実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2025/02/22 (土) 13:00
座席1階
秀作だ。2時間余り、かたずをのんで舞台を見つめ続けた。以前から、社会派劇を創作する劇作家として注目してきた高羽彩だが、これほどまでの舞台を見せてくれるとは。タカハ劇団としてはあこがれてきた本多劇場だそうだが、この作品で大きく羽ばたいたと言っていいと思う。
舞台は戦時色が濃くなりつつあった戦前の日本。東京の大学の解剖室に、当時の医学界の権威とされる医者たちが集められていた。彼らが待っていたのは、とある死刑囚の遺体だ。凶悪犯罪を重ねる人間には、肉体的・精神的に特異なものがあるだろうという仮説に基づき、脳を含めた詳細な解剖を行う予定だった。ところが、遺体が刑務所から届かない。イライラを募らせながら解剖について話す医師たちだが、しばらくすると、この解剖に異議を唱える医師が現れた。議論の行方はどんどん微妙な方向にずれていく。そして、一同は担当の教授が伏せていた重大な事実を知ることになる。
過去作でも鋭い会話劇を提示してきた高羽だが、今回は医師や看護師、教授夫人まで交えて息をもつかせぬ会話劇を展開する。テーマとなっているのは、精神障害者、知的障害者、犯罪者は優秀な国民の中にあってはならない人間だとして、解剖で犯罪傾向の身体的特性がつかめれば、犯罪を起こす前に対処する(抹殺する)ことで優秀な遺伝子だけを残していくことができるという発想だ。
このような考え方は戦後までひきずられ、優生保護法によって断種や不妊を強いられた障害者らにようやく政府は謝罪して、補償を始めたばかりだ。重い知的障害や肢体不自由で言葉を発することもできない障害者は生きている価値がないと主張して、大量に殺害した事件から、まだそれほどたっていない。この国では、戦前からの優生思想がまだ、生きているのだ。
そうした事実を、この舞台は真正面から鮮烈に提示している。人事権を握る教授に取り入ろうとする医師とか、教授の娘と結婚すれば出世に有利だとか、そうした小さな物語も織り込まれて見る者を飽きさせないが、舞台の本質は「生きる価値がない人間はいるのか」という劇作家の叫びが太い幹になって貫かれているところだ。
自分が見た日は、舞台手話通訳者を袖に配置し、視覚障害者などにもアクセシビリティが図られていた。今回は本多劇場という席数の多い会場にして正解だ。
見ないと損するぞ。