満足度★★★★★
アットホームな劇場で観るのにふさわしい
わが家から歩いて行けるもっとも近い劇場が東京演劇アンサンブルの本拠地「ブレヒトの芝居小屋」である。木造のレトロな雰囲気の小劇場で、劇場そのものが「イーハートーヴォ」の世界のよう。別の作品で初めてこの劇場に足を踏み入れたときにもそのような印象を受けた。劇団の後援会名も「ケンタウルスの会」だし、イーハートーヴォを意識した内装なのかもしれない。
東京演劇アンサンブルは、毎年、この時期に「銀河鉄道の夜」を上演しており、街でポスターも見ていたが、ここでこの作品を観るのは今年が初めて。
ロビーには劇団員の入れるコーヒーの芳香が漂う。赤、白のワインも供される。「毎年、ここのクリスマス・ケーキを食べて、『銀河鉄道の夜』を観ないとクリスマスが来た気がしないのよ」と若い女性が話していた。エスプレッソのシフォンケーキを雪のようにふんわりと生クリームで飾ったクリスマス・ケーキも、もちろん劇団員手作りで有名店のものに劣らず美味しい。客席に膝掛け毛布を配って歩いていたのは、この公演には出演していないが、何と看板俳優の公家義徳。東京演劇アンサンブルはそんなアット・ホームな劇団だ。
宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」は、さまざまな脚色により劇化され、今日も多くの劇団で上演されているが、この劇団の創始者、故・広渡常敏が愛着を持っていただけに、オーソドックスに原作の世界を表現しており、世代を超えて愛され続けてきたのだろう。