満足度★★★★
圧倒的な祝祭性
ギリシア悲劇にクセナキスが荒々しい音楽を付けたオペラに、スペインの演出家グループ、ラ・フラ・デルス・バウスが多彩な表現を施し、前衛的でありながらエンターテインメント性に富んだプロダクションとなっていました。
『アガメムノン』『供養するものたち』『恵み深い女神たち』の3部からなり、特定の歌手が特定の役柄を演じる部分は少なく、主に合唱によって物語が語られ、裁判という制度の誕生によって肉親同士の復讐の殺し合いの連鎖が止む様子を描いていました。
第1部でバリトン歌手が普通の音域と裏声の使い分けと左右で異なる顔のメイクによって1人2役を演じていたのが歌舞伎のようで興味深かったかったです。紗幕の後ろで歌うバリトン歌手の体から歌詞の文字が飛び出てくるように見える映像の演出も斬新でした。
終盤ではステージの中央に設置された抽象的な造形の大きな木が回転する周囲や客席通路で大勢の合唱が打楽器を打ち鳴らしながら歌い、児童合唱さらには観客も演奏に加わって圧倒的な高揚感がありました。しかし、そのシーンでは合唱が猿の格好をしていて、どう解釈したら良いのか悩みました。未だに争いや報復が起こり、古代から進歩していない人類の愚かさをアイロニカルに表現していたのでしょうか。
合唱とは別の大勢のアンサンブルの身体表現を用いたり、客席で演じたり、壁一面に映像を映したりと、大掛りな美術や照明が組めない音楽ホールでの上演ということを感じさせない巧みな演出が素晴らしかったです。
鳴っている音にリアルタイムで反応して変容していく映像が印象的でした。
複雑な響きの器楽アンサンブルとは対照的に合唱は明快さがあり、原始的なエネルギーに溢れていて魅力的でした。合唱や管楽器奏者も打楽器を演奏して刺激的な音響が鳴り響いていて、現代音楽に興味がない人でも引き込まれると思いました。
これだけ作り込んだプロダクションが1回しか上演されないのは勿体ないと思いました。