劇団昌世(チャンセ・韓国)「ソレモク(雪害木)」 公演情報 劇団昌世(チャンセ・韓国)「ソレモク(雪害木)」」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 満足度★★★

    さよならタイニイアリス
    毎度の事ながら迷った果ての到着。近辺を巡り、チラシを持って立つ女性のお陰で通り過ぎずに済んだ。タイニィアリスの名を知ったのは02年頃だったか。初めて訪れたのがやっと数年前の事だが、いつかは迷いに迷って観劇をフイにした事も。昨秋どっこい生きてる黒テントを目撃したのが二度目、今回三度目にしてやっと地理を把握したと、悦に入った矢先に閉館を聞かされるとは‥。
    で思い出したのが「たいにいありすで〜」と、ある役者志望の若者の口から出た奇妙な劇場の名、ここでやる事は何か通常でない意味を持つ、的な響きを含んでおり、その声色も耳に残っている。2006年頃、アサヒアートスクエアで中東の紛争当事国から招び寄せた劇団の公演があったが、主催がタイニイであった。代表の女性が「これからも頑張って行きます」と挨拶した調子から、ああ、お金にならん事やってるんだなと悟った。韓国新人戯曲の上演プログラムには、昨年も今年も行けず終い。なのに終わるのか。終わるのですね。
    ‥そんな事情もあってだろうか、この日は狭い客席の中に演劇関係者の顔が幾人も見られた。
    えらい前置きになったが‥、芝居について。韓国での新人発掘の意味合いの強いコンペで受賞した劇団(活動2013〜)と作品だという。コンペを主催し、今回推薦もした韓国の演劇団体代表によれば、完成度より挑戦する姿勢、従来にない新しさ、が要因との事。初日。スマートな作りではない。初めての海外公演で、演出者は30代だが俳優からの転向で演出歴だけ見ると浅い。今回の公演のどの局面もが、初めて尽しなのだろうと想像された。要素要素を取ってみれば評価に値する・・例えば俳優の技術、また状況・関係性を凝縮して見せる場面、はあるが、時間経過と共にある芸術=演劇が持つべき「謎かけ→謎解き」の心地良い積み重ね・積み上げが、今ひとつ実現されていない。字幕の翻訳の問題もありそうだが(日本人が監修していないのは明白)、そればかりでもなさそうだ。
    ただ、演劇としてのある種の試みがそこでなされている事は知れる。
    話は現代、ある農家の屋内が、程々写実的に設えられた舞台装置を使った一場だけのリアルな芝居だが、そこで飼われているらしい動物たちが踊ったり掛け合いをしたり、単に「リアルに」存在したりと、ファンタジーと言おうか異化と言おうか、奇妙な効果を出している。動物たちは人間達を見る「眼」の役目と、自らも人間界に翻弄されて行く「ドラマ内」的存在という微妙な立ち位置だ。
    俳優らは達者ではあるが、新劇風なベタ演技に見える所があったりもする。目を引くのは動物たち(鶏、豚、山羊、犬)の尋常でないリアルな形態模写。これを見るだけでも楽しめたりするが、ドラマのプロセスを見て行くと、そこだけ楽しむ感じにならない。「眼」にさらされて進行する人間たちの物語は、日本で言えば過疎問題、都市と地方の対立を扱ったものだ。韓国らしく?家族問題を前面に押し出している。ドラマを構成する要素は平凡だ。ただ夫婦間、兄弟間のやり取りでふと見せる行為やしぐさに「韓国的」を感じる。恐らく作者が吐露する「古き良きもの」として、それらは仕込まれている。だから所作を愛おしく感じて正解だ。母の老い先を案じて、というより道徳的義務のように呼び寄せようとする長男。韓国ドラマの典型のような設定だが、母子関係の彼我の違いも大きそうだ。末息子の嫁と母のきしみ、兄と弟の喧嘩、祖母を巡って父母と対立する孫娘。地方を搾取して都市が肥え太る古今東西変わらぬ仕組みが、まず息子らを都会(ソウル)へ追いやり、そして家主である母もこの愛おしい場所から連れ去ってしまうという、珍しくない結末が用意されている。
    アクセントを与えているのは動物らだが、リアルな形態模写モードから、一挙に振りを踊ったり、擬人化して(離別の事態を回避しようと)議論する場面もある、にもかかわらず、芝居はファンタジー的結末を用意しない。リアルを離れたモードにはなってもドラスティックに擬人化せず、抑制的。カタルシスを追わない代わりに、悲しい現実へと観客を突き放す効果を採るところに、作者の狙いがみえる気もする。
    ラスト、冒頭と同じ詩が女性の声で詠じられる。バックには吹雪の音と映画『西便制 風の丘を越えて』で流れたテーマ曲の別アレンジが流れる(元が民謡なのかオリジナルの映画音楽かは不明)。激情(恨=ハン)を詠った詩は、今や韓国でも遠くに思う精神なのだろうか。その詩に触発されて劇を作ったという青年演出家を、日本に置きかえて想像してみると、確かに希有な存在ではある。

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