実演鑑賞
満足度★★★
人は去っても芸術は残る
Les gens partent mais l’art reste
日本の植民地時代に生まれた韓国の中原中也的な詩人、イ・サン。韓国語で「異常」とも「理想」とも音読み出来る為、このペンネームにしたらしい。1934年、彼が韓国の新聞に連載した『烏瞰図』は難解でシュールレアリスム的で抗議が殺到し打ち切りとなった。ただ横光利一や安部公房っぽく暗号めいていて強烈な印象が残る。ピョン・トンリムと4ヶ月だけの結婚生活。東京に一人旅立ったイ・サンは7ヶ月後、1937年肺結核で逝去、享年26歳。
数年前観た、彼を主人公にした韓国ミュージカル『SMOKE』で興味を持った。韓国人は詩への評価が高く、日本でいう文学の位置を占めているそうだ。当時気になって『空と風と星の詩人~尹東柱(ユン・ドンジュ)の生涯~』までチェックした。
2004年2月29日、キム・ヒャンアン(ソニンさん)88歳は生涯を終えようとしている。手帳をめくって自分の人生を思い返す。
二十歳の時(1936年)、詩人イ・サン(相葉裕樹氏)と楽浪(らくろう)パーラーで出逢ったピョン・トンリム(山口乃々華さん)。防風林を歩きながら詩について語り合う毎日。理解されない天才詩人を励ます。
「凡人の言う事なんか相手にしないで」
まるで三点リーダーのような気持ち。
「一緒に死んでくれませんか」
2つの時系列が交差する物語の面白さ。イ・サンとピョン・トンリムは戦前から順行。キム・ファンギとキム・ヒャンアンは現代から逆行。戦前と戦後、この2組のカップルが重なる時間軸。ソニンさんは最高。理想的ミュージカル女優。
生演奏のピアノ(落合崇史氏)とヴァイオリン(廣田碧さんと森麻祐子さん)も素晴らしい。
貴方の感嘆符を信じて!