サロメ 公演情報 サロメ」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
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  • 満足度★★★★★


    音楽と歌詞はそのままに、大胆な読み替え解釈の演出によって純粋な愛の物語に変貌した『サロメ』、とても素晴らしかったです。キワモノ的な演出なのかと思っていたのですが、不覚にも感動して涙を流してしまいました。

    時代は近未来の核戦争後の設定で、閉塞感漂うシェルターの中に暮らす人々が未来に希望を持てず堕落した享楽に耽っている中、サロメが初めて愛を知り、ヨカナーンと共に新しい世界へ歩み出すという(ヨカナーンは死にません)、従来の『サロメ』とは全く異なるハッピーエンドになっていて驚きました。


    チラシに「セクシャルかつ常軌を逸したアヴァンギャルドな表現を含んでおりますので、ご了承ください」とある通り、前半は乱交、レイプ、死姦、食人と、普通のオペラではやらないような演出が延々と続き、後半にサロメが愛に目覚めるシーンとの対比が際立っていました。
    元の台本と異なる演出をしている箇所がたくさんあったのですが、どれ表面的な奇抜さを狙っただけでなく、作品の内容をより明確にする、納得できる表現になっていました。

    地下の牢獄に幽閉されているヨカナーンが舞台裏で歌う部分を、頭に紙袋を被って冒頭から舞台で歌っていたのですが、紙袋によって舞台裏から聞こえるようなくぐもった音色の効果を出していました。また、サロメが井戸から地下を覗き込んで暗いと歌うところも紙袋の中を覗き込むこみながら歌うようにして、歌詞と整合が取れていたのが巧みでした。

    サロメがヨカナーンに惹かれていると知って絶望し自殺するナラボートが、この演出ではヘロデに射殺されていました。そうすることによって、後のシーンでヘロデがナラポートの遺体を見て「誰が殺したのか?」と歌うシーンが、自分でやっておきながら知らないフリをするという形になっていて、ヘロデのどうしようもない性格を強調していたのも、面白い演出でした。

    ヘロデに願いを聞き入れてもらうためにサロメが踊りながら服を脱ぎ捨て裸になることで有名な「7つのヴェールの踊り」のシーンは感動的でした。サロメは脱ぐことなく逆に周りの人たちを踊らせ、この閉塞した世界に耐え切れなくなったサロメが部屋の壁にドアを描き体当たりして外へ出ようとすると、他の全員も真似してドアを描き外の世界を求めるシーンが切なかったです。その後、叶わぬ希望と分かると絶望して殺伐とした殺し合いに発展し、サロメ、ヨカナーン、ヘロデ、ヘロディアスだけが生き残るのですが、「7つのヴェールの踊り」の中で音楽的に一番盛り上がるところで、サロメの前に白いワンピースを着た5、6歳程度の小さな女の子(サロメの若い頃か、将来生まれてくるであろうサロメの娘でしょうか?)が突如現れ、「希望」や「愛」を象徴していたのがとても美しかったです。

    ヨカナーンは首を切られるのですが、その後すぐに生きたヨカナーンが現れ、2人が椅子に座った状態で歌われるサロメの長いモノローグはとても強く美しいラブソングとして響いていました。

    普通はヨカナーンの首にキスをするサロメを見たヘロデが「あの女を殺せ!」と歌って幕切れなのですが、この演出では愛に目覚めたサロメとヨカナーンが自らの手でいかにもオペラ劇場といった感じの赤い舞台幕を両袖から引いて閉じて立ち去り、舞台上には何も無い状態になったところで、突如客席の1人が立ち上がり日本語で「あの女を殺せ!」と叫んで終わりました。観客の無意識的な欲望を代弁した形になっていて、この作品内で繰り広げられた欲望と堕落が渦巻く世界が、実は現実世界と変わらないものであると痛感させられ、秀逸な効果をあげていたと思います。
    また、コンヴィチュニーさんの演出では毎回ブーイングが出ることを逆手に取った自虐的ギャグの意味も重ねてあって、怖さと可笑しさが同時に感じられました。
    ちなみに叫んだサクラの人はカーテンコールで盛り上がっている最中にブツブツ文句を言いながら出て行くというところまで演技をしていて、その様子も楽しかったです。

    ダ・ヴィンチの『最後の晩餐』やレンブラント『解剖学講義』など名画を引用した人物の配置や、過剰なエロ・グロ・暴力を高い美意識でまとめる手法は、ピーター・グリーナウェイ監督の映画『コックと泥棒、その妻と愛人』との共通点を感じさせました。


    常に焙りや注射をしているジャンキーで軽薄なダメ人間のヘロデを演じた高橋淳さんとドラァグクイーンの様な出で立ち・振る舞いのヘロディアスを演じた板波利加さんが強烈なキャラと歌声でインパクトがありました。サロメを演じた林正子さんも、体中をまさぐられながら、走りながら、転げ回りながらと歌うのにかなり負荷がかかる演技をしながら歌いきっていて素晴らしかったです。パンキッシュでコケティッシュな姿も魅力的でした。
    他の歌手のたちも歌のみならずセクシャルな大胆な演技や、隅の方でこそこそ小ネタをしたり、後半30分間はずっと舞台上で死んだ姿のままという大変な演出をこなしていて良かったです。

    物を投げつけたり、テーブルを引っくり返したりとガチャガチャ物音がうるさく(実はちゃんと楽譜と密接なタイミングでのアクションになっていました)、歌手もかなり動き回りったり無理な体勢で歌うので、ただ綺麗な音楽を求める人には不向きですが、現在の世の中を反映する演劇作品としても最高の出来で、演劇ファンの人にも観てもらいたい作品でした。

    オーケストラも大掛かりなセットも照明も素晴らしかったので、ぜひレパートリー作品にして再演をして欲しいです。

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