ハンダラの観てきた!クチコミ一覧

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SPY~Reservoir Dogs~

SPY~Reservoir Dogs~

劇団Spookies

新宿シアターモリエール(東京都)

2013/04/03 (水) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★

シアターモリエールの構造
 段差が殆ど無いので、観ずらい。殊に、坐る姿勢の多い時代劇などは、この劇場で上演するのは不向きだろう。吉祥寺シアターのような劇場なら、全然問題はあるまいが。肝心な所が、前に座った人たちの頭に隠れて見えないのだ。
 とはいえ、殺陣は中々こなれていたし、敵意の無い時は、刀を右手に置くなど基本的な作法も守られている。

ネタバレBOX

 上記のような理由もあって評価はちょっと低すぎるかも知れない。だが、作家は時代を描きたかったのか、それともスパイの抱える諸々を描きたかったのか、中心が分裂してしまったようにも思えた。殊に長州に間者として潜り込んだ出海は阿片常習者であったはず。ダウン系の麻薬を散々使っていたなら、あんなに活力のあるはずは無い。目が胡乱な点まで、現代日本の若手役者に演じろとは言わないが、せめて涎を垂らすなど、禁断症状の一場面位は入れても良かったのではあるまいか? スパイを中心に据えるのであれば、その程度の落差は演出した方が効果的であったと思う。
 群像劇として描くのであれば、様式的な踊りは不要であろう。もっと黒船の脅威をハッキリさせた上で、英仏が日本を植民地化しようとしていたことも含め、内戦の迷走への危機感を背後に感じさせることが必要であったと思われる。その上でなら、土方と中岡の密会も更に面白いものになったであろう。
つきあたりを見上げれば…【無事に終演致しました。ご来場頂きありがとうございました!】

つきあたりを見上げれば…【無事に終演致しました。ご来場頂きありがとうございました!】

劇団宇宙キャンパス

吉祥寺シアター(東京都)

2013/04/04 (木) ~ 2013/04/10 (水)公演終了

満足度★★★★★

爽やか
 多少、羽目を外した経験を持つ者なら誰しも、心の中に持っているであろう。懐かしい、大切で、壊れやすい人間関係を育んで居た店に起こるてんやわんやを描いた作品。起こっている何やかやは、かなり非日常的なことなのだが、それらをカラッとしたタッチで描き、テンポも頗るつきで良い。爽やかな青春グラフティーだ。
 演技、キャラのタチ、演出、舞台美術など見どころ満載。

ネタバレBOX

  “うんこ”が、定位置に居続けるという設定、演出が面白い。“うんこ”はこの店の常連客である彼の綽名だが、いつも端っこの席に座って風俗誌を読み耽っているというキャラクターだ。基本的に居るだけである。綽名の由来は、彼が手洗いに立った後は必ず、うんこがはみ出していることからつけられた。目立たないのだが、居続けることが、この店で起こる、ちょっと突飛な出来事を、それらしくみせる重しになっているのだ。
 店の名前はエーデルワイス。喫茶店である。花言葉に因んでオーナーが名付けた。繁華街の外れ、突き当たりにあるので、客層は、かなり特殊だ。お笑い芸人を目指す者、風俗嬢、ギャル、ホスト、オカマ、ケツ持ちのヤクザ等々。客の共通点は、この店が大好きだということ。然し、経営は若干の赤字。オーナーの道楽でやっているような店なのである。
 皆に愛されている店が急に閉められることになった。日本最大の暴力団が、店を買収したのである。繁華街の近くで、長年皆に親しまれて来、ひっそりと佇んでいるような目立たない店を表向きにダーティーな新商売を始めようと目論んでのことである。
 常連達が、結束。買収ヤクザ相手に、何とか店を守ろうとするが、法的には、相手が有利。ケツ持ちのヤクザ達も組織の力が違い過ぎてどうにもならない。然し・・・(ここから先は劇場で観て頂きたい)
ホイッスル・イン・ザ・ダーク

ホイッスル・イン・ザ・ダーク

劇団俳小

シアターグリーン BOX in BOX THEATER(東京都)

2013/04/03 (水) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★

何を想像するか
 アイルランドの気違いじみた一家族の物語。他のファミリーとの抗争を背景にイングランドとの確執を描いた作品だが、トマス・マーフィーが、何故、このような作品を描いたのかを想像してみた。タイトルも意味深長である。

ネタバレBOX

 現在の世界の国際紛争は、英国の植民地支配による悪影響が原因となっているものが、殆ど総てと言っても良い。無論、フランスもかなり関与している。幾つか例を挙げれば、パレスチナ問題は、英国の三枚舌外交が齎した結果だし、インド、パキスタン、バングラデッシュ問題、フォークランド問題、イラク、クウェート問題、シリア、レバノン問題等々、枚挙にいとまが無い。第二次世界大戦後で言えば、アメリカが世界の悪をイギリスから引き継いだわけだ。
 一方、名誉革命など、革命とは名ばかりの表層再編で、為政者の権力維持はそのままに、勃興した新興勢力たるブルジョアジーを取り込んで懐柔しただけの茶番がまかり通るのもイギリス流というわけであろう。大衆のガス抜きには、談論風発の議論をさせるなど、中々にしたたかではあるものの、狡猾そのものでもあるようなブリテンに対し、アイルランドは、矢張り被支配、被差別の関係に置かれて来たと言ってよかろう。 
 このような背景を考えなければカーニー家の気違いじみた振る舞いは理解し難いのではないだろうか? 即ち、ここに在るのは、支配・被支配と差別の関係である。そのことが、人々個々人の生活にも歪を齎しているのだ。
 因みにアメリカに渡ったケネディー家は、アイルランド系であるが、競争するとなれば、例え兄弟同志であっても一切手加減を加えず、時には大怪我をするようなこともあったと言う。英国を引き継いだアメリカで、それほど、自らを奮い立たせることによってしか、他者に対抗できないと考えることこそ、アイルランド的と言い得、そのようにしてしかイングランドに対抗し得ないのであったとしたら、またIRAの長い抵抗運動を見るならば、そこでこそ、この作品の意味する所が見えてくるのではないだろうか。
うそつき

うそつき

踊れ場

RAFT(東京都)

2013/04/03 (水) ~ 2013/04/08 (月)公演終了

満足度★★★

静脈バージョン
 会場のサイズを考えながら科白を言って欲しい。がなり立てる必要は無いにも関わらず、何故、そんなに大声を出すのか? その辺りの配慮は役者のみならず、演出も気付くべきだろう。ギーコ役は特に不必要に大きい声で喋った。また、開始早々、ナイルとスランプは、サングラスを掛けているが、あれも必然性はあるまい。砂漠を象徴するのであれば、ずっと使用しているべきである。

ネタバレBOX

  ギーコ、スランプ、ナイル、三人が暮らすカルタゴ・ノヴァは、カルタゴの町外れにあるガソリンスタンド兼軽食屋だ。スランプの作るクッキーは評判が良い。
 然し、カルタゴは隣国と数次に亘る戦争をしてきた。ここ数年、沈静化していたが、またもやきな臭い臭いが立ち込めてきた。そんな折も折、ギーコを訪ねて板垣という男がやって来た。貸していた金を返して欲しいと言うのだが、偶々、ギーコは不在で板垣と名乗る男の言っていることが本当かどうかも分からない。そうこうしているうちにギーコが帰ってくるが、板垣の顔を知らない、と言う。板垣は、自分の顔が変わった理由を説明するが。
 10年前、アメリカがイラク戦争を開始するにあたり、大量破壊兵器を持っていないことを証明せよ、と迫ったことがあった。それと似た問いを板垣は突きつけられているのだなどと考えながら観た。
人魚の薬 -雲の上編 海の底編-

人魚の薬 -雲の上編 海の底編-

たすいち

シアター風姿花伝(東京都)

2013/04/01 (月) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★

雲の上編(過去)
 雲の上編【過去】を拝見。基本的には赤井家の娘、花の成長記だ。そこに、人魚と人魚に100年前助けられた女が絡んでくるのだが、序盤で、この関係を繋ぐ有機的連関が描かれなかった点で、観客の興味は醒めかけてしまった。奇天烈な発想なのだからこの点は、きちんと序盤で示しておくべきだろう。
 一方、中盤以降は前記の不手際にも拘わらず、まずまずの展開を見せた。ところで、ホムンキュロスが自らの出自を語る場面で、シナリオの間違いか役者の言い間違いかは分からないが、明らかに間違った日本語を使っていた、語尾の活用を間違えていたと記憶している。こういう点は些細であっても気をつけて欲しい。

シュワロヴィッツの魔法使い

シュワロヴィッツの魔法使い

メガバックスコレクション

阿佐ヶ谷アルシェ(東京都)

2013/03/29 (金) ~ 2013/04/07 (日)公演終了

満足度★★★★

優れた脚本、演出
 謎が幾層にも重ねられ、其々に底意があって、劇の進展に応じて一つずつ明かされてゆくので、観客は推理を楽しむことができ、飽きさせない。
口上役の、劇にぴったり嵌った述べ方が良い。声の質、音量も適切で上手い。シナリオがしっかりしており、論理的で説得力がある。役者間の連携が良いので何故かと思っていたら、舞台セットの埠頭部分は、劇団員皆で作ったという。それで、息が合っているのだ、と納得した。
今回、拝見した作品は、魔法使い4世代、2000年に亘る歴史の一部分ということである。他のパートも是非観たい。そう思わせる内容であった。

 難破船が、シュワロヴィッツの島に漂着した。乗組員を上陸させるか否か。一悶着あるが、武器を預け、埠頭からは出ないことを条件に島民は、乗組員の上陸を認める。だが、島民たちには、秘密があった。そして、船が遭難したのも、実は、呼び寄せられたのだ、と言う。誰が、何の為に。
更に、物語が進行するに連れて、一つ、また一つ、と真実が明らかにされてゆく。そのどれもが、奇想天外である。謎を明かせば観劇の楽しみを著しく損なうので種明かしはしない。だが、実に手の込んだ、面白くまた、筋の通った作品である。

ゼガヒデモ

ゼガヒデモ

Guesspell Project

新宿シアター・ミラクル(東京都)

2013/03/27 (水) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

視覚的
 非バージョンを観た。お笑いというと、自分達の世代はもっと言語感覚に訴えるものを想像していたが、TVの影響だろうか。視覚的要素が強い。川柳や狂歌を下敷きにしたような、言語センスを活かした作品が極端に少ないのも、或いはこのような伝統芸と対峙するような芸が見られなかったのも、芸人の振りをしてはいても、漫然と受け身で生きていて、ものをキチンと見もしなければ聞いてもいないので、ただ流行りの視覚的遊戯に埋没し、過去の作品を活かし現在をも活かしむるような作品が上がってこないのだろう。
 落ちが丸見えという笑いにならないレベルのものも多く、これで、芸というのはいかがなものか? とは思う。
 ストーリーのある演劇仕立ての作品も、一定、言いたいことを表しているし、その志も分からなくは無いのだが、こちらも、視覚的要素やアクションに安易に逃れ、伝統的な笑いの芸や過去の偉大な作品に通暁していないので、対決もしていない。その結果、芸が浅い。

その字 美し 麗しの君

その字 美し 麗しの君

天丼

吉祥寺櫂スタジオ(東京都)

2013/03/29 (金) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

タイトルに秘められた意味は最後に明かされる
 犯罪者と罪を犯したか否かの自覚の無い冤罪犯の物語に筋の通った紳士協定が成立、それが最後迄守られた清々しいシナリオと隋所に鏤められた嫌みの無いギャグ。演技も自然で、芝居として“嘘”を真実味に転化し得ている。無駄な装飾を省いた舞台美術も良い。
 役者たちが、一所懸命に芸を追求している姿が好ましい。また、スタッフの対応も非常に感じの良いものであった。

ネタバレBOX

 少年刑務所には、ある噂があった。赤封と呼ばれる封筒が送りつけられた者は島流しに逢うというのだ。無論、誰にも、誰が何の目的で、無作為に誰かを選び、島流しにするのかは分からない。而も、流された先でどんな扱いを受けるのか、先に行かされた者はどうなったのか? 等々分からないことばかりだから、余計不安が募るのだ。今回特別房に集められたのは5人。定員オーバーの東西南北の各棟から一人ずつと少年院から送致された一人である。監守も居なければ作業もない、おまけに一人一台ずつのベッドもある。人数の割に広い等々良い所づくめだ。然し、彼らは1週間の間に、誰かが志願するか、或いは選出されない限り全員島送りになるのである。無論、誰一人、どうなるかも知れない所へなぞ行きたがらない。一方、囚われの身である以上、一人は期限までに送らなければならないのだ。
 致し方なく、5人は、対策を立てる為に会議を開き知恵を絞る。そこで決められた約束事は、事実を膨らませたり嘘を交えず話すこと。秘密を持たないことである。こうして話し合いを進めるうち、一つだけ合理的な答えが出たように思われた。その答えとは、各棟とも定員オーバーの所へ少年院から一人送致されて来たので、もうこれ以上、収容できない。それで、誰か一人を島流しにすれば問題は解決、少なくとも今迄の状態に保てる、というものであった。この答えは、皆に支持された。他にも様々な隠し事が明らかになる。例えば、情報屋が、他人の荷物を漁ることで情報を得ていること、ヤクザがアイドルの追っかけをやったりしていたことなどだ。が、少年院から送致されて来た者は冤罪の可能性が出て来た。彼は放火犯として、状況証拠を基に逮捕されたのだが、その時の記憶が殆ど無い。従って自分がやったのかどうかも定かでは無いのであった。彼は、その日、文通相手の女友達と駅の改札口で会う約束をしていたのだが、会う前に逮捕されてしまった。そして、彼が逮捕された、その日、その時には、大規模な停電事件があったのだった。 1時間ほども停電をし、大きな爆発音がしたので、街に居た者は誰もが3年前のその日を覚えて居た。偶々、ここに居る、他の4人もその日、火事現場近くに居たのであった。ひょっとしたら、彼の無実を証明できるかも知れない。犯罪者たちは協力して無実の可能性に挑んでゆく。
オムニバス読み芝居【パンドラ童話集1】

オムニバス読み芝居【パンドラ童話集1】

表現集団ATP

レンタルスペースさくら・原宿(東京都)

2013/03/29 (金) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

もう少し鍛錬が必要
 三つの作品のリーディング。“呪われ姫君”“踊る道化師”では、リーダー達の背後に設えられたスクリーンにイマージュが投影される仕組みだ。“紅色遊戯盤”はリーダーのみである。

ネタバレBOX

呪われ姫君
 出生時、国中から集められた12人の魔法使いによって幸福の条件たる、知恵、美貌、魔力、長寿、健康、技能、誰からも愛される運命などを受け取った姫であったが、長ずるに及んで、これらの要素故に、城の高い塔に幽閉されてしまう。余りに言い寄る者が多かった為である。而も、長い間、父王を除いて彼女に会う者は一人の無いと言う有り様。その父も姫の下を訪れなくなると、今度は妃が姫の食事を運ぶようになった。而も妃は姫の食事に毒を盛ったのである。だが、誕生の折りに掛けられた魔法で姫は死ぬこともできない。そのうち、姫を求める男達の数は、王国の軍隊を凌ぐまでになり、クーデターが起こって姫は塔から解放されるが、最初の夫になった小国の王は、寄り大きな国に攻められて破れ、姫を奪われる。その後も、更に大きな国の王が姫を手に入れる為に、姫の居る国を攻め滅ぼしては、姫を手に入れて、姫は、一か所に一月も安住することができなかった。一番、強い国の王の妃となった後も、大泥棒にかどわかされてその妻となり、その後は、勇士に助けられてその妻となるが有為転変は変わらなかった。終に姫は、逃亡を図り、人々が恐れて近付かない森に居を構え、魔法を使って結界を幾重にも張り巡らせた。その結果、人はこの森に入ることはなくなり、平穏な生活を送っていたが、ある時、一人に成年が、姫の結界を軽々と破り、侵入してくる。彼こそ、
12番目の魔法使いであった。
 踊る道化師
既に栄える時期を過ぎ、滅びようとしている世界に笑いを齎す道化兄弟が居た。彼らは世界中を回り、笑顔を人々に呼び戻していたが。ある日芽を覚ました弟が見たものは
紅色遊戯盤
 基本的には、子供と母とのゲームという設定だ。但し、ゲームの中で戦うのは、神と魔女。神の軍団には、天使が居り、魔女の軍団には悪魔が居る。即ち、為政者は誰も傷つかぬどころか、ゲームを楽しんでいるだけなのであり、其処で生き死にする者達は、天使と呼ばれようが、悪魔と呼ばれようが所詮駒に過ぎない。そのことに、抗議する内容になっている。その効果を高める為に、魔女の長男ロゴスは、神の軍団の天使長とされ、母との確執に振り回されるべき存在として描かれる。同時に、末っ子のゼロスは母魔女のお気に入りであり、長男は、この事実を肯じ得ない。心理的葛藤も描かれる。然し、闘いの基本構造が神と悪魔という、一神教にとって最も大きく普遍的なテーマであるだけに、この程度の物語構造では、言いたい事充分に描けない。何となれば、神と魔女・悪魔の戦いが永遠に続く原因は、今作品に言及されていることが原因なのではなく、神が自らの本質的属性、善を証明する為に対立概念としての悪を必須とするからであり、人が神を創造した以上、人に対してそれを証明し続けなければならないからだ。
国家~偽伝、桓武と最澄とその時代~

国家~偽伝、桓武と最澄とその時代~

アロッタファジャイナ

新国立劇場 小劇場 THE PIT(東京都)

2013/03/27 (水) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

遷都の彼方に見えるもの
 最澄、桓武の改革を縦軸に、改革に反対する旧勢力との角遂を横軸に、時代の現実と理想実現の困難を描いて見せた。役作りは役者自身の掘り下げ、関係の把握を基本にしており、為り為りて成った形が、舞台上の表現というわけだ。色々な意味で力業である。

ネタバレBOX

 演出の技術レベルに対して、未だ若い役者達の自然な演技を引き出す為には致し方の無い方法であったかと思う。最澄役の遠藤 雄弥、桓武役の河合 龍之介は上手い。高い理想を理解せず、己の利害得失に腐心し俗世の権力に拘泥する墨染の衣を纏った衆生、我執や恩讐の頸木を逃れられず、他者を不幸に巻き込んで行く修道僧、遷都を巡る改革者と旧勢力。力無き民と統べる者。生きる苦難を前に、人は他者を救うことができるか? という難問。この問いに応える為に立ち上がった二人の人物、最澄と桓武。
 為そうとして為し得ぬ理想同様、思惑通りに実現できた部分は少ない。然し、だからこそ、単に国家変革というのみならず、理想実現の為には深い知恵と忍耐、揺るぎの無い志と同志、そして意思を継ぐ人材を生み出す為の時が必要であることを描きだし得たのではないか。その為に作・演出の松枝が取った方法は、芋である。最澄を描く為には、桓武を、桓武を描く為には、旧勢力を、という具合に芋づる式に時代を描いたのだ。その為、最澄と桓武が出会い、生涯の盟友として、互いの真価を認め合うシーンは、圧巻である。然し乍ら、この方法が持つ拡散というベクトルは中盤以降、劇的な収束力を弱める結果にもなった。
 劇的効果という側面に絞って言えば、ホメロスの叙事詩、“イーリアス”のような強烈な個性を中心に据えたままで、最後迄引っ張るか、時代を牽引する何か絶対的なものを最後迄隠しておくようなテクニックが必要であろう。秘すれば花なりだ。或いは、演出で役者の素を出させることと同様に、T.P.O.に応じて自ら持って生まれた自然の性(男なら男、女なら女)を殺すことによって滲みだす男の中の女性性、女の中の男性性というレベルを要求しても良かったのではあるまいか。もとより、生き残りは至難の技というのは、舞台に関わる者総ての認識であろう。高いものを目指さねばならない。それも一時ではなく生涯に亘ってである。
ご飯の時間

ご飯の時間

玉田企画

アトリエ春風舎(東京都)

2013/03/27 (水) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

地方の雰囲気も夫婦の茶の間から見える
 宗次朗役の玉田 真也が上手い。また、宗次朗の兄、圭太郎はだらしないが、自分が飲み食いしたい時に誰か他に人がいれば、必ずその人数分の飲み物などを持ってくるなど憎めない部分も上手に出し、リアリティーを持たせている。場の設定も良く、演技、演出、大道具は、ストーリー展開に過不足なく対応し、宗次朗の妻、佐江子の几帳面な性格と圭太郎のだらしなさとが、小道具の使い方で見事に表現されているなど、小道具も効果的に使われている。無論、場面転換の際の照明の用い方、音響効果についても効果的だ。

ネタバレBOX

 教師をしている宗次郎と妻の家庭に10年間音沙汰の無かった兄が転がり込んできた。母の葬式にも出ず、宗次朗たちの結婚式にも出席しなかった兄である。2~3日と言っていたのが、ずるずる居候し、碌に働きもしない。引っ越しのバイトをした翌日は筋肉痛になるから休み、と自主的に休んでしまう体たらくである。おまけに、鼻をかんでは塵紙を其処らにほっぽり投げて片付けもしない。世話になっているのに、自分の食事代も入れなければ、食器を洗うでも無い。部屋にある漫画や本などを寝そべって読んでいる。冷蔵庫にあるものは勝手に持ち出して来て食べ、容器や食べカスの片付けも一切しない。
 ところで宗次朗の妻佐江子は几帳面で、こんな、義兄、圭太郎のだらしなさが我慢できない。然し、宗次朗は、中々きちんと注意することができない。そうこうしているうちに、圭太郎は、女友達を連れてくる。車を乗り回す。終に事故を起こして車を大破させた。これには流石に宗次朗も堪忍袋の緒を切らし、兄に出てゆくように言い渡す。
 翌日、出て行った兄だが、2カ月後、東京の兄の友人が訪ねて来た。圭太郎が1カ月前から失踪したと言うのである。宗次朗達は、10年、何も音沙汰なしの経験があったので、この点については楽観していたが、友人、唐沢は、圭太郎がかなりの額の借金をしていたのを見付けた、とサラ金などの借用書を見せる。連帯保証人の名には宗次朗の名が書かれていた。
俺がヤギでもその手紙だけは食えない

俺がヤギでもその手紙だけは食えない

GORE GORE GIRLS

王子小劇場(東京都)

2013/03/28 (木) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★

ロック
 自分はロックを自意識の崩壊する音だと捉えてきた。ジミヘンやジャニスなど天才ロッカーが生きていた時代、自分もロックを良く聴き、ライブハウスのスーパースターだった友人のライブに招待されて行っていた。そこで見たものは、ジミヘンやジャニスよろしく、地を這うような生き様に似た、自滅への彷徨だった。即ち、Lを含む麻薬、薬や、シンナーなどでラリっている多くの同世代だった。戦争に駆り立てられて罪も無い者を殺すより自滅する道を選んだ多くの若者、と言えば格好良すぎるだろうが、ベトナム戦争真っ只中、世界中で学生運動が燃え上がり、大人たちの既成社会に対して反抗し乍ら、同時に自らをも傷つけずには居られなかった世代から見ると、”オヤジ”という下らないレッテル貼りに一喜一憂するこの作品の登場人物は、浅く感じられる。

【ご観劇ありがとうございました!】うわさの家族

【ご観劇ありがとうございました!】うわさの家族

enji

OFF OFFシアター(東京都)

2013/03/27 (水) ~ 2013/04/02 (火)公演終了

満足度★★★★

面白い
 よく練られたシナリオだ。導入部、暗転の最中に音声のスピードを徐々に上げておかしさを演出した音響、照明などの効果も良い。大道具も良く作ってある。役者の演技もややアップテンポで、物語の性格に合っている。推理の要素が入っているので飽きさせない。トリックスターのように箍を外しにくる変なおばさん、門田の登場で上手く隙間が出来ていて、必要以上に深刻にならないように計算されている。また、舞台セットが正面奥の額縁舞台、もう一つが、手前の通常舞台の二重構造になっており、この二重構造を利用して、額縁舞台の方には、TV番組が映るのだが、番組のコンテンツ総てを実際の役者が演じており、手前の通常舞台で演じられることと、TV番組の内容がリンクしたりしていることもあって、推理仕立てのこの作品の、犯罪の内容説明や事件示唆などが自然に感じられる。おまけに、3次元用の眼鏡を掛けるとTVの登場人物達が、通常の舞台に飛び出してくる。

ネタバレBOX

 鈴木家の息子は、少女誘拐殺人事件の犯人かも知れない。息子が、友人宅に泊まると嘘をついていたこと、被害者の映った写真や、死体遺棄現場地図、犯行に使われたと考えられる凶器の形状をした血染めの鑿や衣類が息子の部屋から見付かるなど、情況証拠は、どんどん出てくる。それは、息子が犯人であると示唆するものばかりだ。やっと見付けた無実の証明、15歳の息子は免許を取れないし、バイクを見たことも無い。ということにも幾つもの反証が上がる。おまけに姉と結婚している警察官、岩瀬と岩瀬家の息子迄、訪ねて来た。警察官は、仕事柄、玄関にある鈴木家の息子の靴までチェックしている。少女誘拐殺人事件犯人の履いている靴と同じだ、と言うのだ。途中、物語が、如何に展開するかは、観てのお楽しみだが、最後迄、犯人と疑われる息子が登場しない点も、スリリングであり、登場の際、大きなマスクをしているのも不気味で良い。ラストでは、舞台の二重構造が活きる。


一方向

一方向

OM-2

日暮里サニーホール(東京都)

2013/03/23 (土) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★

詰めが甘い
 同心円状に描かれた文様と裸舞台を見て、パフォーマンスに近い公演になることは容易に推測がついた。
 

ネタバレBOX

 が、バミの同心円を使ってするパフォーマンスでは、長いコードの先に電球をつけて振り回したりするので、観客席にも緊張感があった。
 一応、パートに分かれているので、それを構成と見れば、構成になっている。但し、それぞれが有機的に関連しているわけではない。
 第一パートのパフォーマンスで、パフォーマーが床を踏み鳴らすシーンがあったが、パーカッションが同期していなかった。外すのであれば、絶妙のセンスを持ったパーカッショニストに演奏させるか、もっと緻密な計算の上でずらして欲しい。今回は唯、拍子抜けするだけであった。
 また、Q&Aで客席に座った女優が舞台に入るシーンがあったが、質問を発した時点で先がミエミエでは芸が無い。
 一方向というタイトルでそれに拘った科白もありながら、舞台構造がそうなっていないのは、如何にも不自然。
 2番目のパートで、ホロコースト被害者にロマ族が挙げられていなかったのも片手落ちであろう。
 最後のパートでは、俳優が出捌け口に向かって科白を言っている場面があったが、全周に観客がいるのだから、科白を無化する演出的意図が無い限り、ああいったべシャリはまずかろう。
 全体として詰めが甘い。個々のパフォーマーの身体鍛錬レベルでは高い者もいるのだが、もう少し、緻密な演出を、デカルト流身体論では無いレベルで構築して欲しいのだ。
『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!

『熱狂』『あの記憶の記録』ご来場ありがとうございました!次回は9月!

劇団チョコレートケーキ

サンモールスタジオ(東京都)

2013/03/23 (土) ~ 2013/03/31 (日)公演終了

満足度★★★★

熱狂する者を見ているとシラケル
 ワイマール憲法が骨抜きにされた過程、ナチス内内部の権力闘争とヒトラー個人の資質、翼賛体制になってしまった後の容易ならざる不可逆性など、考えさせられる要素も多かった。また、第一次世界大戦以後、過大な賠償金を課されたドイツのハイパーインフレと庶民の成果苦の中で、ヒトラー演説の持った力の大きさは、恐らく我々の想像を遥かに超えるものであっただろうことも考慮する必要があるだろうが、ヒトラーの方法は、誰も見通せない未来にナチスの在るべき姿を描き、それを根拠に論を展開したことにあるように思われる。そういう意味では、計画経済を立て、それを実行してゆくことが最も合理的だと考えた社会主義国の発想と本質的に近い。そんなことを発見できたことも収穫であった。  


ネタバレBOX

 ヒトラーのしぐさなども随分研究したとか。ハイルヒトラーなどの敬礼も最初は気恥ずかしいのに、練習を続けてゆくと気持ちよくなってくるという話を聞くと、やはり気味が悪い。
『恋人たちの短い夜』

『恋人たちの短い夜』

東京ロックンパラダイス

シアターブラッツ(東京都)

2013/03/22 (金) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★

抜群のシナリオ
 これぞ、会話の醍醐味と、思わず言わしめるほど素晴らしいシナリオ。これを息のあった役者2人が好演する。その呼吸は、観てのお愉しみだ。

負傷者16人

負傷者16人

かべにぶつかるたまごの会

あきゅらいず美養品 森の楽校(東京都)

2013/03/22 (金) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★

マフムードの背景にあるもの
以下は、毎週非暴力抵抗運動を続けているパレスチナの農村の若者が、イスラエル兵士に惨殺された模様を書いた自作の詩だ。マフムードの背景にあるものの、参考までにと上梓する。また、タイトルの”ぞうさん”は惨殺された若者のあだ名。体が大きかったのでこのあだ名がある。

ぞうさん
ぞうさん あなたは その おおきな からだで たこをあげていたね
ちいさな むらの こどもたちの わのなかを ちょうちょのように まっていた
おっと こどもを うばわれ 
ひとりやむ おばあさんの くらい へやを
あなたの おおきく あたたかい からだ と はじける えがおで
とびまわった

なぜ ぼくは かこけいでかたらなければ ならない
もじが かすむ くもって みえない

しはいされるものに むずかしい じせいを
いまは まだ なのることさえはばかられる みんぞくに
ときに あなたは せまった

ひぼうりょくこうぎこうどうの さいぜんれつで きけんなこうげきにさらされながら
ほかのなかまを あなたの おおきな こころ と 
それに くらべて ちいさな からだで まもった おおきな おとこ

それで あなたの あだなは ぞうさん だった

なぜ ぼくは かこけいで かたらなければならない

にせんくねん しがつじゅうしちにち
あなたは いちども かかしたことのない 
こうぎこうどうの さいせんたん に いた
いつもの ように

そこにゆくまえ あなたは むらの おばあさん に
おはよう を いいに ゆき
たった ひとり の あに を ころされ
みずから も きず ついた しょうじょ の ために
ちぇっくぽいんと を こえて
いちりんの ばらを かい しょうじょをみまった

まとわりつく こどもたちと あそび
なかまと みずぎせるを すって
こうぎに きた

なぜ ぼくは かこけいで かたらなければならない


へいしたちが すいへいうち を し
ひみつけいさつが すぱいかつどうを くりかえし
てきの きょうりょくしゃ が 
ぐんじこうどうの ひきがね を ひくために
その ひとごろしを せいとうか する ために
まぎれこむ ことを 
こしたんたん と ねらって いる

そのなかで あなたは よびかけていたね

なぜ ぼくは かこけいで かたらなければならない

こんなんな じせい を 
あなたの いまは まだ 
みずからの みんぞくの なを なのることさえ はばかられる なかまに

てきの もくぜんで

そのときだ やぎ(ひつじ)が はいってきたのは
てき と あなたのあいだに

とうせきすらしていないが こうぎする あなたがた と
すいへいうちを やめない へいしたち の あいだに

あなたは うつな と
いいつづけていた やぎ(ひつじ)がいるんだ と
へぶらいごで

あなたがた のうみんにとって
いのちを かけて まもるべき 
なにも 
いまは もたない
とちを うばわれた 
のうみんに とって
たった いっぴきのやぎ(ひつじ)が
どれだけ おおきな いみを もつか
へいしたちにも わかった はずだ

だが へいしは うった

ぞうさんの ひだりむね を ねらって
かれの てきにさえ すかれて きた
あたたかい こころを
へいしのつみを たえがたい ものに したから

いっぱつ 
たった いっぱつ
しきんきょりからの
しんがたさいるいだんによる
そげきが 

おおきな おおきな こころに
たった ひとつ ちいさな あな を あけた

ぼくは なぜ かこけいで かたらなければ ならない

ちいさな さいるいだん が おおきな こころを ころしたあとにも
ちいさな むらに 
あさは きた
ひとびとの こころには
わらいが たえたように おもわれた

わらい が うしなわれたことの いみは わからなかった
はじめ 
むらの ひとびとは
まいにちの くるしみの なかで わらい の いみしたものが

だが ほどなく むらのものぜんいんが
うしなったものの おおきさに きづいた

なぜ ぼくは かこけいで かたらなければばならない

ぞうさん が なくなった 
よくじつ
へぶらいご を あやつる ひとびとの “くに” でも

ぞうさんぎゃくさつ に こうぎ する こうどう が あった

しかも このような へぶらいびと は まだ まれである

ちからで おさえつけることで 
みずからの はんえい を おうかするものは
みずからの つみから のがれるために
はじめに じぶん を あざむく
あとは うそを ぬりかためるのに いそがしい
“じぶん”たちが どれだけ おおきな
おおくの たいせつな ものを うしなったかを
きょえい で つつむ

ところで ぞうさん こころやさしい ゆうしゃ
ばっさむ いぶらひむ 
らはま の おとうさん

これが 
あなたを
いたむ
うただ

あなたを かこけいで かたらぬ ために

ぞうさん 
あなたの えがおを 
しいたげられたもの すべてのうえに
わけへだてなく
ふりそそぐ
ひかり の みなもととして
いま
われわれが ひきつぐ
ぞうさん
ぞうさん
あなたは 
みもしらぬ わたしのこころにさえ
ほのおのたねを まいた
どんなに しいたげられても
どんなに おおいかくされても
けっして きえることも とだえることもない ほのおのたねを

このたねは おおきな ぞうさんに にあわず
とてもちいさい 
ちいさすぎて ひとつ ひとつでは
ほたるのともす あかりにすら 
およばない

しかし
この ほのおのたねは
ひとびとの こころのおくに
ふかく しずかに
そして
ちゃくじつに
ね を おろして いる

ぞうさん
いつか
あなたのように おおきく
あなたを こえて 
さらに おおきく なってゆくさまが
わたしには みえる

だから
ぞうさん
あなたは
やすらかに
ねむりに
ついて
いいよ 

あなたの あげた たこが
わたしたちの こころのなかに あり
わたしたちが きぼうを すてないかぎり
あなたは わたしたちの ゆめを つかさどるのだから

ぞうさん
あなたの うえに とじた そら
ぼくたちは そこから はじめる
はじめるより ほか 
ないのだ

ぞうさん


へたくそな字たち※無事公演終了致しました!ありがとうございました!

へたくそな字たち※無事公演終了致しました!ありがとうございました!

TOKYOハンバーグ

ワーサルシアター(東京都)

2013/03/20 (水) ~ 2013/03/25 (月)公演終了

満足度★★★★

この国の真実と官僚というヒトデナシ
 舞台正面の黒板に、ハングル、漢字、日本語などで文字が書かれている。1988~9年頃、大田区糀谷の夜間中学が舞台である。息子に連れられて50過ぎの女性が、夜間中学の先生に面会にくるシーンから始まるが、彼女は挨拶時、腰を酷く深く折り曲げる。実際、自分がほぼ同時代東京の夜間中学の生徒さんとお会いした時の体験にも重なる。異様なほど腰が低いのだ。その様は、まるで自分が生きていること自体を恥じ入ってでもいるような、消えてしまいたいと願ってでもいるような幽けき姿であった。

ネタバレBOX

 コンプレックスというのが、単に劣等感という訳で片付いて仕舞うようなものではなく、当に社会的な矛盾が総て、最も弱い者に掛かってゆき、それに押し潰されそうな生き方を強いられて来た方々の全身から滲みでるような命の形が、こういう所作に現れる。
 文科省は、国民皆教育の立場から識字率100%を、主張、夜間中学の必要性を正式に認めなかった。目の前にある事実とは無関係。認識しようとすらしない朴念仁だったが、その姿は今、3.12以降の被曝問題に対する、現役の官僚の対応と変わる所が無い。こういう連中をヒトデナシと言うのだ。彼らは、官僚という名の鵺であり、官僚より前に人であることを忘れた存在であるから、ヒトデナシというのが正しかろう。そういう彼らの態度が、夜間中学生の社会的位置を“宙ぶらりん”のままにするのだ。ヒトデナシの都合で人が、宙吊りのまま放置されている。これを黙認と言うそうである。
 社会の根幹である教育が、その実施を実際的に担うべき官僚の手によって蔑ろにされ、ただでさえ資本主義の矛盾の生贄とされてきた社会的弱者のアイデンティファイを拒んでいる。一方、資本主義という体制のアポリアとして、この根幹の空白地帯に弱者の吹き溜まる構造があるとすれば、その場所の一つは間違いなく夜間中学であろう。字が読めない、字が書けないということが、この国にあって何を意味するか? その意味する所を抉りだすこと、抉りだされた内臓のようにひくひく蠢く柔らかく傷つきやすい傷口を、観客の目の前に提示することが求められている。何故なら、夜間中学があることさえ、多くの日本人は、知らないで済ませているからだ。敢えてするこの鈍感は、平和ボケだの、名ばかり~だのと同根のまやかしに過ぎない。まやかし、バイアスなしに事実の持つ凄惨を見て耐え、真実に昇華することが求められていると言えるのだ。
 この作品の良さは、こういった、この国の隠したい部分を、真っ向から、かなり真実に迫る形で演劇化した点にある。よく取材して、その本質を形象化している。役者達も、社会の矛盾を自らの内側から捉えて演ずる者が多く好感が持てた。
THE SHOW MUST GO ON!!

THE SHOW MUST GO ON!!

劇団天動虫

要町アトリエ第七秘密基地(東京都)

2013/03/20 (水) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★

歌舞く 力強さ
 最初の35分くらいを観ることができなかったのだが、観はじめた所はお国歌舞伎のヒットから時は下って、舞台は三代目の時代。三代目は襲名したものの、彼女に才能は無く、お国歌舞伎の名を支えたのは観世流宗家の血を引く娘と十郎という役者の二大看板である。両名とも方法は異なるものの時代を歌舞き、本性を歌舞き、また常識を歌舞いて芸の肥しにすることに長けており、京でも評判を呼ぶ。
 然し、幕府の禁令により、女は舞台に立つことが出来なくなった。観世の娘は舞台を去り、十郎も江戸へ下って一派を起こす。

ネタバレBOX

 芸能の本質は歌舞くことにある。その本質を追究するに当たって命を賭け、世間体も何もかなぐり捨てて、芸の狂を極めようとする生き様に共感する。その社会的位置が河原者という被差別者であることにも。恐らく、美もまた狂乱にある。
かっぽれ!〜春〜

かっぽれ!〜春〜

green flowers

テアトルBONBON(東京都)

2013/03/20 (水) ~ 2013/03/24 (日)公演終了

満足度★★★★

洒脱
 ”活惚”漢字で書くとこうなるそうだ。このキーワードが、“かっぽれる”となると激しく恋するという意味になるとか。落語界へ戻ることになった鈴木と見習い、まりの将来のカップリングを暗示していることを感じさせるような内容になっていると同時に、芸道の厳しさも描かれ楽しみながら同時に引き締まった側面を持った洒脱な舞台だ。

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