期待度♪♪♪♪
山川草木敵味方 栄枯盛衰夢の跡
昨年はマキノノゾミによる舞台『真田十勇士』もあり、演劇界はちょっとした「真田十勇士ブーム」だった。マキノ版の製作が日本テレビだったことを考え合わせると、これはTBS対日テレの様相を呈していたとも言える。
片や赤坂ACTシアター5周年記念作、片や日本テレビ開局60周年記念特別舞台。双方が満を持して提供した舞台がなぜ同じ「真田十勇士」だったのか。それは作者である中島かずきとマキノノゾミがどちらも同じ1959年生まれであることに起因している。
すなわち、二人とも1975年より放送された柴田錬三郎原作によるNHK人形劇『真田十勇士』を、16、7歳の頃に観ているのだ。子供向けの人形劇を高校生が観ていたのかと今の人は首を傾げるかもしれないが、前年の『新八犬伝』から始まった辻村ジュサブロー制作による人形の華麗で耽美な造形、綿密な時代考証による本格的なドラマとして制作されたこの2作は、大人をも巻き込んで大人気を誇ったのだ。NHK人形劇の最高傑作であることは誰も否定できない。
中島・マキノの二人が人形劇版『真田十勇士』に影響を受けたことは、原作である大正時代の講談「立川文庫」を、時代小説の雄・柴田錬三郎が現代的にいかに改変したか、それを二人がどのように「踏襲」したかを見れば一目瞭然である。
一口に十勇士と言っても、有名なのは数人で、立川文庫のシリーズは巻数を重ねるうちに人気も衰え、キャラクターも大同小異な無個性な人物が増えていた。そこで柴田錬三郎は、原作にないキャラクターを十勇士の中に付け加えている。海野六郎、望月六郎、根津甚八の三人をカットし、高野小天狗と呉羽自念坊というオリジナルキャラを登場させ、真田幸村の長子・大助(幸昌)を十勇士の二人に加えた。他の原作キャラも設定は全て変更され、猿飛佐助は武田勝頼の遺児、霧隠才蔵はイギリス人、筧十蔵は明国人ということになっている。そして猿飛佐助の恋人として、敵方の女忍者が登場する。
それ以前にも福田義之が『真田風雲録』で霧隠才蔵を女性にした変更などがありはするが、柴田錬三郎のアレンジは大胆かつ豪快だった。そして柴錬の最大のアレンジは、作品のテーマを「滅びゆくものの美学」と捉えたことだった。真田幸村を諸葛孔明同様の「占星家」として描き、自らの滅亡を知りつつも義憤のために徳川家に組しない道を歩む男として賛美したのだ。
中島もマキノも、十勇士の変更(特に真田大助の参入)、ヒロインとして敵の女忍者を設定している点、何よりも豊臣家への恩義よりも、徳川の治世が真の平和をもたらすものか、それに対する疑問ゆえに、自らの命を犠牲に奮戦する心意気を示している点などを鑑みれば、柴錬の「精神」を新たに再現しようと試みていることはまず間違いない。
それは「敗戦国」となった我々民衆の「心」とも合致していた。敗れるためになぜ戦うのか、そして敗れ去った後、どう生きるのか。
それを「現代」に再現することに意味があると、中島もマキノも考えたのだろう。そしてその物語はきっと「現代」だからこそ、波乱万丈の大ロマンに仕上がると信じたのだ。福岡での再演が決まったことを喜ばずにはいられない。