『Fermat's Last Theorem』(フェルマーの最終定理)
ユニークポイント
シアター711(東京都)
2015/02/04 (水) ~ 2015/02/08 (日)公演終了
満足度★★★★
熱い議論が
学生時代はどちらかと言うと、数学は苦手な科目であった。数学を専門に学んだわけではないので、「フェルマーの最終定理」という言葉さえ知らなかった。本公演では、ワイルズがフェルマー予想を証明する歴史的講義に立ち合った、若き日本の数学者たちを巡る物語、である。この証明していく過程の場面は専門に数学を研究している者にしか分からないだろう。むしろ、証明に至る過程を熱く議論・検討する姿、世紀の出来事に立ち会える喜びといった感情が観ていて面白かった。
自分は、別に示された問題意識に興味を持った。
ネタバレBOX
当時、いや今でもそうかもしれないが、研究者、特に女性が研究を続けていく困難さが如実に現われていた。研究生活を続けたいが、将来の生活・研究者としての道があるのか?保障もない不安な気持ち、夢半ばで諦めるような厳しい状況が描かれる。
また一概に「数学」と言っていたが、その中にも幾何・代数など数学的な専門があり、その専攻が違うと分からなくなるという内容にも新鮮な驚きを覚えた。いろいろな意味で興味深い公演であった。
今後の公演にも期待しております。
あたしゃあなたの、
ぐらうんど・れべる
荻窪小劇場(東京都)
2015/02/04 (水) ~ 2015/02/11 (水)公演終了
満足度★★★★★
丁寧なお芝居
都会暮らしと田舎暮らしのどちらが良い、などという単純比較はできないだろう。その場所に住むには理由や動機があるものだが、本公演では、その田舎暮らしの不便さ、厳しさがあまり感じられなかった。逆にその種の問題や課題を超えるようなヒューマニティー溢れる描き方が強調されている(「リージョナリズム」というほどではない)。その展開が自然であり、日常生活を切り取ったようである。
そのように観える理由は…
ネタバレBOX
脚本の力と演出の妙が上手く作用し観応えのある作品に仕上げた結果である。さらにキャストの演技(特に小川剛生サン)がよく、役柄としての人間性とその土地に住む人間味が醸し出されており、観客の心を温かくする。
この公演では、母娘、兄妹、夫婦および近所付き合いという生活の基盤となるような関係を中心にしつつ、そこに抱える問題、悩みを吐露する場面が秀逸である。過疎化、高齢介護という身近な社会問題をあまり深刻にならないよう、努めて明るくユーモラスに描く。そして展望が見出せるような結末が、やわらかな日差し、そぅ小春日和を感じさせる。ラストシーンの心地良い余韻…見事です。
今後の公演にも期待しております。
『灯籠』
【カタオモイ.net】
シアターKASSAI【閉館】(東京都)
2015/02/05 (木) ~ 2015/02/08 (日)公演終了
満足度★★★★
透明感ある芝居
タイトルと説明文である程度、内容が想像できるが、その演出は透明感、幻想的で面白い。ストーリーは可視化したようなものであるが、そこは演出・演技の妙で楽しめる。
また若いキャストで初々しく、この物語がもつ瑞々しさにマッチしていた。
ネタバレBOX
物語の進行役以外は既に亡くなっている、という設定。舞台は高校・音楽室が中心で、そこに現れる男女3人の淡い恋心、憧憬が描かれる。
原作とは流れだす季節が異なるが、その主筋はそのまま描かれている。夏にしか出会えない”君”を待ち焦がれる女子高生、その女子高生に恋心を持つ男子生徒、さらにはその男子生徒を好きな後輩女子高生が登場するが、みな自縛霊または地縛霊である。女子高生が待っている霊は自殺者で、その霊が良くない、と描いているところに違和感があったが…やはり死に方にも善し悪しがあるのだろうか。
演出は盆灯篭が舞台周りに置かれ、間接照明として幻想的な雰囲気を醸し出していた。また、いくつかのボックスを配置し、その組み合わせで簡単に教室内の椅子やお墓をイメージさせ、あまり暗転させなかったのも集中力を保つには良かった。逆に舞台奥壁にイメージ映像を映す意味があったのか。韻文表現を映像に頼らなくて十分、その旋律は舞台上にあったと思う。
今後の公演にも期待しております。
シロ
惑星☆クリプトン
千本桜ホール(東京都)
2015/02/05 (木) ~ 2015/02/08 (日)公演終了
満足度★★
芝居には真摯であるが…
特に感じ入ったのは、受付、会場案内等、周りの対応が丁寧であった。
さて、公演であるが、旗揚げということもあるのか、緊張していたというのが第一印象である。オムニバス公演であるが、その第一は芥川龍之介原作の短編小説「白」だという。その描き方はあまりに忠実で教訓的なことが前面に出ていた。よく言えば真面目であるが、ストレート過ぎて芝居を観せ、そして魅せる工夫が足りないと思われる。
他は当日パンフによれば、朗読劇「メモ」とある。
ネタバレBOX
体色が”白“の飼い犬「シロ」は、街中で知り合った飼い犬が保健所職員に捕獲された時に助けなかったことにより、体色が”黒“に変化した。その結果、飼い主に「シロ」として認識されなくなり野犬になった。その後、助け犬として世間に認知されることになり…。あまりに教訓色が前面に出過ぎていた。もう少し味わいのある演出が欲しかった。
また、役者の演技がかたく、噛む場面が何回かあり少し残念であった。
朗読劇「メモ」は、子供が座るような小さな椅子(脚が短い)に座って行っていたが、前屈の姿勢になった時、発声に難があった。これも緊張だろうか?
冒頭記載したが、公演に対する姿勢は良く、好印象を持っているので頑張って欲しい。
今後の公演に期待しております。
新「復活」
劇団キンダースペース
シアターX(東京都)
2015/02/04 (水) ~ 2015/02/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
すばらしい!
劇団キンダースペース創立30周年記念公演第一弾が「新・復活」である。もちろんタイトル通りトルストイ原作を日本近代演劇と重ねあわせたストーリーは面白い。演出はオーソドックスであるが、役者の演技は安定・安心して観ることができる。
この「新・復活は、描く主筋が恋愛偏重になっているが、原作の帝政ロシア下における権力・裁判や下層農民の喘ぎ、苦しみと対峙した骨太なイメージをもっと描き込み、当時の日本の状況が浮き上がってくれば、もっと印象深い作品になったと思う。
後日追記
ネタバレBOX
脚本はトルストイ原作「復活」を日本近代演劇の黎明期に活躍した島村抱月と松井須磨子の抜き差しならぬ関係と創設した芸術座の興行不振を立て直す、まさしく復活をかけて上演した「復活」を掛け合わせた劇中劇である。
本公演は、新劇を学究・研修の対象から興行として自立する公演に育てる、との当時の志・思いが伝わるようであった。
シアターXの舞台にしっかりセットを作り込み、その中で役者は確かな演技を行っており、充実した芝居を観ることが出来た。
今後の公演にも期待しております。
メンタルトレーナーのくせに
護送撃団方式
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2015/01/28 (水) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
コメディでしたか?
メンタルトレーナーという、聞き慣れない職業に携わる講師と受講生の話。「メンタル」からクリニックを想定し、心療内科的な芝居かと思ったが、少し違ったようだ。
芝居を進行するにあたって、定石とも言える登場人物の紹介から始まる。本公演はコメディという謳い文句であったと思うが、確かに場面場面での表情・仕草はコミカルで笑えるものがあった。しかし、話の内容はメンタルに相応しい知的で骨太な作品であった。
ネタバレBOX
シチュエーションは”メンタル”を扱っているが、妄想・幻想のような脳内現象ではなく、しっかりとした現実ドラマとして描いていた。メンタル強化などを目的とした受講生と個性豊かなメンタルトレーナー(受講生ごとに担当トレーナーが決定、マン・ツー・マン指導)の関係性が面白おかしく描かれる。この場面ごとの表情・仕草は面白いが、真に笑えない。人の心根に関わり、鋭い指摘になっている。さらに役者自身が笑えていないように感じた。場当たり的なコメディでは笑顔になれない。大上段にコメディを打ち出さず、芝居の中でさりげなく”クスッ”とした笑いであっても十分に楽しめる(内容には共感)。
また、主人公・滝沢の過去も気になり、もう少し人物像を掘り下げても良かったと思う。そして担当した少女との関係について、今後の展開が垣間見えると…。そこは観客のイメージに委ねたのでしょうか?
今後の公演にも期待しております。
ここにいる!?
BIG MOUTH CHICKEN
劇場MOMO(東京都)
2015/01/27 (火) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
チームB拝見
幼い時の事故が原因で霊体質になってしまった青年が経験した奇妙な出来事の話。
軽妙・コミカル風であるが、描かれている内容は奥深い。
自分という人間の存在を証明するには…他人との関係性で説明することになるのだろう。 あれ、この公演の人間といえば…
ネタバレBOX
基本的には、主人公(霊児役=大熊祐我)とその恋人しか登場しない。それ以外は彷徨って冥界への入り口にいる、またはそこに居る冥界者ばかりである。
人との関わりが苦手ではあるが、彷徨っているものたちとの交流は出来るという、不思議な体験をしている主人公…そのありえない様を通して自分を認識していく過程が面白い。終盤は彷徨っている、その者たちの経緯を説明し黄泉へ仕分けされていく。主人公との真の別れであるが、ラストは少しホッとするような幕切れである。
脚本の描かれている内容は鋭く、心を揺さぶられた。演出はわかり易く観せるために楽しい工夫?(モノマネ、オーバーアクションなど)を取り入れ、サービス精神が旺盛であった。ただし、芝居への集中力が途切れるギリギリであったが。
今後の公演にも期待しております。
メフィストフェレスにさえそっぽを向かれた男たちのハナシ
スケアクロウズ
【閉館】SPACE 雑遊(東京都)
2015/01/28 (水) ~ 2015/02/08 (日)公演終了
満足度★★★★★
観応えあり!
2015年も1月にして、早くも好みの公演に出合えた。
魂と交換に願いを叶えるというメフィストフェレスさえも、破綻した魂は要らないと思う「男たちのハナシ」である。
実に観応えのある公演であった。
大変恐縮ですが、当日パンフに記載してある脚本構成・演出 上田ボッコ氏の言葉に感銘している。全文を記載するにはスペースが足りない。
本意が伝わらないかも…心配
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個人個人が 自分の考えをキチンと持つことの重要さを
今ほど 求められるトキは無いのではないでしょうか
(中略)
それでも尚 希望を失わずに 平和を求め続ける
祈るような想いで そんな事を考える毎日です。
ネタバレBOX
会場の座席配置は、入口側と奥壁側が対面になっており、それぞれが3列雛壇になっている。その見立ては放射能に汚染された状況下…シェルターと思われる地下室。薄暗い中にテーブルとソファが舞台の左右に置かれ、テーブルの上には文房具が乱雑に放置されている。まるで心の乱れを表しているようだ。
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ストーリーは、放射能汚染された社会環境を、その抑制された日常生活によって現している。それは濃密な会話によって展開していく。本音と建前、話のすり替え、自己主張、強訴と哀願、暴言…。そこから、男の友情・嫉妬・羨望・見栄という「感情」と、惰眠・食欲・性欲といった「行動」がチラッと垣間見える。
論理的または理屈があるような話の展開は、すぐ話がすり替わり脈略がない言葉、慟哭が自分の心を揺さぶる。これを演じる男優陣の技量が凄い。緊張・硬質・迫力、どれもが陳腐な表現になってしまう。この迫真の演技に若い女優陣が食らい付いてくる。そして、照明を落とした室内を、放射能に汚染されたと思われる子供たちの歩く姿が怖い。
ストーリーテラーであり、メフィストフェレスと思われる「ささやき役=和興 氏」のバリトンで妖言な科白が秀逸である。
今後の公演にも期待しております。
「蛍よ……妖しの海を翔べ」
劇団ギルド
座・高円寺1(東京都)
2015/01/29 (木) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★
中途半端だった
源義経に関する伝説をモチーフにし、昭和時代における学生運動を重ねあわせた芝居。もっとも学生運動をイメージさせるような場面は感じられなかったが…。
自分が義経の英雄伝説を知ったのは、高木彬光の小説「成吉思汗の秘密」が最初だったと思う。この小説は歴史推理小説としては有名で、以降多くの書の参考にされたようだ。
さて、公演であるが平家物語(義経視点)を準えるようで…。
ネタバレBOX
義経は衣川で死んだわけではなく、蒙古へ渡りジンギスカンになったという伝説。壮大なロマンを感じるが、本公演では、エピローグでその可能性を示唆するところで終幕する。
ストーリーは、義経の戦略家としての側面と義経・影武者たちの「役割」と「自我」の相克に揺れる心が描かれるが、その力強さや悲しみが伝わらない。重要な事柄が印象に残らず残念であった。
演出もスクリーン-プロセスを利用し、その映像効果によって壮大さをイメージ出来るよう工夫していた。しかし、多用したことで芝居というライブ感に違和感が生じた。もう一つ違和感があったのが衣装である。義経伝説をモチーフにし、あくまで現代を描くのか、平安末期(源平戦乱記)を描くのか、中途半端な印象を受けた。
今後の公演を楽しみにしております。
6人の法則
劇団平成商品
タイニイアリス(東京都)
2015/01/30 (金) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
もう少し整理しては
北海道から東京へ公演拠点を移して4~5年になるという。多くの観客に観てもらいたいとの心意気のある若者6名による芝居…いろいろな想いを詰め込んでいた。ストーリーはいくつかの回想シーンも交え、サイドストーリーも組み合わせているが、わかりやすい。演出は観せる工夫をしており好感を持った。演技に関しても、それぞれのキャラクター、役割をしっかり捉えていた。
芝居における脚本・演出・演技という要素はそれぞれ良いと思うが…
ネタバレBOX
公演全体のバランスが今一つと思われる。特に次の点が気になった。
1.主筋から派生する脇筋への話が多く、それを丁寧に描こうとするから、何の話であったか反芻しながら観なければならない。もう少し祖父との関わり (例えば子供の頃の回想シーンを厚くするなど)を濃密に描くことで、現在の 祖父への愛情に繋がりを持たせるとか。
2.演出は、舞台を上手・下手に二分割しているが、どちらかと言えば上手はサイドストーリーのようだ。それにも関わらず同じスペースを使用しているから2話が同時進行しているかのようだ。上手は、浮気疑惑にドタバタしている夫婦の話。実は奥さんが下手の主筋(死期が近い祖父とその家族。孫娘が主役)にいる主役女性の不倫・浮気コラム(インターネットで配信)の読者という繋がり。
3.プロローグとエピローグが関連しているようには思えないので、冒頭のパフォーマンスを省略しても…。枝葉末節と思われる場面を整理し、訴えたい (大切にしたい)場面を濃密に描き込むことで、話が鮮明になりもっと観応えが出ると思う。
今後の公演にも期待しております。
空飛ぶ自転車
水色革命
萬劇場(東京都)
2015/01/29 (木) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★
温かいが…
昔ながらのアパートに住んでいた戦争孤児たちのハートフルドラマ。ストーリー的にはわかり易く、演出も特別に奇抜なことはない。戦争を大上段に振りかざし社会問題を問うものではない。あくまで戦争孤児たちの人間交流を時を刻むように坦々と描く。子供から大人まで楽しく安心して観られる内容である。
その情景を描くキャストの演技が…
ネタバレBOX
少し硬い感じがした。特に前半は演技がぎこちない。特別ゲストのジャガー横田サンの演技は、テレビで見るような感じで、他のキャストに比べ自然体に観えた。少し声がしゃがれていたが、堂々とした主役であった。
さて、登場人物は結論から言えば、全員が善人である。小さい時から兄弟姉妹のようにして育ち、その後、数十年も交友する姿は、公演全体の雰囲気を和ませる。しかし、その描き方が表層すぎて感情移入が出来なかった。
もう少し、深く掘り下げても良かったと思う。
演出は軽妙・コミカルであっても、十分に伝えたい内容のある話だと思う。
今後の公演にも期待しております。
アルマ
THE TRICKTOPS
ザ・ポケット(東京都)
2015/01/28 (水) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
テーマ性重視かな
前編・後編(途中休憩)で2時間30分ほどか。ストーリーはわかり易く、その演出も軽妙・コミカルといった場面が多かった。
特に本公演はテーマ性重視で、それを前面に出しているように感じた。そのための脚本・演出に腐心したようだ。
ネタバレBOX
テーマが浮き彫りになるように、あえて比較描写を多くしたように感じた。例えば人間性では「天才」と「凡人」、事象面では「インターネット(仮想)」と「テロ(現実)」というように、光と影ではないが、対比は説得性を増す手法の一つだと思う。
さて、そのテ-マであるが「孤独な心の拠りどころはバーチャル世界(インターネット)」といったところであり、主人公が抱いている素懐は現代社会の一つの問題かもしれない。
公演全体としては、仮想世界でしか生きられなくなった理由、高校生の時に出会った女子高生(同級生)との淡い想い、オタクとして警察に協力する様、一方、テロ組織の話が別ストーリーとして描かれる。両方の話は交錯し一つのストーリーを紡ぐが、同じような比重で描くため主筋(人間性)・脇筋(国家権力という社会)が峻別できない。面白い内容をいっぱい盛り込み、観客を楽しませようという心遣いは嬉しい。しかし、もっと絞り込む(例えば、暗号解読の3バージョンを1つ減らす)、家族内の問題(母親の役割は軽い)など、ほんの少し整理すれば、もっとシャープに問題を訴求できると思う。
今後の公演にも期待しております。
夜と森のミュンヒハウゼン
サスペンデッズ
吉祥寺シアター(東京都)
2015/01/24 (土) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
不思議感覚が心地よい
冒頭の演出が上手い。多くの公演は完全に暗転させて、キャストを舞台上に登場させてから始まる。ところが、本公演は上手からアユミ(石村みかサン)がゆっくり森の中を散策するような感じで幕が開く。その舞台セットは樹木(6本)が立ち、その根元に枯葉が…実に落ち着いた、そして雰囲気のある情景を演出していた。もちろん登場する人間・動物などは魅力的に描かれているが、それは透明感・神秘性ある大きな風景画の中で活かされている産物のようであった。
ネタバレBOX
虚実綯い交ぜの世界観であるが、その感覚は人の「心」か「脳」内というものである。目に見えないことは、表現することが難しいが、逆に言えば自由に描くことが出来る。その演出は幻想とも違う…静寂な森の中で不思議な空気が流れているようだ。人間に擬態化した動物たちの本当の人間との出会い、交流もあったが、現実の世界か虚構の世界か判然としない。その「曖昧さ」が不思議さを「鮮明な表現する」ものになっている、という反対感覚を醸し出している。現実話(森での迷い、不倫恋愛など)と空想話(動物擬態化、生存への戦いなど)が交錯しながら、一つの話(迷った森から抜ける)へ紡いでいく。
森を抜けたら何が、またはどうなるか、という興味は尽きない。
最後まで余韻を漂わせた、魅力的な公演であった。
今後の公演にも期待しております。
男は二度死ぬ・その一度目!!~その三~
ライオン・パーマ
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2015/01/15 (木) ~ 2015/01/19 (月)公演終了
満足度★★★★
組立て感が好き
子供の頃、電池・モーターで動くプラモデルを作って遊んだが、その時の感覚に似ているような芝居であった。そぅ、パーツを1つ1つ組み合わせて完成させ、最後にスイッチを入れたら動き出す。設計図通りに作ったが、果たして動くのだろうか、というドキドキ感が忘れられない。
ネタバレBOX
本公演は家族ごとの話が一つの歯車になっており、それが絡み合い公演全体を構成していく。その一つ一つの過程が面白いと感じるか長時間公演のために整理が必要と思うか、観客によって違うだろう。自分は前者のタイプで面白く楽しめた。そして見事なループ劇に結実させた演出に感心した。パーツが段々と噛み合い、少しずつ公演全体の姿が明らかになる。その原動力がキャストの魅力的な演技であったと思う。もちろん舞台セットも手作り感があり、温かみがあった。
文脈が逆転したが、テーマ性については、社会的教訓のような側面も描きつつも、その演出は軽妙・コミカル仕立で堅苦しくない。最後まで飽きることなく楽しめた。
今後の公演にも期待しております。
鬼のぬけがら
ナイスコンプレックス
OFF OFFシアター(東京都)
2015/01/21 (水) ~ 2015/01/26 (月)公演終了
満足度★★★★
業(ごう)の深さが…
東日本大震災を背景に人間の業(ごう)が浮き彫りになるようなお伽噺。現実にあったような内容だけに、お伽噺…絵空事にしないと哀しい印象だけが強調される。被災という特異状況下における人間心理・行動は、平時のそれとは違う。むしろ違っているほうが当然かもしれない。その時の状態こそ「鬼」なのかもしれない。逆に「鬼のぬけがら」を纏って人間らしくという逆説的な発想がユニーク。とても興味深い芝居であった。
ネタバレBOX
被災者の生活状況を背景に父子の確執が描かれる。被災者に心を添わせながら、その実態をスクープネタにする息子。被災地に留まり本音を言い続ける父、という構図が主軸であったと思う。被災地から離れ、安寧した場で外見よく惨劇をルポネタとして探す子の深層は”鬼”。逆に父の歯に衣着せぬ言動は、被災者を困惑・憤怒させるが、その心裏は”人”。「心」という目に見えない動きを見事に浮き彫りにした演出手腕(タイトルが意味深)は素晴らしい。そして鬼(子)が人(父)の心魂に迫る過程とラストシーンは感動ものである。
舞台セットは、震災によって倒壊した家屋内をイメージさせるもの。その薄暗い照明、怒涛の音響効果は芝居の質(重厚)感を高めたと思う。その空間の中でキャストはそれぞれの性格付け、・役割の人物になりきっていた。実に観応えのある公演であった。
今後の公演にも期待しております。
『鬼切丸』再演
タンバリンステージ
あうるすぽっと(東京都)
2015/01/24 (土) ~ 2015/02/01 (日)公演終了
満足度★★★★
観せる…魅せる…
90年代カルト的人気を誇った楠桂の人気コミック「鬼切丸」の舞台化である。この公演は、2013年夏に大盛況で終演した作品の再演だというが、その魅力は何といってもキャストのビジュアル性と殺陣の素晴らしさであろう。キャストは当日パンフの紹介によれば34名が登場している。そのメイク・衣装が妖しげな雰囲気を醸し出す。
そのお話は…
ネタバレBOX
はるか昔、少年の姿をした鬼が生まれたが、彼には角(つの)はなく、一振りの神剣「鬼切丸」を携えて鬼と戦う。すべての鬼を倒せば、人間になれると信じている。同族同士の争いかと思われるが、そうではないようだ。修験僧も現れ、人間、特殊能力を身に付けた修験僧、そして鬼という三竦みの戦いが繰り広げられる。この戦いの場面は、「あうるすぽっと」という中規模舞台を目一杯使用した殺陣シーンは迫力があった。もっとも本当に殺せているか、という疑問がある踏み込みではあるが…、そこは魅せる芝居である。
また、鬼退治に深い理由・動機付けが説明されている訳でもない。敢えてその深みにはまり込むことはしていないようだ。娯楽性を重視した制作になっており、それが純粋に観て面白いに繋がっていた。
まさしくエンターテイメントを目指した作品として印象に残った。だからこそ多くの観客に支持され、再演に至ったと思う。またキャストは、初演から引き続きの人と再演からの人とバランスよく配役しているらしい。そこにも初見の観客に楽しんでもらう、という制作側の想いも伝わる。
今後の公演にも期待しております。
義務ナジウム
公益社団法人日本劇団協議会
劇場MOMO(東京都)
2015/01/23 (金) ~ 2015/01/25 (日)公演終了
満足度★★★★
民俗学的な…
「九州の、とある山奥にひっそりと在る陸続きの孤島・美女都村」が舞台。昔から住んでいる村人と新しく移住してきた人の、その土地に伝わる因習をめぐるお話である。その因習というか風習はよく仄聞した内容だが、改めて芝居として見ると、あぁそうなんだと納得する局面もある。それだけ脚本が魅力的であり、それを上手く演出している。また、キャストはワンツーワークスの2人の女優はもちろん、各キャストが魅力ある人物を演じていた。その性格付け、役割が明確でわかり易い公演であった。しかし、その描いている内容はある種の問題提起をしており、見応え十分であった。
ネタバレBOX
さて、問題提起とは、古くからその土地で行われてきた「14歳男子の『筆おろし』」と「女子の『水揚げ』」(通俗的で失礼)をめぐる村人と新しく移住してきた人の意識のギャップ。地方にはそれぞれ生きるため、生活するための習わしがあるが、一方、新住民にとっては理解し難い習わしである。自分が思っている常識が時と場所を変えれば非常識になり得ることも確かだろう。その状況下での自分の信念とは何という鋭い問いが発せられる。実に興味深い公演であった。
また、古城十忍 氏の演出であり、舞台美術もその土地感覚、雰囲気を出した素晴らしいものであった。
次回公演も楽しみにしております。
ひだまり
BEE
テアトルBONBON(東京都)
2015/01/21 (水) ~ 2015/01/25 (日)公演終了
満足度★★★
普通の生活から…
9歳の少女(美輪ひまりチャン)の普通の生活…それは毎朝決まったTV番組を見ることから始まる。この何気ない普通のことが普通でなくなる、チョットとしたことで破綻する狂気を描くが、その内容が表層的すぎた。
舞台セットは上下の二階建。一階はリビングルームのようで、公演の主筋を展開する。2階部分は、その時の状況によって場面設定が変わる。
そして、説明にあるように「偶然出会った男とのできごとが、少女達を違う日常へと連れていく。」ことになる。この男と出会うまでの前後で芝居の雰囲気はガラリと一変する。ある出来事とは…
ネタバレBOX
いつものとおりTVを見たあと登校する。違うのは母親と一緒に出掛けられなかったこと。母親は就職面接のため、いつもより少し早く出掛けた。少女は通学途中で男に襲われ重傷を負う。一命を取り止めたが体に大きな傷跡を残した。その後、刑事が犯人(視覚障害者)を逮捕し、少女も元通りとはいかないまでも、退院し自宅に戻ってくる。
母親が悔悟・苦悩、父親(知的障害者?)の無垢な仕草が…しかし、感情移入できず泣くこともなかった。ストーリー上は大事件が起きたが、その場面は事後処理として病院ベットに臥した姿で登場する。その演出でもよいが、犯人逮捕にいたる場面(少女の目撃は大きい。しかし、他の証拠があるという台詞はあるが、何のことかは不明)が省略された。また犯人は一貫して無実を訴ったえている。視覚障害者を犯人として決定付ることを避けたのでしょうか。その件が不気味になっている。
ハッピーエンドのようであるが、結末が何かモヤモヤとした感じである。これは芝居でいうところの観客の想像力にお任せ、または余韻を大切にという問題ではないと思う。
演技について一言、子役(美輪ひまり)の明るく、そして傷ついた心の変化が見所であるが、見事に演じており感心した。
今後の公演に期待しております。
死刑執行人 〜山田浅右衛門とサンソン〜
世の中と演劇するオフィスプロジェクトM
座・高円寺1(東京都)
2015/01/21 (水) ~ 2015/01/25 (日)公演終了
満足度★★★★
月並みだが、面白かった
大括りにいえば、フランスと日本・江戸時代/明治初期および現代の死刑執行人に関わる人間の苦悩といった話だろうか。日本に死刑制度がある以上、直接か間接かの違いはあるが、その執行に携わる人間がいることには違いない。
この公演を通して「死刑制度」そのものの是非を問うには材料が不足している。まぁ、観客がどう感じ思い描くかは勝手であるが…それほど強いメッセージを発していたか疑問である。
家制度における死刑執行人は世襲であり、その役割(罪人の処刑)こそが自分も含めた一族の「生きる」道だった、という皮肉な話である。現代における問題は「家」という世襲から、個人と家族の悩みとして描かれていた。この公演は、多面的・深耕的な問題提起をしているようだが、芝居としてはわかり易い見せ方になっていたと思う。特に、フランスと日本という国の違いや時代の切り替え演出には、暗転だけでなく、ダンスパフォーマンスを取り入れ魅せる工夫をしていることに好感を持った。
観客が思い、考えるという芝居の醍醐味が感じられ、十分楽しませてもらった。
なお、些細ではあるが疑問も…。
ネタバレBOX
なぜ、フランスのサンソン、日本の山田浅右衛門の両方を取り入れたのだろうか。もし「死刑執行人」=「死刑制度」に対する問題提起であるならば、あえて日本における時代比較(幕末・現代)でも十分に説明できると思う。
説明に「ことの是非を声高に問うことは芝居にはあまり向きません。」と記しているのだから。
また、公演タイトルの「死刑執行人~」という表現は、少なくとも現代における職業・刑務官にはそぐわないのではないか。職業観と人間倫理が混同した捉え方になっているように思う。死刑の執行をする人間の苦悩が、ギロチンという機械の導入で精神的に緩和したのだろうか。そのことが、現代日本の刑務官の気持に繋がるかが疑問として残った。
今後の公演にも期待しております。
ミクちゃん、お風呂の時間です。
劇団青い鳥
小劇場B1(東京都)
2015/01/21 (水) ~ 2015/01/25 (日)公演終了
満足度★★★★
年代層によって印象が違うかも…
観る年代層によって受け止め方に濃淡がある公演だと思う。アフタートークでも話していたが、「みなしごハッチ」(両親が亡くなっている)の劇団員も数人いるとのこと。そう言えば、キャストの年齢層も高いような…。しかし、髭(ひげ)ダンスのようなコミカルな動作での登場に、年齢のわりには、お茶目(失礼)な印象を受けた。
ネタバレBOX
舞台セットは、内容に合った趣のあるもので良かった。広さの異なる平台が二段になっており、上の台には二人掛のベンチが置いてある。床には枯れ葉…芝居の中で静かに舞う景色が美しい。
基本的には、母親(三国トキ役 芹川藍)と娘(次女カヲル役 森本恵美=クジ引きで決定)の二人芝居。父親の葬儀のため帰省していた娘が帰るまでの短い時間…母親と娘は一緒の時間を過ごしているが、少し認知症気味な母親の時間はゆっくりと、娘(離婚協議中?)の時間の流れは早い。この時間感覚の微妙な違いが、今二人の生活を現わしている。その様子を遠くから眺めている猫キャストの優しい眼差し。実に秀逸な演出である。
施設に入居している母親…気掛かりな気持を残しながら帰京していく娘の姿…。自分も生きている、という強い気持が込められた感動的シーン。大きな起伏がある芝居ではないが、一定の年齢以上の観客には共感を持たれる、そして余韻が残る好公演だった。
今後の公演にも期待しております。