満足度★★★★
空気を変容させる音と身体
3月にリニューアルし終わったばかりのパイプオルガンの生演奏に乗せて踊る公演で、具体的な物語はないものの、とてもドラマティックな印象が残りました。
音というより空気の振動のような超低音と舞台上を線状に照らす照明で始まり、盛り上がったところで2人のタップダンスとなり、淡々とタップが続く中を静かにオルガンが回転し、明るくなるとバロックオルガンに入れ替わっていて、バッハの荘厳な音楽に合わせて、緩急自在に変化する流動的で且つ鋭いダンスが踊られました。
平均律とは異なる調律の古風な響きやメシアン作品の独特なハーモニーと、床を滑るように移動し、動きで空気の密度を変えて行くような振付がマッチしていて、時代を超越した不思議な感覚がありました。
バロックオルガンからモダンオルガンに戻る時は敢えてダンサー達は踊らず、あたかもオルガンがゆっくりと踊っているかのようで印象的でした。
勅使川原三郎さんと佐東利穂子さん以外はほとんど動かずに立っているだけでしたが、聖像や宗教画のトリプティークみたいで、厳かな雰囲気がありました。特に、3人がそれぞれ舞台上に設けられた小さなステージの角に客席を背にして対角方向を向いて立っている光景が衝撃的に美しかったです。
明暗と立ち位置で巧みに視線を誘導し、気付かない内に異なる場所にダンサーが現れている演出がパフォーマンス全体としての連続性を生み出していました。
コンサートホールでの上演だったためか、照明がいつもの鋭さに比べて少しぼやけている感じがありました。
コンテンポラリーダンスに馴染みがない人にも強く訴えるものがある公演だと思ったのですが、途中で帰ってしまった人が多くいて、想像以上に受け入れられないものなのだと残念に思いました。