実演鑑賞
満足度★★★★
英国現代演劇の作家の同じキャストで二作連続公演。共に群衆劇でロンドンの今を描いている。舞台は「ポルノグラフィー」が2005年のロンドンオリンピック反対運動でテロが起きた日、「レイジ」は2015年暮れ。新年を迎えるまで。長い。計3時間20分。
前者が市民が混乱する中、個人とその周囲の数少ない人間関係が描かれ、後者は大晦日の風景の中での社会関係の花果の人々が描かれている。イギリス経験が豊富とは言えないが、いかにもイギリスの市民風景の中でヨーロッパに住む人々の現代の心情風景が多角的に描かれていて、始めて見る作家ながら、うまいものだと、感心させられる。まずは作家の旨さ。
前半の作品のスジはテロで犠牲になった56名の死者を呼び起こすようなスケッチだが、軸にセックスを置いて、そこへ現代社会のいらだちを反映させている。エプロンステージのような凹型の裸ステージを置いて、そこで出演者が次々と主に「語る」。一つのエピソードの出演は一人か二人解きに4人になることもあるが、それぞれ話は独立している。語るヒトの生活も違う。そこをつなぐのはロンドン地下鉄、トラムで、ロンドンの主要駅が次々に出てきて、そこでロンドンの生活感を担保するあたり上手い。まさかそれで日本の上演を世田谷線のホーム続きにあるトラムにしたわけでもないだろうが、そんなしゃれっ気もありそうな気がしてしまう。
演出は桐山知也。始めて見る若い演出家だが、前編をノーセットの閉鎖的な舞台に、後半は劇場中幕を上げて高さのある天井を生かして階段セットを4階まで作り、さらに客席までも使って市街劇の感じを上手く出している。後半のスジを運ぶのは中年のタキシー運転手と、酔っ払って車内でゲロを吐いた客の女。酒場で暴れて警官三人に抑えこまれる若い男。それを見ている孤独な初老の女。その騒ぎが起きる広場には穴があって、そこは未来に通じているらしい。こういうありがちな話の閉め方もうまいものでリアリティを崩さない。この演出家、前編、後編をきっちり分けてみせる手数も若いに似合わず上手い。これからか、ちょっと次も見て見たい。俳優はそれぞれいろいろな役柄を演じることになるが、半分以上は若手の芸達者がでているので長丁場も安心して見ていられる。
スタッフでは、音響が良かった。音楽がない分現実感を抽象音を巧みに選んで作品のリズムも作っていた。まぁこの劇場もよくできていると言うこともあるのだが。
イギリス演劇の底力がよく出た作品だ。