実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2024/03/31 (日) 13:00
座席1階
まだビタミンが発見されていなかった明治初期、当時海軍で大流行していた脚気(かっけ)予防に力を尽くした軍医高木兼寛の物語。
ウイルスを発見したと称するエビデンスを示し、脚気が伝染病であるという陸軍軍医と対立。軍艦の長期航路を利用した疫学的調査で、麦飯を食べている軍艦の乗組員に脚気が激減したという事実で対抗した。「日本疫学の父」とも呼ばれる業績で、舞台でもメーンの出来事として取り上げられている。
ドイツ医学に染まって固執する陸軍と、割と自由な雰囲気で患者に向き合う医療を進める海軍。両者の対立は太平洋戦争の終結の時まで深刻な多大な犠牲を生むことになるのだが、その萌芽ともいうべき医学的な対立だ。森林太郎(森鷗外)がごりごりのドイツ医学信奉者として描かれているのは面白かった。
この舞台では終盤に、取り上げたエピソードが現代にも生きる教訓であると説いてる。それもそうだとは言えるが、結局は陸海の軍人さんのメンツばかりを重んじる情けない対立だ。その対立の犠牲になって死ななくてもいい人を多数、死なせてしまったのである。もっとも、戦術の誤りとか政治的な欠陥とか、日本を戦争に導いた軍部・政治のお偉方の方こそ多大な犠牲者を生んだ元凶なのだが。
客席を二つに割って中央に舞台をつくり、役者が回転して歩くことで舞台転換などを表現するという秀逸なアイデアの演出。舞台が冗漫になるのを防ぎ、テンポよく引き締めている。ただ、比較的大きな劇場なので、役者のせりふが聞き取りづらい場面が多々あった。小劇場ならこういうことはないのかもしれないが、惜しいと思う。
横須賀海軍カレーは有名だが、高木兼寛が紹介したというエピソードも出てくる。いろんなことを教えてくれる舞台である。