nらoむkれe〜nずaんkの観てきた!クチコミ一覧

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みんなしねばいいのにII

みんなしねばいいのにII

うさぎストライプ

こまばアゴラ劇場(東京都)

2021/11/26 (金) ~ 2021/12/07 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#清水緑 #幡美優
#あやかんぬ #伊藤毅
#小瀧万梨子 #亀山浩史
舞台美術を見た瞬間に作品が蘇る。あの大きな窓のブラックホール。今更ながら #みんなしねばいいのに というタイトルが秀逸だと感じ入る。それはディスったり吐き捨てたりしているというより、ちゃんと天に召されて欲しいという願いに思えた。その効果の最大の要因は天井裏のスナフキン……いや、座敷童子……いや、編み"もの"だババア……の小瀧万梨子さんの眼差し。本当は小瀧さんのナース姿に拡声器で『ナマで踊ろう』が聴きたかったけれど、配置換え(敢えて配役ではなく配置)で新しい作品に生まれ変わった。
亀山さんのイケメン度も増してた。
これで金澤昭さんの弾き語りがあったら……天井裏に登場されたりしたら……妄想だけで鼻血が出る。
うさぎストライプへ二度目の出演となる幡美優さんが、ノビノビと楽しんで演じられている感じも印象的だった。
同じ場所が瞬時に、時には同時に別の部屋として成立するのが如何にも演劇的でオモシロイ。全ての演劇好きに届け。

ガラクタ

ガラクタ

TRASHMASTERS

駅前劇場(東京都)

2021/11/19 (金) ~ 2021/11/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

#中津留章仁 #星野卓誠
#倉貫匡弘 #森下庸之
#長谷川景 #みやなおこ
#石井麗子 #岩井七世
重厚なテーマに真っ直ぐに挑んだ作品。主宰の中津留さんは、こうした社会問題に鋭く切り込む。今作もきっと、再演を繰り返し、更に強固な作品になるに違いない。
石井麗子さんが抜群だった。目当ての岩井七世さんも好演。彼女を観ながら、知人の新聞記者のことを考えた。新採用で自ら希望して東北の被災地に赴任し、精力的に取材していたあの娘のことを。
世の問題に正面から挑んだ秀作であるのは間違いないけれど、台詞にも演技にも改善する余地はあるように思う。重い話題であるにも関わらず、演技が滑稽に見えて笑いを堪えた箇所が幾つか。
個性の強いキャストが大きな役を複数演じるのはちょっと厳しい。
ラストの収め方は、現代の世相をよく反映している気がした。結局そっちかい……という、ほ〜らねって。だからこそ、何度も手を入れながら再演してほしい作品だと思う。

『葵上』『弱法師』

『葵上』『弱法師』

東京グローブ座

東京グローブ座(東京都)

2021/11/08 (月) ~ 2021/11/28 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★

#近代能楽集 #葵上 #弱法師
#神宮司勇太
#佐藤みゆき #渋谷はるか
ビシッと決めたスーツ姿の彼のシルエットは舞台映えする格好良さだ。声もイイ。これで舞台に合う発声を身につければ魅力が更に増すだろう。ただ……決められた台詞を声にするのではなく、そこで初めてことが起きて、そこに体が反応し生の言葉が発せられるようにしてもらえると物語はもっと面白くなるはず。新国立劇場の前芸術監督であり厳しい演出で知られる宮田慶子さんだが、果たして彼にも厳しく稽古を付けたのだろうか。劇団出身の俳優にだけ厳しいのではないと信じたいが…。
やはり、目当ての二人佐藤みゆきさんと渋谷はるかさんは素晴らしかった。
葵上で看護師を演じた佐藤みゆきさんは発声に工夫を凝らし能楽を感じさせた。亡霊が語る能の世界。六条御息所の生霊を手引きするような彼女が既に亡霊のよう。ほぼ一人芝居と言えるほどの長ゼリフも揺るぎない。見事だった。
弱法師の渋谷はるかさんは、母性を基盤にした絶望や困惑、そして苛立ちを見事に立ち上げてみせた。
ジャニーズの東京グローブ座での公演は、なかなかチケットが取れないけれど、脇を固める俳優さんたちが本当に実力のある方たちばかりだから、チャンスがあれば観たいものばかり。

どうしよう 孤独だ 困ったな

どうしよう 孤独だ 困ったな

第27班

王子小劇場(東京都)

2021/11/18 (木) ~ 2021/11/23 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#鈴木研 #鈴木あかり
#箸本のぞみ
#大垣友 #もりみさき
#岡野康弘 #辻響平 #三浦葵
#小日向春平 #成瀬志帆
人はみな問題を抱え、嘘をついて、孤独に苛まれながら生きている。ここの人たちもみんな困っているのだけれど、辻響平さん演じる居酒屋のユウゴだけは困る原因が自身にではなく他者にある。初演のユウゴの軽さも大好きだったが、オープニングの辻さんが落ち着いた空気を作品のベースに敷いたように思えた。そこでのディスコミュニケーションが象徴するようなスレ違いが本編を貫いている。
初演との大きな違いはセット。劇場に合わせて変化するのは必然だけれど、奥行のあった初演は居酒屋の雰囲気が印象的だったのに対し、今作は上層に書斎が作られてシーンが可視化された。それがかえって立場の違うそれぞれの人物が少しずつ関わり混沌とした世界を立ち上げた。
BGMの選曲も効果的。曲自体に毒を孕んでいるスガシカオの『甘い果実』のフィット感には痺れた。
人はみな、守りたいものが違って当然。作家や芸術家にとって作品は全てであり、それを奪われたなら人生をレイプされたようなもの。鈴木あかりさん演ずるコトミは、作品や人生へのモチベーションをどう取り戻すのだろう。
我が初恋のキミが高校時代にヤンチャに走ってしまったことを箸本のぞみさんのナツメを観ながら回想させられた。うん十年後の同窓会で再会した時に、やっぱりトキメいてしまったのは言うまでもない。鈴木研さんのケイスケのように近寄ることはできなかったけれど。
それにしても、ユウゴが、辻響平さんがとにかくカッコよかった。
エリカの成瀬志帆さんがラストで宙に放ったソレが9.11のアレのように我が胸にリアルに直撃して完全に心を💘射抜かれたことは……もう隠しきれない。
初演からの出演キャストの配役換えも継続も新キャストと合わせて見事なキャスティングだった。
鈴木あかりさんのアップの初演のフライヤーは、綺麗な顔立ちの効果で大きなインパクトがあり大好きだった。今作のフライヤーはその鈴木あかりさんの手によるデザインだが、もりみさきさんに寄生して襟元や袖口からモノトーンの花を咲かせたのは孤独。ソレは人間の生命力を駆逐する。
素敵な作品に出会い、
どうしよう もう一度観たいぞ 困ったな。

IN HER THIRTIES 2021

IN HER THIRTIES 2021

TOKYO PLAYERS COLLECTION

サンモールスタジオ(東京都)

2021/11/17 (水) ~ 2021/11/21 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#榊菜津美 #野木伶那
#三浦真由 #梢栄
#都倉有加 #小嶋直子
#望月めいり #工藤さや
#石井舞 #Q本かよ
10人の素敵な俳優さんが、一人の女性の30代の10年を1歳ずつ演じる走馬灯。昨年の『IN HER TWENTIES』で29歳で29歳を演じた榊菜津美さんが、30歳で30歳を演じる素晴らしい企画公演。前回下手(しもて)で振り返った彼女が、今回は上手(かみて)で30代の展望をキラキラと語り、40歳を目前にしたポジションでQ本かよさんが30代を総括し、境界線を飛び越えようとする。涙もろくなる……を立証するその滴に、挫折、失望、羨望、困惑、躊躇、期待、歓喜……さまざまな感情が映る。
四捨五入。
アラサーとアラフォー。
その境界線には転機が潜む。プラスとマイナス。喜びと悲しみ。最も大きな振り幅を都倉有加さんがビタリと決めてみせる。まるでサッカー日本代表の左SB中山雄太が右MF伊東純也に大きなサイドチェンジでチャンスを生み出すように、公演を豊かにした。大迫に対する森保監督以上に、都倉さんに対する作演出の上野友之さんからの絶大なる信頼がうかがえる。うん、そうだよね……の向こう側に、彼の発した言葉が見えた。
違いを見せたのは工藤さやさん。流石としか言いようがないほどの存在感。その対極のような落ち着きを示した石井舞さんも流石。
10人が相手役になったり、それぞれの時間で同じシーンを共有したり、時と場所が見事に交差する秀作。
これは、なっちゃんのライフワークとして毎年上演したらいい。いつか20'sと30'sのセット上演も期待しよう。


■追記■
作品もキャストも素晴らしかった。
だからこそ、客席がブチ壊したらダメだ。
携帯を鳴らしたり、カバンをガサゴソしたり、ブツブツ呟いたりして台無しにしてはならない。
あまりにも演者に、送り手側に失礼。
自粛明け、こういうことが増えてやしないか。

TOKYO LIVING MONOLOGUES

TOKYO LIVING MONOLOGUES

DULL-COLORED POP

STUDIO MATATU(東京都)

2021/11/10 (水) ~ 2021/11/28 (日)公演終了

実演鑑賞

#ダルカラ
#大原研二 さん
#倉橋愛実 さん
#佐藤千夏 さん
#宮地洸成 さん
地下の窖は文字通りアンダーグラウンドで、欲望と妄想と絶望が渦巻く要塞。様々な欲望・欲求の中で、自分は何が一番強いだろうか。そんなことを考えたことは誰にでもあるだろう。性欲と食欲は隣り合わせなんだな。
世の中に対する不平不満や怒り、そうしたものが吐き出され積もっていく。それを盗撮、覗き見る。本当にしたら犯罪だが、演劇ならば体験できる。性欲に特化していけば #ポツドール のようだが、それに偏らない煩雑さが、現代性を高めていた。
可能ならば複数回足を運び、色んな角度から色んな人の色んな姿を眺めたらいい。アチラ側とコチラ側を楽しめるに違いない。今夜は #倉橋愛実 さんに最も近い席に陣取り、覗き見を超えて部屋に招かれた気分を味わってみた。拝見する度にシャープさを増す彼女の美しさに泥酔した。
パンクでアヴァンギャルドなこの実験的公演を、企画から僅かな期間で上演まで突っ走り辿り着ける劇団の底力に敬服する。
あんなことやこんなことを目と耳に焼き付け、香ばしい匂いを纏って帰路に就いた。

⚠️時間にゆとりをもって会場に入ることを勧める。スマホ、イヤホン、zoomのインストールを。

老いと建築

老いと建築

阿佐ヶ谷スパイダース

吉祥寺シアター(東京都)

2021/11/07 (日) ~ 2021/11/15 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#老いと建築
#阿佐ヶ谷スパイダース
オープニングがまるでエンディングのような美しさで圧倒された。
同時にその色彩が、初めて観た #長塚圭史 さんの作品の『マイ・ロックンロール・スター』を思い出させた。それはやがて、レオナルド・ダ・ヴィンチの #最後の晩餐 にも見えてくる。圧倒的に美しい美術と照明と肉体があった。
歪み始めた家……いや家族のカタチ……関係性は、実際にそうなのかもしれないし、記憶……つまり認知の歪みなのかもしれない。老いは不条理なんだ。不条理劇は苦手で、あまり好きではなかったが、今作は不条理劇なのかもしれないと考え始めたのと同時に、その不条理の中には演劇の魅力がいっぱい詰まっているのかもしれない……と思えてきた。
今作品は脳を刺激する。我が人生の過去、そして未来へと思考を誘う。その刺激が強いのか、テーマそのもののが比類なき刺激物なのか、思考が自分ごとに全力疾走してしまい、目の前の情景や声から乖離して迷子になった。
齢四十歳を超えた時、人生を折り返した、終わりに向かっていくんだ、枯れていくんだというネガティヴ思考の呪縛は、まるでスクルージに巻き付いた鎖のようにワタシを締め付けていて、SEXに対するイチローの危機感に共感しながら、自分をどこかで憐れみながら嘲笑っていて滅入る。
リボンだよの #木村美月 さんが、作品の毒素を中和させ飲み込みやすくしてくれているが、喉元を過ぎてからその辛味がヒリヒリと臓器を焼いていく。
舞台奥で目を丸くして代わる代わる人を見比べる #藤間爽子 さんのヨシコが事の大きさを表した。可愛くて、異常さも可笑しさに包み込んだ。
カーテンコールの表情に #村岡希美 さんの柔和なお人柄が蘇りホッとするのは、作品中の表情に鬼が潜んでいるからだ。見事に傘寿の鬼を立ち上げた。緩急の違いで40年の時間を飛び越えてみせた。
層の厚い劇団力を改めて証明してみせた公演だった。天晴れ。

柔らかく搖れる

柔らかく搖れる

ぱぷりか

こまばアゴラ劇場(東京都)

2021/11/04 (木) ~ 2021/11/15 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#柔らかく揺れる
#ぱぷりか
2回目。休演日を挟んで変更された演出の一つは配置。テーブルにつく場所が変わったことでガラリと印象が変わった。#用松亮 さん演じるリョウタの存在がグッとクローズアップされた気がする。もしかして父親を…?という疑念が渦巻き、川底の闇がより暗く深くなった印象を受けた。川がみんな海へと注ぎ込むように、家をみんなの集まる場所にと願った母。そこは、楽な道を選んだ人の吹きだまりとなり、人の心の底に淀む諦めや絶望や悪意を含んだ闇も流れ込んだ。
冒頭の葬儀と、ラストの一周忌は別人のモノ。その間の時間は行ったり来たりしていて、同じ時間の別の場所だったりもする。シャッフルされた時間に映るのは、彼らが抱える生き辛さの氷山の一角でしかなく、ここで語られないことが水面下に存在している。この中に殺人犯がいるのか? 一人か? 二人か?
仕事のストレスから解放された者と打ちのめされた者。愛する人が可愛がる動物にまで嫉妬する者。そうした小さな怒りの種をため込んだ先に、一体何が起きたのか。是非とも劇場で目撃者となって、事故か事件か……思いをめぐらせてみてください。

フタマツヅキ

フタマツヅキ

iaku

シアタートラム(東京都)

2021/10/28 (木) ~ 2021/11/07 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#フタマツヅキ
#iaku
カタカナのタイトルは記号のように認識してしまい、意味を考えようとしていなかった。二間続きのアパート。襖一つ隔てた父と子を結んだもの。父への反発は憧れや尊敬の裏返し。尊敬が反発に転じてしまったエピソードが、父の職業柄仕方のないこととも思えるし、配慮してよとは思うものの、きっと良かれと思ってやったことだから、行き違いを修正できずに溝は深まるばかりで痛々しい。父への二つの感情が「初天神」を手伝う流れで言わねばならない「おとっつぁん」を言い淀む姿に凝縮されて胸を打つ。
今作は二つの時間を行き交う。二つ折りの赤い財布がそれを橋渡しして結びつけた。そこから渡される札の違いが、時の流れや関係性の変化を物語る。#橋爪未萠里 さんと #清水直子 さんの正座するシルエットが見事に重なり合って鳥肌が立った。服の好みってなかなか変わるモノではないんだと、衣装の雰囲気からも伝わって感心した。
もうひとつ重要な役目を果たしたのが鍵。部屋の鍵を渡すのは心を許した互いの関係の象徴であり、それを返すのはその終焉。男と女のヘタクソな人生が生んだ歪な三角関係の清算は、決別よりも出発になって欲しい。#ザンヨウコ さんが心の内にある黒いモノをサラリと吐き出してみせる姿が美しく切ない。独り身でいたであろうヒロミさんに幸せが訪れることを願う。
しあわせとは何だろう。家族とは何だろう。こんな人と一緒に生きることができたら幸せだろうなぁ…と思わせてくれるユキちゃんに #鈴木こころ さんが出会わせてくれた。もう完全に惚れてしまった。心の奥深くまでスーッと入って、大事なところをわしづかみされてしまった。嫌い嫌いも好きのうちを存分に味わわせてくれる天使。あんな子が近くにいたら恋に落ちないはずがない。観ているだけで本当に幸せだった。

柔らかく搖れる

柔らかく搖れる

ぱぷりか

こまばアゴラ劇場(東京都)

2021/11/04 (木) ~ 2021/11/15 (月)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#柔らかく揺れる
#ぱぷりか #初日
主宰 #福名理穂 さんの描く人物像は、物静かでソフトでありながら何処かが歪んでいて、常に疑心暗鬼で臆病に見える。それが市井の人たちの真実に思える。恐怖はいつだって隣にあって、でもそれを直視するのは恐いから、視線の隅に感じながらも存在していないと自分に言い聞かせる。無視する、或いは見て見ぬふりをする。それが身を守る術であり、生きる力なのかもしれない。戦うことを避け、楽な道を選んだ人の吹きだまり。共依存の世界がそこにある。
今作も家族の話である。大切に思っているのに……大切に思っているから、感情が波を打つ。家族だからこそ、無条件の愛があるからこそ、すれ違い掛け違えてしまうと厄介で、関係の修復が難しい。生きている限り、誰もが問題を抱えている。
父の死は、それだけで大事なわけだけれど、そこに纏わり付いている疑念を晴らそうとする者はいない。燻り続けるソレは、指に刺さった小さな棘よりは強い刺激で、喉に刺さった小骨未満の痛みで持続する厄介さだ。闇の中で砂利を踏む足音と、川へ垂れ流した小便に潜む悪意がジワジワとナメクジのように背筋をヒンヤリと刺激しながら上がってくる。
転換の暗転中に、長く水中へと引きずり込まれる。あの雨の夜以外は。その長さで、溺死する息苦しさの恐怖を疑似体験する。
それにしても、キャストが素晴らしい。前半を制したのは #岩永彩 さん。孤独と決別の決意が、その美しさから匂い立った。美しさを封印してダメ母を見せてくれた #廣川真菜美 さん。患者に興味を抱かない産婦人科医が可笑しかった #深澤しほ さん。憂いを帯びた横顔は、まるで劇画から飛びだしたようにカッコイイ #堀夏子 さん。そして、今作が初見の #桂川明日哥 さんから発せられる自然体の空気感に魅了された。
上演時間約90分。豪華キャストを贅沢に使った今作は見事な引き算で計算され、観たい知りたいシーンは観客の想像力で補完するよう構成されている。「物語」という大きな家にあるたくさんの部屋の入り口の戸を少し開けて、いろんな部屋の中を覗いて奥を想像するという感じが、なんとも演劇的で奥行きや広がりを感じさせてくれる。大事件がそこにあるのだけれど、誰もそれを詳らかにせず、その家族を柔らかく揺さぶっている。演劇を愛する全ての人に届いて欲しい作品がソコにある。

紙屋悦子の青春【9月28日~29日公演中止】

紙屋悦子の青春【9月28日~29日公演中止】

(公財)可児市文化芸術振興財団

吉祥寺シアター(東京都)

2021/10/20 (水) ~ 2021/10/28 (木)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#紙屋悦子の青春
昨年、読売演劇大賞の優秀女優賞を受賞した #枝元萌 さんと、文学座の期待の新人 #平体まひろ さんが同級生で義姉妹という配役。その効果もあってか、とっても可愛らしい枝元さんと、少し大人びた平体さんを拝見することができて楽しかった。
今作の根底にあるのは、恋も夫婦愛を含めた家族愛も包み込んだ愛情。そして戦争反対。それらの基盤は「おもてなし」の心であり、その象徴がお茶だ。「お茶ば飲みましょ」というセリフが『あなたを大切に思っています』に聞こえてくる。大切な人との時間が永遠ではないことを痛感しているからこそ、今日の続きを求め、ずっと続くと信じることで自分を勇気づける。
最近、古き良き時代とは何かを考えるようになった。今が生きやすいかと問われれば頷けないけれど、一家の大黒柱という父が君臨する昭和が素晴らしいとも言いきれない。ここでは #岸槌隆至 さんが家父長制度の象徴のような存在の兄を演じる。その声の圧が、あの敗戦までの日本の国家主義や男尊女卑の根強さを実感させた。もちろん溢れるほどの愛情があるのだけれど、かつての日本に染み付いた皇国の常識に縛られた人々の姿が映る。
国家に、性差別に押さえつけられ、大切な人の出征に心とは裏腹の言葉を発しなければならない女性の姿が痛々しい。それでも、単身赴任の夫の帰省に心躍らせたり短さに拗ねたりする妻は、なんとも可愛らしく愛しい。二人の女優さんが去り際に見せた"その場"に想いを残す雄弁な視線に射抜かれた。
枝元さんの表情を観ているだけで幸せになれるのだが、星めぐりの歌、ゴンドラの唄の鼻歌にも心を擽られる。平体さんは七色の「はい」を使い分け、淡く、それでいて確かに作品を彩った。
戦争の前後には、兄弟の嫁や恋人、親友の嫁や恋人との縁談があった。捻れた悲愛。想いを抑え或いは押し殺し託す愛と、託された愛。それを承知で受け入れ受け止める愛。飲み込んだ想いを絶筆の告白で吐き出さねば飛び立てなかった死への恐怖と理不尽な戦争への怒りと絶望。それを背負った夫婦は果たして幸せだったのだろうか。
桜を見上げ、さざ波に耳を傾け、未来に目を向けた二人。やがて車椅子を押し「お父さん」と呼ぶ女と、お父さんになった男が辿った共に歩んだ人生。描かれた二つの時間に見える二人の関係性から、狭間の時間に想いを馳せる。
車椅子から降りる際の介助で左足を叩く仕草や、壁の向こうの廊下の様子を可視化させた #藤井ごう さんの演出が光った。
#長谷川敦央 さんの因業な年寄りも #藤原章寛 さんの一本気な若者も、どちらも声が美しかった。
美しさで言えば、満開のあの花とヒラヒラと舞うそれが、谷崎潤一郎『細雪』のラストのようでウットリ。ひとつ欲を言えば、本編の居間を畳に廊下を板張りにしてほしかったなぁ。最初のシーンを工夫すればなんとか……。
しみじみとほんのりを味わえる秀作、たくさんの人に観て欲しい。

FESTƎ〜十二夜〜

FESTƎ〜十二夜〜

合同会社モダンタイムス

あうるすぽっと(東京都)

2021/10/14 (木) ~ 2021/10/17 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#FESTE
#十二夜
#チャイロイプリン
古典の名作をダンスにするシリーズ。毎回、新しい視点で作品に切り込み、贅肉を大胆に削ぎ落とし、新たなエッセンスを加えて新鮮な作品に立ち上げる。今回は大好きな作品で、前楽と千秋楽の2回観劇。
作品をコントロールし語り部の役を担うフェステを、劇団の顔である二人 #清水ゆり さんと #鈴木拓朗 さんが担う。二人は表と裏…白と黒…女と男…凹と凸…ホントとウソ。名前もフェステとテスェフ。繋げれば回文。名前遊びはシザーリオの中にシザー✂ハサミを見いだしたのも妙案。登場人物に現代の職業を背負わせたのも、人物像を浮かび上がらせるのに効果的で、そもそも楽しくイメージを膨らませたり鮮明にしたりできた。
今作の最大のポイントは嵐のダンスだろう。これまでの多くの上演は、船が難破した後から始まり、嵐に時間を割かない。それを今作ではダンス公演らしく、激しさも美しく、そして楽しく、たっぷりと見せてくれた。寄せては返す荒波も、交互にキュートに現れる。なんともユニークで楽しく華やかで見事。それはオリヴィアのファッションショーのウォーキングへと繋がっている。あのラインの中心に立つ #小野塚茉央 さんの美しさに釘付けになる。そんな風に、みんながクールにポーズを決めるラインの中でフェステの清水ゆりさんだけは道化よろしく茶目っ気たっぷり。まったく抜け目ない演出に脱帽。
#小林らら さんのオリヴィアと #エリザベス・マリー さんのシザーリオの出会いのデュエットはなんとも官能的でウットリした。ここにオルシーノが加わった奇妙で複雑な三角形のリングには赤い糸が張られ、それは三人の運命が交錯しているのと同様に絡まっている。オルシーノの #香取真登 さんのソロダンスからは苦悩がありありと伝わった。
今作も素晴らしかったのは間違いない。ただ欲を言えば、それぞれのゴール、幸福を見届けたかった。少し曖昧に思えた。シザーリオとオルシーノの出会いもそうだった。
それでも、素晴らしかったことに異論はない。次回も楽しみ。

30歳の制服デート

30歳の制服デート

サキクサ

雑遊(東京都)

2021/10/05 (火) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#サキクサ
#30歳の制服デート
#深谷晃成
#浅見臣樹
#大塚由祈子 さんのチャレンジは一人芝居から二人芝居へ。芝居に貪欲でアグレッシブな彼女は、今回も最高なパートナーを二人迎えた。一人は共演の浅見さん。もう一人は作演出の深谷さん。この公演はこのキャスティングを組んだ時点で成功だっただろう。既存の脚本であり、その上で相手を選んだその目の勝利。あのウイットに富んだ前半の軽やかさと力の抜けた感じからの、後半の愛深き故の葛藤。この両面を見事に立ち上げる最強のタッグだった。
男女雇用機会均等法、夫婦別姓、少子化……さまざまな新しい価値観が求められる社会において、生産性などという馬鹿げたことを言う政治家が国を動かしている歪んだ世の中で、やはり救いは愛なんだと静かに語る美しい舞台だった。
オープニングに映し出されたキャスト名がYuk ko Otsu <aに見えたのもなんだかクールだった。
彼女の次なるチャレンジが楽しみで仕方ない。

暫しのおやすみ

暫しのおやすみ

劇団競泳水着

駅前劇場(東京都)

2021/10/02 (土) ~ 2021/10/10 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#暫しのおやすみ
#劇団競泳水着
#鮎川桃果 さんと #都倉有加 さんの共演なんて堪らん。しかもオープニングでいきなりの絡み。興奮して鼻血が出るかと思った。
左右に二つの部屋のセットが組まれ、左が白で撮影現場の楽屋、右が緑でリビング。見事なコントラストで、女優のonとoff、表と裏を作り出す。スキャンダルで休養を余儀なくされた実力も人柄も絶賛される人気女優を鮎川桃果さんが演じる。これがまたなんとも美しい。彼女だけが左右の部屋を跨いで演じ、作品の心臓を担う。笑顔からの号泣は、実力を讃えられる女優役に相応しい。今作を観た誰もが心奪われるに違いない。
今作に実質的なネジを巻きスイッチを押すのがマネージャーを演じる都倉有加さん。芸能事務所によくある問題を見事に立ち上げる。そのリアリティに目眩がする俳優も少なくないのではなかろうか。彼女が今作のMVPだと思う。
#川村紗也 さんの出演も目玉のひとつ。劇団を離れてからの時間で得たであろう人生と演技の深まりが、作品の中心からひとつ隣に移した今回のポジションに生かされているのだと思う。そこに絡む #谷田部美咲 さんが小気味よい。彼女の繰り出す少しヤンチャなパンチが作品を豊かにした。
それぞれのスタートやリスタートが豊かな時間になることを願う。

ぶれる境界

ぶれる境界

家で出来る演劇

北千住BUoY(東京都)

2021/10/01 (金) ~ 2021/10/03 (日)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#ぶれる境界
#家で出来る演劇
#北千住BUoY
出演
#日野あかり
#佛淵和哉
脚本
#善雄善雄
演出
#小崎愛美理
最近はタイトルも覚えぬまま観劇することが増えた。魅力的なキャストや演出家であればあるほど、その傾向が強い。公演を知った瞬間に観ると決めてしまうからに違いない。今回も例に違わず、タイトル含めて作品情報がほぼゼロの状態で観た。終演後に偶然、演出の小崎さんと言葉を交わせるタイミングがあったので「現実と黄泉の世界、作品と観客、そこにあるそれぞれの境界線を打ち破り世界を融合させるような作品で…素敵でした」と伝えた後でタイトルを知る……というか認識して、とても恥ずかしくなった。でも、タイトルを知らずに観たにも関わらず「境界」が見えたなんて、感じさせるなんて……凄い。本と演出と演技がちゃんとソレを伝えていた証。
現実の世界には、確かに残酷で思いもよらない出来事が転がっている。しかし、その度合いを比べても仕方ない。この世のすべての境界線をひっくり返せ。どこかにソレができるスイッチがあるはず。もしかしたら、飲めない珈琲☕️を飲むことが、開かない扉?を開けるのかもしれないし。でも、珈琲☕️を飲めないワタシが挑戦してもお腹を壊すだけだと知っているけれど。
幸せになってもいいのかな?
井上ひさし氏の名作『父と暮らせば』のように、幸せになる資格がないと考える彼に伝わったのならイイね。
あの銭形警部の名言が出た時には、なんだか運命を感じたのは秘密。
開演と終演の境界に梯子をかける日野あかりさん。綺麗なお姉さんがやっぱり好きです。

ユートピア

ユートピア

singing dog

「劇」小劇場(東京都)

2021/10/01 (金) ~ 2021/10/05 (火)公演終了

実演鑑賞

満足度★★★★★

#ユートピア
#singing dog
誰もが家族への思いを抱いている。幸せな家族。辛い家族。苦しい家族。そして……家族を知らない孤児であっても。作品を観ながら思考の旅に出る。大概はそうした邪念が鑑賞の邪魔をするのだけれど、不思議と物語から脱落しない。余分なことのない、違和感のない、#藤崎麻里 さんの強固な脚本がなせる技。
君臨する独裁者。勿論そこには愛情がある。それでも大きな力は歪みを生む。その姿は、一瞬にして我が父を思い起こさせる。認知症を患い施設にいて、この感染症の世界で20ヶ月も会っていない独裁者を。わたしは反抗し続けたハミ出し者。けれども、最後の手綱は断ち切れなかった。表面では戦ってみても、飛び立てなかった。コントロールされていた。その呪縛は解かれることがない。
施設に入る前の最後の会話は何だったろう。毎回激昂し詰り合い
「殺してやる」
「嗚呼、やってみろ」
そんなモノだったろう。保護された警察署に1時間もかけて迎えに行って、署で怒鳴りあった深夜1時。
母が他界したことを忘れてしまう独裁者は、毎朝その"死"に驚き悲しんでいたことだけは哀れに思った。

ワンシチュエーションの会話劇。中央にあるチャブ台は不落の牙城。拠り所にも監獄にも見える見事な演出を #吉田康一 さんが施した。独裁者の回顧で、スッと背筋を伸ばして横に座った #内海詩野 さんの美しさは絵画のようで、演出家の最大の功績ではなかろうか。
BGMは演出家の片腕 #山口紘 さん。今作では音の存在を忘れるほどに、そっと自然に作品に寄り添った。終盤の心地良いリズムで、その存在に気付いてハッとした。
総じて派手さのない物語なのだけれど、なんだか演劇の魅力が詰まっているように感じる良作だった。

戒厳令

戒厳令

劇団俳優座

俳優座スタジオ(東京都)

2021/09/03 (金) ~ 2021/09/19 (日)公演終了

実演鑑賞

#戒厳令
#俳優座
#野々山貴之 さんがJOKERで #清水直子 さんがアダムス・ファミリーのモーティシアに見えた。この二人が素晴らしい。表情や発声、もちろんメイクや衣装も含めて、作り上げたキャラクターで作品のネジを巻く。ただ、逆にその圧倒的な存在感が、悪魔的…宇宙人的な侵略者のイメージを強固にし、ラスト近くまで人間として捉えるのが難しかった。
1948年に書かれたカミュの戯曲だが、疫病のペストを扱ったこの作品を、covid-19が蔓延する今、上演する狙いは理解できる。しかしながら、冒頭の民衆の喧噪からの発病、吐血と痙攣などの描写が長く、恐怖を煽るような演出は好みではなかった。震災の作品で地響きがするような轟音を使うのと似ていて、どちらも気持ちよく観られず、気持ちが離れていくのはわたしだけだろうか。
調子を外したBGMは、狂った世界を表すのにフィットしていると感じた。
単管パイプで組んだ足場、モニターを使った映像、ワイルドに攻めた美術は興味深かった。ただ、ライブカメラの映像を映し出すモニターはタイムラグが大きく、まだ研究の余地は或るはず。

「何をしているの?」
「恋よ!」
真剣に見入る観客の中、一人マスクの下で声を殺して肩をふるわせながら爆笑していた。しばらく笑いが止まらなかった自分と世間とのズレに背中が少し寒くなった。この作品の土俵に恋を乗せた途端、急に陳腐に思えてしまった。まるで愛と恐怖がリングで戦う異種格闘技。革命を、或いは反逆を叫び拳を振り上げ立ち上がる男。それを嘲笑する女。そう、男の語る正義や愛が歯の浮くセリフで陳腐。そのリングに戦争まで持ち出されて困惑。終盤、演説のような語りを順番のように渡しながら語るのを、みんなが黙って聞く構造までも可笑しくて滑稽に思えた。

どのタイミングで翻訳され、上演する際にどれほど手を加えることが可能なのかは、個々によるのだろうけれど、もう少し整理されたカタチの上演を観てみたい。

『砂の女』

『砂の女』

キューブ

シアタートラム(東京都)

2021/08/22 (日) ~ 2021/09/05 (日)公演終了

実演鑑賞

#砂の女
#ケムリ研究室no.2
いち早く演劇にプロジェクションマッピングを取り入れた演出家のケラ氏。その技術進化もさることながら、使い方に驚きため息が出る。砂が崩れ落ちる様には感心する。言わずもがな #緒川たまき さんの美しさに見惚れた。メインの二人ももちろんだけれど、周りを囲むキャストの素晴らしさに唸る。

ルシオラ、来る塩田

ルシオラ、来る塩田

桃尻犬

三鷹市芸術文化センター 星のホール(東京都)

2021/09/03 (金) ~ 2021/09/12 (日)公演終了

実演鑑賞

#ルシオラ、来る塩田
#桃尻犬
みんな誰かを羨ましがりながら生きてる。隣の芝は青く、あっちの水は甘い。
前半の緩さが、後半のスピード感を際立たせる。ジェットコースターのような作品。
顔なじみのキャストで、安心して観ることができた。

朧な処で、徐に。

朧な処で、徐に。

TOKYOハンバーグ

サンモールスタジオ(東京都)

2021/09/10 (金) ~ 2021/09/20 (月)公演終了

実演鑑賞

#朧な処で、徐に。
#TOKYOハンバーグ
#宮越麻里杏 さんが素晴らしい。あのリビングでの #矢内文章 さんとのフランス王とコーデリアのやりとりが何ともユーモラスで切なくて美しい。そこから崩れ落ちての大の字。大人の駄々をこねる姿に、多くの人が見舞われたであろう努力が報われなかったやるせなさが映った。
covid-19の感染に怯える世界で、演劇が直面する困難と、産みの苦しみと、公演中止の絶望……演劇人の苦悩の叫びを作品にしたかったのだろう。作家自身の叫びと、断腸の思いで苦渋の選択をしなければならなかった演劇人の叫び、そしてエールに違いない。
いま、自分に纏わり付く困難をいかにして回避しようか考えるとき、自分の感情を無視しないとやり過ごせないと感じることが増え、「わたしに対するネグレクト」にドキッとした。自分にも他人にも無関心になってしまいそうで、「都会に田舎を作りたい」精神を見習わなければいけないと襟を正す。
書けない劇作家の話と、特殊清掃の話の二つの軸を絡めた作品。どちらも時折見かける題材であり、それぞれで1作品にできそうなネタで、それを絡めた意味をしばらく考えてみようと思う。多くの出演者がいるということも……影響したかなぁ。ただ、#橘麦 さんや #北澤小枝子 さんなどは、もう少しシリアスな演技を拝見したかった。#和田真季乃さんと #中村ひより さんがマスクのシーンが多かったのも残念だった。中村さんは短髪になっていたこともあって、最初気づかなかったほど。
一番端の席で観たのだけれど、サイドの照明機材が視界を遮っていて残念。

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