満足度★★★★★
深み・奥行きがさらに増した感じ
阪神大震災で避難所となった朝鮮人学校を中心に描いたもので、前作『人 ~サラン~』(08年2月)で描いた在日をめぐる感情・心情に震災被災者の「いたみ」や親子ネタも絡ませて、物語の深み・奥行きといったものがグッと増した感じ。ちなみに前作の7年前の出来事になるそうで、11月の第3回公演は“「人」三部作 最終章”とのことでそれにも期待。
主な登場人物の紹介となるスケッチ集的ないくつかのシーンの後に地震が起こる導入部、つぶれた家の下から助け出される人や救い出されたものの息絶えていた人などの描写が胸に迫る。
その後は中心部分である避難所での人間模様となり、どちらか一方だけを批判するのでなく、日朝それぞれに偏見があり、簡単に溝を埋めることはできなくても、少しずつでも理解していこうとすればいつかうまく行くのではないか、とするのがイイ。(それだけ問題が大きいというのもあるが)
で、終盤での悠介と父との関係に日朝および南北の関係を重ね合わせた台詞は秀逸。ここは中でも特に素晴らしい。
しかしその後の悠介の姉が語る「つぶれたケーキ」のエピソードでホロリとさせ、そこを何とかのりきったと安心させておいて、父の友人による「悠介が生まれた時の話」で追い討ちをかけるのは卑怯!(笑)
また、性同一性障害のエピソードまで盛り込んだのは欲張りすぎという気持ちと、根底に流れる「生きてゆくこと」というテーマの補強としてあった方が良いという気持ちがせめぎあってフクザツな心境になったのだけれど、しばらく後にその原因が「ここでこのような形で使ってしまうのはもったいない」「このテーマともう1つくらい何かを絡めたら1本の作品ができるのではないか」ということだったと気付いて自ら納得。
あと、クライマックスの蛍光塗料による寄せ書きと共に舞台後方に現われるイルミネーションが「人」になっているというのも◎。