異能怪談的公演「赤異本」
劇団た組
仙行寺(東京都)
2014/03/10 (月) ~ 2014/03/16 (日)公演終了
期待度♪♪♪♪♪
観覧注意。
正直、おすすめして良いものか迷っているーー漫画家の外薗昌也氏が筆を執った怪談実話集『赤異本』。2012年に発売されるや否や、怪談マニアを中心として各界隈で大いに物議を醸し出した一冊である……。怖いのだ。この本は尋常ではなく怖いのだ。通常、怪談本の愛好家というものは(私も含め)その手の話に慣れきっている。パターン化された筋立てを予測し、類似の話を思い浮かべ、常に頭の中で先回りして話の展開を読み解く。そんな、ある意味で意地の悪い読み手を如何にして裏切り、想定外の恐怖を叩きつけてくれるか、それが書き手の醍醐味となっている。「お約束」と称してはやや聞こえが悪いが、読者と作者には暗黙の了解があると言って差し支えないだろう。ーーだが、この本にかぎっては、その約束が効かないのだーーそれぞれの話からたちのぼる不穏な瘴気。安全圏から怪異を眺めているはずの、自分の背中に近づく気配。怪談本に慣れ親しんだ者ほど「この本はヤバい」と感じるに違いなく、実際、諸々の怪異に遭遇した読者も少なくないらしい。おのおのの話の詳細は控えるが、書き手が直感で判断する「この話は書いてはいけないかもしれない」、そんな禁忌への危機感を外薗氏はあえてブチ破っているのだ。ーー本ですら、そうなのである。ならば、生身の人間が間近で接している舞台では、果たして何が起きてしまうのかーー予想すら、つかない。
恐怖を体験したいむきには、異能怪談公演『赤異本』は最適な舞台となるだろう。ただし、最後まで観客で居られるなどとは思わないほうが良い。いつの間にか恐怖の当事者、怪異の犠牲者になっていても、まるで不思議はない。それほど強烈な物語が、この一冊の中には詰めこまれているのだから。