「胎内」を観るのは4度目。洞窟の表情を作る照明が巧み。男女3人が激しく触れ合い、命(生と性)を描くのが個性的。藤井咲有里さんの演技が細やかで美しい。90分と短くまとまった三好十郎体験。
満足度★★★★★
定期公演を望む
●そこは誕生前の場所。閉ざされた闇の世界。産み落とされる社会に希望の光はあるのだろうか。もう既に世に生まれて汚れた人生を生きた者が、新たな人生を生きるためには生まれ直すしかない。汚れを落とすための閉ざされた暗闇。果たして希望の光は差し込むのか?●船岩祐太さんは光の演出が見事。あの揺らめく光も、僅かな穴から反射する光も、スイッチで放つ光も、希望と絶望を照らし出す。それを浮き彫りにする閉ざされた空間。舞台も客席も、まさにその闇に呑み込まれていた。終演時にあれ程気分が悪かったのは、演出が見事だった証だろう。●主宰の藤井咲有里さんが体当たりの熱演。僅かな明かりに映し出される白い太腿が艶めかしい。透き通るような背中も艶やか。それで、あの長台詞を感情の高まりを連れ立って流れるように吐き、機関銃のように撃つ。新国立演劇研修所の盟友、遠山悠介さんとの問答が哲学的で深い。人生を斬る。●演出とは、演技指導ではないということを教えられた気がする。船岩さんの演出、光…と言うより影や闇、そして音の演出が見事。闇に微かに刻む秒針が、まるでカウントダウンのよう。タイムリミットが迫る恐怖が伝染する。闇が客席をも胎内に呑み込んだ。その時を共に生きた。●胎内=洞窟=アウシュビッツのガス室。「子どもを産ませたい」覚悟した人間は、動物の本能として種を残そうとする。ガス室ではFREE SEXの状態に陥ったと何かで読んだ。カラダが馬鹿だとすれば、ココロも馬鹿にならないと生きていられないのかもしれない。この世の中も。●藤井咲有里、恐るべし。感情に淀みも歪みも無い。冷静も動揺も発狂も見事に連なっていた。新国立劇場演劇研修所修了生が立ち上げたユニットはあるものの、コンスタントに公演できずに苦労している。是非ともマキーフンに健闘して欲しい。みんなで応援しよう。