恋愛恐怖病 公演情報 恋愛恐怖病」の観てきた!クチコミ一覧

満足度の平均 4.0
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  • 満足度★★★★

    フランス映画のような短編
    2日間・2班に分かれての公演なので1班しか観られないのかと思っていたら、45分の短編で、2班続けて上演されたので両方とも観ることができた。研究生の公演なので身内しか観に来ないのかと思ったら、通常の公演同様、満席だった。改めて、この劇団が地域の人々や、本物志向の演劇愛好家たちに愛されていることを知った。
    また、岸田國士の未見の作品を観る貴重な機会に恵まれたことにも感謝。
    「フランス映画」のような作品だと思ったが、岸田がフランスから帰国後に書いた作品。岸田國士は、わが国でまだ恋愛結婚自体が珍しかった時代の作家だ。劇の内容と岸田國士の恋愛観についてはネタバレで。

    ネタバレBOX

    第一場。砂浜に腰をおろし、女は歌を口ずさむ。男は女に好意を持っている。女は「自分は男女の別なく、恋愛感情ではない友情を育むことが可能な人間なのだ」ということを男に伝える。
    しかし、男に、突然、女は男言葉で話しかけながら接吻し、男は女の心をはかりかねた様子で動揺するが、女は冗談だと言う。男は走り去る。女はひとり声を出して笑うが、男のあとを追うように走り去る。
    第二場。「男」と「別の男」が砂浜に腰をおろしている。「別の男」は、彼女は自分に異性としての感情を持った男性をことごとく拒絶し、二度と会わないのだ、実は自分もその一人だが、きのう彼女と結婚したのだと告げる。「女」はあのあと、砂浜で泣いていたという。そして、結婚後、トランプのハートをすべて破り捨て、自分に対してLOVEという言葉を決して口にせぬように命じたのだと言う。「別の男」は結婚で彼女の肉体は得たが、心は得られず、彼女の心は「男」のもとにあると言う。「女」はその想いを封印して「別の男」と結婚をしたのだ。「女」は「男」に自分も惚れたことで敗北したと思ったようだ。「女」は自分を異性として意識する「男」に対して、初めて愛を感じたが、「女」と「男」、互いに相手の裏の裏をかきあったのかもしれない、と「別の男」は「男」に言う。「別の男」は、「男」がほかの同級生たちのように自分を資産家で高額納税者の家のドラ息子として扱わなかったことで、「男」に好感を持ったのだと語る。「男」は当然だと答える。「別の男」が去ったあと、「男」の耳に女の歌声が幻聴として聴こえてくるところで「完」。
    本作に、新聞の連載小説で、岸田國士のベストセラーとなった「暖流」との共通点を見出すことができて興味深かった。「暖流」で自ら身を引いた令嬢啓子が涙を見られまいと波打ち際で顔を洗う場面は有名になったが、自尊心が強い啓子は、本作の「女」を思わせる。しかも、芝居がかった啓子のこの仕草が、実生活ではドラマチックな恋愛をすることなくほとんどが見合い結婚していく当時の若い女性たちの紅涙を絞り、新しいタイプの行動的な女性像として憧憬を得た。「暖流」は映画化され、大ヒットし、当時まだ無名の若手だったのちの恋愛映画の巨匠・吉村公三郎の出世作となった。本来、前後編3時間の長編映画なのだが、松竹には2時間に編集したフィルムしか現存していないという。これも私が以前説明したように、TV放映の弊害の典型例と言えよう。「暖流」はその後も何度か映画、TVでリメークされ(近年も昼ドラで放送された)、時代に合わせて主役像が変化していったが「恋愛恐怖病」は、ヒロインの性格描写に「暖流」の原点が見てとれる。
    「男」、「女」をそれぞれ研究生が演じ、別の男の役を劇団員の大多和民樹が演じた。芝居は、一班が本多弘典と川上志野、二班が坂本勇樹(劇団員)と天利早智コンビで、二班の芝居から始まった。
    本多、坂本ともに、この劇団の男優らしく、実直で古風な味を持っている。坂本が端整で凛々しい正統派二枚目風なのに対し、本多はナイーヴな草食系男子っぽい感じ。女優は、天利は口跡が良く透明感があり、川上は中性的で少しコケティッシュな雰囲気があった。
    今後、彼らがどんな俳優に成長していくのか、楽しみである。
    天利はこの時代の良家の女性の言葉遣いの「・・・してよ」の語尾のアクセントがおかしく、命令形に聞こえてしまうのを気をつけてほしい。稽古のときに演出家は注意しなかったのだろうか。劇団員の大多和、坂本が先輩として研究生の芝居をしっかりと受け止める。大多和の演じる「別の男」により、この恋の全貌が語られ、男女の心理分析が行われ、2人の人間像が浮かび上がるという重要な役まわりで存在感を示した。
    演出を担当したのは先輩俳優の松下重人。女優2人の演技をあえて抑揚のない棒読み調にしゃべらせることで、「女」のとらえどころのないミステリアスな性格を浮き彫りにしたのだろうか。
    波の音が効果的で、いっそう「暖流」を想起させた。
    およそ確たる恋愛観を持たず、恋バナに興味がない私にとっては、このような恋の駆け引きは複雑でよく理解できなかった(笑)。
    風琴工房が「おるがん選集」で上演すると面白いと思い、先日、同劇団のアンケートでリクエストしておいた。

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