白い病気 公演情報 白い病気」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 5.0
1-2件 / 2件中
  • 満足度★★★★★

    千秋楽
    大勢のお客様に喜んでいただけました。
    出演者、スタッフに拍手!

  • 満足度★★★★★

    さすがテアトル・エコー! 面白い!
    チェコのカレル・チャペックの戯曲を、見事に音楽劇として上演した。

    冒頭から笑みがこぼれてしまうような、とにかく楽しさ溢れる舞台だ。

    ネタバレBOX

    物語は、独裁者が治める国が舞台。
    全世界には、全身を腐らせ、わずか6週間で確実に死に至らしめる恐ろしい「白疫病」が蔓延している。
    その病は、中年以上でないと罹患しない。さらに、治療の方法が見つからない。人々はどんどん倒れていく。
    ある日、国立病院にガレーンという町医者が現れ、治療薬を開発したと告げる。院長は半信半疑であったが、実際に試してみると病気は治癒していく。
    これで患者が救えると思ったのだが、ガレーンはその薬の中身を教える代わりの条件を提示する。
    それは、なんと、戦争を放棄し平和を選ぶ国には治療をするが、そうでない国にはしないというものだった。

    一方、兵器産業に勤めていて、今回の白疫病で同期がすべて亡くなったことで父親が出世をした一家がある。2人の子どもは職についていない。長男はもう少し待てば、白疫病にかかった老人たちがいなくなるので就職できるのではないかと思っていたりする。ところが、その家の母親が白疫病にかかってしまう。
    治療のためにガレーン医師のもとに訪れるのだが、彼は「その仕事(兵器産業)を辞めなければ治療しない」と言う。父親はせっかく昇進したばかりなのでガレーンの条件をのむことができず病院を去っていく。

    また、独裁者の元帥は、各国が平和条約を結ぼうとしている今こそが好機であるとして、防衛の名の下に隣国に攻め込むことを決定した。
    そのため、独裁者の唯一の友人でもある兵器産業の社長に武器の増産を依頼する。

    白疫病はさらに猛威をふるうのだが、ガレーン医師の薬が手に入らないことから、病気にかかった者は収容所に送られることになった。

    ところが、兵器産業の社長もついに病にかかってしまう。
    どんなにお金を積んでもガレーンは兵器を作ることをやめなければ治療をしないと言う。落胆した社長は自らの命を絶ってしまう。

    ついに隣国の陰謀をでっち上げ、戦争を起こす。
    民衆はそれを熱狂的に支持する。
    それは、白疫病は年寄りだけがかかる病気なので、若者たちは関心が薄く、老人たちの「平和、平和」と叫ぶ声には逆に反発を覚えてしまったからだ。

    そして・・・。
    というストーリー。

    チャペックはこの物語を1937年に書き上げたという。翌年の1938年には、ドイツはオーストリアを併合し、チェコのズデーデン地方を獲得した時期であり、劇中の独裁者はヒトラーをイメージしたことは容易に想像がつく。
    「平和」「戦争のない世界」への希求は切実なものであっただろう。

    ただし、そんな歴史的事実に裏打ちされながらも、まったく古びて見えない。
    「今、この時代だから」なんてことをあえて言うまでもない。
    古びて見えないのは、テーマだけでなく、脚色のうまさであり、この戯曲を音楽劇に仕立て上げたセンスの良さでもある。
    音楽劇に仕立ててあったのだが、この舞台そのものを、ある劇団が演じている、というもうひとつの設定もある。

    とてもブラックなコメディであり、ビターなラストがやってくるのだが、それを刺々しくしないために、音楽劇にし、さらに劇団が演じる物語という設定にしたのであろう。

    役者が演奏をするという形式で、とにかく歌が楽しい。
    それも単に楽しいだけではなく、「平和、平和」と民衆が歌うメロディと「戦争、戦争」と歌うメロディが一緒のようなピリッとした批評が込められていたりする。

    また、冒頭に舞台の上には大砲と注射器が置かれているのだが、それがこの物語を象徴しており、そうしたセットも、衣装も素晴らしい。
    平均年齢を高くしている、役者の方々の演技がいい。83歳(!)の熊倉一雄さんの声も張りがあり、健在だ。
    パンフレットは処方箋薬局で渡される薬袋を模してあり、これもまたとても面白い。

    サービス精神旺盛で、豊かで本当に楽しい舞台であった。さすが、テアトル・エコーと言いたい。

    夏にも本公演があり、秋には「日本人のへそ」の上演も企画されている。井上さんの訃報を聞き、また観たいと思っていた方も多いのではないだろうか。偶然そうなったようだ。どちらも期待せずにはいられない。

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