四月大歌舞伎 公演情報 四月大歌舞伎」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「充実の三本立て」

     四月の歌舞伎座夜の部は義太夫狂言の「毛谷村」と舞踊「鏡獅子」、そして神田松鯉の講談を歌舞伎化した新作「無筆の出世」の三本立てである。

    ネタバレBOX

     「毛谷村」は仁左衛門と幸四郎のダブルキャストで、私が観たのは仁左衛門出演の回だった。仁左衛門の六助はその若さと爽やかさがまず目を引く。「杉坂墓所」では山賊を倒すくだりの決まりがキレイで、父を殺された幼い弥三を引き取るところは慈愛あふれんばかりである。続く「六助住家」で冒頭、わざと微塵弾正(歌六)との剣術の試合に負け、弾正に殴られても鷹揚に受けとめるところに懐の深さを見せる。後半、すべては敵である弾正の策略であったと知ってから庭先の岩を踏んづける怪力を見せて、この男の真の姿を観客にわからせた。対する孝太郎のお園は虚無僧姿で花道から出てきて六助に襲いかかろうとするところの鋭さと、そのあと六助がじつは許婚であったと知ってあとの恥じらいのギャップがまず面白い。臼を持ち上げる怪力とクドキも見応え十分であった。東蔵のお幸は一部台詞が怪しかったがこの人が出て舞台が締った。

     続く右近の「鏡獅子」は竹久夢二の美人画から出てきたかのような瓜実顔の初々しい弥生の前シテ、気迫十分の後シテ獅子の精と体を目一杯使った力演で十二分に堪能した。背中を見せてキマる弥生の後ろ姿が特に印象に残った。

     最後の「無筆の出世」は幕開きに神田松鯉の講談が付き、その背景で中間の治助(松緑)が岸を離れようとしている船に勢いよく乗り込み、主人から預かった手紙を濡らしてしまうあたりを松鯉の口述に合わせ無声で演じたところがまず面白い。松鯉が奈落へと引いてからは、治助を刀の試し切りに使えと書かれた手紙を文盲の治助に大徳寺住職の日栄(吉之丞)が善意で読んで聞かせ、その後出奔し大徳寺に逃げた治助の仕事ぶりを買った夏目左内(中車)が引き取る。やがて左内や妻の藤(笑三郎)の引き立てて一から文字を覚えやがては勘定奉行松山伊予守にまで出世するまでをテンポよく描いている。こういう新作になると役者は皆イキイキしており、松緑の治助ははまり役であった。しかし治助が出世するまでを再び現れた松鯉の講談に託し、その横でまた俳優の無音の芝居を入れるのは説明的にすぎるのではないか。最後に治助がかつての主佐々与左衛門(鴈治郎)に掛け軸に入れた因縁の手紙を見せ、この手紙にはとても感謝していると言わせるところは一本気を感じるものの後味が悪かったのも事実である

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