満足度★★★★
演出が残念
日本でも上演された『ハムレット』やミュージカル『マルグリット』の演出を手掛けた英国を代表する演出家、ジョナサン・ケントさんの演出ということで、観に行ったのですが、期待以上のものは感じられませんでした。しかし、歌手とオーケストラのパワーのある演奏は素晴らしく、贅沢な時間を堪能しました。
霊界は中国っぽい幻想的でエキゾチックな衣装や美術で表現され、人間界は現代のうらぶれたアパートの室内で衣装も普段着とリアリスティックに表現されて、対比がはっきりしていて良かったです。
映像を多用した演出で、場面転換の間奏曲の流れる部分では雲や波など自然現象を抽象的にしたような映像と、飛ぶ鳥のシルエットが投影されるのですが、毎回同じ様な映像で工夫が感じられませんでした。鳥の姿もいかにもCGな動きで残念でした。
アンサンブルの群舞も美しい動きで目立ち過ぎることもなく良かったです。
人間界の旦那が夜中に一人でテレビを見ているシーンで夫婦の噛み合ない様子が繊細に表現されていました。
1幕終盤の児童合唱による「この世に生まれなかった子供たち」のシーンでは室内にモノクロで赤ちゃんの映像が投影され、とってもホラー的で曲の内容にぴったりな演出だと思いました。
2幕最後の緊張感高まる場面で紗幕に燃え上がる炎の映像が投影され、その後ろでアパートのセットが一部を残して、舞台後方に回転しながら後退して行くシーンはお金を掛けたオペラだからこそできる演出で、とても迫力がありました。
3幕では1幕、2幕に出て来た車と巨木が上から吊り下げられて、地底の世界を表しているのは面白かったのですが、最後まで吊り下げっぱなしなのは邪魔に感じました。
最後の場面では合唱の人たちが現代の普段着を着て後方から大勢出て来て、愛情が世界や世代を超えて連なって行くことが表現されていて感動的でした。
幻想的な世界と現実の世界が交互に出て来て、象徴や比喩的な要素の多い、表現が難しい作品を分かりやすく演出していたと思いますが、4万円近くも料金を取るのなら、このプロダクションならではというものを演奏だけでなく演出でももっと見せて欲しかったです。
今年は二期会の『サロメ』、新国立劇場の『ばらの騎士』、加藤健一事務所の『コラボレーション』(リヒャルト・シュトラウスが主役の物語)など、リヒャルト・シュトラウス絡みの公演がたくさんあって楽しみです。