実演鑑賞
名作「勧進帳」を木ノ下裕一が補綴、杉原邦生が演出。ラップや電子音のBGMで「勧進帳」の世界がわかりやすく描き出される。シアターのほぼ中央に細長い舞台をつくり、それを挟んで客席をつくるという珍しい構造だった。義経一行と富樫ら関守は基本的に向き合う恰好で話が進んでいく。服装も言葉遣いも現代風でありながら、「勧進帳」のエッセンスが取り入れられている。この舞台では富樫が怪しい山伏の正体を見抜いていたのか、考え直すのも面白いと思う。
実演鑑賞
満足度★★★★
滅多に同じ演目を同じ劇団(演出)で見ることはない。久しぶりに三年ぶりでキノカブの「勧進帳」を見た。細かく直した現在の時点の決定版という触れ込みである。前回の横浜では、巨体の西洋人が大阪弁で弁慶を演じるとか、ラップを使っていたり、楽器が口三味線とか、ファーストフードで宴席を開くとか、めまぐるしい趣向の数々であった。こん秋も同じ路線の改革で主なキャストは同じである。確かにそれぞれ工夫が凝らされていて細かくなったとは思うが、この、あられもない現代版を見ていると、古典の現代への通路は面白く今風だけで良いのか、という疑問もわいてくる。幕開きの富樫の部分はわずか数分だが、ダレるし、終わりの宴会は笑ってしまうがこれでは延年の舞、とは言えないだろう。大歌舞伎は戦後百回近くいろんな座組で上演しているが、すべて1時間五分から七分である。長唄の寸法だと言われるかも知れないが、その時間で完全に出来上がっているのである。キノカブも1時間五分にトライしてみたら? 完コピの稽古をすると言うから、きっと発見があると思う。(今回は1時間22分。前回より少し長くなったのではないか)
木ノ下歌舞伎の仕事は十分評価した上で、この公演をご覧になった若い方は、是非是非、歌舞伎座で、年に一回はかかる大歌舞伎の勧進帳も見ていただきたいと思う。
大歌舞伎の勧進帳はそのままでも決してわかりにくい作品ではない。一幕モノの演劇的完成度は高く、面白いし、下座や長唄などの音楽的要素と舞台の形式的美しさが渾然となって多くの人に楽しめる。
木ノ下歌舞伎の真骨頂は「合邦」「四谷怪談」「櫻姫東文章」「義経千本桜」などの、いまではキャラも背景も物語も現代から離れてしまったような歌舞伎の名作を現代劇として蘇らせるところにある。今年の櫻姫はまだ推敲が足りていないが、凝り性の岡田利規の演出で今までにない櫻姫が出来た。今回は名作一月公演で9分は入っていたから何よりである。
木ノ下・杉原コンビは、古川・日澤コンビと並んで頑張って欲しい若手(でもないか)である。