満足度★★★
分かり易くオペラ化
男を獣に変えてしまう魔力を持った山奥に住む女と、その女に魅了される若き僧侶の物語を妖艶に描いた泉鏡花の代表作をオペラ化し、原作では直接的には書かれていない、女の僧への想いが大きく取り扱われていて、恋愛要素が強く打ち出された分かり易い作品になっていました。
ある僧侶が若い頃に経験した不思議な出来事を、旅の道中で一緒になった「私」に語り聞かせるという体裁で、会話より情景描写や心の中で思ったことの説明の文が多い、舞台にはあまり向いてなさそうな原作が巧みな脚本化・演出でドラマとして立ち上がっていました。
第2幕の後半以降は原作にはないテクストを用いて、女が僧に対しての愛情を歌い上げ、プッチーニの作品の様なドラマチックな盛り上がりがあったのですが、それまでの展開が平板で中だるみを感じました。
具象的な美術、奇を衒わないオーソドックスな演出で、物語が分かり易く描かれていました。大量の蛭に襲われるシーンや、女に体を洗ってもらい女も裸になるシーンが舞台化に際して見せ場になると思いますが、原作の文章より気持悪さや官悩性が立ち上がって来なくて残念でした。
黒子の様な格好をして舞台上に佇む合唱のアンサンブルが魑魅魍魎や自然現象を表現していたのは、動きに大胆さがなくて中途半端な表現に見えました。
音楽はストラヴィンスキーやバルトーク、ラヴェル、シュトラウス等の響きを思わせる、調性感がある親しみ易いもので、おどろおどろしいシーンでは無調的旋律や不協和音を用いていたのが効果的でした。
水の音や馬の鳴き声は録音を用いていましたが、せっかくオーケストラと合唱という大規模な音色のパレットがあるのだから、それらの音も楽器や声で表現して欲しかったです。