実演鑑賞
満足度★★★
この劇団の2021年3月公演の『聖なる日』に凄まじく衝撃を受けた。そんな作品を求め、2022年7月サンモールスタジオ公演の今作のチケットを購入したもののコロナで中止。そして到頭今回本邦初の御披露目。『聖なる日』と同じく、アンドリュー・ボヴェルの戯曲。原作はオーストラリアの国民的ベストセラー、テーマは「オーストラリア建国の闇」。
1770年に観測隊を率いたジェームズ・クックがオーストラリア大陸を発見、イギリス領と宣言。1788年1月、上陸した第一船団11隻が植民地シドニーを建設、入植を開始。その後約80年間で約16万人の囚人が流刑地として送られる。
その地には先住民アボリジニ(現在は差別語とされアボリジナルと呼ばれる)が25万〜100万人程生活していたが、1920年頃には約7万人にまで激減。イギリス人が持ち込んだウイルスと虐殺が理由。全てを共同体で共有することが当然だったアボリジニには土地私有の概念がないとされた。(だが近年アボリジニのドリーミングと呼ばれる特殊な世界観の研究によって、ドリームタイム〈天地創造神話〉で生まれた祖先、大地、人類の物語に対し篤い信仰心を持つことが知られるようになる。彼等が自分の生まれた土地とそこに伝わる物語を極めて重要視することも)。
オーストラリアの建国神話は、①イギリス階級社会の犠牲者であった罪人が②未開の地で開拓者として生まれ変わり③土地所有の概念のない先住民と交流し新世界を築き上げる、とされてきた。だが③は全くの虚構であったことが近年暴かれていく。先住民の土地を奪い征服して築き上げた血塗れの歴史であったことを。オーストラリア人が生まれながらに背負った原罪を見つめ直す作品が国民的ベストセラーになる時代に。
焦茶色の布が何枚も垂れ下がり、深い森の奥地の雰囲気を醸し出す。
時は19世紀初頭、些細な盗みを犯した罪でロンドンからオーストラリアに終身流刑となったウィリアム・ソーンヒル(千賀功嗣〈いさし〉氏)。彼について行く妻のサル(夏海遙さん)、息子のディック(根本浩平氏)。シドニーで真面目に舟運の仕事に就くウィリアム、生まれた二人目の息子ウィリー(諸角真奈美さん)。数年後、模範囚として恩赦を受け到頭自由の身になる。ロンドンに帰りたがる妻を説得するウィリアム。「5年間ここで稼ぎ、財を成して帰ろう」と。ウィリアムには以前から目を付けていた土地、ホークスベリーがあった。自分が土地を所有することへの本能的な欲望。「ホープ(希望)号」と名付けた自分の舟で一家は新天地へと漕ぎ出す。だが無人の未開地の筈だったそこは先住民がヤム芋を収穫し、祭祀を営む場所でもあった。
アボリジニの言語を本当に使っているそうだ。よく覚えたものだ。だが、余り効果を上げていない。異文化交流の面白さのようなおっかなびっくり相手と打ち解けていく件だけ。結局、アボリジニが何を話していたかが解らないと、互いの誤解が伝わらないので勿体無い。観客にだけ分かるようにラスト近くの一部を字幕で見せる方が良かった。
アボリジニを妻として暮らす手塚耕一氏。今作の良心的存在。
虐殺から生き残り、全てを目撃したその妻役を西本さおりさん。かなり長大な台詞を上手で立ちっぱなしで話し続ける。大浦千佳さんに何となく似ている。
ある意味、主演の夏海遙さんは山本陽子に似た美人。
惨めな使用人を好演する大久保卓洋氏はガリガリの肉体がリアル。三谷昇のような名助演。
アボリジニの族長役、片桐雅子さんも印象的。
中盤、『ダンス・ウィズ・ウルブズ』っぽい描写が結構続くが、何か絵的に見えてこない。バランスが悪い。ウィリアム・ソーンヒルの内面の変化に焦点を当てていないからか。作品から曲が流れてこない。