満足度★★★★
恐ろしげな世界
汚染された世界では「きれいな空気」が生命線。酸素は植物が生成するが、汚れをろ過したきれいな空気を作るのは薔薇だけ。もっともこの「薔薇」、植物ではなく人間の中でごくたまに生まれる、「ほめられると膨らむ」種類を指す。彼は耳を心地よくする言葉を聴くことできれいな空気を吐き出し、人を助ける。ただし、この社会ではこの空気は支配者の独占である。というか、空気を独占することで支配者となっている。最初の場面は、「薔薇」と思しい赤子が生まれたことに夫が気付き、その事を察知したらしい産科医を殺す(裏手の銃声でその事がほのめかされる)。時が経ち、その夫はやがて、狂気の支配者に使われる「官吏」となっており、薔薇の管理を任されている。支配者の片腕の大男が恐ろしげで、恐怖政治の実際の手先となって能動的に人々を威嚇する事に喜びを覚えているようである。
太陽もまともに当たらない世界、照明も茶色くくすんで人々は貧しく、世知辛く生きる。ここに善良で心のきれいな主人公の娘がいる。病気の妹がいて、仲良くくらしている。配給の空気を入れるタンクを交換してくれと言われ交換すると、穴が開いていて、困ったと妹に相談する。そんなあたりから、官吏の息子(実は薔薇だが素性を隠している)と、娘が出くわし、最初は険悪だが次第に心を通じ合わせ、精神的な愛を育む関係になる。だが娘の能天気さがアダとなり、官吏の息子が薔薇である事が支配者に知れてしまう。旧「薔薇」は次第に空気を作らなくなってしまっていた。
そんなこんなで、恐ろしげな世界の物語は綴られて行くが、ここに(我らが桟敷童子の)大手忍演じるこじきが登場してくる。これはまともに喋らず(喋れず)、いつも殺された死体があればどこかへ運んで行き、通りかかると人々から「臭い」と言って顔を背けられる。この「こじき」の独自の価値尺度や生活様式、哲学は無言の行動で表現される。万事行き詰まったときの「救い」が全身薄汚れた乞食によってもたらされる・・ファンタジーな場面は中々美しかった。喋れず、声だけの演技がよい。さすが我らが・・・
惜しむべくは物語をもっと緻密に、不具合を修正できるのではないかと思う。最後は「二人の愛の物語」的なまとめになっていたが、「汚れた世界」を生き抜く同士として、べたべたせず、同じ方向を向いていれば良いのではないか。向き合って愛してる、だの言った瞬間に空しくなる・・というのは愛を感情、心情として捉える限り、それは「自分」に属するものでしかないという難題に現われるからであり、「汚れた世界」を生き抜いてきた娘にその事を知らないなんて事はない、そう思えてならない。
舞台に出現せしめた汚れた世界の色合いは良かった。
満足度★★★
良い演出、良いストーリー
終わった後の世界で、清と穢がより分かれた世界が演出で上手く表現されていた。オチは好きだし良いストーリーだった。
登場人物の心情にはあまり入り込めなかった。メタファーが散りばめられているようにみえる舞台で、観客がどう感じるかは観客次第だけど、どういう感情を想起させるかの道筋は、やはり作劇する側が立てるもので、登場人物に心が無いように思えてしまうと行動や言葉に乗り切れないかなと。
満足度★★★★
気になる
これだけ質の高いダークファンタジー大作を小劇場で手ごろに観られるのはコストパフォーマンス良すぎでしょ。
政治が純愛に影響されるのはアニメっぽいかなと思いますが(アニメと同じニックネームを使っている自分が言うのもなんですが)その美醜隣り合わせの退廃的な世界観はたっぷり堪能できました。
こちらの劇団公演は3度目で前々作「たまには純情」は家族を描いたハートウォーミングな良作【お客さん少なかったー】。 前作「やぶれた虹のなおしかた」は映画「転校生」のアナザーストーリーの様で自分的には名作中の名作【満員御礼】で毎回アプローチが違うのにそのクオリティーはかなり高い所で安定しています。
なのに今回、席には結構余裕があり観客数が安定していないのが、すごく気になりました。(こちらは当日の観客数にあわせて席数を用意してくれます)
ゆったりとした空間で観る事ができ、ありがたいのですが、こんなに良質な公演なのに、なぜに?と、どうしても思ってしまいます。実際勿体ないですよ。
満足度★★★★★
観てきた!
すごく良かったです。かなりアクの強い独特な設定、世界観にも関わらずスッと作品に入り込めてしまいました。
ただ単にうつくしいだけでなく残酷さも併せ持ったおとぎ話のようなお話。
ベタな展開ではあるけど、好きなベタです。
終盤の「水やり」の場面には痛く胸を打たれました。
愛の言葉がとてもピュアで美しかったです。
一番印象に残ったのは、ピコ演じる島口さんの演技。
今回初めて拝見したので、あのどこか訛ったような語り口が演技なのか素なのかは分からないのですが、とても良かったです。