『爆華や』に ついて
「三千人 来場しなければ、解散します」
浅草の地で彼らが公言した“目標”は、東京スカイツリーの建設より非現実のように思えた。
今でこそ、水族館やプラネタリウムなどの施設が集まる東京スカイツリーは この国の新しい名所として広まっている。
だが、360m超の白い巨塔の建設着工前はというと、地元の人でさえ見上げる姿を考えることは なかった。
隅田川付近の空き地は殺伐とし、築数十年の民家や商店が建ち並ぶ場所である。
隅田川•川岸の雑草をむしり取る高齢者に、地上デジタル放送を理解させられない。その現象と同じだろう。
この劇団が「三千人 来場しなければ、解散します」を言った時、私たちは草むしりの老人だった。
彼らには、厳格なルールが 存在する。
「6人以内で、男だけで、全ての役を演じ切る」という 鉄則だ。
なるほど。汗臭く、蒸気さえ噴出する 舞台は、鉄則のためであったわけか。
花火職人の町•江戸で、「鍵屋」と「玉屋」の二大のれん組が あった。
今作は、「鍵屋」で働く職人連中の蒸気ほとばしるドラマ、そして「吉原」も 顔を出すエンターテイメント性で成り立つ舞台だ。
序盤では、狭い作業場から生まれる江戸職人の一体感。
吉原では、踊り等、エンターテイメント性が発揮された。
そうした、時代劇の持つ 暮し目線 の 「騒動記」といえなくもない日常の後、私たちは“職人”を賭けた 戦いを目撃することになる。
「鍵屋」の「暖簾分け」に際して、職人達のなかで誰が最も大きな花火を打ち上げ、巨輪を夜空に咲かせることが できるのか。
あの日本相撲協会が消し去りたい、花火版の技量会開催である。
審査を経た後、徳川将軍の眼前でカラフルな火花(ひばな)を散らせば、江戸の勲章ものだろう。
技量会は、中堅職人の一騎打ち、その一人の弟にあたる新入り職人は相手にもされなかった。
結果は 果たして。
江戸職人達の、文字通り湯気の立つ世界。そして、「人の弱さ」も、しっかり描く。
ラスト打ち上げた花火は、アサヒビールの本社さえ揺れてしまいそうな、壮大な数十発だった。本物の火薬を使い、劇場を燃やしたわけではない。
だから、オープニングで打ち上げたとしても、アサヒビール本社は微動だにしなかったはずである。
そこに至る職人達の汗へ、私たちは見惚れたのだから。
「三千人来場しなければ、解散します」
当日昼公演の段階で、まだ不明確な数字だった。
今現在、この劇団は存在している。