満足度★★★★
劇場の空気が他と違って柔らかだ。普段あまり劇場には通っていない二三人連れの客が年に一度の師走興行を楽しみに集まっている。常打ちだった青山円形で、ほぼ一月打てていた興業が劇場の閉鎖で、いろいろな劇場を転々とすることになって、今回は池袋の東芸の地下で半月。少しスペースが狭いがまずは青山の雰囲気である。ほぼ満席。
レストランを舞台にしたコントと音楽のショー、という形式で今回は30周年。劇場の閉鎖だけでなく、組んでいた白井晃との離別、とか一見楽しげなショーの裏側には多くのナマナマしい困難があったと思うが、高泉敦子が今なお、遊機械オフィスと名乗っているからには、小劇場を見取る後家の頑張りでこのユニークなショーを30年続けてきたのだろう。遊機械の考え方は、いまは多くの演劇人に受け継がれ発展しているし、即興コントから発展したこのショーも、少し規模は下がるが、昭和のパルコの「ショーガール」に比す平成の「アラカルト」と誇っていいだろう。
高泉敦子は柄は小粒だし小技がうまい役者だから、セットもレストラン一つという場でショーを成立させるためにずいぶん細かい工夫をしている。本では、ほとんど種も尽きているのだが、キャストも少しづつ変え、音楽の編成も工夫し、ゲストも日替わりでも行けるようにして、3時間の長丁場なのに、とにかく客をそらさない小技満載である。
今日のゲストは落語家の昇大。こういうゲストが違和感なくハマるところが、このショーといいところでもあるのだが、せっかく旬のゲストを呼んでいるのに、しかも、話が「都都逸」にまで行っているのに、この江戸文藝の面白さを専門家の昇大に話させない。惜しい。そういうところも、学生劇団上がり(というには年月がたっているが)の小劇場の甘いところでもある。
既に三十年、客席には若い人は少ないし、多分それ程共感もしないだろう。舞台は残酷でどこかで潮時がある。ここはいい退け時かもしれないし、たとえ、小さくなってもつぶれるまでやる、という手もある。つくづく三つ目の曲がり角、うまく曲がってくれと、ファンは思うのである。
それにつけても、こういうショーを定着させるのはものすごく難しいのだ。キャストだけではない、スタッフ、劇場、観客の息がそろうのは珍しい。あとはコマの地下でやっていた「ショー泥棒」位しか類例が浮かばない。ショーでなくても芝居でもいい。こういう季節と共に上演される劇場が作る風物詩はもっとあっていいと思う。歌舞伎には昔からそういう演目があったしいまは京都で師走興行が行われている。夏には椿組の花園神社興業もあるが、客が季節で楽しめる興業が欲しい。かつて竹中直人の会の晩秋の岩松芝居のような。いまなら、イキウメの図書館的人生かな。そういうことで芝居が市民生活の中に入っていくだろう。今日のアラカルトの観客こそ、いま演劇界が最も開拓しなければいけない市民層だと思った。
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