生まれた生徒会長が好き放題で学校を牛耳る。それに楯突いた兄は生徒会長に立候補する。そんな日々の中、学校では夜の放火騒ぎが起きていく。
主演の瀧口さくらさんが上戸彩に見えた。
その親友、樋口双葉さんは有村架純に見えた。
トンパチの主人公の兄、奥山樹生(いつき)氏は菊野克紀を思わせる。
主人公の母親、ラーメン屋店主、無線部などのキツいキャラばかり兼任するのは長井健一氏。流石に上手い。
中嶋千歩さんはバドミントン部の女なのだが妙に印象に残る。キャラの書き込みが多いだけに勿体無くもある。
ヒールの生徒会長・浦田かもめさんは奥菜恵に見えた。
大学生の北川雅さんは蒼井優に見えた。
大学生や校長の小日向春平氏は宮台真司っぽい。
Oasisの『Half The World Away』が似合うと思う。
R.P.G. ロール・プレーイング・ゲーム
ワンツーワークス
赤坂RED/THEATER(東京都)
2023/06/09 (金) ~ 2023/06/18 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
ワンツーワークスを観るのは今回で9本目。印象に残るのは『グロリア』、『鯨を捕る』、『私は世界』。
宮部みゆきは初期は読んでいたが、何かぬるくてハマれなかった。大林宣彦が映画化したのを観た『理由』だけが好印象。
今回も掴みは面白い。二つの家庭で二重生活を送る男(長田典之氏)。妻(みょんふぁさん)と娘(東史子さん)と息子(安森尚氏)、もう一つの妻(小林桃子さん)と娘(川畑光瑠さん)。彼がある日惨殺される。警察は娘(川畑光瑠さん)を取調室の隣の小部屋に呼び、マジックミラー越しにもう一つの家族と面通しさせる。
自分はみょんふぁさんのファンであることに気が付いた。
綾城愛里奈(えりな)さんが不快な馬鹿女を好演。
ホテル・ミラクルThe Final
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
【STAY Ver.】
どすけべ前説 「ホンバンの前に」 寺園七海さん 今井未定さん
①「THE WORLD IS YONCHAN's」 河西凜氏 森下凜央(りお)さん
②「噛痕と飛べ」 今井未定さん 秋山拓海氏 寺園七海さん
③「愛(がない)と平和 -Bagism by Love&Peace.-」 岡村梨加さん 藤本康平氏
〈5分休憩〉
④「スーパーアニマル」 金田一央紀氏 小練(こねり)ネコさん
⑤「最後の奇蹟 最終形」 環幸乃さん 坂本七秋氏
①チェリ男こと河西凜氏は全世界のもてない童貞男の象徴とも言うべきピープルズ・チャンピオン。この役をやる為にこの世に生を受けたのでは。ヨンちゃんこと森下凜央さんは凄かった。こりゃ人気ある訳だ。童貞男のパンパンに膨れ上がったエロ妄想が具現化したようなルックス。今作を世界中の(精神的)童貞男に捧ぐ。面白かった。
④最高傑作。金田一央紀氏が全作品の中の間違いなくMVP。この作家は天才だ。現代の“あしながおじさん”の織り成す街角のささやかなメルヘン。都会でささくれだった心を潤してくれるようなひとときの安らぎ。小練ネコさんがまた素晴らしい。客席がドッカンドッカン沸いてうねった。凄く文学性も高い。これが観れただけで何の文句もない。
⑤「さようなら、全てのエヴァンゲリオン」ならぬ「さようなら、全てのシアター(ホテル)・ミラクル」。『シン・シアター(ホテル)・ミラクル』のようなラスト。環幸乃さん&坂本七秋氏のキャスティングこそ最期にふさわしい。
帰りには隣の「レイスケバブ」でケバブラップ中辛(500円)を噛じれば満腹。なかなかこれからは行くこともなくなる。
ホテル・ミラクルThe Final
feblaboプロデュース
新宿シアター・ミラクル(東京都)
2023/06/08 (木) ~ 2023/06/20 (火)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★
【REST ver.】
どすけべ前説 「おし問答」 陽向さと子さん 渡邉晃氏
①シェヘラザード 環幸乃さん 今井未定さん 坂本七秋氏
②よるをこめて 陽向さと子さん 新井裕士氏 サラリーマン村松氏
〈5分休憩〉
③きゅうじっぷんさんまんえん 佐神寿歩(ひさほ)さん 木山りおさん
④クリーブランド 寺園七海さん 渡邉晃氏
⑤獣、あるいは、近付くのが早過ぎる 冨岡英香さん 後関貴大氏
シチュエーションがラブホ縛りの短編集。
③佐神寿歩さんと木山りおさんに尽きる。これだけで観る価値は充分ある。若き松坂慶子を思わせる佐神寿歩さんと自己肯定感ゼロのコミュ障・木山りおさんの対決は名勝負。どちらも光り輝きつつ、相手の存在を更に魅力的に高める理想的なプロレス。
寺園七海さんと岡村梨加さんの写真集2000円、ルームキーホルダー1200円、絶賛発売中。
寺園七海さんのTwitterからチケットを予約すると直筆のお手紙が頂けるのでお薦め。
風景
劇団普通
三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)
2023/06/02 (金) ~ 2023/06/11 (日)公演終了
実演鑑賞
満足度★★★★
なんだろ?そうでしょうよ。いいでしょうよ。
悔しくなる程の才能。演劇好きは早目にチェックしておいた方がいい。(まあ皆観てるだろう)。小説を書いても映画を撮っても賞は貰える筈。系譜としては小津安二郎なんだろうけれど、描き方が韓国映画っぽい。『ペパーミント・キャンディー』をホン・サンスが撮ったような。抑制の美学。暗転ごとに時間がかなり飛ぶ。これをやり切る力。
主演の安川まりさんが圧倒的。こんな女優がいたんだ!と驚いたが、結構『た組。』とかで観ていたようだ。彼女と母親(坂倉奈津子さん)、父親(用松〈もちまつ〉亮氏)のシーンが絶品。この遣り取りは永遠に観ていられる。
一歩間違えれば只々退屈の境界線上、断崖絶壁のギリギリの攻防を乗り切るのは役者陣の才覚のみ。
モルタル塗りされた灰色の壁が背後に無言で突っ立っている。
ある家族達が老いていく。子供を作るように親は諭す。