満足度★★★★
ほろっと家族、ふわっと人情、な芝居
素朴な人情劇、家族の物語には、実は大きな事件が起きる。家出だとか、行方不明だった兄が帰って来るとか、万引きしたとか。時には幽霊が出て来たりする。大事件である。離婚や不登校でも大きい事件と言えば大きい。ただし「殺人」は出てこない。
で、大きな事件を大事件とは感じさせず、人情話へと変換されるのがこの手の芝居だ。
さて今回は空き巣に入った男が逃げ遅れ、家主(父は他界、母は認知症で老人ホーム転居間近の長女)に数年前失った弟と間違えられて住み着く、という大ごとである。
弟は出来がよく、部屋には賞状が貼られてあり、理系の道に進みロケットの部品を開発する会社に勤めていたが、海難事故で亡くなるという悲劇があった。「遺体を見ていないから(母は)息子が死んだ事を認められない、豊(弟の名)に会わせろ、隠すなと自分を責める」と長女が台詞で説明するくだりがある。弟と姉に対する、母の扱いの違いが推測される。
この伏線から、最後のオチに向かうまでの間、脇役たちのストーリーも絡めて笑い、男気の感動シーンも盛り込まれ、うまい。
ただ、語りたいのは本筋だ。
大きな伏線が回収される一つが、弟に顔だけよく似た男が「演じる」内に妙な関心が湧いて来たり、情が湧いたり、母にも喜ばれる体験がどう実を結ぶか。彼の偽装生活は(それは家族の側の要請で成立した事でもあったが)過去を知る者の出現で暴露され、自身も開き直ってぶちまける。それを否定するのはむしろ長女だ。この男の「変化」が、ラストまでに訪れる。
もう一つは介護疲れした長女のこと。中でも母に認められない辛さ。これについては出来すぎたラストのオチが待っている。
演技はオーソドックスで捻りは無いが笑いは押さえていた。私としてはそれらの「笑い」が、「物語」に先行するのは好まず、息抜きの笑いよりは物語をしっかり見せてほしいと思ってしまう。つまりは、本筋だ。
その中心は、やはり長女の「苦悩」である。実はこの部分、作家は謎解きをうまく後に回して引きつけるが、結論的には長女と母の「関係」の問題が解消するというものだ。「面と向かって伝えられない」母がある手段(認知症がひどくなる前、一年前に仕込んだ)によって、時間差でメッセージを長女に伝える、それで長女は涙し、ある納得を得るという結末だ。
私としては、これは母が亡くなった後だからどうとでも解釈できる、死者との関係という範疇になり、今現在現実に認知症と向き合う苦しみのさなかに、見出した光ではない、という部分にやや淋しさを覚えてしまう。長女が受身なままで母からの愛を、本当はあった愛を今になって確認し、その事で能動的な人生へと転換して行く事になるのだとしたら、「出し渋った」母こそ悪、罪にも思えてくる。その「苦悩」というものをただ一般的な範囲で説明されても中々、それ以上は行かない。苦悩の薄さが、極上のラストに値しないと感じさせる。
耐えられる程度の辛さは「自己責任」で耐えられるが、本当に目を向けなきゃならないのはそれしきでは解決しない問題を抱えている人達だろう・・そう思えてくる。シンパシーを抱けないのではないが、、
この芝居では、母が奥の間に居るため、修羅場は見えない。具体的なやり取りとしても十分に語られておらず、「介護の問題」として観る者の一般認識から引き出すことで成り立っている、その分弱いというのもある。
物事は、解決して行くものである・・・その事への信頼のほうが大切である、との信条がたとえあっても、現実を描くなら「物事」のリアルな断面を見せつつ、その解決に向かわせる事でなければダメではないか、、。厳しすぎるかも知れないが、(長女の)「切実さ」のありかをもっと見たかった、という事である。
俳優の演技は安定していたが、プロデュース公演の香りがしてしまうのは何故だろう・・そんな事も思いながら見ていた。
満足度★★★★★
期待以上
これから皆が経験する年老いた親の介護。長女の静が認知症の母親を金城の夫婦、幼馴染等の協力で介護をすると言う内容ですが、日穏さんの舞台は企画・脚本岩瀬晶子さん演出たんじだいご二人コンビで出演者として舞台にもたたれる舞台ですが何回見ても期待を裏切らないで涙涙の舞台で完成度は高いです。次回公演は2017年夏頃の予定だそうで次回も楽しみです。
満足度★★★★★
スゴイ芝居を観た
物語はよくあるタイプなのだけれど、凄く丁寧に作り込まれていて、無駄が無いのがスゴイ。どのエピソードも回収し、重い話なのだけれども、笑いを適度に折り込み、清々しく終わる。巧みな脚本にまず脱帽。さらに、その本を書いた女優が主演をしているというのが凄く、他の役者陣も細かい部分までしっかりと演じきっている。いまいゆかり、を、観に行ったのだけれど、新たな出会いに感激した。
満足度★★★
ギュッとする。
日穏-bion-第8回公演「月の海」@下北沢 劇・小劇場
とてもとても、心の奥のどっかに語り掛けてくるStage。ずしっと来るのだけど、終演後は清々しさもあり。
宮内くん演じる"彼"の真っ直ぐさ、折れませんように…
そう、匂い、にも鼻を傾けてみて欲しいかな。