白魔来るーハクマキタルー 公演情報 白魔来るーハクマキタルー」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.8
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。と言っても流血・暴力シーンなど、トリガーアラートには留意が必要。
    当日パンフでは、100年ほど前にあった実話「三毛別羆(さんけべつひぐま)事件」を題材にしている とある。日本最大の獣害事件として有名らしいが、自分は知らなかった(Web上に情報有り)。さて、ラビット番長の公演と言えば、介護・将棋・野球の三本柱(ハートフル)という印象が強いが、本作のようなノワール系で緊張を強いる話も面白い。

    公演はテーマ性、観せる演出、語り部による客観的な紡ぎ、その相互の緊密な繋がり連携によって迫力ある物語に仕上がっている。勿論 キャスト陣の迫真の演技が物語を支えている。初演(2015年、その時が事件から100年目)も観ており 概要は覚えていたが、改めて再演を観て 考えさせられることの多さに気づく。
    池袋演劇祭参加作品。
    (上演時間1時間45分 休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台美術は、「く」字を下向きにしたような変形半円、後景は鬱蒼たる樹木の中といった不気味な雰囲気を漂わせる。障子の開閉で情景・状況の変化を表す。

    物語は現代と過去、と言っても ほとんどが事件に関する描きである。若者が道に迷い一軒のあばら家で暖をとっているところから話は始まる。この家の主(老人=語り部)は、冬だけこの家に滞在しているという。その理由を語り出し、場転換すると そこは北海道開拓当時へ…。開拓した土地は自分のものになる、そんな甘言に夢見て北海道へ移住した貞夫一家(貧民)。村長を始め村人たちは親切に迎え入れ、馬まで与えてくれた。

    北海道の冬、それも僻地では極寒。白魔来るは、雪が降る日に起こる災いのこと。その災いとは巨大な羆の襲来、村人たちは為す術もなく家族を食い殺される。これは開拓民の視点で、羆にしてみれば先に生息していたのは獣のほう。開拓すればするほど羆の餌場は荒らされ、生存の危機といった見方が出来る。
    物語が面白いのは、視点の転換によって見え方・考え方が異なる、その柔軟な発想。勿論 直截的には環境問題といったことを思うが、究極的には人と獣の生存をかけた戦い。

    また語り部の老人、実は羆に殺された女の胎内にいた赤ん坊で、奇跡的に助かった。多くの村人が犠牲になり、貞夫は自分たちが入植したために惨劇が起きたと嘆く。生まれながらにして望まれぬ、いや忌み嫌われる存在、それが父 貞夫の「この子を殺してくれ!」という慟哭。一方、羆退治のために伝説のマタギ 平吉を招請した。その風貌は、日本人とは思えないもの。ロシア人とアイヌ人の混血、彼もまた蔑まれ虐められていた。この差別意識が物語の背景に暗い影を落とす。

    チラシには「惨劇」「鳴り響く悲鳴」といった言葉が並ぶが、首が落ち、血が飛び散り障子を赤く染める、腸が引き裂かれる等のシーン。また照明は全体的に昏く、音響は上演前から風が唸り、おどろおどろしい音が鳴り響く。場転換時の三味線を弾く音、太鼓を叩く音が緊張・緊迫感を煽る。テーマの明確さ、恐ろしい場面演出、時代の背景や状況を語ることによって、現代との橋渡しをする。トリガーアラートが乗り越えられるならば、ぜひ劇場で恐怖を!
    次回公演も楽しみにしております。

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