わが友、第五福竜丸 公演情報 わが友、第五福竜丸」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.8
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  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    千秋楽前、時間ができたので当日劇場へ足を運んだ。題材が題材だけに力作が出て来そうと予想したが想像以上だった。燐光群の特徴である「解説」部分(人物らが自分が知っている事として発し合う)の割合も高いがそれがアダにはならずただただ情報と思考に圧倒される。水爆実験に被災した第五福竜丸を語る事は必然、現在進行形である所の放射能、原発を語る事になる。被爆者への差別、補償を受けた者への誹謗、補償そのものの不平等や問題矮小化の政治的背景も。そして芝居の大詰まりでビキニ環礁辺を航行する船の場面が出現する。NODA MAPのある作品(高橋一生が主演した)を思い出す(この作品は私が観たNODAMAP三つの中で唯一感動を覚えた舞台)。重要なイシューが他の雑多なイシューと共に忘れ去られる現代に、力技で注視を促す坂手舞台の優れた成果。演劇表現と感動は多様にあり得るが、坂手氏流の劇的要素が確かにあった。

    ネタバレBOX

    本作で特記すべきは俊鶻丸というビキニ実験後に環境調査のため日本から出された調査船の存在。それを介して海洋における「希釈」が予測困難である事にも言及される。「処理水」の海洋放水の安全性に影がさす。
    この調査は継続されず打ち切られた。根拠なき安全神話に調査・研究が対置されるべきは今日も変わらない。
  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2023/11/20 (月) 19:00

    久しぶりの燐光群観劇。しっかりと感動した。縦横無尽に動く役者たちが高円寺の空間に様々な世界を作りだす。放射能という言葉がまだ知られていなかった時代に放射能汚染の被害で亡くなった漁師たち。苦しみ、やるせない思い。そういうかきむしられるような感情を受け止め、前へ進んでいこうとする登場人物たち。演劇は鎮魂の作用もあるのだなとあらためて思った。芝居が今の私たちの世界のある側面を見せてくれ、体感させてくれる。そしてどうしたいかと問いかけてくる。舞台セットの組み替えも創造的。

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    鑑賞日2023/11/20 (月) 19:00

    座席1階

    燐光群らしさ爆発の舞台。米国の水爆実験に巻き込まれた第五福竜丸の軌跡をたどる物語だ。

    冒頭は記念館の場面から始まる。時系列的には少し行ったり来たりするが、ラストに向かっては時計が逆回転するかのように盛り上がっていく。短い台詞を次々にリレーするような展開は坂手洋二のおなじみの舞台回し。福島の原発事故などへ話を飛ばし、客席へのメッセージを次々に投げ込んでいく。
    しかし、今回はやや詰め込みすぎの感も。役者も大変だったと思うが、2時間半を超える舞台への疲労感が客席に停滞していた。

    客席に

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     必見、観るべし! 華5つ☆ 綿密な取材と得られた科学的知見をベースに見えない放射能の齎す恐ろしさを見事に劇化。(追記完了11.22)

    ネタバレBOX

     オープニングは、喫茶モービーディックを訪れた視覚障害を持つ女性客と二代目マスターとの不可思議な対話から始まる。一元の客なのだが導かれるようにやってきた。してその原因は、店名に似つかわしく置かれている舵輪(舵輪とは航海の際に操舵室にある羅針盤と天測によって得られた自らの位置、そして海図を用いて目的地に向かう正しい航路を進む為に用いられ舵の角度を決めるハンドルのような器具のことだ。航海の象徴としても良く用いられる)や店の歴史、殊にこの舵輪が核戦力競争の中でアメリカがマーシャル海域のビキニ環礁で行った広島原爆の千倍の威力を持った水爆・ブラボーの核実験によって被爆した第五福竜丸が除染後水産大学の練習船・はやぶさ丸として用いられるに至る経緯で第五福竜丸で用いられていた舵輪は被爆等の影響があって使用されず除染後の水産大学練習船・はやぶさ丸には新たな舵輪が用いられたこと、そしてモービーディックに置かれている舵輪こそ、第五福竜丸二代目の舵輪であることが明らかにされる。
     作・演の坂手氏は若い頃書いた作品で盛んに複式夢幻能のコンセプトを語っていたことが、このファーストシーンにも出ているかも知れない。何れにせよ上手い導入部である。また、既に多くの方々が知っているように放射性核種は目に見えない。ブラボーによって放出された核種も200種以上あるハズだが半減期が秒単位の核種もあるから、残留放射能問題を引き起こすのはこの半分の100種以上ということになろう。何れにせよ半減期の長いウラン238は地球の年齢と近似して44億7千万年にもなる。
     物語はビキニ事件以降に起きた核にまつわる事件の本質をほぼ網羅し、観る者総てに考えて貰えるように創られている。例えば実に残念なことだが、政治は都合の悪いことは隠蔽するのが実際である。つまり民衆を犠牲にして今作が告発しているように事実を隠し、隠した事実も多くの場合隠蔽して蓋をしてしまうのだ。民主主義国家のリーダーを自称するアメリカは、それでも事象によって定められた情報開示時期がくれば殆どの秘密指定を解除し発表するが、民主主義の何たるかを弁えぬばかりか、近年に於いては民衆のことを一切考えないことが常態と化した民裏切り政党ばかりが与党を握り民主主義を破壊するに充分な隠蔽、嘘を垂れ流している。事実を述べる者に対する嫌がらせ行為実施事実の隠蔽・風化待ち、御用学者と共闘したフェイク情報作り、更には情報操作や偽情報拡散をしてきた件に対し、あくまで事実をベースに広島・長崎被爆国民の次に大々的に日本国民をも被ばく対象(鮪の核汚染、放射能雨、海洋汚染などの環境汚染)となった。被ばくし象徴となった第五福竜丸のみならず各操業船に通じる船員の役割(船長、漁労長、無線長、機関場船員などと日本がアメリカの責任を追求しなかった米日の方針、第2次大戦との絡み等の情報をも織り込み乍ら被ばくした漁師らの切歯扼腕が描き込まれ、被ばくの実相の一端と政治が対比されて胸に迫る)1954.3.1の第五福竜丸を象徴とするビキニ事件(日本政府はアメリカから3月1日に核実験をマーシャル海域で行うことを知らされていたが、操業船舶にこの事実を一切連絡しなかった。当時の日本管轄省が認めただけで992艘の漁船が被ばく、その殆どがキチンとした賠償ではなく見舞金すら受け取れなかったのに対し福竜丸船員だけが1人200万円の見舞金を受けた)このことが被ばく者間分断を生み第五福竜丸船員の証言をし難くさせた。恥ずべき日本の政、官、財の実態を緻密な取材や学術会議有志の調査船による調査(海流が海洋中で大河が流れるように流れており、他の海水と交じり合わないことを観測によって実証、結果降下した死の灰などによって汚染された海水は他の海水によって希釈されない)などを通して得られた事実をベースに描いた秀作。ギリシャ悲劇の最高傑作とされる「オイディップス王」でオイディプスは自ら目を突き盲いるが、盲いなければ見えてこない真実を観る為であった。オープニングで登場後、舵輪のように航海(今作で描かれる様々な事象)のナヴィゲーションに関わる女性が視覚障碍者であることに呼応していると見ることも可能であり、放射能が目に見えない脅威であることと深く関連してもいよう。実際には更に上記の如く、あったことを無かったことにする為の常套手段が用いられ続けている。今作は、ビキニ事件に関するメディア報道にも触れているが、読売新聞の正力松太郎は周知の如くポダムという暗号名を持ったCIAエージェントであったし、原子力の平和利用(米大統領アイゼンハワーが、1953年12月8日に国連総会で述べた有名な演説Atoms for Peaceを追い風に)と称して原子力産業・原発を推進、初代科学技術庁長官も務めた。原発導入で推進役を果たした中曽根康弘同様日本の歴史に大いなる禍根を残したことは、大石又七さんが原水爆と原発が本質的に同じものであることを早くから指摘し注意を喚起していたことと対照的である。このような状況の中、ヒトとして立つ者総てが観るべき作品であり、観たうえで覚醒すべき作品である。

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