『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』 公演情報 『阿房列車』『思い出せない夢のいくつか』」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 3.8
1-6件 / 6件中
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    『思い出せない夢のいくつか』は列車内を舞台にした3人芝居である。
    歌手の由子(兵藤公美)とその芸能人生の苦楽を共にしてきた長年のマネージャー安井(大竹直)、由子の付き人である貴和子(南風盛もえ)が地方巡業へと向かうため列車に乗っている。
    3人は過去の世間話や窓の外の景色、そして空の星座についてのとりとめのないおしゃべりを続ける。一見なんてことのない、こちらもまた静かな会話劇だけど、さりげない一言一言がそれこそ星と星のようにつながり、3人の間に生じている穏やかではない起伏をそっと確かに握らせていく。
    以下ネタバレBOXへ

    ネタバレBOX

    三角関係がまるで星座のように浮かび上がってからは、なんてことない質問や応答が牽制のようにも取れるなど、会話の手触りにも変化を感じずにはいられない。その上で最も印象的だったのが、出ハケの効果だった。喫煙や売店への買い出しなどで誰か一人が席を立ちその場を空けると、当然残された二人だけの空間が始まる。表立って分かるほどではないけれども、それぞれが三人の時とは違う温度と湿度を宿した会話がカットインし、そして、そのことによって不在の雄弁さとでも言おうか、席を空けている人間は今、この車内のどこでどんな表情で過ごしているのか、などのイメージも駆り立てられるのである。
    由子と安井が恋仲ではないにせよ夫婦に擬えられるような気の置けない関係であること、しかし恐らく安井は貴和子と既に一線を越えているのかもしれないことなどが読めてきたところで、二人きりになる由子と貴和子。空気をかき混ぜるかのように星座早見盤を使って星座を探しはじめる貴和子とその読み方が全く分からないとボヤく由子。そのコントラストはこの先の三人の関係の読めなさを暗に示しているようでもあって、ドキッとさせられた。一つの林檎を回しあって食べるシーンもまた、それぞれの歯形で欠けていく果肉がその関係性を彷彿させるようでもあって、それでいて官能を秘めているようでもあり、とても詩的な演出だった。

    もはや俳優評にしたいほど、3人の俳優それぞれが纏うムード、声のトーン、そしてその絶妙に調和のとれた応酬が素晴らしい。状況的には「調和」というよりは「不和」なのだが、一言で「不和」と言い切るには憚れる、えも言われぬニュアンスを見事に生み出しているのだ。兵藤公美の人気歌手という過去も納得のオーラと喋りだすと途端に無防備なチャームを見せるそのギャップ、二人の間に挟まれているのか、挟まれにいっているのか、肝心なところでつかみきれない男の浮遊感を体現する大竹直、若さと無邪気さのその奥で渦巻く複雑な葛藤を目線一つに豊かに滲ませる南風盛もえ。目的地が星のごとく遠ざかっていくような時間とその時間に呼応して間延びしていくような車内の空間。3人の会話と2人の会話の往来によって、人一人の不在が語るものの大きさ、その雄弁さを受け取った。3人が作り出す濃密な芝居を堪能した75分だった。


  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/05/12 (日) 10:30

    「思い出せない夢のいくつか」
    アゴラ劇場サヨナラ公演もあと3日を残すところとなり、建物外観の写真を撮る人が目につく。
    大人3人の夜行列車の旅。
    木製の座席とランプの灯りが、”大人の銀河鉄道の夜” を柔らかく見せる。

    ネタバレBOX

    芸能人の女性、ベテランマネージャーの男性、それに若い付き人の女性の3人が
    夜行列車の座席に座っておしゃべりしている。
    星座の話、結婚式の話、煙草を吸いに行ったら変な乗客がいた話など。
    付き人の女性が星座盤を持っていること、鳥捕りや灯台守など、
    「銀河鉄道の夜」のエピソードがいくつも織り込まれ
    この列車はひょっとして、死者を乗せているのかと思ったりする。
    あるいは死にゆく人を乗せているのかと・・・。

    会話の ”間” は、信頼関係の度合いを表すものだが、
    彼らのそれは緊張感を伴うものの、苦痛は感じない。
    この静けさとテンポが、心地よかった。

    駒場東大前というこの駅、この街、この商店街が好きだったなあと思う。
    アゴラ劇場が無くなるなんて、考えもしなかった。
    だがこの芝居のように、全ては夢のごとく過ぎ去って、
    私たちは皆いつか、銀河鉄道の乗客となるのだろう。

    ありがとう、さよなら、アゴラ劇場・・・。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    『阿房列車』

    1991年初演、『思い出せない夢のいくつか』(1994年初演)と同じ会話があったがこっちが先だった。オチのない話を皆で回す『すべらなくもない話』。何か落語っぽいよね。主演の中藤奨(なかとうしょう)氏の喋り方が太田光みたいで、笑いのない漫談を聴いている感じ。掛けっ放しの深夜ラジオを何となく聴いているような。
    奥さん役のたむらみずほさんが流石だった。会話の何気ない一言に急に大声を上げてブチ切れるツッコミが客席を沸かす。
    何気なく席についた田崎小春さんは話好きの夫婦に延々と捕まってしまう災難。

    ネタバレBOX

    見た目は老夫婦にした方が味があったと思う。
    「何だかよく分からないが、でもこれが人生」みたいな感慨を狙った作品なのだろう。
    まるで同一人物が二人いるような田崎小春さんのネタだけが特殊な仕掛け。

    「噛むのは本能、飲み込むのは迷信」とか何かよく分からない平田オリザ節連発。生と死だとか日常と非日常だとか、まあよく分からない。作品の狙いは何となく判るのだが、もっとガチガチに面白くしてもいいのではないか?笑いで会場をうねらせても最後の余韻まで辿り着くと思う。ガラガラの名画座で老人と並んで観るような作品も悪くはないのだが。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    『思い出せない夢のいくつか』

    どさ回りの落ち目の歌手(兵藤公美さん)が列車に乗っての地方巡業。かつては一斉を風靡したこともあり、それに憧れた歌手志望の少女が今は付き人(南風盛〈はえもり〉もえさん)に。長い付き合いの裏も表も知るベテラン・マネージャー(大竹直〈ただし〉氏)。

    兵藤公美さんは室井滋っぽい。会話の雰囲気が小林幸子を思わせる。結婚離婚のエピソードは大原麗子を連想。カンパニーデラシネラ、『気配』で主人公の奥さん役だった。

    舞台美術が凄い出来。撒かれた白と灰色の砂利、敷かれた線路、昭和初期の木製の客車。車輪に見立てたバーベルが前後に転がっている。星座早見盤を取り出す南風盛もえさん。三人は蜜柑や林檎を食べながら窓の外の星を探す。煙草を吸いに行ったりジュースを買いに行ったり。

    ネタバレBOX

    『銀河鉄道の夜』の同人みたいな作品。沈黙の三角関係を深読みする人もいるが、どうもそんな風には受け止められない。足りない話を宮沢賢治の匂いで補完した感じ。

    自分的には物足りない。手が合わないのか、この配分が気に食わないのか。『銀河鉄道の夜』のコロンがないと、とても観ていられない薄さ。深読みする程、興味が持てない。

    ただ、夢のシーンが秀逸。このワンシーンだけで今作を忘れることはないだろう。

    ジュースを買いに行かされる南風盛さん。なかなか帰って来ない。歌手もマネージャーも寝てしまう。すると、客席後ろの通路を通って南風盛さんが現れる。歌っているのは間延びした「星めぐりの歌」。二人に林檎を置いて去って行く。呆然と眺める兵動さん。しばらくして南風盛さんが本当に帰って来る。「あんた、死んだのかと思った!」「死んだのは私の方か?」
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2024/05/10 (金) 19:00

    『想い出せない…』を観た。静かな演劇だが、起伏はある。(3分押し)72分。
     1994年に緑魔子を迎えて書き下ろした作品。「芸能人」の由子(兵藤久美)と古株マネージャーの安井(大竹直)と若い付け人の貴和子(南風盛もえ)が列車で旅する間のさまざまな会話。由子の芸能人というキャラクターのせいもあって、会話の起伏は『阿房列車』より大きいが、エンディングの美しさはまた一味ある。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2024/05/09 (木) 19:00

    『阿房列車』を観た。何も起こらない静かな演劇の典型と言おうか。(3分押し)66分。
     内田百閒の紀行文をベースに、平田オリザが1991年に書き下ろし、何度か上演されていた戯曲。旅に出た夫婦が列車で出会う若い女性と、とりとももない会話を続ける。夢を見たかのようなエンディングが美しい。

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