満足度★★★★★
Theater劇団子:「セリフを下さい」
昨日の夜、中野テアトルBONBON大高 雄一郎さんの出演されているTheater劇団子「セリフを下さい」を観に行って来ました。
とある廃校になった高校の放送部室、青春コメディかと思ったら、んっ?ミステリー?いきなり、この高校卒業生で放送部の部長だった七瀬(竹中 さやかさん) にかけられた殺害容疑を晴らすべく、訪れた弁護士川端(和田 裕太さん)と元放送部の顧問松平(杏泉 しのぶさん)の会話からはじまる舞台は、シリアスな雰囲気が漂う。
が、しかし、次の瞬間から舞台には、9割笑い、1割しみじみの世界が展開される。溢れるばかりの笑いの中に、散りばめられたしみじみが、お汁粉に入れるひとつまみの塩のように、舞台全体の味を締め、高校生だった七瀬の最後の「セリフを下さい」という一言がしみじみと胸に染み、胸を刺す。
最初から観て行くと、「セリフを下さい」と言う一言の台詞に込められた意味と重さ、七瀬の過去から現在に至る心の叫びであることに気づく。
そしてそれは、七瀬以外の人間には、優しく美しいマドンナを演じた、高校時代の親友であり、七瀬自身が気づいていない美点を見抜き、それ故に、自分に持っていないその美点に嫉妬し、嫉妬から七瀬の自己肯定力を奪うように支配しようとし、陥れる事件を引き起こし、後年その事を深くい続けた有希(斉藤 範子さん)の心の底に眠った叫びでもあったのではないか。
七瀬とは違う、本当の私の言葉、本当の私の思いを吐き出せる言葉を下さいという叫び。
小学校の頃に、全クラス対一人といういじめを受け、自分に自信を失くし、人が恐く、言った言葉は全て曲解され、ねじ曲げられ、家以外で言葉を発することが恐くて、教室では一切話さなくなった私の姿を七瀬に見て、七瀬の「セリフを下さい」にこめられた思いと痛みが胸を刺し、胸に染みた。
高校ぐらいまでは、大なり小なりのいじめはあったものの、小学校の3年間の地獄のような日々を思えば、大したことはなかったが、それを乗り越えることが出来たのは、理解し信じてくれた母と担任教師のおかげであり、どんな時も、母と行く先々で、理解し助けてくれた恩師に出会えたこと、そして書くという自分だけの世界があったことが支えとなった。
人は、一人でも理解してくれる人がいたら、絶望はしない。
「あなたを信じてる」「あなたが必要だ」その一言があれば、その一言を言ってくれる人がいれば、人は生きて行ける。
「セリフを下さい」は、七瀬の「信じて」という心の叫びと「あなたを信じてる」と言って欲しいという願いではなかったのか。
そう思いながら聞いた七瀬のこの台詞で、涙が溢れた。
この1割のしみじみを9割の笑いが包み込む。その9割の笑いの中の4割は恭介の大高雄一郎さんが醸し出していたようなきがする。男前なのに、なぜか出て来る度に可笑しい。
シリアスなだけでなく、全編笑いに溢れた楽しい舞台。でも、ちゃんとひとつまみの潮がぴしっと効いた素敵な舞台だった。
文:麻美 雪