おちょこの傘持つメリー・ポピンズ 公演情報 おちょこの傘持つメリー・ポピンズ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.7
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    「豪華布陣によるきらびやかな言葉の応酬」

     1976年に状況劇場が初演し現代でも頻繁に再演される名作を、長年唐十郎作品を手がけている新宿梁山泊が上演した。劇団のチームワークと豪華な外部出演陣が合わさり素晴らしい成果をあげた。

    ネタバレBOX

     すえたドブ川のたもとにあるうらぶれた傘屋のおちょこ(中村勘九郎)は、傘の修理を依頼してきた石川カナ(寺島しのぶ)に恋をしていて、彼女の傘をメリー・ポピンズのように空飛べるものにしようと、居候の檜垣(豊川悦司)を相手に実験に勤しんでいる。やがて姿を現したカナは檜垣とは古馴染みであった。ふたりにはある大物歌手のスキャンダルを巡る因縁があったことがここでわかる。

     おちょこのもとには、じつはいかかがわしい生業をしているカナを目当てに来たトラックドライバーの男(六平直政)や、檜垣と旧知の仲である芸能マネージャーの釜鍋(風間杜夫)らが入り込んできて騒がしい。カナは故郷の下関に戻ろうとしているが、その目的は? そしてじょじょに追い詰められるカナは逃げきることができるのか……

     実際のスキャンダルに取材したという本作は、他の唐作品同様に一癖も二癖もある登場人物たちが絡み合い、地名や初演時の風俗、映画や歌謡曲といったさまざまなイメージを散りばめた言葉の応酬が見ものである。

     勘九郎のおちょこは自由自在、流れるような台詞回しが群をぬいている。NODA・MAP『走れメルス』(2004年)や野田版歌舞伎4作で磨いたのであろう力量が生きており、歌舞伎公演で観るよりもイキイキ軽々とした身のこなしである。テント芝居ではよくある客イジりもなく、アドリブはほどほどに、戯曲の要求した生真面目で一本気なおちょこを熱演していた。寺島しのぶのカナは黒いドレスと傘で花道から登場したその出から目が離せず、恋に生きる謎めいた女性に見えて時折品のない言葉を挟む達者ぶりで、Project Nyx『伯爵令嬢小鷹狩鞠子の七つの大罪』(2011年)にも通じるアングラ芝居の世界を十分に生きていた。そのカナを案じる豊川悦司の檜垣の凛とした立ち姿、胸を抑えながらタバコをくゆらせる色気に見惚れた観客は少なくないだろう。これまで数々の映像で寺島と組んできた盟友ならではの安定感であった。

     六平直政が鼻血をおさえたティッシュを客席に投げたり、風間杜夫が歌手のモノマネをして大爆笑をとるなど、ベテランたちは客席を大いに湧かせていた。私が鑑賞した回でおちょこの店を訪れる元女優の保健所員を演じた三輪桂古のクセのある色気、終盤で保健所所長(松田洋治)の先導でカナを捕らえにやってきた大勢の所員の群像など、端役にいたるまで抜群のアンサンブルであった。

     カナをとられ檜垣を失い悲しみにくれるおちょこが預かった傘で空を飛ぶラストは、舞台奥が開き紅葉のなかの宙乗りを見せ圧巻である。かつて十八代目勘三郎が紅テントをヒントに平成中村座を作り、その実子である勘九郎がテント芝居をするというめぐり合わせに胸が熱くなった。


  • 実演鑑賞

    ほぼ諦めていたが、何とか客席に滑り込む事ができた。
    どこから吟味すべきか・・。
    本戯曲、初演は1976年。状況劇場時代の演目であった(場面転換が少なく登場人物の人数の大きく変化する場面も少ないこの類型は唐の後期戯曲と勝手に決めつけていた)。
    この演目を知ったのはSPACが珍しく唐作品を取り上げた事(2020コロナ中止、2021年上演。未見)によってであったが、2022年唐組で上演したのを観た(他の上演記録がないのでここで観た事になる)。梁山泊では初である。
    何と言っても話題は今回の俳優の布陣に集まるが、劇場公演で金守珍が著名俳優の座組を演出する事はあっても、今回は花園神社・紫テントである。サプライズ感の大きい豊悦と勘九郎、今回の舞台のレベルは両名無しには達せられなかった事を認ざるを得ない。作品本位での配役である。一つ付け加えれば、(御大の死を金守珍が予感したのかは知らないが)状況劇場が当時具現していたテントの熱気を今ここに彷彿させようとしたのではないか、とも。そんな思いが過ぎったのは寺島しのぶ演じるヒロインが李麗仙に見え、相対する白スーツの豊悦が唐十郎に重なるような幻視の瞬間がふと訪れた時。(もっとも私は最晩年の李麗仙が梁山泊「少女仮面」に客演したのを観たのみで、唐十郎は短い映像でしか見ていない。)アングラ前の時代を知る人に、当時アングラは何だったのかと訊いたら、言葉を探しながら「(あれは別カテゴリー、というニュアンスで)有名人が出たりしてね」の言葉でまとめていたのを印象深く覚えているが、私なりの解釈を重ねると、スター性を帯びた特権的肉体が、一身に視線を受け止める事で成立する観客との交歓がテント公演の熱気であった・・となる。私の想像の届かなかった「時代の中のアングラ」の一側面を感覚的になぞる(追体験する)観劇となった。
    世界に憧憬し悩む無垢な青年と、曰くある過去を持つ大人(男そして女)の構図はやはり唐十郎世界に欠かせないなと改めて思った次第だが、その青年役を勘九郎が担い、冒頭から喋り倒す。見事である。感想はまた改めて。

    残す所1ステージ、完売。ネットでの当日券抽選も前日に終えている。
    ただ一点、当日になって空席が生じる可能性はゼロでなく、テント公演の寛容さは「前日抽選の当選者か」を問う管理的目線より「観たい」情熱を受け止めてくれそうな現場での心証ではあった。「外で声を聴いて想像するだけでも良い」と腹を括れる熱量の方には、足を運ぶ事をお勧めする。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    流石、中村勘九郎さんの演技は、表情や身振りでも一級品でした。
    豊悦や寺島しのぶさんもほとんど出っぱなしの熱演、しかも野外なので
    汗だくでした。凄く体力使ったんじゃーないでしょうか。

    豪華出演者に加えて、観客も凄かった。
    自分の回は堺雅人、ラサール石井、彦摩呂、柴田理恵、石井愃一がいた。
    客席小さいし、途中15分の休憩もあるので、周りの状況を確認出来ます。
    初回は松潤、他の回では奥田英二、クドカン、常盤貴子が観客にいたようです。

    お手洗いは花園神社のものだけなので、開園前に寺島しのぶさんと
    すれ違いましたよ。


  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/06/19 (水) 19:00

    座席1階

    新宿梁山泊は今回、力が入っていた。熱量が違う。花園神社でのテント公演、原作者の唐十郎が亡くなった直後のタイミング、そして、中村勘九郎、豊川悦司、寺島しのぶ、六平直政、風間杜夫という豪華メンバー。超満席のテント内は開幕前から熱気にあふれていた。

    唐十郎が状況劇場で展開したすさまじい妄想の舞台。今回の金守珍の演出は歌舞伎テイストで彩られ、昭和の芸能スキャンダルをおもしろおかしく表現し、そしてラストにはお約束の空中戦を用意した。その金守珍が、けがで降板して代役を立てるという衝撃の発表で開幕した。
    豊川悦治の「檜垣」はとにかくかっこいい。中村勘九郎はさすがの立ち回り。長ぜりふも流れるようにきっちりこなす。一方で、せりふに詰まった風間杜夫は客席の拍手で立ち直るという場面も。寺島しのぶは単にセクシーなだけでなく、上下の声色を使い分けて「カナ」の七変化を展開し、客席を魅了した。花道を間近で走り抜ける寺島には鳥肌が立った。
    チケットは発売直後から売り切れているそうだが、終幕後の役者紹介ではいつも通り「SNSなどで宣伝を」とやって客席を笑わせた。状況劇場で唐とアングラ舞台を作り上げてきた金守珍が梁山泊を引っ張っていっている限り、またこのような見事な舞台は再演されるだろうし、梁山泊の次の世代がまた違ったテイストで再現していくだろう。今回は、いつもの主役級の水嶋カンナなどが脇に回って盛り上げているところも希少だ。令和の時代に息づくアングラ劇を目撃すべきだ。

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