灯に佇む 公演情報 灯に佇む」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
1-2件 / 2件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/10/04 (金) 14:00

    座席1階

    いつもの加藤健一事務所とは少し趣の異なる会話劇。喜劇ではないから笑わせるところも少ない。加藤ご本人が「これをやりたくて温めていた」という戯曲という。

    舞台は宮城県の小さな診療所。医師である父(加藤健一)は息子に院長を譲って今は土曜日だけの診療をしている。患者1人に30分も1時間もかけて話すという診療で「そんなことをやっていたら、クリニックはつぶれてしまう」と息子にしかられている。ある時、古くからの患者で家族ぐるみの付き合いになっている男性が、何だか上の空で訪れる。胃がんの告知を受けたばかりだという。この男性の妻もがんを患い、抗がん剤の副作用に苦しんで亡くなった。男性はそのことも胸中にあり、抗がん剤と放射線による積極的な治療を望む男性の息子と本音では意見が合わず、昔からのかかりつけに相談に来たのだ。

    多くの患者をこなさないと経営的に安定しない地方の診療所。だが、病気を診るだけでなく患者の人生までも受け止めて診療に臨む姿勢で地域で信頼されている診療所も多い。加藤健一演じる医師はこのような医師であり、テキパキと診療して休診の午後は野球を楽しむというスタイルの息子の医師とは世代間の相違もある。こうしたテーマだけで亡く、この台本はがん治療の在り方までに切り込んでいく。

    がんについては保険診療によるゲノム医療も始まっていて、治療の選択肢は少し広がってはいる。ただ、手術や化学療法などの標準治療を行ってもうまくいかないケースは多い。もう、次の手段がないという場合は急性期病院は退院を求め、緩和ケアを勧めるのが定石だ。どんな治療を選ぶのは患者や家族の判断であるから、徹底的にがんと戦うのか、戦うのをやめて痛みを取るだけの治療に切り替えるのか、それこそこの舞台のように患者と家族の意見が食い違うなどしてとても難しい。どんな治療を選択するのか、そこでは誰の意見を大切にしなければならないのか。この舞台が一つの答えを出している。

    今作では加藤健一は群像劇の一人であり、前には出てこない。長く続いてきて本人も年を重ねてきた今、このような戯曲を加藤健一事務所はもっともっと取り上げていってくれたら、と思う。

  • 実演鑑賞

    カトケンはいい役者である。役を芝居らしい表現で見せる力量がある。喜劇も悲劇も出来る。舞台を仕事の中心においてブレない。芝居の好みにこだわる。個人事務所で自ら役を選ぶ。結果、いまもなおその居場所が決まっていない。珍しい俳優である。
    加藤健一事務所は年に二三本の主演公演をやって40年になるという。その初期に「寿歌」(81)を見たのも、この紀伊國屋ホールだった。小劇場の一つのあり方を実践してきた。再演も多いが、公演していると、たまに見たくなる。
    今回は創作劇である。医療の現場の問題を扱った「新劇」である。カトケンは地域に生きる老開業医である。次々の難題は降りかかるが、地方の開業医には自分の医師としてのささやかな志も生かせる環境がない。かつては手近なところにあった医師と地域の関係も今は遠い。こういう役に時代の未来を重ねなければならないところにも、日本の疲弊した現状が見える。
    観客層は民藝に近く、昼公演が断然多くなったが、それでも七割の入りだ。出演メンバーも顔ぶれの幅が狭くなっている。今回は占部房子が初参加ではないだろうか。そこに僅かに新しい風が吹く。

このページのQRコードです。

拡大