実演鑑賞
満足度★★★★
2001年初演のこのミュージカルも4演目という。和太鼓と三味線の奏者が共演する序曲から始まる休憩29分を挟んで2時間五十分の大作である。
野田の作品は、罪と罰のラスコーリニフを女性に設定(珠城りょう)し、時代と場所を日本の維新期としている。物語は、冒頭の高利貸しの老婆を殺害することと、優れた者が殺人を犯すのは社会の進歩のためならば許される、というモラルに主人公が葛藤することを基盤に維新動乱の物語を重ねている。坂本龍馬のように実在の人物も出てくるし、ラスコーリにフの家族設定も父親(今拓哉)を佐幕派の浪人として、彼が仕官する家族の物語で後半物語が進んでいく。原作の判事に相当する役は屋良朝幸が演じる。物語は、ほとんど創作といってもいい罪と罰だが、ミュージカルとしては伝統的な作りで、歌も踊りもオーソドックスな構成である。大きな太鼓橋を中央に一つ置いただけで全場面を処理し、音楽はかなり厚いオケは録音で、和楽器を二本ナマで入れている。殺陣もあるし、舞台は賑やかなのだが物語がつかみにくいのと、ここぞというシーンがドラマ的にも、音楽、ダンスシーンにもない。オフ風の作りだ。原作戯曲との関係は調べていないが、原作の野田の「贋作・罪と罰」で松たか子が、十字路に立ってどこへ行くべきか迷うところが唯一三十年ほど前に見た記憶に残っていたシーンだった。