こんばんは、父さん 公演情報 こんばんは、父さん」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    せわしない年末気分のさ中、まだ残席のあった二兎社公演を観に行った(公演間近ではいつも完売の記憶しかないが...再演である演目の注目度だろうか、と若干の懸念)。
    イブ当日の六本木駅は改札から異常なスシ詰め状態、コース選択も誤り10分近く遅れて会場に入った。
    場面はとある廃屋で見知らぬ男同士が遭遇し、やり合っている。若い方(堅山隼太)は相手(風間杜夫)の借金の取り立て人らしい。あちゃ・・この始まりでは冒頭台詞に情報が集中する、かなり乗り遅れたな、とアウェー感に見舞われつつ見始めた。
    ただ、事前に読んだ説明には、震災後間もない時期を設定した作品とあり、それが後押しして観劇に至ったのだが、期待がそこに集中する割に「その事」が自分には見えて来ず、些か宙ぶらりんな思いでの観劇となった。(途中睡魔にも襲われコアな会話を逃したのかも。。)

    旋盤工だった「父」が廃業した工場跡の廃屋が舞台。父が戻って来た理由は不明(忘れた)、「若者」の方は彼を追って来た模様。そして三人芝居の残る一人、「息子」(萩原聖人)は自分の仕事を辞めてか休んでか、かつて暮らしたこの場所の二階に滞在していたらしく、自室から姿を現わし二人を驚かせる。
    老年と中年、若者の三世代が同じ場所で、それぞれ(の世代)が抱える困難を焙り出す狙いで書いた、と永井氏のコメントを後で見てなるほどと得心したが、しかし世代を体現した人物像としてはどうだろうか(特に息子役は特殊な役柄を演じて来た俳優でもある)、群像劇には見えて来なかった。一場劇として面白い展開が盛り込まれていたが、「風情」を感じ取るには至らず、「震災」のしの字も出て来ず、惹句にあった「2024年の日本で上演する事で見えて来るもの」を見よう、という狙いだとすれば、初演時の「震災」は長年続く「経済災害」に置き換えられでもしただろうか・・。だがそうなると場所がポツンと立つ廃屋である必然性が薄くならないか。冒頭が見られなかった事が未だに引っ掛かっているが、結果的には不本意な観劇になった。
    風間杜夫氏の立ち姿(このところ梁山泊のテント芝居で観る事が多いが)が、振り幅的に自分のイメージが固まっていて(要は同じに見える)、それを裏切る瞬間(
    (への期待)が訪れず、という所が大きい気が。萩原氏は柔軟さがあるがキャラのイメージが「爪を隠した鷹」だし、堅山氏は若手として飛び跳ねる運動量多い役だがガタイが良くまた生硬に見えた。
    2012年初演のキャスティングは、平幹二郎、佐々木蔵之介、溝端淳平。平幹はかなりの老齢で「父」役に耐えたのだろうか?と思う所。佐々木氏は未知数、溝端淳平は中々やれそうである。
    辛口になったが、期待値の高さの裏返しと言われればその通り。

    さて話題は変わり・・
    今年は「アワード」投票をミスる事なく終えたが、未練たらしい膨大な「ランク漏れ」舞台への言及でも触れそびれた、公演幾つか(まだあんのかいっ)をひっそりとここで挙げておきたい。(ネタバレ欄に)

    ネタバレBOX

    うっかりの書き忘れが、
    ・ラビット番長「ハクマキタル」・・「ストレートプレイの秀作のあった初見劇団」の一つとして。
    ・キョードー東京・ミュージカル「RENT」・・山本耕史参加の来日公演。「商業演劇」(的カテゴリー)として。「感動」の度合いで言えば確実にランクインだが、やはりこれは別枠とした。
    ・風姿花伝プロデュース「夜は昼の母」・・タイトルからつい前年の母娘の芝居と勘違い。こちらは同企画の原点ラーシュ・ノレーンの際どい作品。風姿花伝P継続への期待を込めて。

    ストレートプレイでは攻めた舞台が、同等かそれ以上なのに端折るのも気が引けるので、という事で追記。
    ・・イキウメ「奇ッ怪」、文化座「花と龍」、一糸座「崩壊」、ゆうめい「養生」、果てとチーク「害悪」、M2「黒い太陽」(作演の主宰劇団のも含めて、新たに発見の部)、ZERO-ICH「隧道」、梁山泊「風のほこり」、世田谷シルク「カズオ」、夢現舎「遺失物安置室」。
    リーディングでは楽園王「本棚より幾つか、」の特別公演「お国と五平」「華燭」は特筆(年末の「イヨネスコ『授業』」も秀逸)。
    渡辺源四郎商店は今年も書き手二名の上演は着想の面白さ。地方劇団の公演は今後も続いてほしい。他、劇団普通、演劇アンサンブルも上質な舞台、唐組も相変わらず。初の横浜ボートシアター「小栗判官と照手姫」で説教節の世界を堪能(ProjectNyxより泥臭いのが良い)。女性ユニットOn7や理性的な変人たちも今後へ繋ぐ仕事が見られた。

    別カテゴリーになるが「いきなり本読み!」小林聡美、小泉今日子の「いきなり」の対応力に舌を巻いた。
    メジャー所には評価が何故かしょっぱくなる。PARCO「オーランド」は文学作品を立ち上げる事に成功してはいたが「現在」との緊張関係がもう一つ見えず。年始のbunkamura「う蝕」は能登震災を受けて急きょ書き直した作品ゆえか、ユニークな作だが「現実を踏まえたフィクション」の難しさ(よく急拵えでここまでやれたと褒めるべきかも知れないが)。unrato「月の岬」は松田正隆氏の名作を初めて舞台で観たが、何か仕掛けるのではと期待したunratoにしては割と普通だった。

    一昨年亡くなったナカゴー鎌田氏作品の上映会で二作品鑑賞でき、後継ではないが期待してるアンパサンドで<ほりぶん>ばりの川上友里を拝め、東京にこにこちゃんでは<ナカゴー>で見た高畑遊を拝め、映像で画餅版だが「ホテル・アムール」が観られて満足だった。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ネタバレ

    ネタバレBOX

    二兎社『こんばんは、父さん』を観劇。

    息子に小さな工場を継がせたくない父と父親のような職人になりたいと憧れを持つ息子。
    互いの思いは通じず、息子は父の期待通りの職業に就き成功者になるが、投資で失敗し借金を重ねて逃げ待っている。
    工場経営は順調だったが、時代に取り残されてしまい、借金を重ねて夜逃げしてしまった父。
    互いに借金取りから逃れた先は以前の住んでいた工場。そこに借金取りが現れ、父と息子の確執が暴かれていく。
    最近では描く事が少なくなった父と息子の物語。終わりの見えない親子の罵り合いにうんざりしながら、亡くなった母の存在が浮き上がってくると、分かり合えなかった家族間の原因と物語の本筋が見え始めてくる。
    闇金を借りてしまった古い昭和世代の父とその息子。金が簡単に稼げるから取り立て屋になった現代の若者。互いの世代感と価値観は違えども、『幸せイコール金を稼ぐ』という定義に翻弄されてしまった登場人物たち、いや我々へのメッセージは痛烈だ。
    永井愛の戯曲は政治や社会の不正を描くことが多く、ついつい他人の出来事の様に見てしまいがちだが、先ずは己の足下を見る事が一番大事なのだという思いが切実に感じられる。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    闇金に終われる父(風間杜夫)と、取り立ての金髪青年(堅山隼太)、破産して身を隠す息子(萩原聖人)の3人のやり取り。落ちぶれているがプライドの高い父親と、意外なダメ息子の関係は、「セールスマンの死」のウイリー・ロ-マンを連想した。息子が、福島の第二工場に父を追いかけていくところなど、「セールスマンの死」のニューヨークのホテルで息子が父の浮気を知って、何もかも投げ出してしまう場面と重なった。

    ネタバレBOX

    永井愛の作品には珍しく、結末が結末らしくない。意外とまだ続く感じで終わる。

    手ぶらで帰れない取り立て青年は、「ゆびわ」探しにすがるのだが、実はもう指環はない。すると、息子が奥の箱から高級腕時計を出してきて、渡す。息子の進学費用にするはずだったものを提供した。いわばその場しのぎである。このラストは物足りなく思った。途中「そんな取り立ての仕事なんてやめて、逃げろ」と勧めるように、もっとスカッとする解決をしてほしかった。贅沢かもしれないが。

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