満足度★★★★
渡辺えり子と野田秀樹が、岸田演劇賞を同時受賞したのは1983年。もう35年もたつかと思うと感慨深い。えり子は「ゲゲゲのげ』、野田は「野獣降臨」が受賞作だった。年月がたって、今月、野田は池袋で「足跡姫」えり子(子はなくなったが)は三軒茶屋で「鯨よ!・」をやっている。ともに、自らの演劇を回顧しながら今も変わらぬ演劇への思いを舞台に乗せている。好きなんだなぁ、舞台が、と思う。この舞台がともに公共劇場であることも面白い。彼らは、勝手をやっているように見えながら、世間の演劇観を変えたのだ。今回も自分の劇団主宰公演で、松竹でも、エイベックスでもない。野田がこの種の新劇公演で初演大劇場で61公演と言うのは、戦後新記録だろう。えりの方は劇団にこだわっただけ広がりには欠けたが、本人はキャラを売って演劇人の存在を示して、三越や演舞場、明治座でおなじみになった。この二作は還暦を過ぎた二人の自分へのご褒美のようなものだ。よくやった、ご苦労さん、今の若い演劇人も小さな殻や理屈(が多すぎる)に閉じこもらずに、自分の好きを前面に出して破壊的な力(二人の受賞作を見よ!!)を発揮してほしい。「鯨よ!」はキャストも厚く、老人ホームのアイデアもいいが、話が中途半端になったのが残念。島の子供たちの話はなくてもよかったのではないだろうか。中段、久野の歌のあたりまでは好調だったのに、息切れした。
満足度★★★★
リピーターとなる“価格帯”の劇団ではないが・・2度目の3○○は前回観たスズナリよりやや伸びやかなトラム。思いのほか早かった「再会」は再び渡辺えりのバイタリティに圧倒される観劇になった。
認知症の高齢女性を演じる名優たちが「等身大」に見えなくない妙なリアル感と、渡辺えり特有の「時空が飛ぶ」系の回転(展開より回転の語のイメージだ)が、絶妙の塩梅を作っていた(特に前半)。身も蓋もない台詞や小理屈がおかしく見ている間に「認知症」という概念との間に取り結んでいたネガティブな縛りが解かれていく。
中盤以降「物語」説明のモードが加わり、といってスッキリはせず混沌の度合いは増す。トラムでは狙いにくい終幕のカタルシス(さすがに屋台崩し的趣向をトラムでは・・)を敢えてなぞってしまうのが惜しかったが、波と寄せる演劇的叙情に心地よく浸り、脳内が刺激される1時間55分。
白が基調の舞台では、目まぐるしい中にも人物たちが赤裸々に、クリアに実在していて、嘘がつけない。
曲数はさほどなかったが歌の存在感はやはり大きく、シュールな中に突如、形を成した情感が胸をド突いてくれていた。