秀山祭九月大歌舞伎 公演情報 秀山祭九月大歌舞伎」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.0
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    「播磨屋二代の当たり役」

     九月歌舞伎座は初代吉右衛門の功績を称える恒例の秀山祭である。夜の部に二代の吉右衛門が得意とした「妹背山」より「太宰館」と「山の段」、そして二代目が80歳になったらまた演じたいと生前語っていた「勧進帳」が出た。

    ネタバレBOX

     朝廷の転覆を企む蘇我入鹿(吉之丞)は太宰後室定高(玉三郎)の屋敷に大判事清澄(松緑)を呼び出し、帝が寵愛する采女の局の行方を詮議する。領地争いで敵対している定高と大判事だったが、二人が結託して采女の局を匿っていると疑う入鹿は、もし潔白ならば定高の娘雛鳥(左近)を入内させ、大判事の息子久我之助(染五郎)を出仕させろ、従わなければ子どもの首を打てと命じ、手にかけたら両家の間に流れる吉野川に流せと桜の枝を渡す。

     短い幕だが観ておくと続く「山の段」の筋の理解が深まる。定高と大判事の不仲ぶりが玉三郎と松緑の競り合いでよくわかる。吉之丞の入鹿の芝居は堂々としているが、あまり暴君めいてないうえに時々声が割れるところが気になった。ちょっと出るだけだが荒五郎の早見藤太が入鹿から両家の監視のために遠見を渡されて花道に引っ込む、その姿形がきれいである。

     続く「山の段」では吉野川を挟んだ下手側の妹山の館にいる雛鳥が背山にいる久我之助に思いを向け、それに呼応して久我之助もまた愛する雛鳥に応えるという若い二人の芝居がまずある。左近も染五郎も、役の年齢に近いうえに健闘してはいるものの、もっとあふれるばかりの情愛を感じたかった。続いて上手側の仮花道から大判事が、少し遅れて本花道から定高が入ってくる。玉三郎の定高は過去二回とも二代目吉右衛門を相手にした気迫に満ちたものであったが、後輩の松緑が相手の今回はその大きさが際立つ。昨年の初役から間もなく二演目となる松緑の大判事は玉三郎に果敢に挑んでいるが、より屈強で巌のような大きさがほしいと思った。

     前回の玉三郎の定高は雛鳥に対し「貞女の立てよう、見たい見たい」の鋭い気迫が強烈だったが、今回はむしろ娘への情愛により強いニュアンスがあるように見えた。松緑の大判事も「侍の綺羅を飾り、いかめしく横たえし大小、倅が首切る刀とは、五十年来知らざりし」のところが情愛溢れんばかりであった。互いの子どもに果てようとしているところで二人の親が川を挟んで向かい合う仕方話は玉三郎と松緑の気持ちが通じ合っていて胸が熱くなる。妹山の腰元小菊の京妙、桔梗の玉朗がともにいい仕事をしている。

     続く「勧進帳」では、まず菊之助の富樫が明瞭な台詞回しと、何としてでも朝敵義経一行を取り逃がさんとする大きさで圧倒された。続いて花道から入ってきた染五郎の義経の美しさに目を取られると、やがて今回三回目となる幸四郎の弁慶が、二代目吉右衛門を彷彿とさせる滋味ある口跡と大きさで客席を魅了する。菊之助と幸四郎による背丈の合った火花の散らし合いがいいので、勧進帳の読み上げと山伏問答は特に盛り上がった。真相を慮った菊之助の富樫の「今は疑い晴れ候」は万感の思いに溢れていた。染五郎の義経の「判官御手を取り給い」はもう少し柔らかさがほしい。そのあとの弁慶による戦物語は幸四郎の体のキレの良さもさることながら、ここまでの芝居がいいため特に印象に残った。

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