実演鑑賞
満足度★★★★★
太宰治の『駆込み訴え』と映画『ジーザス・クライスト・スーパースター』は自分のキリスト観を築いた作品。常にこういう視点で見てしまうのでユダに感情移入は避けられない。そしてあぶらだこの『PARANOIA』。かなり歪んだ感覚だろう。裏切り者の裏切らざるを得なかった純情を謳う。愛なのか復讐なのか、突き詰めればそれは同じ意味なのか。キリストの物語は未だによく判らない。死にたがりの救世主モドキとその一番の理解者との愛憎物語。ただハッキリしているのはキリストが無敵の神様ではなかったこと。純情を貫いた弱者だった。だから皆トラウマとしてずっと抱えることになったのだ。
①下山寿音さん一人芝居『駆込み訴え』
本編50分程度の原作を30分の下山寿音さん一人芝居に凝縮させた。下山寿音さんは友近の若い頃のようなド迫力と仙道敦子の可憐さが備わった美人。とにかく迫力があって目を奪われる。目力が強い。本当に瞬きをしない。三船敏郎か?
ユダがキリストを本当に愛していて他の誰にも触れられたくなかった気持ちが痛い程伝わる。この人の真の美しさを知るのは世界中で自分一人だけだと。こんな下らない救世主ごっこはもうやめにして静かに田舎で暮らしましょう。何も不自由はさせませんから。だがキリストは破滅に邁進する。自分のことなんて目もくれない。
②青森中央高校演劇部『駈込み訴え』
これはやられた。高校演劇大会の演目に『駆込み訴え』を選び練習を重ねる演劇部の物語。キツい部長(福井来寿々〈こすず〉さん)とこき使われる同学年の演出助手(丹羽桃嘩さん)。厳しい縦社会、嫌気が差して辞めていく下級生達。
福井来寿々さんは松岡菜摘似の美人で存在感がある。
主人公、丹羽桃嘩さんも負けていない。表情に力があって観客の心を揺り動かす。
何かゆるいギャグが散りばめられていてああ学生演劇と思わせといての狙いすましたキツい一撃。『駈込み訴え』の内容を現実の学生生活にだぶらせる仕掛け。これには太宰治も参ったろう。こっちも参った。『駈込み訴え』をお話ではなく、今の現実の一部として描写。これぞ天才の成せる技。台本も買いました。本当に叩きのめされた。こういう作品と出逢う為に皆足繁く劇場に通い詰めているんだろう。