風に揺れて 公演情報 風に揺れて」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    鑑賞日2018/05/25 (金)

    なんて言うかね、終わってみれば…やり手の「囲碁」を体験したかの様な話の進め方だったと思う。

    1つ…また1つと…施術士や客の「雑談」が積み重ねられる時間… これがまた結構長いんだよね。

    …最初は「この芝居、一体どこに向かっていくんだろう…」って印象だったんですよ。反禁煙トークとか、治安の悪い地域の話とかね。もちろん雑談には笑いの要素もあったので、単なる日常の描写の積み重ねなのだろうか…とも思っていました。

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    ネタバレBOX

    (続き)

    しかし、話が核心の「装具技師・蜂谷」と「社会復帰したい元暴力団員・将太」にフォーカスされ始めると… ふと気づく。あの他愛の無い数々の雑談… いつの間にか…取り囲まれていたんだ… 何でもないごく普通の市民の 「無自覚な差別」に。

    アレはまさしく積み重ねた「布石」だったんだな…と後で思った。

    最初から…置かれた身の上が想像し易い将太に対し、謎めいていた蜂谷の素性が徐々に明らかになっていくが…彼女の行為の印象は…「背景」が想像できるか否かで全く異なる。

    父に見捨てられ… 母子2人きりで育った身の上ながら、なぜ自ら母を見捨てたのか… なぜ世帯分離までし…なぜ母の死に際しても故郷に戻ることがなかったのか。

    蜂谷は…結局、憎んだ父と同類じゃないか…とも思ったんだ、その時は。

    この理由は…舞台上ではハッキリとは明示されないが(観た人間がポンコツだから汲み取れなかっただけ…ってことは否定しない笑)、この一見不条理な行いの「背景」のヒントは…「広島」と「竹細工の村」というキーワードにあった様だ。正直、その場では ぼんやりとした空気しか掴んでいなかったのだけれど、…後で調べてみると「竹細工」は… 被差別部落では割と一般的な生業なんですね。

    いわゆる同和問題だったのだ。

    そして広島は福岡に次いで多くの同和地区を抱える県。
    これが分かると…途端に…そうまでして故郷を切り離したかった蜂谷の「切迫した事情」が明確になってくる。

    「こっちも必死だったんだ」というセリフの意味が分かってくる。

    頑なに父と会おうとせず…明確に父を憎んでいた蜂谷が、将太との絡みの中で「最後に父と話す」ところは予定調和として納得できたのですが、「お父さん…」って涙声になっちゃうことが、観た当初はしっくりこなかった。

    融和していくにしても最初から涙声はないでしょ… という印象でした、最初は。でも、娘も…父も… 母(妻)を犠牲にしてでも… 必死にアノ故郷から脱出しようとしていたのかと思うと… 娘にとって父は、実は憎悪の対象では無くて、自分の許し得ない行いの「鏡」であり…「直視したくないもの」であったと思える。
    そして一方で…「同じ苦境を必死に生きた同志」なのかなと思うと、「最後の涙声」がやっと腑に落ちた気がしました。

    ​幸か不幸か自分が公団住宅育ちで、古くからのしがらみがある土地に住んだことがなく、知識も浅かったので実感できないけど、2つの差別(ヤクザと部落)を重ねて話が進むことで、知らずとも解釈を助けてくれる部分や…、蜂谷 父娘の非人道的な行いを重ね合わせることで… そうさせるほどに「厳しい世界」なのだろうと…想像をさせてくれる感じがあるのは確かですね。

    シーンとしては、将太と蜂谷がガンをくれあう対峙が圧倒的にヒリヒリする感じで好き。背景を汲み取り切れずとも…アソコは痺れた。あの時、将太もまだ迷いの中にあったはずで、2人の迷いが衝突することで、最後の各々の決断が生まれたと思う。

    施術土おばちゃん・木村の自由奔放な活躍も目が離せませんでしたね。特に蜂谷・将太の対決への介入は凄かった(笑)

    作演・岩田さんの味なのか、劇団シアター・ウィークエンドの味なのか分からないけど、笑いの部分が独特な芝居でもありましたね。

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