満足度★★★★
奮闘染五郎10役早替り
澤瀉屋さんが復活上演した初回から、何度か観た「伊達の十役」、今回は染五郎さんが演じるとのことで、興味深く拝見しました。
最初の口上で、染五郎さんご自身で、十役の解説をして下さるので、人物関係がわかりやすく、歌舞伎にあまり馴染みがないお客さんには、大変親切な導入だったと思います。(いきなり始まると、染五郎さんが、十人もの登場人物を早替りで演じていることにすら気が付かないお客さんが相当数いるかもしれませんから)
序幕は、人物紹介を兼ね、ふんだんな早替りの趣向の醍醐味で、観客の興味を引き、二幕目以降は、一人の人物を長く丁寧に演じて、芝居の奥行きを感じさせる舞台構成が見事だと、改めて思いました。
先代の猿之助さんは、早替りに重きを置くタイプで、十役の演じ分けが、今ひとつに感じられましたが、染五郎さんは、十役それぞれのキャラクターをかなり工夫して、演じていらっしゃると思いました。
ただ、ハードな舞台のせいか、声が、いつもより掠れて、伸びも悪く、時として、台詞に力が籠らなかったのは、やや残念でした。
それと、これはもろ刃の剣的なことですが、早替りがあまりにもお見事過ぎて、難なくこなされているせいか、違う役で瞬時に登場された時のワクワク感をそれほど感じないのが、肩透かしにも感じてしまいました。
満足度★★★
昼の部鑑賞
若手中心の座組による公演で、3作品とも長過ぎず分かり易い内容でリラックスして楽しめました。
『義経千本桜 鳥居前』
源義経、静御前、佐藤忠信を巡る物語で、隈取や立廻りや狐六法といった歌舞伎ならではの表現が多く盛り込まれていて華やかでした。
平成生まれの若い役者達の演技は、台詞回しの重厚さには物足りなさを感じましたが、フレッシュで勢いがあって良かったです。
『釣女』
狂言を元にした、大名が釣り竿で美しい女性を釣り上げたのを見て太郎冠者も真似ると醜い姿の女性が釣れてしまうという他愛無い話で、ほのぼのとした雰囲気が楽しかったです。
中村亀鶴さんが演ずる醜女の姦しい感じと、それに困り果てる市川染五郎さんが演じる太郎冠者の遣り取りがユーモラスでした。
『邯鄲枕物語 艪清の夢』
金に困っている男が夢の中で金持ちになって逆に困ってしまうというアイロニカルな物語でした。夢の中の世界ではお金に対しての価値観が逆転していて、お金を人にあげたり捨てたりすることが悪であるという設定によって起こる、シュールな展開が可笑しかったです。
現実のシーンから夢のシーンへ移行する時と、また現実に戻る時のセットの変化が楽しかったです。
中村壱太郎さんがタイプの異なる2役を演じ分けていて、どちらの役も魅力的でした。