期待度♪♪♪
渡辺徹の復帰作となるか
主演の渡辺徹の急病により、果たして福岡公演が行われるのかどうか、心配になって、福岡市民劇場の事務局に問い合せてみた。
キャスト変更などの、文学座からの正式なコメントはまだないということである。ただ、市民劇場としては、「文学座と『花咲くチェリー』という作品を応援したい」という主旨なので、現在のところ、公演中止や、他の劇団公演との差し替えなどは考えていないという返答であった。もちろん、渡辺徹の回復を願うのが第一であるが、正式発表はなくとも、文学座のホームページの地方公演の欄を見ると、渡辺徹の名前は既にビリングのトップから外れている。けれども出演する予定ではあるようだ。たとえ主役ではなくても、元気な姿を舞台上で拝見したいと思う。
原作のロバート・ボルトは、日本では、戯曲家というよりは、映画のシナリオライターとしての方が有名だろう。『ドクトル・ジバゴ』『アラビアのロレンス』『ライアンの娘』など、名だたる名作の脚本を手がけている。『花咲くチェリー』はボルトの劇作家としてのほぼデビュー作で、しかも出世作となった。
不況で会社をクビになった主人公が、家族に真実を告げられず、仕事もないのに、毎日出かけるフリをする、というのはいささか平凡な筋立てだが、初演でチェリーを演じたのが、『女相続人』の名優、ラルフ・リチャードソン。本邦では長らく北村和夫の当り役で、もちろんどちらも未見なのだが、“ただのサラリーマンの悲喜劇ではない”ことは、この重厚なキャスティングからも伝わってくる。アーサー・ミラー『セールスマンの死』とも比較対照される、アメリカ現代戯曲の代表作の一つなのだ。
できうることなら、現在の文学座の最高の俳優たちによって鑑賞したい。