KANNAZUKI 2010
リンムーメン!!プロデュース
テアトルBONBON(東京都)
2010/02/09 (火) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
満足度★★★
小規模の職場の雰囲気をリアルに表現
長兄が社長、次兄が従業員(だがギャンブル好きでいい加減)で、末妹の夫が実質的に仕切る小規模なリネンクリーニング工場の人間模様を描いたもので、7年前の旗揚げ公演作品の再演とのこと。
工場とは別棟でカーテンで仕切ると更衣スペースになるロッカーコーナーもある従業員休憩所を表現した装置が、そのツクリだけでなく「汚し」も含めてリアルな出来なこともあって、小規模の職場ゆえに何かがあると気まずい感じとか、そういう部分まで心に直接響くように感じられる。
冒頭のシーンから末妹は亡くなっているのではないか?と誤読していたのでその後の登場場面で彼女は夫にしか見えていないらしいというのはすぐに察することができたものの、彼女が実は生きていて、という終盤では逆にビックリ(笑)
また、妻が入院まですることになったのは自分のせいと感じていながらもどちらかと言えばそれを受け止めるのではなくそこから逃げている感じの夫は、自分でもそちらに近いために(爆)その心境が非常によくわかって共感しまくり…(笑)
さらに、その夫婦間が修復できたか否かについては明確に示さず、その後のことは観客の想像に委ねる終わり方が巧い、あるいはズルい。(笑)
そういえば「自分に都合のイイ幻影を見る」系の芝居は今年に入ってこれで3本目。今年はコレがトレンドか?
センチメンタリ
monophonic orchestra
STスポット(神奈川県)
2010/02/05 (金) ~ 2010/02/11 (木)公演終了
満足度★★★★★
終盤が特に好き
10年前の飛行機事故で亡くなった女性の夫と弟、友人たち、映画監督にロケではぐれた女優などがその現場近辺を訪れるが、皆方向を誤ってさまよううちに合流して…な物語。
舞台が山中ということもあり比較的静かに進行する中での会話から故人の弟が姉の死は自分のせいだと自分を責め続けていることや遺体がまだ現場に残っているらしいことなどが明かされ、そして迎える終盤が特に好き。
弟「誰が自分を粗末にするんだよ」
作家志望(姉の友人)「あなたよ。だから針を刺したのよ」
なんてやりとりにキューン。
しかも、内容に心を奪われていたところに「釘…」とボソッとしたツッコミが入るのが上手い。
また、事故現場に自分を埋めて欲しいと夫に頼んだ故人やそれを受け入れた夫の真意が弟を慮ってのことというのが何とも優しくて、こういうの、弱いんだよなぁ。
さらに遭難事件(?)を調べていた刑事からも「君のせいじゃない」と諭され、「5回まわって方向を定めて」(←姉が進むべき方向を見失った時に実践していた方法)歩きだす弟、という幕切れもイイ。
ハコノホテル奇譚
劇団オグオブ
萬劇場(東京都)
2010/02/06 (土) ~ 2010/02/07 (日)公演終了
満足度★★★★
匣の中には喪黒福造?(笑)
東京湾に浮かぶ小さな島に建つホテルでの限られた客に対するサービスである少し開けると見たい夢を見ることができるが覗きこんではいけないという「逆パンドラ」のような匣をめぐる物語。
たとえば「新青年」に連載されていたような幻想文学(現代で言えば恩田陸や梶尾真治か?)風と言おうか、独特のシュールさがあり、そう言えば「カフカ的変身」(笑)もあったっけ。
さらに、変身ということではからくり人形に変身してしまった女性を、動きとS.E.でいかにもそれらしく見せる(カプセル兵団の『ゴースト シード』に近い表現)とか、「ここではないどこか、今ではないいつか」まんまな和洋折衷の衣裳とか、見せ方もなかなか。
そんな中に「なりたい自分とそれになってしまった自分」や「空と海が溶け合う水平線の青を表現したいと思い続けながら色彩感覚を無くし全てが灰色にしか見えなくなってしまった女性の哀しみ」など奥深いモノを織り込み、さらにストーリーテラー役も実は匣によって作り出されたものだったという「シックス・センス的逆転」まであって◎。
で、フト、匣の中には喪黒福造がいて、覗き込むと「ドーン!」をやられるのではないか?などども思う(笑)
いやしかし「ココロのスキマ」なんて用語も出てきたし、「自分の願望をほど良く満たすのはイイが度を越すとエラいことになる」というテーマは共通だし、あながち見当外れではないかも。(爆)
わたる世間にゃ人ばっかり!?
KUSARE芸道R
アイピット目白(東京都)
2010/02/04 (木) ~ 2010/02/07 (日)公演終了
満足度★★★★
「鬼」を使った成句の使い方が巧い
人間の真似をして豆まきをしたことから父親とケンカした鬼の青年が隠れ住んでいた洞窟から人間界に降りてきて…な物語。
「鬼は~外ぉ!」と追われる鬼の側を描くことでマイノリティの立場をえぐった社会派…なんてワケはなく、例によってひたすらバカバカしく、肩の力を抜いて難しいことなど考えずただ「あは、あは、あはは」と笑っていれば良いというお気楽なおハナシ。
が、「鬼」を使った成句をもじりも含めてふんだんにしかしさり気なく使っているのが上手い。たとえば「立派な鬼嫁になる」って、イイ意味なんだか悪い意味なんだか…(笑)
また、あんな人やこんな人の顔合わせも○。
ただ、長編ということもあり、得意の(?)影絵がなかったのはちょっとだけ残念。
LoveLoveLove13
劇団扉座
すみだパークスタジオ倉(そう) | THEATER-SO(東京都)
2010/02/03 (水) ~ 2010/02/07 (日)公演終了
満足度★★★★
中では「我が町」が特に気に入る
「ロミジュリ」の有名シーンをタテ軸に、様々な「Love」(必ずしも恋愛ではない)を描く短篇を織り込んだシリーズの13回目。
WSSの「Tonight」からロミジュリのティボルト殺害のシーンにつなぐのは毎度のお約束らしく、しかしイイトコ取りと言おうか見事だし、他の短篇もなかなかにイイ出来。
中では「我が町」が特に気に入る。すみだパークスタジオで稽古する研修生たちの日常を描いたもので広義のバックステージものと言おうか一種の青春群像劇と言おうか、いずれにしてもσ(^-^) の好きな題材である上に、実際の建物などをミカン箱くらいのミニチュアサイズで表現した段ボール製の装置(←阿佐南とはまた違った感じ)が見事。「錦糸公園」のネームの入った石の入り口なぞかなりリアルだし、総武線が停車している駅は途中でちゃんと電車が発車するし…(笑)
他に「はだかの王様」っぽい「北川景子」や意外なオチの…(ありゃ、当日パンフにはさまっていたタイトルリストが見つからない)…結婚式場での出来事も好き。
銀幕心中
SPIRAL MOON
「劇」小劇場(東京都)
2010/02/03 (水) ~ 2010/02/07 (日)公演終了
満足度★★★
「カツドウ屋」の世界・心意気
ベテラン映画監督が急死しての通夜にプロデューサー、脚本家、カメラマン、常連の俳優が集まり、僅かに撮り残した最新作の今後についても検討し…な物語。
こことの出会いであった『ウェルズ』と同じ作家の作品ながら、監督の死因が死因だけにブラックな笑いも少なからずあり、オモムキはかなり異なる。(チラシにも「抱腹絶倒」なんてコトバがあったし)
が、中盤で監督の霊が登場してから終盤にかけての劇中劇(厳密には「劇中映画」?)と劇中現実が微妙にカブるあたりで伝わってくる根底に流れる「ナニカ」に共通するモノがあるようなないような…(爆)
また、「カツドウ屋」の世界・心意気を描きながらも、極めて演劇的な表現方法をとっており、終盤の構図の美しいことといったら。下手に立つ霊とほぼ中央で進行する映画のクライマックスにふりかかる花びらの図は一幅の画の如し。(見返り気味の霊に既視感があるのは何だろう?)
幸せの歌をうたう犬ども【ご来場ありがとうございました!】
DULL-COLORED POP
タイニイアリス(東京都)
2010/02/02 (火) ~ 2010/02/04 (木)公演終了
満足度★★★★
三題噺どころか十題噺に幸福論(不幸論?)まで
出演者が自分の役どころを指定してそのキャラクターを使ってストーリーを紡ぐという企画、出来上がったのは高尾山で首を吊ろうとしていた女性のもとに宇宙人たちが現れ、彼らの「分倍河原星」(笑)には「不幸」の概念がないので研究に協力して欲しいと「しあわせインプラント」を施した彼女の観察を始めるが…という物語。
三題噺どころか十題噺、いささか強引な部分もありつつちゃんと1本のハナシになっているどころか幸福論あるいは不幸論まで語ってのけるというのが見事。
また、過去に観たダルカラ作品2本はどちらもシリアス系だったので、こんな面もあったのか、な発見もアリ。
過去の2本からは劇中で「ラムのラブソング」を歌って踊るなんて想像もできないもんね(笑)
さらに、一部意外と思われる顔合わせも妙にハマったキャラ(中では宇宙人とアル中のニートが好み)のためもあってかシックリと馴染んでいて、事前に耳にした批判的な声にかすめた不安は杞憂に終わり結果は満足。
ゴージャスな雰囲気/めんどくさい人(千秋楽満員御礼で終了しました・感謝!御感想お待ちしています)
MU
OFF OFFシアター(東京都)
2010/02/03 (水) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
満足度★★★★
そして仕上げのBバージョン
まずは「ゴージャス…」。初めて通る時は遠く感じた道が、2度目には近く感じて、3度目は周りの景色を見る余裕もできた…な感じ。
しかも「女優系」かつ「オイしい物は最後に食べる」タイプの身にとって、この順は願ったり叶ったりだし。(爆)
ただ、短期間に3度も集中して観たせいで今後チャイコの「1812年」を聴く時にいくつかの場面が目に浮かんでしまうという “後遺症” が出そう。いや、実はこの2日後に試しに聴いたら案の定「ナルシスト~だ~よ~~~」という歌詞まで脳内で再生されてしまって…(笑)
また、「めんどくさい…」の(C)で元教師役だった川添美和が、こちらでも元教師という設定(←(B)のみ)なので、勝手にアタマの中でリンクさせたりもして…。いや、どちらかと言えばパラレルワールドか。(笑)
一方、「めんどくさい…」については(A)が直球、(C)が変化球、(B)はビーンボール?(爆)
あるいは(A)がブレンド、(C)がカフェオレで、(B)はコーヒースカッシュ?(笑)
喩えずに言えば、基本形→応用編→パロディ編ってところか。
ゴージャスな雰囲気/めんどくさい人(千秋楽満員御礼で終了しました・感謝!御感想お待ちしています)
MU
OFF OFFシアター(東京都)
2010/02/03 (水) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
満足度★★★★
続いてCバージョン
「ゴージャス…」は男ばかりの(A)では特殊性(笑)を感じたのが、男女混成となりバランスが良くなった感じ。が、マイルドになったと言い換えることもでき、考えようによっては毒が薄くなったかも?(爆)
「めんどくさい…」は、情夫を高校生に設定したのが(A)よりもさらに「病める現代」っぽくて愉快なのだが、芝居に関する部分が「それって演劇部のこと?」になってしまうのがやや苦しい。(笑)
ゴージャスな雰囲気/めんどくさい人(千秋楽満員御礼で終了しました・感謝!御感想お待ちしています)
MU
OFF OFFシアター(東京都)
2010/02/03 (水) ~ 2010/02/14 (日)公演終了
満足度★★★★
まずは初日のAバージョン
ビルの5階、ひょんなことから4人のナルシスト達(というより自己顕示欲のカタマリのような面々)に軟禁された1人の男…なストーリー、状況設定的にも非常に小劇場的。
また、男が軟禁されることになった理由にしても、ナルシストたちの主張にしてもどこかズレていて、大笑いではないけれど「クックック」とか「ニヤリ」とかの笑いが満載。
それにしてもナルちゃんって目茶苦茶ポジティブ。あんな状況でさえチャンスと思ってしまうとは…(笑)
「めんどくさい…」は大金を手にして情夫を買っている女性のおハナシ。
舞台役者が枕営業をしていたのに次第に主客逆転でデリボーイがメインになったなんて設定が可笑しく、でももしかするとあるかも?などと思ったり…(笑)
また、一般的には「逃げた」とすることの多い「青い鳥」を「死んだ」とするのが象徴的。それも「生きているだけでそのストレスから発狂して死んでしまう」なんてシニカル。
北枕動物園へようこそ
K.B.S.Project
高田馬場ラビネスト(東京都)
2010/01/30 (土) ~ 2010/02/07 (日)公演終了
満足度★★★
初演と比べ落差がより大きくシリアスさを強調
08年10月の初演と比べて前半は下ネタも含めてさらにノーテンキ(笑)になった感じ? だもんで動物たちを殺さなくてはならなくなる後半との落差がより大きくなり、それだけシリアスさが強調された感じか。
また、動物を殺すために薬物を塗布した餌を人間が飢えから食べてしまうシーンは(結果的に命をとりとめるとはいえ)コワいし哀しい。
さらに、初演時にも思ったが、エピローグの落とし方が他に類を見ないほど予想外で「そう来ましたかぁ」みたいな?
異説 卒塔婆丸綺談
しゅうくりー夢
恵比寿・エコー劇場(東京都)
2010/01/28 (木) ~ 2010/02/07 (日)公演終了
満足度★★★
140分の長さを感じさせないのはさすが
卒塔婆丸に乗った海賊たちが襲った商船には政略結婚を嫌がり嫁ぎ先に向かう道中で侍女と共に姿をくらませた水戸の藩主の娘(=姫)も隠れており、そのことが海賊たちに予測できない事態をもたらし…というアクション時代劇で、幕末秘話であったりもするという娯楽作。
姫を探す側にもこの騒動を利用して成りあがろうとする者がいたり海賊たちが根城としている島には土佐弁の男が漂着したりで様々な思惑が交錯し、どんでん返しを経て秘話が秘話のままに終わった所以まで語る波乱万丈のストーリー、時に殺陣も交えて140分の長さを感じさせないのはさすが。
ただ、冒頭で主人公側たる海賊たちが商船のクルーを斬っているのがちょっと気にかかる。抜け荷だったような気もするが、斬られて当然という悪人でもあるまいに。『ハムナプトラ』でも似たようなことがあったが、これってどうよ?
一方、姫と侍女のキャラクターが良く、それゆえ「実は…」の前後とも納得できるのが巧い。
また、慶応3年11月15日の「事件」を外側から描いたというか、「京都の近江屋でアイツをヤってきた」なんて台詞をサラリと入れるのにニヤリ。
しかし当日パンフの配役欄に「才谷梅太郎」の名前があるのはある意味ネタバレ。「漂着した男」程度にしておけば、オープニングで紋を見た時あるいは劇中で名乗った時に「お~~~っっ!!!」となるのに…
sirenoye
幻想芸術集団Les Miroirs
アトリエ・カノン(東京都)
2010/01/30 (土) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
独特のムードを醸し出す
団体名の肩書きが「幻想芸術集団」で公演も「耽美童話の会」と銘打っており、詩的な台詞や衣裳・メイクから独特のムードを醸し出して、ちょっと宝塚チック、あるいは少女マンガ的な?(笑)
とか書きながら、実は一番強く感じたのはトーキーになって間もない頃の(…いやむしろ「サイレント時代の」か?)欧羅巴映画のようなオモムキ(あるいは格調とか古風な雰囲気とか)があるということ。
で、実はこれを書きながら気付いたのだけれど、オープニングや劇中で映写された映像が往年の8mmフィルム(それも経時変化により画面にノイズの入った)のようで、それと生の演技が脳内で結びついた結果なのかも?
ところでシレーヌ(セイレーン、ローレライ)の語尾に「noye」を付けるとどんな意味になるんだろう?(仏和辞典がどこかに埋もれてしまって調べられないのだ)
ノート/トーン
ミズノオト・シアターカンパニー/Ms. NO TONE Theater Company
テアトロ ド ソーニョ(東京都)
2010/01/29 (金) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
「考えるのではなく感じる」系
冒頭、授業のシーンから始まるので「銀河鉄道の夜」を連想。(「ではみなさんは…」ってね(笑))
以降はストーリーを物語るのではなく音楽と芝居のコラージュ的で、これまた「考えるのではなく感じる」系(笑)の作品、そういったことでは音楽で言えば「現代音楽」、それもミュージック・コンクレート寄りってところ?
…などと思って改めてチラシを読むと「音階に焦点をあて、感覚を可視化する試みです」とあり、さもありなん、的な。
Dragon Question!
渡辺晃プロデュース
萬劇場(東京都)
2010/01/28 (木) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
結果的には一長一短
チラシやホムペで体感ゲームの仮想現実内でのストーリーであることが明かされていたので、昨年観た2本のみならずそれ以前にも観たことのあるパターンかと思いきや、ゲーム内で現実とリンクしているのは主人公のみという設定なので内容的にはそれらとはかなり異なる感じ。
で、“裏の自分”が対戦相手で、そのイヤな部分が終盤では入れ替わりかけていて、なんて発想が見事。なんだか身につまされる…(爆)
が、「練習ステージ」の部分がやや長く、主題部分に入る(“裏の自分”が登場する)のは半分近く過ぎてからというのがちょっと全体のバランスとしてよろしくないような。(上演時間も125分だし)
さらに、ゲーム内の戦況と現実での容態(主人公は現実界では事故に遭って生死の境をさまよっているのだ)をもっとリンクさせた方が良かったのではあるまいか。せっかくの設定が今一つ活きていないようなのが惜しい。
いや、書いた量からすると批判的な部分が多いが、自分のイヤな部分を直視するという発想(そう言えば99年11月の劇団第三反抗期『うわっ!増えちゃった』もその系統で好きだった)が良くて、結果的には一長一短ってところ
The Stone Age ブライアント『胸に突き刺さった5時43分21秒』
The Stone Age ブライアント
サンモールスタジオ(東京都)
2010/01/27 (水) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
後味の悪さが斬新!(笑)
タイムマシン学校の生徒3人が校長の命を受け、卒業試験に落ち続けている者の合否を確認するために1ヶ月後の世界に送られるが…なSF風学園系物語。
その落ちこぼれが近所にある教会の落ちこぼれシスターとともに逃げ出すのではないか?な心配もさせて結局は無事合格という基本に忠実な結末…と思わせておき、実際の1ヵ月後を見せるエピローグでそれを覆すというオチに驚愕。ありがちなパターンと真逆な後味の悪さが斬新!(笑)
が、終演後に知人からかつて近鉄が優勝できなかった時のことがベースになっていると聞き、大いに納得。(言われてみれば登場人物の名前も当時の選手だし)
また、全身タイツのような迷彩ウエア(履いていた上履きの塗装は出演者がやったそうな)での光学迷彩の表現や、舞台となる公園にある龍をかたどった遊具のデザインなどが◎。
幕末異聞 夢想敗軍記
劇団パラノイア・エイジ
SPACE107(東京都)
2010/01/27 (水) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
全くのフィクションに説得力を与えて…
元新撰組十番隊組長で彰義隊に加入して上野戦争での負傷がもとで死亡したハズの原田左之助が山形の庄内藩に現れ、永倉新八も彼を追って…という「生き延びてモンゴルに渡りジンギスカンになった義経」的な物語。
そんなわけで全くのフィクションではありながら、史実や伝聞・新聞記事(永倉の得意技であった龍飛剣を若者に教える左之助とか龍馬暗殺加担説、大陸に渡って馬賊になり日清戦争にも参加したという説など)を加えることで説得力を与えるのが見事。
また、表面的には積極的に英語を使う藩士がいたりカートリッジ式の銃弾を使うライフルが登場したりすること、内容的には侍としての生き方が難しくなりつつあると示すことなどで、侍も残っていながらその時代が終わりを告げる頃(設定上は明治元年の晩秋とか)の出来事だというのが読み取れるのも巧い。
さらに「死に様ではなくいかに生きたかである」とする主張も「生きろ!」派として◎。
と、基本的にはシリアスでありつつ、登場人物の大半が話す「庄内ことば」の語感からどことなくユーモラスな雰囲気も漂い、そんなあたりはちょっと『椿三十郎』チックか?
そういえばオープニングで「あんな曲」を流す上に黒装束なこともあって左之助が時々ミフネに見えたりも…(笑)
あと、ひげがないどころか日本髪に和装の成田みわ子を目にすることができたのは貴重。(笑)
悪ノ娘
X-QUEST
東京芸術劇場 シアターウエスト(東京都)
2010/01/27 (水) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★
ズシリとした重量感アリ
原作ものとはいえ、その原作が小説やマンガではなくストーリー性のある歌(複数)ということもあって「トクナガ色」も色濃く出された(何度か上演された『色彩組曲』と近い系統だし)架空のピカレスク系大河歴史もの(やはり中世ヨーロッパ系?)で、ズシリとした重量感アリ。
しかも出演者数35人という大所帯にいつも以上に気合いの入った(笑)衣裳もあり、通常より若干高めとはいえ小劇場系の料金でこれだけのものが観られるのはおトクでは?(これを機に今後の公演がこのレベルの料金にならないことを切に祈る)
出演者と言えば、ATTやASSHも観ていた身にとって往年の「忠臣蔵映画」的な顔合わせ、みたいな?(笑)
また、旗を使ったアクションも◎。(受けるATTメンバーあってのものか?)
で、ラストはどうせならあのまま生き延びた方が「悪(と言ってイイのか?というのは置いといて)は滅びず」な皮肉が利いたのではないか?などと思ったりも…。
ただ、得意の(?)言葉遊びがあまりなかったのはちょっと残念か。
パニ・パニ・パニック
CAP企画
シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)
2010/01/26 (火) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★★★
深み・奥行きがさらに増した感じ
阪神大震災で避難所となった朝鮮人学校を中心に描いたもので、前作『人 ~サラン~』(08年2月)で描いた在日をめぐる感情・心情に震災被災者の「いたみ」や親子ネタも絡ませて、物語の深み・奥行きといったものがグッと増した感じ。ちなみに前作の7年前の出来事になるそうで、11月の第3回公演は“「人」三部作 最終章”とのことでそれにも期待。
主な登場人物の紹介となるスケッチ集的ないくつかのシーンの後に地震が起こる導入部、つぶれた家の下から助け出される人や救い出されたものの息絶えていた人などの描写が胸に迫る。
その後は中心部分である避難所での人間模様となり、どちらか一方だけを批判するのでなく、日朝それぞれに偏見があり、簡単に溝を埋めることはできなくても、少しずつでも理解していこうとすればいつかうまく行くのではないか、とするのがイイ。(それだけ問題が大きいというのもあるが)
で、終盤での悠介と父との関係に日朝および南北の関係を重ね合わせた台詞は秀逸。ここは中でも特に素晴らしい。
しかしその後の悠介の姉が語る「つぶれたケーキ」のエピソードでホロリとさせ、そこを何とかのりきったと安心させておいて、父の友人による「悠介が生まれた時の話」で追い討ちをかけるのは卑怯!(笑)
また、性同一性障害のエピソードまで盛り込んだのは欲張りすぎという気持ちと、根底に流れる「生きてゆくこと」というテーマの補強としてあった方が良いという気持ちがせめぎあってフクザツな心境になったのだけれど、しばらく後にその原因が「ここでこのような形で使ってしまうのはもったいない」「このテーマともう1つくらい何かを絡めたら1本の作品ができるのではないか」ということだったと気付いて自ら納得。
あと、クライマックスの蛍光塗料による寄せ書きと共に舞台後方に現われるイルミネーションが「人」になっているというのも◎。
シンクロナイズド・ガロア
ユニークポイント
「劇」小劇場(東京都)
2010/01/26 (火) ~ 2010/01/31 (日)公演終了
満足度★★★
そう来ましたかぁ
紹介文とタイトルから「ガロアの生涯を学生の1人になぞらえて描くのか?」と思っていたらさにあらず、「そう来ましたかぁ」というか、「まんまじゃん!」というか、なスタイルだったのにはニヤリ。
で、例によってガロアの生涯を(往路の電車内から開演直前までの付け焼刃(爆)とはいえ)wikipedia で予習したことが役に立ち、また、安田講堂への放水の図、は目に焼き付いているものの詳しくは知らなかったその発端や経緯を改めて知ることができて「手術台の上のミシンと蝙蝠傘の出会い」的な内容を楽しむ。
それにしてもガロアの生涯を劇中劇で描くとは、ヤられた…(笑)
また、「シンクロナイズ」というところまでいっているかどうかは別としてガロア謀殺と東大紛争終結の黒幕をカブらせるような描き方が上手い。
あと、ダークグレーの装置に式や言葉(当時安田講堂に書かれていたものだとか)をチョークで書きこむ(数式だけなら湯川准教授なんだが…(笑))演出も面白い。