満足度★★★★
役者な歌手達
設定を現代のアメリカに置き換えているものの、先鋭的な突飛さやスノビズムのない、歌手達の芸達者な演技で魅せる、親しみ易い演出で、リラックスして楽しめました。
幕を用いず、開演前から部屋のセットが見えていて、序曲が演奏される中、本来もっと後になってから現れる伯爵婦人が一人で嘆いている姿が描かれ、この物語の中である意味一番報われないとも言えるこの人物にフォーカスを当てていました。
下品になり過ぎないセクシュアルな演技が多くあり、程良い刺激がありました。特に女2人が少年を着替えさせるシーンでは本来されるべき動きとは異なるエロティックな仕草が行われながらも、それが元々の歌詞に合っていて、とても官能的でした。
恋の思いを紙飛行機が象徴していて、様々なシーンで飛ばされていたのが印象に残りました。
歌手は際立って突出する人はいませんでしたが、全員が安定したレベルで演技も自然で音、楽的にも演劇的にも満足しました。主要な役は美男美女揃いで、脇役も凄く背が高かったり丸々とした体型だったりと個性的で、それぞれのキャラクターが立っていました。カーテンコールでの振る舞いも格式張っていなくて、フレンドリーな雰囲気があって良かったです。
オーケストラは歌と乖離しそうになったり、ミストーンがあったりしましたが、流れに勢いがあったせいか、あまり気にならずに聴けました。
レチタティーヴォの伴奏をするフォルテピアノはピットの中ではなく、舞台上手袖に配置されていて、歌手の演技に合わせて的確なタイミングで伴奏を付けていて気持良かったです。モーツァルトの他の作品の引用のみならず、ワーグナーやガーシュインの引用や、現代音楽の様な不響和音も用いる自由な伴奏が楽しかったです。
舞台美術はこじんまりとしていて豪華さは無いものの、第3幕ではミース・ファン・デル・ローエの『バルセロナ・パヴィリオン』、第4幕でピエール・コーニッグの『ケーススタディハウス#22』と近代建築の名作を模したセットとなっていて洒落ていました。
現代的でスタイリッシュな衣装もセンスが良く、視覚的にも楽しめました。