満足度★★★★
こんな作品世界があったのか・・・!
鈴木志保の漫画『船を建てる』の舞台化。
実はこの漫画、薦められて読み始めたものの、絵もコマ割りも文体も「なんとなくとっつきにくく」、わずか5ページくらいで挫折してしまった・・・。
舞台を観て、やられました。
こんな世界を描いた作品があったのか。
(それも一度は手にしていながら、中身に触れることなくすれ違ってしまうところだったのか!)
今回の舞台は、漫画と比べると非常にやさしく、迷宮のような物語の最初から最後まで連れて行ってくれた。
おかげさまで、理解しきれないながらこの物語の内部にすっぽり入り込むことができた。その後で、「あれはどういうことだったのかな?」「○○は何を表していたのかな?」と考え込むことが非常に多くなった。
もちろん、その答えは見るもの一人一人に委ねられるのだろうけれど。
観劇後に居ても立ってもいられず原作を開き、その深さにどっぷり。
徹底的に切り詰められた白っぽい画面の中に詰め込まれた物語は、濃密で深い。非常に多くの寓話的な物語がはっきりした説明もなく散りばめられている。
わずか70分の舞台の中では、大半のエピソードが省略されたり縮められたりしているのだが、エッセンスはしっかりと残っている。
そして、この漫画世界が演劇作品になっている。舞台に乗る作品に仕上がっている。
一番の違い。漫画ではさほど泣けない・・・泣いたとしても手放しではなく、どこか苦い涙だろうと思うのだが、この舞台では、たくさん泣いてしまった。
けれどそれが、なんというか気持ちよいのだ。どこか捉えどころのない原作と違い、この舞台は手放しで泣くことも許してくれる。
それによって心が浄化された気分になれた・・・というか、存分に泣いた後で、ようやく運命(もしくは終末・・・?)を受け入れることができるような気持ちになる。
>いろんなことが あったね
>そうね でも もう おしまい
ざら紙のチラシでこのフレーズを読んだ時は、なんとなく気取った感じがしたものだ。けれど、舞台でこのフレーズにたどり着いた時の「あああああっ・・・」という気持ちときたら・・・・!!
客席は、会場の長辺に椅子をたったの二段に並べてあるだけ。
波の音ともあいまって、細長い船のような舞台を船べりから観ているようにも感じられる。
ワンステージわずか50人くらいしか入らない。確か全6ステージでほとんど満席だったと聞くけれど・・・たった延べ300人しかこの舞台を体験できない。
もったいない・・・・。
もっと多くの人に観てもらいたい作品だと強く思う。
この世界観を構築するための音楽や照明もピタリと合っている。
開演前から、ずっと波の寄せては返す音がしていた。ここは船の上なのかなとも思わせられたが、そうでもあり、そうでもない。
役者さんたちは特に上手いというのではないが、非常に素直な演技。作品世界がストンと胸に落ちて来る。
特に印象に残ったのは女神さま。開演前からラスト近くまでずっと動くことなく、舞台の隅で片手を挙げて立っている。非常に背が高く筋肉質で、普段は舞踏(マイム)の方をやっている方とのこと。動きの美しさに何度もハッとさせられた。
物語が進むに連れて、次第に「ある予感」が高まってくる。
登場人物のそれぞれの物語が、本当にあったことなのかもわからなくなる。
最後には美しく哀しい、残酷な結末に連れて行かれる。
いくつもいくつも、「謎」が生まれてくる。観ている時も。見て数日が経ってからも。
世界の秘密。
人と人が出会い、愛し合い、別れることの秘密、
もちろんその答えは、観る人によって異なり、非常に幅が広いでしょう。
けれど、舞台と、そのあと原作コミックを読んで、いろんなことを考えてしまいました。
舞台と漫画ごっちゃになりましたが、こちらに書きましたので、もし興味を持っていただければ・・・。
http://yaplog.jp/kinoko2006kun/archive/1191
http://yaplog.jp/kinoko2006kun/archive/1192